2-3 欧州が主導する国際的な取り組み: TEEB
3 民間の動向
本節では、民間における生物多様性保全に向けた国際的動向、コンソーシアムやシンクタンク、産業団体、
企業における取り組みについて調査した。
3-1
生物多様性条約と産業界
3-1-1 これまでの経緯
生物多様性を保全することを目指した包括的な国際枠組みである生物多様性条約(第 2章 1-4参照)の 本文には、生物資源を持続的に活用するための方法を策定するための官民パートナーシップを促進する ことが謳われているように、生物多様性条約が締結された 1992 年の時点で民間企業による関与の重要 性は認識されていた894。条約締結後は民間企業の関与を促すような大きな取り組みは行われていなかっ たものの、2010 年目標が設定された COP6(2002 年開催)において、生物多様性条約を遂行するには 民間企業をはじめとする主要ステークホルダーの参加が重要であることが確認され、民間セクターを取り 入れる動きが徐々に進み始めている。
まず、条約事務局は、生物多様性条約の実施における民間企業の関与を強化するためのアプローチを 模索することを目的に、生物多様性とビジネス・チャレンジ会合(Business and the 2010 Biodiversity Challenge Conference)を、2005年1月(英国ロンドン)と2005年11月(ブラジル、サンパウロ)の2回 にわたって開催した。これらの会合でまとめられた見解は、2006 年に開催された COP8 で取り上げられ
895、 民 間 企 業 に よ る 参 加 の 重 要 性 を 謳 っ た 決 議 で あ る 「 民 間 セ ク タ ー の 従 事 (Private-sector
engagement:Decision VIII/17)」の採択に至っている。これは民間セクターのみを対象とした初の COP
決議であり896、これを契機に民間の関与を推進する動きが加速化することになる。
2008 年に開催されたCOP9 では「民間企業の関与促進(Promoting business engagement:Decision
IX/26)」と題した決議が採択されたが、この決議には、2010 年までに企業が取り組むべき優先課題であ
る「2008~2010 年企業における優先課題の枠組み(Framework of Priority Actions on Business,
2008-2010)」も含まれるなど、2006 年の決議よりも踏み込んだ内容となっている897。更に、COP9 開催
国であるドイツ政府は、COP9 開催に合わせ、民間企業における生物多様性保全の取り組みを促進する とともに企業間におけるベストプラクティスの共有推進を目指した「ビジネスと生物多様性イニシアチブ
(Business and Biodiversity Initiative:3-2-8参照)を立ち上げ、世界各国の企業に参加を呼びかけた898。 企業経営や事業計画に生物多様性の観点を取り入れることを誓う「リーダーシップ宣言(Leadership
Declaration)」に署名することが同イニシアチブの参加条件であるが899、イニシアチブ立ち上げの時点で、
富士通やリコーなど日本企業9社が、リーダーシップ宣言に署名している。
3-1-2 ジャカルタ憲章
リスクを緩和するだけでなく、生物多様性が新たなビジネスチャンスになる可能性を示すことで民間企業 の関与を促す動きは、2009年11月30日から12月2日まで、インドネシアのジャカルタで開催された第 3 回生物多様性とビジネス・チャレンジ会合900においても継続されている。条約事務局のアフメド・ジョグラ
894 http://www.cbd.int/business3/about/
895 http://www.cbd.int/doc/speech/2006/sp-2006-02-03-cbd-en.pdf
896 http://www.cbd.int/business3/about/
897 http://www.cbd.int/doc/decisions/cop-09/cop-09-dec-26-en.pdf
898 http://www.business-and-biodiversity.de/en/about-the-initiative.html
899 http://www.business-and-biodiversity.de/en/about-the-initiative/become-a-member.html
900 http://www.cbd.int/business3/
フ局長(Ahmed Djoghlaf)はもちろんのこと、農薬などの開発を行う多国籍企業のシンジェンタ社
(Syngenta International)やコノコフィリップス社(ConocoPillips)のインドネシア支社など、200 以上の企 業・政府機関・非営利機関が参加したこの会合では901、いかに生物多様性に配慮したビジネスを行うの か、あるいは生物多様性の保全そのものをビジネスにできるのかという議論が、さまざまな業界からの参 加者の間で交わされている。例えば、参加者の 1 人で、TEEB のリード役を務めるパヴァン・スクデフ氏
(Pavan Sukhdev)は、講演の中で、「今後 10 年で最も大きなビジネスチャンスのいくつかは、自然資本
(Natural Capital)から 生ま れる だろ う。森 林減 少・劣 化か らの温 室効 果 ガス 排出 削減(Reducing Emissions from Deforestation and forest Degradation: REDD+)は、1,000億ドル規模のビジネスにな りうる。生態系の保全は、気候変動に対する最も効果的な適応策であるし、同時に途上国に多くの新規雇 用をもたらすだろう。ビジネスには、それができる」と902、民間企業が生物多様性保全に取り組むことによ る環境面及び経済面での効果についてコメントしている。会議における議論の結果合意された内容は、15 項目からなる「ジャカルタ憲章(The Jakarta Charter on Business and Biodiversity903)」としてまとめられ た(表 30参照)。
表 30 ジャカルタ憲章(要旨)
内容
1 生物多様性と生態系の価値をもっと経済モデルと政策に反映すべきであり、持続可能な生物多様性 を維持することが将来ビジネスをするための資源であることを忘れてはならない。
2 生物多様性をビジネスの中に組み込むためには、市場原理を利用する政策の立案と同時に、自発 的な企業の行動が求められている。このためには国営企業が率先して生物多様性をビジネスの中 に組み込むということも一つの策となる。
3 生物多様性をビジネスに組み込むことは、特に地元地域共同体とのジョイントベンチャー等を通し て、貧困の減少にも貢献することである。
4 ビジネスと生物多様性オフセットプログラム(Business and Biodiversity Offsets Programme)にお いて明確化された「生物多様性におけるノーネットロス・ネットポジティブインパクト」という概念は、生 物多様性協定(Convention on Biological Diversity)の履行の努力を評価する、現実的な枠組みで ある。
5 生物多様性に関するデータの質・量・利便性を向上させることは、企業が生物多様性を保護し、持続 可能な利用を目指すための決断や行動をとることを促進する。
6 消費者・投資家・中小企業・その他利害関係者に対して生物多様性に関する教育・啓蒙活動を行う。
7 全てのステークホルダーの意思決定・行動力を高めるために、既存のイノベーションやビジネスモデ ル、ツールなどを拡充する。
8 生物多様性と生態系維持に関する政府間の科学的な政策基盤の作成を支援する。これにより生物 多様性を官・民両方のセクターにおいて優先事項にすることを目指す。
9 生物多様性条約(Convention on Biological Diversity)の目標を達成するためには、生物多様性を 企業戦略や意思決定に組み込むなど、民間セクターの関与を増加させ政府の関与も強める公共政 策をつくらなければならない。
10 2020年のビジネスと生物多様性アジェンダを進めるための戦略(Strategy to Advance the 2020 Business and Biodiversity Agenda)はビジネスの運営に生物多様性を組み込むという効果的なア プローチに焦点を当てている。このトピックは2010年に名古屋で開催される第10回生物多様性会 議(Convention of Biological Diversity)でも議論される予定である。
11 民間セクターの生物多様性問題への関与をいかに向上させるかが、2011~2020年の会議の戦略計 画と2010年の生物多様性会議の決議事項履行の鍵を握る。
901 参加者リストは以下を参照。http://www.cbd.int/doc/meetings/biodiv/b2010-03/other/b2010-03-participant-list-en.pdf
902 COMMUNIQUÉ (December 30, 2010), http://www.cbd.int/doc/press/2009/pr-2009-12-10-business-en.pdf
903 The Jakarta Charter on Business and Biodiversity, http://www.cbd.int/doc/business/jakarta-charter-busissness-en.pdf
内容
12 過去3回開いた生物多様性挑戦会議(Biodiversity Challenge Conferences)の経験から、各利害 関係者の対話とパートナーシップを促進するために、ビジネスと生物多様性分野における多セクター の世界的フォーラムが必要であることがわかった。このことが生物多様性条約の3つの目標と新た な戦略的プランの履行の発展につながる。
13 第1回のビジネスと生物多様性分野における世界的フォーラムは、可能な限り早く、遅くとも第11 回生物多様性会議までには開催されるだろう。
14 産業界は、ジャカルタ憲章を支持することにより、生物多様性条約の目指す目標へのへのコミットメ ントを表明するよう奨励する。同時に、2010年10月に開催される国際ビジネス・エコシステムデイ
(International Business and Ecosystem Day)はこれらの目標を達成するためにビジネスが関わる ことのできる貴重な機会である。
15 今回の会議を開催してくれたインドネシアの人々とインドネシア政府に感謝の意を表したい。
出典:ジャカルタ憲章
また第 3 回生物多様性とビジネス・チャレンジ会合では、COP10 で検討されるべき課題をまとめた「ポス ト 2010 におけるビジネスと生物多様性アジェンダを推進するための戦略(Strategy to Advance the Business & Biodiversity Agenda post-2010)904」も作成されている。この戦略は、ジャカルタ憲章ととも
にCOP10で取り上げられ、ポスト「2010年目標」などの策定に貢献することが期待されている905。
3-2
国際コンソーシアムとイニシアチブ
生物多様性保全をビジネス戦略に組み込む支援を実施する国際コンソーシアムやシンクタンク、業界団 体、ビジネス関連のイニシアチブを取り上げている。
3-2-1 カウントダウン2010(Countdown 2010)
本拠地 ベルギー、ブリュッセル
ウェブサイト http://www.countdown2010.net/
① ミッション
カウントダウン2010は国際自然保護連合(International Union for the Conservation of Nature:IUCN)
が進めるプログラムで、各国政府、自治体、企業、市民社会組織との連携により、生物多様性の損失に歯 止めをかけるべく生物多様性条約締約国に課された「2010生物多様性目標」の実現に資する事を主要目 的としている906。
② 活動
カウントダウン2010はパートナー同士を結びつけ、それぞれの生物多様性活動目標の形成に資する基盤 となる事を主眼としているため、幅広く具体的なプログラムを実施してはいないが、多くの環境会議に参加 したり、ロビイング活動に力を入れている907。カウントダウン2010の親機関であるIUCNでは、国際多様性 年である2010年を通じて様々なプログラムやイニシアチブを展開しているが、カウントダウン2010関連の 主な活動は以下の通りである908。
準備体制評価(Readiness Assessment):「カウントダウン2010による2008年準備体制評価
(Coundown 2010 Readiness Assessment of 2008)」により、「2010生物多様性目標」に向け た各国政府の進捗状況の把握に向け、環境団体や国の政策・イニシアチブによる各国の環境
904 http://www.cbd.int/doc/business/stratagy-business-agenda-post-2010-en.pdf
905 http://www.cbd.int/doc/speech/2010/sp-2010-04-22-dehradun-en.pdf
906 http://www.countdown2010.net/about
907 http://www.countdown2010.net/partners/join-countdown-2010
908 http://www.countdown2010.net/biodiversity