• 検索結果がありません。

2.4.5.1 ミリプラチンの特徴及び有用性

白金系制癌剤シスプラチンは、高い抗腫瘍活性と広い抗腫瘍スペクトラムを有する制癌 剤として広く使用されており文献21)、肝細胞癌に対しても、肝動脈塞栓療法での使用経験が あり、良好な抗腫瘍効果を示すとの報告がある文献15)。しかし、シスプラチンは水溶性であ るために、シスプラチン懸濁液は物理的安定性が必ずしも優れていない文献22),23)。一般に、

白金系制癌剤は求核置換反応により脱離基が遊離して、効力を発現する文献21)。従って、疎 水性の高い脱離基が配位した白金錯体を選択し、抗腫瘍活性を低下させることなく脂溶性 を向上させれば、懸濁用液への親和性を改善した白金系制癌剤を得ることができると考え られた。

ミリプラチンは、担体配位子にDACHを、脱離基にミリスチン酸を有する脂溶性白金錯 体である文献26)。ミリプラチンは懸濁用液への親和性が高く、抗腫瘍効果も良好であると報 告されている文献26)。実際に、製剤化したミリプラチンは懸濁用液を添加して振り混ぜるこ とで粒子が均一に分散したミリプラチン懸濁液を調製することができること、室温で少な くとも24時間は懸濁液中のミリプラチン含量が低下しないこと(2.3.P(製剤).2.2.3及び

2.3.P(製剤).2.6.2参照)、また、ミリプラチン懸濁液から水相へ白金成分が緩やかに放出

されることが確認された(2.3.P(製剤).2.2.3参照)。

肝動脈塞栓療法に用いる白金錯体としてのミリプラチンの効力を裏付ける試験として、

最初に、ミリプラチン懸濁液でのin vitro細胞増殖抑制作用を検討した。その結果、ミリプ ラチン懸濁液は、ラット肝癌細胞株AH109A、ヒト肝癌細胞株HepG2 及びLi-7 に対して

in vitro細胞増殖抑制作用を有すること、その作用は培地中への白金成分の放出を介して発

現することが確認された。In vitroでミリプラチン懸濁液からの放出成分として同定された DPCは(2.6.4.5.2、2.6.4.5.3及び2.6.4.5.4参照)、ラット肝癌細胞株AH109A、ヒト肝癌細

胞株HepG2、HuH-7及びLi-7に対して、シスプラチンやジノスタチン スチマラマーと同

程度のin vitro細胞増殖抑制作用を有していた。また、DPCのin vitro細胞増殖抑制作用は

白金曝露量に依存していることが示され、低濃度でも長時間作用することにより効力を発 現することが示唆された。

ミリプラチン懸濁液のin vivo細胞増殖抑制作用は、ラット肝癌細胞株AH109A又はヒト 肝癌細胞株Li-7を肝臓内に移植するラット移植肝癌モデルを用いて、肝動脈内投与するこ とにより評価した。これらのモデルでは、ヒト肝細胞癌と同様に、腫瘍組織への血液供給 が主に肝動脈からであり、肝動脈内に投与された懸濁用液が腫瘍組織選択的に滞留した。

このような特徴を有するラット移植肝癌モデルにおいて、ミリプラチン懸濁液は体重減少 を伴うことなく、用量依存的なin vivo細胞増殖抑制作用を示した。更に、懸濁用液中のミ リプラチン濃度が20 mg/mLの時、懸濁用液群と比較して腫瘍増殖率が有意に低下した。

局所療法である肝動脈塞栓療法では、主に腫瘍の大きさ、血流動態、肝障害の程度に応 じて投与液量が個別に調整される。そのため、有効性の根拠となる薬剤曝露量は懸濁用液

中の薬剤濃度に依存すると考えられた。そこで、臨床で使用される場合と同じ薬剤濃度の 懸濁液を用いて、AH109A移植ラット肝癌モデル及びLi-7株移植ヌードラット肝癌モデル

におけるin vivo細胞増殖抑制作用を比較した結果、ミリプラチン懸濁液(20 mg/mL)はシ

スプラチン懸濁液(20 mg/mL)とは明らかな差は無く、ジノスタチン スチマラマー懸濁

液(1 mg/mL)よりも強いことが示された。

ミリプラチン懸濁液の肝動脈内投与後の挙動については、AH109A株移植ラット肝癌モ デルにおける肝臓内動態を、正常肝組織及び腫瘍組織内の白金濃度、白金量の推移と[14C]

ミリプラチンを用いたミクロ ARG による放射能の分布から解析した。その結果、肝動脈 に支配される腫瘍組織により高濃度に白金成分が分布し、投与1週間後まで白金量がほと んど減少することなく維持されること、そして投与直後から1週間後まで腫瘍血管内腔に 放射能が局在することが示された。薬物動態試験の結果から(2.6.4.3.1、2.6.4.4.2、2.6.4.5.1

及び2.6.4.5.2参照)、ミリプラチン懸濁液の肝動脈内投与後、主にミリプラチンが未変化体

として肝臓中に持続的に分布し、懸濁用液と挙動を共にすると考えられた。本モデルにお いて、懸濁用液は投与1週間後まで腫瘍組織に分布していたため、肝動脈内投与後のミリ プラチンは、未変化体として懸濁用液とともに、腫瘍血管内腔に持続的に分布すると考え られた。

シスプラチンを始めとする白金系制癌剤では、脱離基を遊離した活性分子種が白金-DNA アダクトを形成することにより細胞増殖抑制作用を発現し文献24),40)、白金系制癌剤による細 胞死の機構として、アポトーシス誘導が重要であると考えられている文献24)

In vitroにおいてラット肝癌細胞株AH109Aをミリプラチン懸濁液で処理した場合、シス

プラチン懸濁液と同様に、白金-DNA アダクトを形成しアポトーシスを誘導した。更に、

in vitroで示された白金-DNAアダクト形成作用及びアポトーシス誘導作用が、ミリプラチ

ン懸濁液を投与した AH109A 株移植ラット肝癌モデルの腫瘍組織においても認められた。

他の白金系制癌剤と同様の作用機序が確認されたことから、ミリプラチン懸濁液のin vitro

及びin vivo細胞増殖抑制作用は、放出された活性分子種を介して発現すると考えられた。

以上のことから、ミリプラチン懸濁液は、腫瘍組織選択的に滞留する懸濁用液の性質に よって、懸濁用液とともに未変化体として腫瘍選択的にかつ持続的に分布すると推察され た。ラット肝癌細胞株やヒト肝癌細胞株に対するin vivo細胞増殖抑制作用を比較すると、

ミリプラチン懸濁液(20 mg/mL)は、シスプラチン懸濁液(20 mg/mL)とは明らかな差は なく、ジノスタチン スチマラマー懸濁液(1 mg/mL)よりも強いことが示された。ミリプ ラチンの作用機序は、シスプラチンと同様に、白金-DNA アダクト形成作用及びアポトー シス誘導作用であったことから、ミリプラチン懸濁液の効力は、腫瘍局所で放出された活 性分子種を介して発現すると考えられた。

2.4.5.2 ミリプラチンの安全性に関する総合考察 (1) 動態の特徴と安全性評価方法の妥当性

ミリプラチン懸濁液を臨床投与方法と同じ方法によりイヌに肝動脈内投与した時、投与 したミリプラチンは未変化体として大部分が肝臓内に滞留し、循環血も含め肝臓以外の組 織への分布は極めて低く、ミリプラチンが選択的に肝臓中に送達されていることが示され た。イヌ肝動脈内投与において、シスプラチンの場合には、投与量2.5 mg/kgのときの血 漿中白金濃度Cmaxは4.22 µg/mL(Tmax:16.3 min)であるのに対し文献44)、ミリプラチンの 場合、ほぼ同じ投与量2.4 mg/kgのときの血漿中白金濃度Cmaxは45-98 ng/mL(Tmax:6 hr-14 days)であり、全身循環血への曝露は50-100倍程度低いことが示された。これは、ミリプ ラチン懸濁液が、肝臓に極めて局所的に滞留する性質を持つことを示す成績であると考え られた。

肝臓への局所的分布については、ミリプラチン懸濁液を肝動脈内投与したときの肝臓中 に分布する白金成分及び形態を明らかにし、同じ評価系で長期間高濃度曝露を達成した条 件での安全性評価が適切であると考え、イヌ肝動脈内投与時に肝臓内に分布した白金成分 分析及びミクロARGによる組織学的分布の確認を行い、最大12ヵ月までの安全性評価を 実施することとした。なお、この評価系では臨床投与量に比較して圧倒的高用量を投与す ることは技術的に難しく、最大臨床用量又はそれを若干上回る投与量を設定し、投与量を 元にした安全マージンの算出は行わなかった。しかし、実際には、臨床適用時に比較し、

今回のイヌ肝動脈内投与試験ではより高い肝臓中正常組織での曝露が達成されているもの と考えられた。すなわち、臨床適用時には、カテーテルを用いて固有肝動脈の可能な限り 末梢から腫瘍の大きさに応じて投与されるため、標的とする腫瘍部位以外の周辺部分(正 常組織)が曝露されることはほとんどないか、又はごくわずかであるが、安全性評価に用 いる正常イヌにおいては、投与部位周辺の正常血管系及び組織が投与液の全量に広く曝露 されることになるため、正常組織としては高い曝露が得られているものと考えられた。

一方、全身循環に対する影響(曝露)の評価において、イヌ肝動脈内投与における全身 への曝露レベルは臨床を大きく上回るものではなく、この評価系で重篤な毒性所見は認め られなかった。全身への高曝露レベルを達成するため代替投与経路(静脈内及び皮下)に よる毒性試験を実施し、少なくとも臨床の曝露に対して数倍~十倍程度の曝露が達成され た評価系で検討を行った。その結果、これらの評価系では、主として代替投与経路に起因 する投与局所毒性が発現したので、それらの毒性メカニズムの解明及び考察を行い、ミリ プラチンの臨床適用時に発現する可能性がほとんどないことを明らかにした(後述)。

また、局所及び全身性循環後の代謝を検討するにあたっては、in vivoでの検討と共に、

in vitro評価系として血清又は血液とのインキュベーションを行い、その代謝経路を明らか

にすることで動態の把握を行った。更に、ミリプラチン懸濁液からの白金放出成分、並び に血清成分中での挙動を明確にするために、血清成分を更に単純化した系を組み合わせる ことで代謝経路を明らかにすることができた。

関連したドキュメント