2011 年から 2014 年現在にかけて、中央政府による一連の教員養成改革が意欲的に進め られた。この中で、「教師教育課程標準」の公布により、教員養成のカリキュラムがどの ような影響を受けたかは、大きな研究上の課題である。
本章では「標準」の導入前と導入後の各大学の小学校教員養成カリキュラムを分析し、
導入の影響を究明する。
本章では、初等教育「特色専攻」を有する大学の中から地域特徴と専修状況、並びに導 入前後の小学校教員養成カリキュラムに関する資料を考慮して、6大学 (南京師範大学・
海南師範大学・ハルビン学院・大連大学・淮南師範学院・南京暁庄学院)を 分析の対象と した。「標準」公布前後の教員養成カリキュラムを分析する。各大学は教育課程を独自に 編成しているため授業科目の区分も異なっているので、授業科目を「教養科目」「教職科 目」「教科科目」「実践科目」の 4 領域に分類した上で分析した。分析は主として各大学 のカリキュラムのうち必修科目の科目数や単位数を中心として行うが、カリキュラムの変 化の解釈に際しては筆者が行ったいくつかの大学の初等教育専攻の教員に対するインタビ ュー調査[i]の発言内容を織り込みながら論を進めていくこととする。
第1節 養成目標の変化
まず、各大学の小学校教員養成専攻の教育課程に記述されている当該専攻の養成目標に 関する記述内容を分析した。分析の結果、「標準」公布後には3つの変化が認められた。
すなわち、多教科担当、児童観や児童に関する知識と教育方法の重視、初等教育に関する 最先端の理論・政策の把握の3つである。
1 学級を担任し多教科の授業の担当へ
各大学の小学校養成専攻の養成目標のうち、指導教科に関する内容の変化を表 3-1 に示 した。南京師範大学は、主要教科一教科を担当する教員の養成から「多能専業型」の教員 の養成へと転換した。すなわち、複数の主要教科が担当でき、学級を担任し、小学校の教 育や授業研究も得意な教員の養成という養成目標に転換した。大連大学と淮南師範学院は、
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2、3教科の授業を担当できる教員を目指すという教育目標から、小学校で開設されてい る教科も教えることができるように養成目標を改訂した。
表 3-1 2011 年前後における養成目標における教科担当の変化
公 布 前 公 布 後
南 京 師 範大 学 各 主 要 教科 及 び総 合 学習 的な時 間 「 多 能 専業 型 」「 総 合と 分 科を融 合 す る養 成 モデ ル 」 海 南 師 範大 学 最 低 2 教 科 或 は 2 教 科以 上+得 意 教 科 最 低 2 教 科 或 は 2 教 科以 上+得 意 教 科
ハ ル ビ ン学 院 多 教 科 +一 得 意教 科 多 教 科 +一 得 意教 科
大 連 大 学 多 教 科 知識 、 主に 国 語・ 数学・ 科 学 関 連 教 科知 識 、国 語 ・数 学など 小 学 校関 連 教科 淮 南 師 範学 院 国 語 ・ 数学 ・ 他一 教 科 小 学 校 関連 教 科
南 京 暁 庄学 院 国 語 国 語
注 : 南 京師 範 大学 は 専修 は教科 別 に 分化 し てい な い。 上海師 範 大 学 は 文 系専 修 、海 南師範 大 学 は中 文 と社 会 専修 、 ほ か の 4 つ の 大学 は 全て 国語専 修 に つい て 分析 し た( 以下同 様 ) 。
2 児童生徒に対する理解
「標準」に唱えられた児童観や児童に関する知識と教育が各大学の養成目標に取り入れ られた。南京師範大学では、小学生の豊かな人間性を育てるには、教員も同様な資質を備 えるべきとされ、「良好な身体、衛生習慣、穏やかな心理素質、豊かな趣味、良好な芸術 修養と美的鑑賞力及び社会適応性、対人コミュニケーションスキル」といった資質が養成 目標に改めて定められた。ハルビン学院では「正確な児童観、教師観と教育観、生涯学習」
といった「標準」の理念とするキーワードが養成目標に加えられ、また養成すべき教員の 資質として「子どもに対する愛情、責任感、忍耐心、細心」などの資質も加味された。
3 最先端理論・政策の把握
大連大学は、「児童に関する最前線の理論や最新動向及び国の初等教育に関する方針、
政策、法規を身につける」こと、淮南師範学院も、「児童発達に関する知識、教育方法、
初等教育に関連する国の政策、法規、最先端理論と動向を知ることができること」が追加 された。南京暁庄学院も必要とされる知識目標の中に、「小学校教育に関する国内外の最 先端の理論、動態などを小学校教育の現場と関連づけ、創造的に問題を解決することがで きる」と改訂された。
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第2節 教職科目の変化
次に、対象となった6大学の小学校教員養成専修の、「標準」公布の前後における必修 科目の科目数と単位数の変化を分析し、新しく登場した授業科目についても考察する。表 3-2 は、6大学の教養科目、教職科目、教科科目、教育実践科目の必修科目の数と単位数 の変化を示している。
まず、教養科目の変化を分析する。必修科目の科目数と単位数は、「標準」の公布後、
海南師範大学が 1 教科 1 単位増加し、南京暁庄学院が不変だが、その他の 4 大学では減少 した。特に、南京師範大学、ハルビン学院、淮南師範学院の 3 大学では 1、2 科目減少し、
単位数も 0.5 単位から 10 単位程度まで減少した。大連大学は 11 科目と不変だが、単位数 40.5 から 37 単位に減少した。
表 3-2 「標準」公布の前後における必修科目の数と単位数の変化
教 養 科 目 教 職 科 目 教 科 科 目 教 育 実 践科 目
前 後 前 後 前 後 前 後
南 京 師 範大 学 10(47) 8(37) 17(51) 19(55) 1(3) 1(3) 6(14) 8(20) 海 南 師 範大 学 10(40) 11(41) 13(29) 13(34) 10(27) 14(28) 9(30) 6(27) ハ ル ビ ン学 院 12(40) 11(35) 13(34.5) 36(44) 23(59.5) 19(50) 5(25) 8(43) 大 連 大 学 11(40.5) 11(37) 12(52) 27(55) 12(18) 11(23) 8(32) 8(33) 淮 南 師 範学 院 14(44) 13(43.5) 13(33) 25(61) 9(29) 14(32) 5(26) 7(35) 南 京 暁 庄学 院 9(37) 9(37) 18(34) 14(30) 17(32) 13(33) 5(18) 17(31) 注 : 南 京師 範 大学 は 2008 年 と 2014 年 、 淮南 師 範学 院 2011 年と 2014 年 、 南京 暁 庄学 院 は 2011 年 と 2014 年 、他大 学 は 2009 年 と 2014 年の 初等教 育 専 攻人 材 養成 方 案に より筆 者 算 出。
教職科目は、南京暁庄学院では単位数がやや減少したが、その他の4大学では科目数や 単位数が明らかに増加した。特に、ハルビン学院では科目数が 13 科目から 36 科目へ、大 連大学は 12 科目から 27 科目へ、淮南師範学院は 13 科目から 25 科目へ増加し、淮南師範 学院では単位数が 33 単位から 61 単位に 28 単位も増加した。
授業科目の内容を見ると、「標準」に関わる科目が増加していた。特に「標準」に唱え られている「子どもの発達と学習」「専門的発展」「小学学科教育と活動の指導」に関わ る技能科目が著しく増加した。
例えば、「子どもの発達と学習」の領域では、ハルビン学院は 2014 年に「児童学」と いう必修科目を新設した。「小学学科教育と活動の指導」の領域では、淮南師範学院は、
理論的な科目を減らし、実践的な科目を増加させた。同学院のF講師によれば、「実践的
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指導力を有する初等教員養成の要請に向けて、「理論課程の実践化改革」を進めた。過去 の「小学語文教学法」という教職科目は、現在の「漢字基礎と識字写字教学」「文本解読 と閲読教学」「口語交際と作文教学」という 3 つの実技科目に細分化された」という。大 連大学でも国語、数学の教科指導法でそれぞれ「マイクロティーチング」が必修科目とし て新設された。
このほか、南京師範大学では、選択科目として「子どもの発達と学習」に関する「児童 心理健康教育」、「専門的発展」に関する技能科目「教学コースウェア制作」「小学校学 級担任工作研究」「教育映画作品鑑賞」、また「小学学科教育と活動の指導」に関する「小 学国語課程と教授論」「小学数学課程と教授論」「小学科学と技術教育研究」「小学総合 実践活動課程と教学研究」「小学校本課程開発研究」などが新設された。
第3節 教科科目の変化
多くの大学で教科科目が増加したが、幾つかの大学ではそうではないなど、変化は多様 であった。前頁の表 3-2 から明らかなように、必修科目の科目数も単位数も増えた大学は 海南師範大学と淮南師範学院の2大学である。大連大学と南京暁庄学院では科目数がやや 減ったが、単位数がやや増えた。ハルビン学院は科目数も単位数も減らした。南京師範大 学は不変であった。
教 科 指 導 法 と 教 科 専 門 に 関 す る 科 目 の 授 業 開 設 状 況 を 標 準 導 入 の 前 後 で 比 較 し た の が 表 3-3 である。
表 3-3 教科指導法と教科専門の授業開設状況:標準の前後の変化
大 学 名 教 科 指 導法 ・ 指導 要 領・ 教材研 究 教 科 専 門科 目
南 京 師 範 大 学
前 後
(国 語・数学・英語・科学 技 術・品 徳・音楽・美術 ) 国 語 ・ 数学 ・ (英 語 ・科 学 技術・ 品 徳 ・総 合 )
数 学 ・ 芸術 数 学 ・ 芸術 海 南 師
範 大 学 前 後
国 語・品徳 と 生活 (社会 )・(数学・英 語・科 学・総 合 )
国 語・品徳 と 生活 (社会 )・(数学・英 語・科 学・総 合 )
国 語 ・ 情報 ・ (英 語 ・音 楽 ・美術 ・ ダ ンス ・ 体育 ) 国 語 ・ 英語 ・ (音 楽 ・美 術 ・ダン ス ・ 体育 )
ハ ル ビ ン 学 院
前 後
国 語 ・ 数学 ・ (科 学 ) 国 語 ・ 数学
国 語 ・ 数学 ・ 音楽 ・ 美術 ・ダン ス
国 語 ・ 数学 ・ 社会 ・ 自然 ・音楽 ・ 美 術・ ダ ンス 大 連
大 学 前 後
(国 語 ・数 学 ・英 語 ・総 合 ・科学 ) 国 語 ・ 数学 ・ 科学 ・ 総合
国 語 ・ 数 学 ・ 社 会 ・ 自 然 ・ 音 楽 ・ 美 術 ・ (英 語 ・ ダ ン ス )
国 語 ・ 数学 ・ 音楽 ・ 美術 淮 南 師
範 学 院 前 後
国 語 ・ (総 合 ) 国 語 ・ 数学 ・ 総合
国 語 ・ 数学 ・ 社会 ・ 自然 ・音楽 ・ 美 術・ (体育 ) 国 語 ・ 数 学 ・ 社 会 ・ 自 然 ・ 音 楽 ・ 美 術 ・ (体 育 ・ ダ ン ス )
南 京 暁 庄 学 院
前 後
国 語 ・ (総 合 )
国 語 ・ 数学 ・ (科 学 ・総 合 )
国 語 ・ 数学 ・ 音楽 ・ 美術 ・(情 報 ・ 社会 ) 国 語 ・ 科学 ・ 音楽 ・ 美術 ・ (数学 ・ 英 語・ 情 報 ) 注 : ( ) は 選択 科 目を 意味す る 。
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南京師範大学は、国語と数学の指導法に関する授業は選択科目であったが、標準導入 後、必修になった。
海南師範大学は、教科指導法等の授業科目は不変であったが、教科専門科目の必修科目 が情報から英語に変更された。
ハルビン学院は、教科指導法等の授業で、科学が選択科目ではなくなり、国語と数学が 必修科目になった。教科専門科目では、社会と自然が必修になり、必修科目数が増加した。
大連大学は、教科指導法等の授業は全て選択科目だったが、国語・数学・科学・総合の 4教科が必修となった。代わって教科専門科目の必修科目が減少した。
淮南師範学院は、教科指導法等の必修科目は国語だけだったが、国語・数学・総合の3 教科となった。教科専門科目の選択科目としてダンスが追加された。
南京暁庄学院は、教科指導法等の必修科目は国語だけであったが、数学が追加され、国 語・数学の2教科が必修となった。選択科目は総合だけであったが、科学が追加された。
教科専門科目の必修科目は、数学から科学に変更され、選択教科数が増加し た。
以上の6大学の変化をまとめると、教科の専門科目については、大きな変化はないと言 って良いが、教科指導法等の必修科目は国語と数学を中心とする2教科に増加した大学が 多かった。1 教科の得意教科を持つ「一専多能」から国語と数学の他にも多教科を担当で きる教員の養成が目指されていると言えよう。
南京師範大学の A 教授によれば、社会的要請が強い全教科を教える教員の養成は当該大 学の養成目標であった。「沿海地域では、小学校で小規模学級が盛んに実施され、質が高 く全教科を担当でき、学級管理などに堪能な教員に対する需要が急激に増 えている」。ま た「農村部の小学校では芸術・英語などの専門教員も不足しているため、学生の全面発展 を重んじる全教科教員の養成も求められている」という。南京暁庄学院の C 教授は最近、
江蘇省の省レベル重点基盤研究プログラム「全教科小学校教員養成の試行と実践」を推進 している。この C 教授とハルビン学院の E 講師は、「勤務大学は全教科型大学ではないが、
多教科を担当できるように教育課程上工夫している」という。筆者が、南京師範大学では
「「教科指導法」が万遍なく開設され、英語を含めた 4 教科が選択科目として設定されて いるが、学生はそれらを選択しますか」と質問したところ、 A 教授は「学生の学習意欲が 高いため、学生たちはほぼ必修と看做し、履修する」と答えた。「標準」は、豊かな人間 性をもち子どもに十分に対応でき、多教科の知識を備えた教員の養成を求めており、「標