第 4 章 事例研究
4.4 武田薬品工業
4.4.1 企業概要
武田薬品は、武田長兵衛が、当時の薬種取引の中心であった大阪・道修町で始めた 薬種商を起源としている(創業1781年)。薬を問屋から買い付け、薬商や医師に販売 する薬種仲買から洋薬の輸入・販売を経て、研究開発から製造・販売を一貫して行う 製薬メーカーへと転身を遂げた。
武田薬品は、現在、医薬品業界の最大手であり、医薬事業の他、生活環境、農業、
食品事業なども行っていたが、2003 年度から医薬事業に特化した事業展開を進めて いる。連結売上高 10,864 億円(図4.4)、資本金 635億円、研究開発費 1,297 億円、
従業員数 7,492人(2004 年3 月決算時点)であり、主力商品として、前立腺がん・
子宮内膜症治療剤「リュープリン(酢酸リュープロレリン)」、消化性潰瘍治療剤「タ ケプロン(ランソプラゾール)」、高血圧症治療剤「プロブレス(カンデサルタンシレ キセチル)」、糖尿病治療剤「アクトス(塩酸ピオグリタゾン)」がある。
研究開発においては、重点疾患領域を、Ⅰ:生活習慣病、Ⅱ:癌・泌尿器科疾患、
Ⅲ:中枢神経疾患、Ⅳ:消化器疾患ライフサイクル・マネジメントと定め、経営資源 を集中的に投入している。さらに、これらの重点疾患領域に研究から販売までの一貫 した総合製品戦略(MPDRAP 戦略)を取ることによって、迅速で効率的な新薬の上 市や追加効能の取得を進めている。MPDRAPは、M=営業部門、P=製造部門、D=開
発部門、R=研究部門、A=アライアンス部門、P=知的財産部門から構成されている。
MPDRAP では、研究テーマ、製品の販売戦略、ライフサイクル・マネジメント等の
問題について、毎年10年先まで協議している。
また、武田薬品では、研究開発の成果を知的財産により有効に保護・活用し、経営 戦略と一体となった知的財産戦略の構築に積極的に取り組んでいる。
図4.4 武田薬品の売上構成(2004年3月期)
39.6%
41.2%
5.4%
1.0%
1.3%
11.6%
医療用医薬品(国内)
医療用医薬品(海外)
ヘルスケア ビタミン 生活環境 その他
ヘルスケア事業=一般用医薬品,医薬部外品
その他=ビタミン,生活環境(活性炭,木材保存剤),試薬・臨床検査薬,写真工業用薬品,
健康食品等
出典:日経テレコン21「日経会社プロフィル」より作成
4.4.2 知的財産部門の概要
武田薬品は、日本発の研究開発型「世界的製薬企業」を目指し、グローバルな医薬 品事業活動を展開している。その活動を効果的に支援するため、知的財産部門は、社 長直轄の組織として、日・米・欧の三極体制を構築している。知的財産部門の人員は、
日本50人、米国5人、欧州4人である。
知的財産部門の組織は、権利、情報、技術提携、係争訴訟、企画推進の5つの機能 を備えている。各機能について責任者がおり、部員はその中で柔軟に活動できる仕組 みになっている。
4.4.3 知的財産戦略
武田薬品では、知的財産戦略を経営戦略の1つの柱として位置付け、研究・開発・
生産・販売・アライアンスの各機能と融合、連携した活動を展開している。(MPDRAP 戦略)このような状況の中、知的財産部門では、製品戦略プランへの積極的参画、物
質・用途・剤形・合剤等への注力、特許期間延長制度の活用、世界統一商標とストッ ク商標の確保等を展開するとともに、コスト・パフォーマンスを意識した活動を行っ ている。(秋元,2002)
4.4.4 ライフサイクル・マネジメント
武田薬品では、知的財産部門を含めた MPDRAP という全社横断的な組織の中で、
ライフサイクル・マネジメントを実施している。ライフサイクル・マネジメントにお ける知的財産部門の役割は、以下の3点である。
第一に、特許を取得することである。特許を早期に取得し、5年間の期間延長を獲 得することが重要である。日本では、基本特許が切れたとしても新たに第2,3用途、
或いは製剤特許という形で特許申請することで、実質的な特許期間の延長を図ってい る。
第二に、製品のスペック(規格)を替えることである。製剤であれば、他社製品を 経口剤に、或いは口腔内崩壊錠にするなど製品に付加価値を付けて販売する。また、
製品スペックを替える場合は、研究開発及び製造部門の関与が欠かせないが、
MPDRAPの会議では、知的財産部門としてできることを提案する。
第三に、他社の権利取得や権利行使を牽制することである。他社を牽制することが できれば、結果的に自社製品のライフサイクルの延長につながるためである。他社の 動向の把握、他社の用途特許をカバーするような用途特許の取得などを行っている。