第 2 章 実験方法および実験装置
2.5 極低温装置
重い電子物質で実験を行うためにはT < 1 Kの低温域は不可欠である。そこで、本研 究ではこれを実施するため、T < 1 Kの温度域で稼動する極低温needle-anvil型の実験装 置を自作した。
needle-anvil型の実験装置の全体図を図2.14に示す。装置は液体3He の排気で低温を
生成する3Heクライオスタットに組み込んであり、T ~ 0.5 Kまでの冷却が可能である。
また、素早い試料交換と低温環境の長時間維持のため、液体Heベッセルに直接挿入で 図 2.14 本実験で用いた極低温needle-anvil型実験装置の全体図。液体Heベッセル に直接挿入して実験を行う。
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きるよう設計されている。各種配管にはステンレスパイプ、リード線にはマンガニン線 と熱伝導の悪い材料を用いることで、室温部から低温部への熱流入を出来る限り低減し
ている。2.3.1節で述べたように、attocube社製の位置制御装置を動作させるためにはリ
ード線の電気抵抗を小さくしなければならず、マンガンニン線は使用できない。そこで 本研究では、図2.15(a)に示すように、室温から液体Heベッセルまでを銅線を用いて配 線し、液体He中を潜らせた上で超伝導線に接続し、超伝導線をT = 4.2 Kにすることで 超伝導転移させた上で断熱管に挿入する方法を採用した。超伝導状態では電気抵抗がゼ ロになるのに加えて、普通の金属では熱伝導に寄与する伝導電子がクーパーペアを組ん でしまうので熱伝導も非常に小さくなるので、超伝導線を使うことで熱絶縁が可能とな る。つまり、本装置では銅線と超伝導線を組み合わせることによって、リード線の電気 抵抗の低減と、室温部から実験スペースへの熱流入の抑制を行っている。
測定用のマンガニン線についても、図 2.15(a)に示すように断熱管上部において一度 液体He中に晒し、室温部からの熱流入を遮断している。このように熱流入を厳しく防 ぐことで、原子サイズコンタクトの数時間にも及ぶ維持が可能となっている。図2.15(b) に本実験装置にneedle-anvil型実験装置を装着した際の配置図を示す。
次に、1K pot, 3He potを用いた低温生成機構について説明する[37]。断熱管上部には図
2-14(c)のようにベッセル内の液体4Heを1Kpotに取り込むラインが存在する。液体4He
を直径0.08 mm、長さ約20 cmのインピーダンスを通して1Kpot内に連続的に取り込み
図 2.15(a)室温から断熱管への熱流入を防ぐための熱アンカー。青丸の部分が、測 定用のマンガンニン線の熱アンカー。赤丸の部分がattocube装置用のリード線の熱 アンカー。 (b)断熱管内部の詳細図とその実物写真。
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ながら、4Heを減圧排気することによって蒸発させ、気化熱を奪うことでT = 4.2 K以下 の低温を生成している。原理的には4Heの気化熱と外部からの熱侵入がバランスする温 度まで冷却可能であるが、実際はT = 1.5 K程度の温度しか得られない。これは、4Heが
T = 2.17 K以下で超流動転移するため、超流動4Heのフィルムフローが内壁を伝って高
温側へ登って行くためである。高温側では蒸気圧が高いため、ポンピングによる排気能 力はほとんどフィルム部分の蒸気の排気に使われる。故に、このフィルムフローによる 蒸発とポンプの排気能力が釣り合った所で装置の最低温度が決まり、本装置の 1K pot ではT = 1.5 K程度が限界となる。さらに低温を生成する場合は3Heを利用する。3He pot に3Heガスを導入し、1Kpotとの熱交換により3Heを液化させる。次に、3Heを減圧排 気によって蒸発させ、気化熱を奪うことでT ~ 0.5 Kを生成する。この装置は、シング ルショット型となので、一度の液化によるT ~ 0.5 Kの維持時間は約2時間程度である。
今回作製した装置は液体He中での真空維持に、図2.14に示すテーパーシールを用い ている。このテーパーシールは真空グリスをテーパー部分に塗布するだけで真空を保つ ことができるため、簡便な脱着が可能になっている。しかし、テーパー部に少しでもず れがあるとリークが生じ断熱管内を真空に保つことができない。作製した装置は、研磨 粉として使われる緑色炭化珪素微粉末(#240,#800)とピカールを用い、お互いにこすり合 わせてずれを解消した。
図 2.14 断熱管のテーパーシール
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