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2.4.4.1 毒性試験の概略

ミリプラチン懸濁液は、腫瘍近傍血管(固有肝動脈の可能な限り末梢から投与)を目指 した肝動脈内投与が適用されることから、本剤の安全性評価は、1) 腫瘍周辺の正常肝細胞

(非腫瘍部肝組織)に対するミリプラチン懸濁液の影響、2) 投与液が漏洩した時のミリプ ラチン懸濁液の肝動脈周辺への影響、3) ミリプラチンの全身への影響について明らかにす ることが必要であると考えた。しかし、肝動脈内投与では十分な全身曝露が期待できない ので、肝動脈内投与の実施に加えて、代替投与経路(静脈内及び皮下投与)を用いて全身 に対する影響を調べた。肝動脈内投与はミリプラチン懸濁液の評価を目的に主としてイヌ を用いて実施した。ミリプラチン懸濁液が投与局所(肝臓)へ長期間滞留する性質を持つ ことから、同じ投与局所への長期間高濃度曝露を達成する評価系での安全性評価が適切で あると考え、最長12ヵ月までの評価を行った。ラットにおける肝動脈内投与については、

イヌと異なり開腹を伴い侵襲性が大きいことから、一般毒性評価には必ずしも適当ではな いと考え、一部のメカニズム検討にのみ用いた。また、対象疾患である肝細胞癌では慢性 肝炎又は肝硬変を併発していることが多いことから、肝障害イヌでの検討も実施した。

代替投与経路としてはまず、静脈内投与を選択し、ミリプラチンエマルション製剤を用 いて、イヌ及びラットで毒性試験を実施した。しかしながら、ミリプラチンエマルション 製剤はエマルション製剤ビークルの影響と考えられる血液循環障害を発現したため、ラッ トにおける長期毒性評価には、より適切な第二の代替投与経路を検索した。臨床での投与 形態であるミリプラチン懸濁液を用いて、腹腔内投与と皮下投与間での比較を行い、トキ シコキネティクスの結果及び投与部位への影響を考慮して第二の代替投与経路として皮下 投与を選択し、毒性評価を実施した。

各試験における投与量の設定は、以下のとおり考えた。標的組織である肝臓の腫瘍部及 び肝動脈周辺への影響について、評価動物の正常組織への曝露が臨床における腫瘍近傍部 位の正常組織への曝露を上回ることは直接確認できない。しかし、臨床試験においては、

カテーテルを用いて固有肝動脈の可能な限り末梢から投与を行うので、標的とする腫瘍部 位以外の周辺部分(正常組織)が投与液に曝露される可能性が低いのに対し、正常動物を 用いる毒性試験においては投与部位周辺の正常組織が投与液の全量に広く曝露されること になる。従って、肝動脈内投与での評価において、臨床で想定される最大投与液量(6 mL/man)に相当する0.12 mL/kgか、又はそれを上回る0.2 mL/kgを投与容量として設定す ることが妥当と考えた。また、投与液濃度は懸濁用液に懸濁可能な最大濃度として 20

mg/mLを設定した。

臨床移行には、イヌ単回肝動脈内投与試験、全身への影響を検討するために1ヵ月間ま でのイヌ・ラット静脈内投与試験(ミリプラチンエマルション製剤)、遺伝毒性試験並びに モルモット抗原性試験を実施して評価を行った。その後、より長期の毒性評価のためにイ ヌでは反復肝動脈内投与試験、ラットでは第二の代替投与経路(皮下投与)での毒性試験 を実施し、イヌ肝動脈内投与試験と同様に、TK による曝露量の確認及び安全マージンの

算出を行った。全身への影響を評価する目的で実施した皮下投与試験においては、血清中 総白金濃度を全身曝露の指標として各種動物試験系での最大用量を適用したところ、6 ヵ 月間反復投与試験において前期第Ⅱ相臨床試験で検出された最大曝露量の約 11 倍の曝露 が達成されていることが確認された。また、抗原性試験では試験実施時の推定臨床用量の 2.5又は5倍に相当する投与量まで投与し、評価した。また、遺伝毒性試験については、そ れぞれガイドラインで示されている最大用量まで投与(又は適用)し、評価した。

更に、活性体である DPC 投与試験(一般毒性試験及び遺伝毒性試験)を行い、DPCの 毒性の質的把握を行った。ミリプラチンの懸濁用液であるヨード化ケシ油脂肪酸エチルエ ステルについては、各種毒性試験の溶媒対照群における評価と共に、抗原性試験及び遺伝 毒性試験を実施して評価した。

以下に各試験成績の概略を示した。

2.4.4.2 肝動脈内投与毒性試験(臨床投与経路による毒性試験)

ミリプラチン懸濁液を臨床投与経路である肝動脈内に投与したときの毒性評価を目的と して、臨床投与と同様にカテーテル挿入手技が実施可能で、X線投影も実施できるイヌで 実施した。ミリプラチンをヨード化ケシ油脂肪酸エチルエステルに懸濁して肝動脈内に単 回投与、又は4週間に1回の頻度で計3回、又は計6回反復投与(1回目投与の4週間後 に2回目投与を行い、この後13週間観察する一連の操作を1クールとし、これを連続して 3 クール繰り返す)した結果、単回投与で主として肝臓の血管内への投与液の塞栓による と考えられる変化が見られたが、反復投与によっても、毒性の増悪化は見られず、新たな 毒性の発現も認められなかった。

適用患者の多くが肝硬変を併発していることから、肝硬変併発時に本剤の毒性に及ぼす 影響について検討するため、チオアセトアミドにより慢性肝炎や肝硬変に類似した肝障害 を誘発したイヌを用いて、ミリプラチン懸濁液を肝動脈内に単回投与した結果、正常イヌ を用いた試験と同様、主として肝臓の血管内への投与液の塞栓によると考えられる変化が 見られたが、肝障害の増悪化並びに新たな毒性所見の発現は認められなかった。

2.4.4.3 その他の投与経路による毒性試験

2.4.4.3.1 静脈内投与

肝動脈内投与では、全身性の毒性評価に必要な十分に高い曝露が達成できない。従って、

投与液が漏洩した場合のミリプラチン懸濁液の全身への影響を把握するために、静脈内投 与試験を実施した。ミリプラチンは通常の溶媒には不溶のため、ミリプラチンエマルショ ン製剤を用い、ラット及びイヌを用いて1ヵ月間までの静脈内投与試験を実施した。

単回静脈内投与試験においては、ラット及びイヌ共ミリプラチンエマルション製剤の血 管への塞栓とそれに続発した血液循環障害に基づく変化が見られたが、これらはエマルシ ョン製剤ビークル(ミリプラチンエマルション製剤と同一組成を持つ、ミリプラチンを含 まない製剤)でも同様に見られた。ミリプラチンによる影響はラット及びイヌの骨髄の変

化、並びにイヌの脾臓の変化及び肝臓の変化と考えられた。

1 ヵ月間の反復静脈内投与試験において、ラットではエマルション製剤ビークルによる 血管への塞栓に関連した血液循環障害及び唾液腺への影響が見られ、ミリプラチンにより 血液循環障害の程度は一部増強された。また、ミリプラチン投与が影響していると考えら れる所見として、造血器系への影響、肝酵素の上昇、腎機能パラメータの変動(尿蛋白・

潜血陽性、尿素窒素及びクレアチニン増加など)、肝臓の障害性変化、肺の泡沫細胞及び動 脈壁肥厚、心臓への影響、腎臓の障害性変化などが認められた。イヌでもラットとほぼ同 様の所見に加えて、血小板数の減少や骨髄のM/E比の高値などがミリプラチンにより認め られたが、これらの変化は1ヵ月間の休薬により回復又は回復傾向が見られた。

臨床移行に際しては、前述のイヌ単回肝動脈内投与試験、本項のラット・イヌ静脈内投 与試験、後述の遺伝毒性試験、モルモット抗原性試験を行った結果、移行を妨げる毒性学 上重大な問題は認められなかった。臨床移行時の注意点として、慎重な投与操作の実施と 共に、軽度ではあったが、赤血球数又は血小板数の減少、尿検査項目に変化が認められた ことから、投与部位の近位で投与液の分布が予想される肝臓の機能確認のほか、血液学的 検査による血液像、又は血液生化学的検査、尿検査による腎機能モニターを実施すること とした。

2.4.4.3.2 皮下投与

前述のミリプラチンエマルション製剤の静脈内投与では溶媒の物性の影響と考えられる 血液循環障害が発現することから、臨床での投与形態であるミリプラチン懸濁液を用いて、

ラットにおける長期毒性評価にも適する第二の代替投与経路として皮下投与を選択し、ラ ット皮下投与による単回及び反復投与試験を実施した。

単回皮下投与試験の結果、投与部位である頸背部皮下組織にミリプラチンに対する異物 反応と考えられる変化が認められたのみで、全身性の毒性は極めて弱く、概略の致死量は 50 mg/kgを上回った。

1ヵ月間の反復投与試験は、ミリプラチン懸濁液を2週間に1回の頻度で計2回、4週間 にわたり皮下投与することにより実施した。その結果、単回投与試験と同様に投与部位で ある頸背部皮下組織に炎症性変化、並びにそれに関連した血液生化学的検査パラメータの 変動が認められた。これらの変化は懸濁用液単独での投与でも認められたが、その程度は ミリプラチン懸濁液投与群でより強く認められた。従って、ミリプラチンによる全身性の 毒性を示唆する変化は認められず、無毒性量は雌雄共50 mg/kgと考えられた。

6ヵ月間の反復投与試験は、ミリプラチン懸濁液を4週間に1回の頻度で計7回、6ヵ月

(28週)間にわたり皮下投与することにより実施した。その結果、6.25 mg/kg群から投与 部位(頸背部皮下組織)の炎症性変化が、25 mg/kg群ではそれに関連した血漿蛋白の変動、

更に12.5及び25 mg/kg群では投与部位に悪性線維性組織球腫が認められた。しかしなが

ら、上記変化はいずれも代替投与経路である皮下に投与することによって生じた特異的な 変化であると考えられた。また、25 mg/kg群の雌では血漿総コレステロール増加及び肝臓

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