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3−1  コミュニティ行政とは

3−1−1  地方自治における地域コミュニティの役割   

まちづくりの中心的存在は市民であり、長い間、地域コミュニティがその基盤となってきた。組織 形態から見ればその多くが近隣区の互助組織さらには町内会や自治会という形で存在し、市民の生活 そのものに深いつながりをもってきた。 

  こうした地域コミュニティの重要性と役割については、現在、地方自治の側面からあらためて見直 しが必要となっている。 

すなわち、東京大学の神野教授が言うように、これまでの発想を逆転させ、「個人でできないことを 家族が、家族でできないことを地域コミュニティが、地域コミュニティができないことを市町村が、

市町村でできないことを都道府県が、都道府県でできないことを国が」

1

担うという視点に立って地方 自治体の役割を展望すると、地方自治における地域コミュニティの役割が改めて大きなものであるこ とが認識されるからである。 

本市の掲げる市民本位のまちづくりも、市民(個人)ができること、家族ができること、地域コミ ュニティができることは、それぞれが自立した存在として積極的に役割を果たし、それらの各構成メ ンバーの取組みだけではできないことを行政としてとりあげ、共同して取り組むという考え方が重要 になる。市民本位のまちづくりにとっても、地域コミュニティは不可欠の役割を果たすことになる。

 

3−1−2  地域コミュニティとコミュニティ行政   

都市化の進行や少子高齢化にともない家族や地域コミュニティの果たす機能が現実には低下してき ている状況のもとでは、それらを補って、行政がその役割を分担していることも事実である。 

しかし、上述の立場に立てば、行政として改めて地域コミュニティの役割を積極的に評価し、位置付けを行うこと が重要となる。ただしその際、地域コミュニティを便宜的に細分化された行政区分に見たて、現在の行政をそのま ま地域コミュニティに持ちこむといったことは適切ではない。あくまでも地方自治を担う主体、まちづくりの主体 として地域コミュニティを位置付けることが肝要である。

コミュニティづくりは長い年月をかけて行われるものである。そのため、地域コミュニティが便宜 的な行政区分にとどまらず、地域のことを自ら考え、実行する組織として自立するためには、それに 対する的確な支援が必要となってくる。 

そこで、真の地方自治を実現する視点から、地域コミュニティを重要なまちづくりの基本単位に位 置付け、地域が主体となってまちをつくりあげていくことを期待して、その機能の回復や再生に向け た施策や支援、サポート体制を整備することを行政の重要な役割と位置付ける「コミュニティ行政」

の考え方が重要となってきた。 

 

1 佐和隆光『「改革」の条件』、岩波書店、2001

3−1−3  コミュニティ行政と行政デザイン   

第1章に示した、現在の行財政改革の将来像としての行政デザインは、福祉を始めとする住民に最 も近い各種のサービスの担い手(アソシエイツ)を地域における互助組織や NPOと想定してきた。 

こうしたアソシエイツの活動基盤は基本的には地域コミュニティに存在するため、地域コミュニテ ィの役割を重視し、その機能強化をめざすコミュニティ行政は、行政デザインの具体化の一環となる。 

以下、改めてコミュニティの持つ意味を確認し、コミュニティ行政の概念と実践については先進的 な例として知られている東京都三鷹市を参考事例としてその概要を整理したのち、本市への適用を念 頭にコミュニティ行政の基本的な考え方について検討する。 

 

3−2  コミュニティの一般的考え方

コミュニティとは「共同体」に語源をもつ言葉で、一般的に「地域社会」と訳され、そこに住む人々 が共同生活を営んでいることを意味している。そこで、コミュニティは「地域性」と「共同性」を備 えていることがその要件となる

2

。 

地域性とは「〜町」とか「〜地区」といったように地理的な境界を持つことであり、共同性とはそ の境界の中に住む人々の間に何らかの共同のつながりが存在することである。共同のつながりとは、

地域の生活環境を改善するための住民活動が実施されていたり、隣人同士の対話や助け合いなどの交 流が行われていることを言う。

 

3−2−1  コミュニティの規模   

  コミュニティの規模には、概ね次の3つがある。 

  第 1 に、いちばん小さなコミュニティとしての近隣の単位である。 

第 2 に、近隣よりも一回り大きなコミュニティ組織として、自治会・町内会がある。自治会・町内 会は、古くから地域の環境改善と住民交流のために活動してきた伝統的なコミュニティの代表的存在 と言える。その伝統的存在ゆえに、今日の現代的な地域の状況にどう対応して、コミュニティ組織と して機能できるかが課題となっている。 

さらに、第 3 に一般的に複数の町内会・自治会から構成される小学校や中学校の学区というコミュ ニティである。小学校や中学校は本来、教育行政の一貫として設置され、小・中学校区を単位とする コミュニティは、町内会や自治会が日常の生活を基盤とする地域でのつながりに基づくものであるの とは若干異なるが、コミュニティ単位としては受入れやすい。 

このように、共同生活の場としてのコミュニティという時には、小さなものから比較的大きなもの までいくつかのコミュニティを考えることができる。もっと大きな地域としては市町村があるが、そ れらはコミュニティとは言わない。市町村のような地域は、行政職員や議員等の専門家が主体となっ て運営しているからで、コミュニティは「住民主体」により運営される「共同体」を指すものだから である。 

2 菊地美代志、江上渉共著『コミュニティの組織と施設』、多賀出版、1998年、p4

  コミュニティの特徴は、あくまでも住民が主役となって手づくりで形成し、維持し、発展させるも のであり、したがって専門家である行政は脇役としてこれを支援することが役割となる。 

                       

3−2−2  現代のコミュニティ組織   

社会や市民の意識が複雑化・多様化するなか、コミュニティの形態も様々に分化している。現代に おけるコミュニティの形態と定義は様々であるが、コミュニティ行政の対象(行政が支援したり、パ ートナーシップを組んだりする相手)を明らかにするために、ここでは概ね次の3つを想定する。ま た、コミュニティとはそれらのものを包括的に指す概念とする。

 

(1)地域コミュニティ(地縁型のコミュニティ) 

 

  地域コミュニティの中心は、伝統的な住民組織である町内会・自治会である。そのなかに、子ども 会や青年会、婦人会、老人会など、参加する年齢層に応じた年齢別組織が結成されるのが一般的 である。

これらの組織はその地域に住んでいれば自動的に加入する建前になっているという意味で、地 縁組織として認識される。また、同様の意味で大規模マンションの管理組合などもこれに含まれ る。 

 

(2)機能によるコミュニティ   

  防犯・防火・防災・衛生などの「行政協力組織」、農家組合や地域商店会のような「職業組織」など、

様々な組織がひとつの地域の中で活動を展開している。これらはそれぞれ機能によるつながりで成立 しているため、活動エリアが行政区に対応しない場合もある。

(3)活動目的によるコミュニティ   

このほか、趣味・教養・体育・福祉のサークルやグループ、また特定のテーマをかかげたまちづく 図表3−1  コミュニティの規模 

関  係  コミュニティのレベル 

①  近隣  両隣 3 軒程度 

②  町内会・自治会  平均規模 100 戸程度  共同体(*1) 

③  学区・住区・地区  −  行政  ( *2)   市町村  数百〜 

( *1) 地域性と共同性を備え、住民主体で運営。 

( *2) 地域性と共同性を備え、専門的組織として運営。 

( 出所) 菊地美代志、江上渉共著『コミュニティの組織と施設』、多賀出版、

1998年をもとに作成 

りを展開する有志組織がある。この組織は、活動のテーマに賛同しただけで結成される「任意参加性」、 特定の目的だけに限って結成されている「単一性機能」、他の組織との協力関係が弱い「独立性」など が特徴であり、この点で地縁型のコミュニティと異なっている。

また最近では、地域を超えた活動を展開するグループ(ボランティア団体やNPOなど)の活動が 注目されてきている。これは、一つの目的や使命に沿って分野横断的にその活動を展開する組織であ る。共同によるつながりがあるという点や、福祉や環境といった公益的活動を展開するという意味に おいては、こうした活動もまちづくりの担い手そのものとして極めて重要である。

以上、コミュニティに関する一般的な考え方を述べてきたが、コミュニティ行政を推進するにあた っては、それにふさわしい新たなコミュニティ像が必要とされる。

これについては、次節で三鷹市のコミュニティ行政を概観した後に、3−4で述べる。

 

3−3  東京都三鷹市におけるコミュニティ行政

3−3−1  三鷹市の概要

東京都三鷹市は、都のほぼ中央に位置し、中央線

1930

[昭和

5

]年)や京王井の頭線(

1938

[昭和

13

]年)の開通で急発展した典型的な郊外住宅都市 である。井の頭公園や国立天文台等、歴史と文化を 備え、市内には国際基督教大学、ルーテル学院大学、

東京女子大学、杏林大学、東京神学大学を有し、ま た最近では市立アニメーション美術館(三鷹の森ジ ブリ美術館)が開館したことにより話題を集めてい る。

市政においては、基本構想等の策定における徹底 した市民参加を掲げ、これを継続するとともに、行 財政改革の実行がよく知られるところである。

3−3−2  コミュニティ行政の歴史

三鷹市は、コミュニティ行政の先進都市と言われる。

1973

(昭和

48

)年に日本の都市で初めて下水 道整備率

100

%を達成すると、急速な都市化による地域コミュニティの崩壊にともない、新たにコミ

図表3−2  三鷹市の概要

  面積  16. 50k ㎡  人口  161, 998 人  人口密度  9, 818 人/ k ㎡  人口増加率  1. 6% 

世帯  76, 008 世帯  昼間人口比率  84. 22% 

0〜14  12. 3%  1 次  1. 0  15〜24  17. 8%  2 次  24. 1  25〜64  57. 1% 

年代別 

(歳) 

65 以上  12. 8% 

産業別 

(%) 

3 次  74. 9 

(出所)「都市データパック」(2000年版)および三鷹市ホ ームページ

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