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商標権侵害の効果

ドキュメント内 「知的財産法」(2007) 講義録 (ページ 153-169)

商標権侵害の効果ということで、本日は侵害が起こってしまった後の話です。どのように処理をするの か、どのように権利者を保護するのかというところです。概観ですが、権利の救済としては大きく2つありま して、差止請求と損害賠償請求です。差止請求というのは、現在から将来に対する救済です。損害賠償 請求というのは、過去の侵害行為のいわば清算です。

商標権の本質は禁止権ですので、商標権の範囲で、ほかの人が商標を使うことを禁止する権利です。

損害賠償請求の場合は過去の救済であり、過去にさかのぼってやめさせることは、タイムマシンを持って いませんのでできません。そこで、お金で解決しましょうということです。

さらに、不当利得返還請求もできると言われています。不当利得について、詳しいことは民法で確認し ていただきたいのですが、権利の割付が法で決まっている場合に、それを元に戻す機能の条文だと言わ れます。ですから、商標権侵害では請求できるが、不正競争防止法では、権利の割付が条文に書いてい ないので、請求できないと言われています。

刑事罰も一応あります。商標権については、小さい違法輸入業者がいるので、刑事罰もかなり使われ ます。金銭的請求権については、あまり重要ではありませんので、省略いたしましょう。

概略は以上ですが、まず商標権侵害の場合の救済の論点として、未使用商標の保護を考えましょう。

未使用商標が侵害された場合はどうなるのかということです。登録主義なので、使用していない商標でも 権利を取ることができますが、何度も繰り返しお話ししている通り、登録主義だからといって、信用を保護 しないわけではありません。それは権利の保護の仕方の問題ですので、商標はやはり使われることが大 切だということは、繰り返しお話ししておきました。

ですから、保護すべき使用が蓄積されていない商標であれば、自分が使用したとしても侵害されるもの など何もないではないか、という言い分もあるかもしれません。ですが、基本的には、未使用であってもそ のことを理由として差止請求が棄却されることはありません。不使用の抗弁は、基本的には成り立たないと 言われています。

登録主義からするとこれは当然のことです。登録主義は、これから使うかもしれないというような期待を 保護していますので、使っていないからといって、直ちに侵害が否定されることにはなりません。基本的に は差止請求は肯定されますので、第三者としては、商標権者が使っていない商標であっても、侵害をして しまう可能性があるということです。

損害賠償請求については、額の方で調整をするということです。基本的には非常に安い損害賠償額に なります。38条1項、2項、3項は、損害賠償請求に関する損害額の計算の商標法上の特則です。これに ついては特許法で同じ条文がありますので、説明はそちらに委ねることにいたします。

この不使用の抗弁自体は成り立たないのですが、前回みました不使用取消審判を掛けて、商標権者 の商標を取消に追い込みますと、審判請求の登録の日までさかのぼって消滅しますので、損害賠償が結 果的に否定される可能性はあります。

ただし、審判請求の登録の日より前から使ってしまっていた場合は、損害賠償が肯定されてしまうことに なります。以上のように、登録主義の下では、基本的にはこの不使用の抗弁は成り立たないことになりま す。

商標権の権利濫用論に参ります。権利濫用と言うからには、商標権侵害を否定される場合の話です。2 種類に分けることができるかと思いますが、後で説明する方が重要になります。

最初は当然無効型、すなわち過誤登録型です。ですから、3条や4条のいずれかに違反していて、本 来は登録されてはいけないはずだけれども、審査のミスがあって誤って登録されてしまった商標権だとい うことです。それに基づいた権利行使を認めるということは、やはり要件なき権利の排他議論からいっても 許されないという法理で、当然無効型、過誤登録型に基づきます。

裁判例といたしましては、ポパイという事件があります(最判平成 2.7.20 民集 44 巻 5 号 876 頁

[POPEYE])。皆さんはポパイを知っていますか? ホウレンソウを食べると急に強くなります。あのポパイ の作者ではない人が、商標登録してしまったのです。前々回のお話で、著作権のあるなしは登録場面で は考慮しないと説明しましたように、登録されてしまうのです。

そのようにして権利を取ってしまった人が、ポパイの作者からライセンスを受けて T シャツなどのグッズ 販売をしていたような人に対して権利行使をしたという場合は、権利濫用論で否定することになります。

この場合は4条1項7号違反になるのでしょうか。7号は「公序良俗に反する商標」ということで、射程の 非常に広い条文です。裁判例では4条1項7号違反であるから権利濫用であるとは言っていませんが、

私の見たところ一番近いのはこの条文ですので、おそらくこれを念頭に置いているのだろうと思われま す。

この過誤登録型のお話、すなわち、過誤登録された商標権の権利を行使することはできないというお 話は、特許法でも非常に重要な論点ですので、詳しい説明はそちらに委ねることに致します。レジュメに 参考として書いてある、最高裁平成12年半導体装置事件判決(最判平成12.4.11 民集52巻4号1368 頁)が特許の世界で非常に重要な判決ですので、ほぼ1カ月を割いて説明いたします。

商標独自の特徴的な問題があるのは、次の全国著名商標型の方です。これは過誤登録型ではありま せん。登録の時点では、いっさい瑕疵はなかったということです。

この問題については、我々の世界では小僧寿し事件と呼ばれている事件があります(最判平成 9.3.11 民集51巻3号1055頁)。この事件については田村先生が有名な評釈を書かれていまして、その解釈が レジュメに書いてあります。最高裁判決ですので、多くの人が評釈を書き、いろいろな考えを戦わせてい ますが、ここでは教科書に沿い、田村先生の理論を紹介します。

順を追って説明いたしますと、まず過誤登録ではありませんので、取得した時点では瑕疵はなかった、

つまり商標権者に落ち度はなかったという例です。ですが、登録主義ですので、使っているとは限らない わけです。実際、この例でもほとんど使われてはいなかったのです。

どのような商標だったかといいますと、登録商標は、漢字の「小僧」という文字の商標でした。絵は付い ていませんでした。

他方、相手方の Y は、有名な小僧寿しチェーンです。持ち帰り寿司ですね。小僧寿しは私の子供のこ ろにできたと思いますが、お寿司を非常に大衆化しました。もともと江戸時代においてお寿司は大衆の食 べ物でしたが、明治大正に入って高級化してしまいました。小僧寿しの商売は、お寿司をまた大衆に戻し たサービスだと言われています。小僧寿しの後に回転寿司が出てきたので、一層顕著になりましたが、そ れまでお寿司というのは、職人さんが握っている寿司屋に行かないと食べられないものだったのです。

ところがこの小僧寿しは、おそらく当時からだと思いますが、機械で寿司を握り、お寿司の大量生産をし ていました。そのお店で食べさせるのではなく、プラスチックなどの容器に入れて持って帰り、家で食べる のです。そのために容器入りのお寿司を売っているというサービスでした。これが爆発的にヒットしまして、

私が住んでいた埼玉の片田舎にも小僧寿しのお店があったほどでした。

教材 124 ページの図⑪に、小僧さんの絵が載っていますが、これが小僧寿しのキャラクターでした。こ の上に小僧寿しチェーンと記載されていました。Yはこの有名な小僧寿しです。

「小僧」についての商標権はXが持っていました。小僧寿しとは縁もゆかりもない大阪の業者だったよう です。小僧寿しは全国チェーンです。大阪の業者は、その小僧という商標をほとんど使っていなかったよ うですが、他方、小僧寿しチェーンは爆発的にヒットしまして、全国で著名になりました。

ですが、冷静に考えてみるとこの「小僧寿し」は、大阪の登録商標「小僧」の商標権を侵害していること になります。この事件では、四国地区のフランチャイザー、すなわちフランチャイズシステムの親の方の小 僧寿しに対して、大阪の小僧の商標権者が商標権侵害で訴えを提起しました。大阪の業者は、どうも「お にぎり小僧」という商標で使用していたようです。大阪の商標権者としては、自分の「小僧」という商標が、

たまたま自分の登録商品である持ち帰りの食品に使われているということで、商標権侵害の訴えを提起し たのです。

ここで最高裁はどのように判断したかといいますと、基本的には商標権者側の請求を棄却いたしました。

まず差止請求については、「小僧」対「小僧寿し」、あるいはローマ字で書いてある「KOZO ZUSHI」につ いて、類似性を否定しました。小僧寿しは、「KOZO」という商標も同時に使っていましたが、こちらはさす がに似ているということで類似性が肯定されました。

小僧寿し、及びローマ字の「KOZO ZUSHI」に関しては類似性否定ですので、決着がつきました。

「KOZO」については、差止請求は一応認容されました。その後、差止請求が認容されたうえでの損害賠 償請求については、損害が生じていないとして損害賠償請求が棄却されました。結局、小僧寿しの方が 使用できないものは、ローマ字の「KOZO」だけだったのです。

もう少し背景事情を説明しますと、登録商標小僧の方は、1956年に出願された商標でした。X は 1974 年あたりから、大阪でおにぎり小僧を少しだけ使用していたようです。おそらく小さいお店だったのでしょ う。

被告の小僧寿しは全国チェーンですが、先使用の要件は満たしていませんでした。先使用の要件とい うのは、この事件ですと出願時、対、周知になった時点で判断しますので、1956 年より前に小僧寿しチェ ーンが小僧寿しというブランドを使っていて周知になっていれば、先使用の要件を満たし、先使用の抗弁 が成り立って請求棄却となるのですが、小僧寿しの事件の場合は、周知の時点が出願より遅れてしまった ようです。ですから、先使用は成り立たない状況でした。

いわば小僧寿しは侵害のままチェーン展開をしていたのです。おそらくこのことは知らなかったのだと 思いますが、侵害をしている状態でチェーン展開をし、それが全国著名になってしまったのです。つまりこ の事例は、侵害者のブランドの方が著名になってしまったという事例です。そこで裁判所はこのような処理 をいたしまして、「KOZO」だけは類似性を肯定し、差止請求のみ言い分を認めて、損害賠償請求は否定 したのです。

小僧寿しはこの小さい KOZOをどの程度お店に使っていたかというと、2 店舗だけで使っていたらしい です。つまりほとんど使っていなかったのです。基本的には漢字の小僧寿しと KOZOZUSHI というローマ 字を使っていたようで、私が想像するに、ちょっとお店が狭くて KOZOZUSHIとZUSHIまで書くスペース がなかったために仕方がなく、KOZOと書いていたと想像しております。

ですから、差止請求が認容されたので、形としては小僧寿しチェーンが負けた事例だと言われていま すが、実質的には小僧寿しの勝ちです。すなわち、漢字の小僧寿しやローマ字の KOZOZUSHI につい

ドキュメント内 「知的財産法」(2007) 講義録 (ページ 153-169)