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( 民)

( 官・ 民 )

     

もう一つは、従来「官」が独占的に担ってきた「公共」サービスに多様な主体が参入できる環境を 整備することである。これまで、行政は「官=公」という発想により、一定の質と量のサービスを一 方的に提供してきた。しかし、概ねシビル・ミニマムの量的充足を達成できた現代においては、行政 のスリム化と市民満足度の向上という双方の要請に応えていかなくてはならない。そこで行政の 直 営 サービスが高コストであり、それが質的にも民間企業等で代替できる場合には、アウトソーシン グ(外部委託)や民営化等といった対応が求められてくる。また、行政の一方通行的、画一的なサー ビス体制に市民の方が合わせるという乖離(ミスマッチ)が存在するのであれば、それを縮小させて いかなくてはならない。措置ではなく契約制度を取り入れた介護保険関連サービスに見られるように、

地域社会では、従来「官」が行うべきと考えられてきた「公共」サービスの新たな担い手として、様々 な「民」が参入しつつある。その他の分野でも、官と民が連携し調和を図りつつ、「公共」サービスの 領域を拡充する意識は醸成されつつある。そのような動きを促すためにも、この「公共」領域を行政、

民間、NPO、ボランティア、各種団体等多数の多様な主体が担い、それぞれの単位が行き届かない ところを相互に補完するという「協働」社会の形成につながる仕組みづくりが必要となってくる(図 表2‑ 40)。 

   

6 松下圭一『日本の自治・分権』、岩波新書、1996 年

図表2‑ 40  新たな「公共」と多様な主体との関係イメージ 

   

(2)市民との役割分担のあり方と推進方向   

官民の役割分担を明らかにし、官民協働を進めていくために「新たな公共」の視点が必要であるこ とは先に述べたが、官民協働には以下の二つの視点がある。 

一点目は、行政と民間企業等との協働である。これは行政の非効率性等を解消していくために、こ れまで行政が独占してきた領域を民間企業等とともに協働で担っていくべきとという視点である。具 体的には、民間企業へのアウトソーシングやPFI(Pr i vat e  Fi nance  I ni t i at i ve)などの手法を活 用し、官民のパートナーシップを構築していこうというものである。 

二点目は、NPOやボランティアなどの市民活動団体、あるいは地域コミュニティを始めとする、

市民との協働である。地方分権に伴う「自己責任・自己決定・自己負担」社会に対応していくために は、地域の課題を自らが解決する市民自治の推進が肝要であるが、市民の参加機会の拡大、さらには 自治体の構成員として位置付けていくことで、市民と行政の役割分担を明確にするという考え方であ る。 

  これらの視点は、前者は対企業、後者は対市民という側面が強いものといえるが、行政の効率化の 観点から同列に論じられる傾向にある。双方とも行政の守備範囲、官民の役割分担を検討においては 不可欠な視点であるが、以下では後者を中心に検討を加えるとともに、「公共」の担い手の多様化に伴 う課題を整理することとしたい。 

 

1)市民との役割分担のあり方と推進方向 

市民と行政との役割分担を考えるにあたっては、次のような点について留意が必要である。 

一点目は、行政が役割分担を一方的に決め、サービス切捨てや行政の安易な代行手段としないこと である。行政都合を一方的に押し付け、市民に協力を求めるだけでは税の二重負担の謗りを免れない

中央集権 地方分権

集中型 ネッーク

大きな政府 小さな政府

画一的なサービス 多様なサービス

時間軸

行政サービス 民間経済活動

アウトーシング etc . 民営化 規制緩和

公=官」

官治の時代

市民参加」

公=多様な主体」

共治の時代

協働」

市民との役割 分担 ⇒協働)

ホ ゙ラ ン テ ィア コミュニ テ ィ

コミュニ テ ィ・ビシ ゙ネ ス

官」の役割】

民」の役割】

ことから、市民の主体的な参加を通じてパートナーシップ(対等な関係)を構築していくことが重要 となる。行政は、その運営に係る適切な情報提供を行い説明責任を果たすとともに、政策形成段階か らの参加の仕組みづくり、市民活動の環境整備等の側面的支援が求められてくる。 

二点目は、補完性の原則への配慮である。これは、課題解決の出発点を個人・家族に置き、「個人・

家族でできることは自ら行い、できないことはコミュニティに委ね、そこでもできなければ基礎自治 体へ委ね、さらに広域自治体、国へ委ねていく」という考え方である。これは、逆の見方をすると「個 人・家族の創意・工夫でできることにコミュニティは介入すべきではなく、コミュニティの活動で解 決できることに基礎自治体は介入してはならず、基礎自治体でできることに広域自治体、国は介入し てはならない」という考え方でもあり、より市民に近いところに決定権を移していこうというもので ある。地方分権社会においては、地域の自己決定に基づき、地域の課題を自らが解決していくことが 重要となるが、そこでは行政は市民に過剰に関与せず、市民の自立性を醸成し、尊重するような取組 が求められる。 

以上の点から、行政は個人・家族やコミュニティ単位で行うことが非効率であり規模のメリットを 生かすべきサービスや、市場メカニズムが働きにくい分野のサービス、また公平・公正なサービスが 必要とされる分野を担い、一方市民は、日常生活の中で取組むことが可能なものや行政が経費的理由 等により一律に提供することが困難な多様なニーズに対応可能なサービスを担う、という役割分担に 収斂してくるものと考えられる(図表2‑ 41)。但し、明確な線引きは難しく、オーバーラップして くる部分も相当あるものと考えられるが、それらについては社会情勢の変化を勘案して、その都度検 討すべきものである。

本市では、このような行政と市民の役割分担を具体に明示したものとして、環境分野における「上 越市環境行動計画」(平成 11 年3月)がある。当該計画は先に策定された「上越市環境基本計画」を 受け、市民・事業者・行政の役割を明記し、より具体的な行動指針を定めたものである。 

  担当課では、同計画に基づく取組を推進していくために、継続的な取組状況の把握とその状況の周 知を図っているが、その中では、市民の環境に対する意識と実際の行動にギャップがあるなどの課題 が指摘されている

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。これは他の分野において同様な取組が行われた場合、発生が予測される課題であ ると言え、このような理念と実態の乖離を埋めていくために、重層的な取組が必要になってくるもの と考えられる。 

                   

7 上越市『上越市環境行動実施状況等確認調査』、平成 13 年 3 月

図表2‑ 41  行政と市民の役割分担のイメージ 

  行政  市民 

主 な 分 野 の 具 体 的 な取組イメージ 

(公園・道路管理) 

・修繕等の大規模な管理  等 

(福祉) 

・施設・制度の整備やボランティア支援 

(教育) 

・施設等教育環境の整備  等   

(公園・道路管理) 

・清掃や除草など簡易な管理  等 

(福祉) 

・ボランティア等地域活動に参加 

(教育) 

・地域ぐるみで課外活動を支援  等   

前提条件  【情報の開示・提供】 

・各種行政手続きの透明化 

・事業の実施結果に対する評価(例:行政 評価等) 

・事業コスト等の公表(例:バランスシー ト等) 

【市民参画】 

・政策形成段階等各段階での市民参加シス テムの整備 

・施策の選択機会の確保(例:市民満足度 調査等) 

・NPOや市民活動等の側面的支援 

【受益者負担】 

・負担基準の明確化 

・主体的な参加意識 

・適正な受益と負担の許容   

 

 

2)担い手の多様化に伴う諸課題 

  1)とは視点を変え、「公的サービス」に関わる担い手の多様化に伴う課題について、法的側面から 簡単に触れておきたい。 

地方分権一括法に伴う改正後の地方自治法では、第1条の2第1項に「地方公共団体(地方自治体)

は、住民の福祉を増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役 割を広く担うものとする」と存立目的と役割が定められている。また、同条2項にて「住民に身近な 行政はできる限り地方公共団体にゆだねる」とし、地方公共団体の役割の拡充が図られている。 

  その他、同法第2条第2項にて、「地域における事務… … を処理する」とし、普通地方公共団体が、

住民福祉の向上を目的として行政事務一般を広く処理する権能を有することが明らかにされている。

さらに同法第2条第8項及び第9項で示されている「自治事務」と「法定受託事務」もこの「地域に おける事務」に含まれるものとされている(図表2‑ 42)。 

 

図表2‑ 42  自治体行政の事務区分 

サ ー ビス給 付 = 条 例 ・規 則 ・要 綱 随 意 事 務

権 利 制 限 事 務 = 条 例 必 要 事 務 (法 定 自 治 事 務 )= 法 律 地 域 事 務 + 非 地 域 的 法 定 事 務

第 1号 (国 か ら府 県 ・市 町 村 )= 法 律 法 定 受 託 事 務

第 2号 (府 県 か ら市 町 村 )= 法 律 条 例 配 分 事 務 (府 県 か ら市 町 村 )= (府 県 )条 例 自 治 事 務

受 託 事 務

   

(出所)兼子仁「新  地方自治法」岩波新書、2000 年、p169 

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