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価数秩序と dI/dV 信号

ドキュメント内 博 士 論 文 (ページ 92-95)

第 5 章 YbPd の点接合分光実験

5.3 点接合分光実験結果 .1 探針依存性

5.3.6 価数秩序と dI/dV 信号

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ゼロバイアスディップ構造が近藤共鳴状態を反映する場合、その振幅の温度依存性は 第1章の式(1-30, 31)で与えられるように、近藤温度付近では温度低下とともに-logTと いう対数的な上昇を示し、十分に低温では飽和する。このような振る舞いは実際に、単 原子近藤系の実験でも確認されている。ここで得られたdI/dV信号が近藤共鳴状態に起 因した信号であることを確認するため、図 5.19 にゼロバイアスディップの振幅が示す 温度依存性をプロットする。Run1, Run2, Run3すべてにおいて、ディップ振幅は異なる ものの、ほぼ同じ温度依存性を示す。まず、𝑇 ~ 25 K以下から-logTに従い対数的に 増加する。そして、𝑇 ≤ 3 K以下において対数的な増加は抑制されはじめ、𝑇 ≤ 1 Kで 飽和する。この一連の温度変化も、ゼロバイアスディップ構造が近藤共鳴状態に起因す る信号であることを示している。

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しているため、3次元的に広がったコヒーレントな重い電子状態の形成が抑制されるこ とを示唆している。つまり、同じ価数状態間では局所的にコヒーレントな状態を形成で きるが、異なる価数状態間ではコヒーレントな状態が形成されない。結果として、dI/dV 信号で観測されたように、異なる近藤温度を持つ近藤共鳴状態が独立して形成される。

コヒーレントな重い電子状態を形成する化合物では第1章で説明したように、伝導電子 とf電子の混成に起因して、フェルミ面近傍で混成ギャップが形成される。この混成ギ ャップは、dI/dV 信号のゼロバイアス近傍にダブルピーク構造として観測することがで きる。実際、第3、4章で記したEuNi2P2やYbInCu4などのように希土類サイトの価数 状態が一様な化合物では、dI/dV 信号のゼロバイアス付近に非対称なダブルピーク構造 が現れている。一方、前述したようにYbPdのdI/dV信号にはダブルピーク構造が現れ ない。YbPd でダブルピーク構造が現れないことは、価数秩序によって異なる価数状態 Yb サイトが存在するためコヒーレントな重い電子状態が形成されないためと理解でき る。また、比熱で観測されたYbPdの低温域における電子比熱係数の増大は、Yb3+の近 藤共鳴状態がフェルミ面近傍に形成されることに起因していると考えられる。

最後に、Yb3+サイトでの近藤効果の起源について考える。Ohyamaらによる中性子散 乱実験により 3+サイトでの磁気モーメントの大きさは、𝑇 ~ 0.6 Kで~ 0.3 𝜇𝐵である ことが報告されている。また、YbPd の dI/dV 信号に現れるゼロバイアスディップ構造 は、𝑇 ≤ 1 Kでは飽和している。前述のように一般的な価数秩序物質は整数価数で秩 序するため、伝導電子密度が非常に低い。したがって、近藤効果が発現しない。一方、

YbPd では価数秩序相でも価数揺動状態の Yb2.6+サイトが存在しているため、低温でも 金属的な振る舞いが残る。結果として、YbPdの伝導電子は価数揺動状態のYb2.6+サイト から供給されるため、その伝導電子が近藤効果により Yb3+サイトの磁気モーメントを 遮蔽することが予想される。しかしながら価数秩序によって伝導電子数が限られている ため、Yb3+サイトにおける磁気モーメントは完全には遮蔽されない。そのため、~ 0.3 𝜇𝐵 という磁気モーメントが最低温でも残留していると考えられる。

5.4 まとめ

単結晶YbPdの点接合分光実験よりフェルミ面近傍の電子状態測定を行い、以下の 結果を得た。

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 YbPdで得られた微分伝導度(dI/dV)信号は、𝑉 = 0, −20 mV付近にディップ構造が 現れる。

 得られた信号は単原子近藤系で利用されるファノ関数の重ね合わせで良く再現す ることができる。これは、異なる近藤温度(半値幅)を持つ2つの近藤共鳴状態が 共存していることを示しており、Yb3+と Yb2.6+サイトでの近藤共鳴状態に対応して いる。このとき、Yb3+サイトの近藤温度は𝑇𝐾 ~ 20 − 30 Kであり、Yb2.6+サイトで は𝑇𝐾 ~ 800 Kである。

 YbPdの低温物性は、近藤温度 𝑇𝐾 ~ 20 − 30 KのYb3+サイトと、𝑇𝐾 ~ 800 Kの金 属的な Yb2.6+サイトの重ね合わせとして理解できる。一方、コヒーレントな重い電 子状態の形成を反映するダブルピーク構造は、YbPd では観測されなかった。これ は、価数秩序によって、異なる価数状態の Ybサイトが共存することにより、3 次 元的にコヒーレントな状態が形成されないためと考えられる。

 YbPdにおけるYb3+サイトでの近藤効果は、Yb2.6+の価数揺動状態によって伝導電子 が供給されることによって発現していると考えられる。

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