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国際レベル・国内レベルでの義務の履行

ドキュメント内 気候変動法政策の国内実施 (ページ 46-49)

第 1 章 気候変動分野における国際立法

2.1 国際レベル・国内レベルでの義務の履行

条約義務の履行(実施)は国際レベルと国内レベルにおいて行われる。国際レベルでは、

国家報告・審査制度により、締約国は条約義務のためにとった措置を条約機関に報告し、

条約機関がそれを審査(検討)する。また、義務の不遵守の場合には、遵守手続により条 約機関が遵守確保に必要な措置がとられる。一方、国内レベルでは、締約国は国内の立法 及び行政措置を通じて条約義務を実施し、管轄下にある個人や企業が条約義務を遵守する ように確保する義務を負う151

一般に、国際法は法の定立、適用、執行の面で国内法より不完全、未成熟であるため152、 義務の履行においては国内法の役割が重要となる153。しかし、アラバマ号事件や上部シレ ジアのドイツ人の利益に関する事件(本案)が示すように、国際裁判の中で国内法は国の 意思を表明し国家の活動を構成する事実に過ぎず、国際法が国内法に優越する国際法の基 本原則に基づき国際裁判では国内法の援用は禁止され国内法を法として扱うことはない154

一方で、国際法は国内法の定立や国内実施を促進する側面もあり155、履行確保のための 国内法の定立を求める条約や156、国内外のレベルで組織間の連携を促進するため国内実施 の責任を負う国家機関の指定を求めるワシントン条約やバーゼル条約などの環境条約157

151 岩間「前掲論文」国際法学会編『前掲書』(注2)111頁。

152 例えば、高度の危険性を内蔵する活動については、国内法では一般利益に反するこの種 の活動を禁止する十分な権力があるのに対し、国際法ではこのような権力が存在せず、国 家に無過失責任を科すほかない。山本草二『国際法における危険責任主義』(東京大学出版 会、1982年)277頁。高野雄一『国際法概説 上』(弘文堂、1985年)88頁。

153 国際法は当初より国内法と密接な関係を有し、自然法が問題となる際にはローマ法に訴 え、文明国が認めた法の一般原則を国際裁判での国際法の欠缺の場合に援用できるとした。

ヘルムート・コーイング(上山安敏監訳)『ヨーロッパ法文化の流れ』(ミネルヴァ、1983 年)210-211頁。

154 広部和也「国際法における比較法的方法―国際法と国内法に関連して―」広部和也・田 中忠編『国際法と国内法―国際公益の展開―』(勁草書房、1991年)8頁。山本草二「国際 法(新版)」(有斐閣、1994年)87-91頁。杉原高嶺他『現代国際法講義第4版』(有斐閣、

2007年)30-31頁。久保敦彦「条約による第三国の権利創設―ポ―ランド領上部シレジア におけるドイツ人の利益に関する事件―」山本草二・古川照美・松井芳郎編『国際法判例 百選』『別冊ジュリスト』156号(2001年)116-117頁。和仁健太郎「国際法上の義務の優 越―国際法の援用の禁止 アラバマ号事件」小寺彰・森川幸一・西村弓編『国際法判例百 選[第2版]』『別冊ジュリスト』204号(2011年)16-17頁。

155 人権分野では、国際機関が条約義務の人権侵害を審査する条件として、国際的救済完了 の原則が導入されたことで、締約国での国内実施の重要性が高まった。芹田健太郎『憲法 と国際環境(補訂版)』(有信堂、1994年)198頁。

156 山本草二「国際法の国内的妥当性をめぐる論理と法制度化―日本の国際法学の対応過程

―」『国際法外交雑誌』96巻第4・5合併号(1997年)47頁。

157 磯崎『前掲書』(注8)237頁。

より間接的な影響を与える条約などがある158。近年では国境を超えた水平的な各国政府の 協力に基づく実施及び執行が新たな現象として見られるようになってきている159。特に、

国境を超える地球環境問題においては国際協力が不可欠となり、国際法は国際基準を設定 して各国にこれを国内で実施する責任を課すようになるが、このことは領域主権に基づき 各国が策定してきた従来の公法規制の内容を変質させて国家の裁量の余地を制限する側面 を持つと同時に、国際法は国内法の基準を調整しつつその実効性を確保するために国内法 の領域外への拡張を容認することで国際社会の共通利益の実現を図る160という一見相反す る二つの側面を持つ。

国際環境法の国際レベルでの実施に加え国際環境法の履行・実施の手段としての環境立 法、国内環境法の整備の重要性が認識されるようになると、国際環境法の存在しない分野 において影響を受ける国々の間で独自に国内環境法の整備が進められ、あるいはその影響 が地域的なものの場合には長距離越境大気汚染条約等地域条約の成立に繋がることもある。

1992年の環境と開発に関する国際連合会議(UNCED)で採択されたリオ宣言において、第 11原則(環境立法)は、「各国は、実行的な環境法を制定しなくてはならない。環境基準、

管理目的及び優先度は、それらが適用される環境と開発の状況を反映するものとすべきで ある。一部の国が適用した基準は、他の国、特に開発途上国にとっては不適切であり、不 当な経済的及び社会的な負担をもたらすものとなり得る。」と規定する。また第13原則(国 内法整備)は、「各国は、汚染及びその他の環境悪化の被害者への責任及び賠償に関する国 内法を制定しなければならない。さらに、各国は、迅速かつより断固とした方法で、自国 の管轄権あるいは管轄化における活動により、その管轄外の地域に及ぼされた環境悪化の 影響に対する賠償責任及び補償に関する国際法をさらに発展させるべく協力しなければな らない。」と規定する。

リオ宣言を受け1990年以降、各国で国内環境法の整備が急速に進められたが、同時に各 国で当然に異なる環境基準がグローバル化する経済や貿易の障壁となり、地球規模の環境 問題にもより効果的に対処するため、各国の環境基準をより統一させようとの動きも出て きた。この動きが最も顕著なのが経済統合の進んだEUであり、EU指令の策定及びその国 内法化により環境基準の域内での統一化がはかられている。しかし、このような急速な国 内環境法の整備は多くの未実施の環境条約を生み出したため、2001年に開催されたUNEP の環境管理評議会は多国間環境合意に含まれる法的約束の迅速な実施を要求した161

158 Jonas Ebbesson. 1996. Compatibility of International and National Environmental Law. Kluwer Law International. p.255

159 Benedict Kingsbury. 2007. Global Environmental Governance as Administration: Implications for International Law. In D. Bodansky, J. Brunné and E. Hey (eds.). The Oxford Handbook of International Environmental Law. Oxford University Press. pp.63-84.

160 奥脇直也・横山潤『国際関係法=連携する国際法と国内法』(放送大学教育振興会、1994 年)14、67頁。

161 UNEP Governing Council Decision 21/27. 2001. Compliance with and Enforcement of

ICJ 判決が国際環境法の発展に重要な役割を果たした国際判例としてはカブチコヴォ・

ナジマロシュ事件162や核実験事件などが挙げられるが163、特に気候変動のような地球環境 問題についてはその被害が拡散し、義務の内容が抽象的であり、因果関係の立証が困難で そもそも紛争が発生しにくいため164、伝統的な裁判所による紛争解決制度に依拠しない傾 向にあり、一般的に国際裁判所及び仲裁が国際環境法の発展において果たした役割は比較 的限られてきたと言える165。しかし、近年では国際環境法の適用や法解釈など国際的レベ ルでの実施が課題になるにつれ、国際裁判所の果たす役割も高まっている166

国際法と国内法が同じ内容を規定し国民生活における国際法の役割が増大するにつれ、

国内裁判所の役割も重要となる167。国内裁判所は国際法の執行を妨げる障害ではなく、セ ーフテイバルブあるいはゲートキーパーとしての役割もあり168、時として国際社会に大き な影響を与えることもある169。しかし、国際法適用過程における国内裁判所の役割の評価 については学説上も対立があり、不安定化の要素が増大する今日の国際社会においてはむ しろその役割はより狭められ、個別具体的な問題の解決に留まらざるをえない側面もある

170。一般的に、国内裁判所による国際環境法の直接執行は行われず、慣習環境法について も不可能ではないもののその直接適用や執行は稀である171。一般に環境条約は、条約を一 般的に国内法として受容する自動執行条約(self-executing)ではなく、各締約国が条約義務を 国内履行する国内法を制定・実施することにより条約の目的・内容が実施される172。気候 変動枠組条約・京都議定書の成功の鍵は実施のための制度的枠組みにあり173、ここでは気 候変動法における国際法と国内法の関係に焦点を当てる。

Multilateral Environmental Agreements.

162 河野真理子「ガブチコヴォ・ナジュマロシュ計画事件判決の国際法における意義」『世 界法年報』19号(2000年)98-126頁。

163 Philippe Sands. 2003. Principle of International Environmental Law: Second Edition.

Cambridge University Press. pp.94-95.

164 兼原「前掲論文」(注77)66-67頁。

165 Daniel Bodansky. 2011. Implementation of International Environmental Law. Japanese Yearbook of International Law. Vol. 54. p.96. ; バーニー/ボイル『前掲書』(注12)259頁。

166 Sands, supra note 163, pp.131-132.

167 広部「前掲論文」広部・田中編『前掲書』(注154)10頁。A. Peters. 2007. The Globalization of State Constitutions. In J.E. Nijman and A. Nollkaemper (eds). New Perspectives on the Divide Between National and International Law. Oxford University Press.

p.251, 267.

169 André Nollkaemper. 2012. National Courts and the International Rule of Law. Oxford University Press. p.303.

170 深津栄一『国際社会における法適用過程の研究』(有信堂、1969年)179-183頁。

171 Redgwell, supra note 4, p.933.

172 大塚『前掲書』(注13)60頁。

173 David G. Victor with Abram Chayes and Eugene B. Skolnikoff. 1993. Pragmatic Approaches to Regime Building for Complex International Problems. In Nazli Choucri. Global Accord:

Environmental Challenges and International Responses. MIT Press. pp.453-474.

ドキュメント内 気候変動法政策の国内実施 (ページ 46-49)

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