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概観

ドキュメント内 「知的財産法」(2007) 講義録 (ページ 77-89)

条文は、「自己の商品等表示として、他人の著名な商品等表示と、同一もしくは類似のものを使用し、

またはその商品等表示を使用した商品を取引に置く行為が禁止されている」となっています。2 条1 項 1 号と比べていただくと、「需要者の間に広く認識されている」という言葉の代わりに、著名という言葉が入っ ています。類似は同じです。同一もしくは類似のところは同じです。他方で、何が違うかというと混同を生 じさせる行為というのがありません。周知が著名に上がった分、混同が要らなくなったという構造になって います。

どうしてこのような条文ができているのかというと、前も若干お話したことですが、教材 25 ページに著名 表示に対するフリー・ライドの形態をいくつか挙げています。1 つは、他人の著名表示を使用することで、

その他人の商品や営業であるかのように誤信させたり、その他人の関連企業の商品や営業であるかのご とく誤認させる場合、つまり狭義ないし広義の混同を生ぜしめる行為、こういった形で混同を利用してフリ ー・ライドしようというものがあります。もう1つのフリー・ライドの形態は、商品や営業主体が、その他人であ る、あるいは他人と関連があるとまでは誤信させないけれど、著名の表示を使用することで、人の目をはっ とさせ、引きつける行為で、混同しないけど著名性のみを利用する行為があり得ます。

旧法下ではどうなっていたかといいますと、まだ不正競争防止法の裁判例が安定しなかった時代には、

混同を否定した例もありました。有名な判決では、ヤンマーラーメンという事件(神戸地姫路支判昭 43.2.8 判タ 219 号 130頁)があります。ヤン坊マー坊で有名なディーゼル機械のヤンマーが原告になりました。

ヤン坊マー坊は有名なので、子供受けもするだろうとヤンマーラーメンを作っている被告を訴えたケース です。ディーゼル機械とラーメンでは、あまりにも業態が違うので混同しないといった判決があります。その 後、著名であれば広義の混同を認めていこうということで、しだいにこういった判決は少なくなりました。こ れに対して、混同の恐れの肯定論はたくさんあります。VOGUE事件(大阪地判平1.9.11判時1336号118 頁)では、ファッション雑誌として有名なVOGUEが、ベルトに使われました。ファッション雑誌とベルトでは、

確かに、VOGUE の関連企業がベルトも販売し出したと思うかもしれません。つまり、VOGUE 自身はベル トを作っていなかったにも拘わらず、混同を認めた例があります。それから、HAIG、Johnnie Walker など、

ウイスキーの著名商標が、ガラスについて使用された事件(大阪地判昭 57.2.26無体集14巻1号58頁

[HAIG、Johnnie Walker])があります。これも広義の混同を認めた例です。まあ認められるかなという気も します。ただ、前もお話しした通り、裁判例はもっと無理をしていまして、ヨドバシポルノ事件ですとか、パ チンコ屋ディズニー事件、ポルノランドティスニー、これは大人の夢判決ですが、ディズニーだったのが、

警告されたら「ディ」の濁点を取って「ティズニー」にしたのです。あるいは、「ズ」の濁点も取って「ティスニ ー」にして、それでも追い掛けていったディズニーランドという、怖いですね。しかし、これはさすがに大変 だっただろうということで、これだけ裁判所を無理させるのは少しおかしいだろうということになりました。他 方で被害は、少なくてもポルノランドディズニーくらいだと確かに、笑って許せというご意見も強いのです が、もし世の中の至るところでポルノランドディズニーが栄えて自由だということになったら、もうどこに行っ てもポルノランドディズニーがあるとなると、何かディズニーランドに行っても何となくにやにやと、変なイメ ージが付着します。

もう1つアメリカであった例は、Where there is a life, there is a Budかな、私は正確な単語では覚えてい

ないのですが、バドワイザーのスローガンに、人生あるところ必ずバドあり、と訳すことができる英語のキャ ッチフレーズがあります。そのキャッチフレーズをもじって、殺虫剤で BADD としたものがありました。人生 あるところ必ずハエありという、何か立派な文句で売り出したところ、バドワイザーが訴えたというケースが あります。これもお気持ちはよく分かります。ディズニーランド以上にちょっと衝撃的ですよね。あのバドワ イザーを見るたびに殺虫剤を思い浮かべられたら、少し味も変わってしまいますから、そういったケースも あり得るということです。

ですから被害は比較的大きいだろうということ、何とか保護してあげようという裁判官のお気持ちも分か るので、無理をさせずに認めましょうということで、著名であれば混同の必要はないとしたのが、2条1項2 号だということになります。

教材26ページに移ります。ただし、これは立法の過誤だったのだろうと思います。私も立法の際には関 与していましたが、そのときはあまりいい例を思いつかなかったせいもあって、完全には止めきれずに現 在の条文になりました。一般的に皆さんが批判しています。それは保護が強すぎるということです。趣旨を もう 1 回確認すると、結局、著名であれば保護するということはできたのですが、その趣旨を考えれば、信 用形成のための企業努力のインセンティヴを守りましょうということになります。そのためには、単に混同の 恐れがあるところだけではなくて、稀釈化(ダイリュージョン)であるとか、さらには先ほど言ったように、ダイ リュージョンを超えたターニッシュメント、ポリューションと呼んだりしますが、汚染化まで保護するべきでし ょう。

何が問題かというと、ポリューション類型はともかくとして、ダイリュージョン類型については保護してよい 場合もありますが、そうではない場合もあるのではないでしょうか。つまり、表示が著名であれば、それだけ で一律にそのような標章を他人が使用する行為を禁止する制度は、どうも著名表示の形成者の側の不利 益のみを参酌しており、一面的にすぎるのではないでしょうか。例えば、ビクターというのは、日本では大 変有名ですね。ですが、ビクターが有名だからと言って、スキーのビクトリアという有名な廉売店がビクトリ アを使えなくてよいのか、これは著名で類似していれば保護されるのか、経過措置があるので、ビクトリア は別にセーフですが、1993~94 年の改正後にこういった表示が出てきたときに、本当に止める気なのか という問題があります。

あるいは、きついですけれどこれは多少非類似だと逃げるかもしれませんが、例えばスキーのビクトリア が有名になったからといって、ステーキのビクトリアを止めていいのかということが問題になります。こういっ た例を思いつけなかったのですね。それでなかなか止まらなかったのです。つまり、表示の保護範囲を拡 大するということは、他人の商品等表示の選択の自由を害することを意味します。ですからこれは、やはり 比較衡量せざるを得ないのではないでしょうか。比較衡量のマトリックスは後でお示しいたしますが、造語 標章であればいいのですが、例えばビクターのような、造語ではなくて皆さんが使いたがるようなマークに ついては、どうも完全な2条1項2号の保護は控えた方がいいのではないかという気がいたします。

このような問題については、次回、要件の中で説明することにします。

Ⅱ 要件

(1) 著名性

2条1項2号は著名表示を守ろうという趣旨で制定されたものです。しかし、やや保護が強すぎるので はないかということが問題になります。26 ページに書きましたように、ビクターが著名だからといって、スキ ーの廉売店のビクトリアを抑えることができるのか、あるいは、スキーのビクトリアが著名だからといって、ス テーキのチェーン店のビクトリアを抑えることができるのかということが問題になります。

このようなことを念頭に置きながら、各要件を見ていきましょう。まず2条1項2号の第一の要件は、著 名であることです。著名であるということは、言葉の意味から、認識の度合いを問題にしていることはわかり ます。では、不正競争防止法2条1項1号の周知性と比べて、著名性の要件が満たされるためにはどの 程度認識されていることが必要なのかということが問題になります。

前提として、周知性より著名性のほうが高度な認識が要求されることは明らかでしょう。なぜなら、当然 ですが、混同の要することなく保護を与える以上、2条1項1号が無意味な規定とならないようにするため には、周知性より著名性の要件のほうが高度なものである必要があるでしょう。また、他者の表示設定の 自由を害してまでも絶対的な保護を与えることから、表示の識別力が強度なものである必要があるからで す。混同のおそれもないにもかかわらず表示を保護するからには、高度な著名性がないと、他者の表示 設定の自由が過度に害されることになってしまいます。

先程の問題に戻り、どの程度で著名性の要件が満たされるかについては、明確に基準を示した裁判例 があるわけではありません。一般には、7 割8 割程度と大変高度な著名性を要求すべきだと主張されるこ とが多いですが、私は5割程度でよいのではないかという気がしています。ただ1つの裁判例は、リーバイ ス事件です(東京高判平成 13.12.26 判不競 680 ノ 74 頁)。リーバイス事件は、認識の程度が 16.6%や

18.3%で周知性を認めましたが、2条1項2号の請求に関しては、その数字では足りないとされましたので、

少なくとも16%や18%では著名性の要件は満たさないことが分かりました。

(2) 特別著名性=独占適用性

著名性に関しては、学説では、単に著名の度合いだけではなくて、特別に顕著であること、あるいは独 占適応性があることという要件まで読み込むべきだという意見もあります。著名という文言からは少し遠い かもしれませんが、商標法では、3条2項において、前項3号から5号に該当する商標、つまり、商品の 産地、販売地、品質、原材料、効能、用途、数量、形状等々を表示したり、ありふれた氏または名称を普 通に用いられる方法で表示したり、極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標であったとして も、それが使用された結果、需要者が何人かの業務に係る商品または役務であることを認識等ができるも のについては、商標登録を受けることができるということが規定されています。この 3条2項を、特別顕著 性と呼ぶことがあります。3条2項はやや狭義の意味で用いているのですが、特別顕著とは、広い意味で 独占するに値すること、識別力があって独占させても構わないことをいいます。具体的には、例えば26ペ ージにも書きましたが、宝の焼酎の純というのが著名であるとします。そうであるからといって、チョコレート に他者が純と使用することもできなくなるのかが問題になります。ビクターとビクトリアの関係と同様に考え ることができます。混同のおそれがあるのだったら、2条1項1号に該当することを認めてもよいのでしょう が、仮に混同のおそれがないという場合に、純やワールドなど誰もが使いたがるような言葉で、実際によく 使われるような言葉を、ある特定の表示のところで著名だからといって、全業種について使用を禁止する

ドキュメント内 「知的財産法」(2007) 講義録 (ページ 77-89)