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小学校教員の募集と学校での教科担当

第 1 節 本章の研究課題

前章まで、中国の大学の小学校教員養成のカリキュラムについて分析してきた。国は、

「教師教育課程標準(試行)」で「最低 2 教科の課程標準、教育内容と方法を熟知する」、

「小学教師専業標準(試行)」では、「教員は小学校の総合的な教育に適応し、多教科の 知識を熟知するべきである」、「教育部関与実施卓越教師培養計画的意見」では、新たな

「卓越小学校教員養成」は「小学校教育の実際の要請に対応することを目指して、小学校 全教科教員養成模式を重点的に探索する」などの目標を掲げた。

国 の 多 教 科 担 当 の 政 策 に 対 応 し て 大 学 は 教 員 養 成 カ リ キ ュ ラ ム を 改 革 し て き た 。 馬 ・ 解・趙・李(2008)は大学における小学校教員養成の三つのモデル「一つの教科を中心に 学ぶ分科モデル、文系或いは理系科目を中心に学ぶ中間モデル、多教科を中心に学ぶ総合 モデル」の概念を提出した。本論文第3章では、近年の小学校教員養成の改革の中で、各 大学の多教科担当能力の養成を一つ重要な目標として進めていること指摘し、本論文第4 章では、各大学は分科や総合モデルいずれも最低 2 教科を教えるように転換していること などを明らかにした。

さて、このような教員養成教育を受けた大学生が授業を行う小学校の現場では、教員は どのような教科の授業を担当しているのだろうか。一つの教科を教えているのだろうか、

多教科を教えているのだろうか?これが本章の研究問題である。

各省および各学校で、小学校の教員が実際にどのような教科を担当しているのかを明ら にすることは、教員養成教育を論じるための基礎的な作業の一つである。小学校教員は一 つの教科だけを教えているのか、複数の教科を教えているのか、学級担任と一般教員では 担当する教科はどのように異なっているのか、ひいては、中国の小学校教員の教授学習組 織は、日本でいう教科担任制に近いのか、あるいは学級担任制に近いのか、など解明すべ き問題が多い。その上で、小学校現場における教員の担当教科の実態と大学の教員養成カ リキュラムの対応関係を考察する必要がある。

本章では、まず、第 2 節で、マクロの視点から、中国の 15 地域を対象として、中国の

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小学校教員募集では、どのような種類のどのような教科を担当できる教員を募集している のかを明らかにする。中国では、小学校教員募集は、県区或いは市教育局が行うが、教員 の募集要項には、受験資格、募集する教科、配置予定の学校別の募集人員などが明記され ている。中国の小学校では、単科の教科を教えることが多いが、教科によって受験資格が 異なっていることも多い。小学校で国語や数学を担当する教員には小学校教員資格や小学 校教員養成課程の学歴が要求されることも多いが、音楽や体育を担当する教員には、それ らの資格や学歴は要求されず、中等教育教員資格や学歴があれば小学校教員に採用される ことが多い。最近では、多数の県区或いは市教育局が教員募集要項をインターネット上に 公開しており、日本からも容易に閲覧できる。本章では、小学校の教員養成カリキュラム を分析した 16 大学が所在する 15 省市のうち、インターネット上に公開している市・区・

県の教員募集要項をダウンロードし、採用後の担当教科を分析した。

第 3 節では、地域が異なる2省(安徽省と遼寧省)の数十の小学校の教員の教科担当状 況を分析する。日本では、教員の授業担当教科や校務分掌などを記した教員一覧を掲載し た学校一覧がすべての学校で発行されているが、中国には、そのような学校要覧は存在し ていない。したがって、各学校に依頼して教員の担当授業の情報を個別に収集する必要が あるが、そのような資料を日本で学ぶ留学生に提供してくれる教育局や学校はほとんどな いのが現実である。本研究では、中国の学校関係者の協力により安徽省のある1市の教育 局から各学校の教員に関する資料を寄贈していただくことができた。遼寧省の資料は、広 島大学大学院教育学研究科のキン雨竺さんの平成 27 年度修士論文で使用した資料を使わ せていただいた。本章第3節では、安徽省 A 市 20 校、遼寧省 B 市 12 校の小学校教員教科 担当のデータを分析した。

最後に第 4 節で、小学校の教員の募集状況と学校での教科担当状況に関する分析結果を 総括し、中国の小学校教員の教科指導の分業について考察する。

第2節 小学校教員の募集から見た教科担当―15 地域の分析

今回調べたデータは、2015 年を中心とする収集できる 16 大学の所在地の 15 省市に各区 県の小学校の教員募集状況である。15 省市の都市は地理地位の北から南の順番に、黒竜江 省のハルビン市、吉林省の長春市、四平市、遼寧省の大連市、北京市、天津市、内モンゴ ル自治区の包頭市、甘粛省の天水市、安徽省の淮南市、江蘇省の南京市、上海市、浙江省

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の杭州市、湖州市、湖南省の長沙市、海南省の海口市などである。なお、15 都市で分析の 対象となった県や区は募集資料が収集できた県や区であり、該当都市のすべての区県では ない。

1 教科担当の募集形態

中国の小学校教員募集はまず、小学校が欠員状況と求められている教員素質に関する情 報を所属する県区の教育局に報告することから始まる。次に、県区或いは市教育局(主催 主管担当)が所管する小学校が報告した情報を集め、更に財政局(教員財務担当)、人事 と社会労働保障局(試験の組織者担当)、編制弁公室(定員編成担当)などの行政機関と 合同で募集を行う。

まず、小学校教員募集を大きく 2 種類、単科型募集と複数型募集に分類した。単科型と は、単一教科の教員を募集するタイプである。複数型とは複数教科を担当できる教員を募 集するタイプである。

複数型はさらに国数型、文理型、全教科型という 3 つに下位区分した。

国数型は国語と数学の教科を一人で担当できる教員を募集するタイプである。中国では、

国語と数学教科は小学校各教科の中で一番重要な教科とされている。授業時間数が一番多 く、学生と触れあう時間も多いため、次節で明らかにするように、通常、学級担任が国語 と数学の2教科を担当していることが多い。

文理型とは、文系教科または理系教科の複数教科を担当することができる教員を募集す るタイプである。

全教科型は全ての教科を担当できる教員を募集するタイプである。

2 各都市における募集の概況

表 6-1-1 は、中国の 15 都市の各区における小学校教員の募集形態の割合を表してい る。全体では、6,149 人の総募集人数のうち、単科募集が 93%(5,705 人)と圧倒的に多 く、複数募集はわずか 7%(444 人)でしかない。複数募集の内訳を細かく見ると、国数型 が 6%、文理型が 1%、全科型は 0%(1人)となっている。

各都市別に詳しく見ると、第1に、全ての 15 都市が単科型の募集をしている。

第2に、15 都市のうち、11 都市が募集人数のすべてが単科型である。ハルビン市、大連 市、北京市、天水市の 4 都市は単科型の他に、単科型と複数型でも募集している。

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第3に、複数型募集をしている4都市のうち、3つの都市が国数型を採用している。黒 竜江省ハルピン市は 75 人を募集しており、募集総数の 25%を占めている。大連市は国数 型が 19%、北京市は 15%を占めている。

第4に、複数型募集で文理型を採用している都市は天水市だけである。同市の募集する 小学校教員の 47%は文理型で占められている。

最後に、全教科型を採用しているのは北京市ただ一つである。ただし、全教科型の募集 人数はわずか 1 人で、募集総数に占める割合は 1%にも達していない。

表 6-1-1 15 都市の各募集種類に占める割合

なお、15 都市の小学校教員の教科別募集状況を市区別に示した詳細なデータを表 6-1

-2 に示している。この表をみると、複数教科募集を採用している市は、各区が一律に採 用しているのではなく、採用している区と採用していない区があることが分かる。このこ とから、各区あるいは各学校に小学校教員の募集方法にある程度の権限が存在しているこ とが伺われる。

96 表 6-1-2 15 都市の小学校教員の教科別募集状況

97 3 単一教科型募集の特徴

「基礎教育課程改革綱要(試行)」に規定されている国家課程と地方/校本課程に規定さ れている各教科について、各県・区の募集要項でどの程度の数の教員が募集されているか を調べた。表 6-1-3 と表 6-1-4 は、それぞれ 15 都市における教科別の募集人数と割合 を示している。

まず、15 都市全体で、国家課程の教科について募集人数が多いのは、国語 1,921 人、数 学 1,182 人、英語 700 人、体育 667 人、音楽 432 人、美術 321 人であり、次いで、情報 195 人、科学 139 人、自然 53 人(上海のみ募集している)が多く、芸術(3 人)、品社(18 人)、総合(3 人)、探究(3 人)は少ない。

単科教員の募集人数総数に占める割合は、国語 31%、数学 19%、英語 11%、体育 11%、音 楽 7%、美術 5%となっており、科学(2%)、自然(1%)、情報(3%)は少なく、その他の 教科では 1%にも達していない。

地方/校本課程を担当する教員の募集数は、国家課程の教科に比べれば少なく、心理学で も 24 人が最大で、書道、ダンス、持教、アラビア語、朝鮮語は少ない。都市によって採用 する教科が異なっており、北京、上海などの経済が発達している大都市で地方 /校本課程の 教科の募集が多い特徴がある。

表 6-1-3 15 都市の単一教科の教科別募集人数

注:2000 年、中国教 育部 から「中小学信息 技術課程 指導綱要(試行) (中小学 校情報技術科目指 導綱 要(試行版))」が発表され、初等教育における情報技術教育が本格的に始まった 。指導綱要の中では、

「情報技術」科目は小学校 3 年から設置し、一学年で 68 コマ(1 コマ 40 分)を受 講する ようにと制定 されている。 また、総合実践活動は必修としてその内容は、情報技術教育、問題解決学習(研究性学習)、

ボランティア活動・社会実践、労働と技術教育という 4 つの部分から構成されている。よって、情報と 探究は国家課程に分類されている。