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植物成長調節物質による単為結果性トマトの種子形成促進

第1節 オーキシン作用阻害剤パラクロロフェノキシイソ酪酸(PCIB)の処理 が単為結果性トマトの種子形成に及ぼす影響

第 2 章において,柱頭上での花粉発芽は,PA(単為結果性品種)と NP(非単 為結果性品種)の間に差異はなかったが,PA では子房に近い花柱基部において 花粉管の伸長が妨げられた.柱頭で発芽した花粉は,順調であれば花柱内を伸長 して子房に達し,胚珠まで進んで受精に至るが,PA では花柱基部での高いオー キシン濃度が花粉管の伸長を抑制していると推定された.

そこで,本節では植物成長調節物質であるオーキシン作用阻害剤パラクロロフ ェノキシイソ酪酸(PCIB)の処理を花房に行い,花柱基部における花粉管伸長 の抑制を緩和させて,PA の種子形成を促進させることができるかを検討した.

材料および方法

供試材料は,PA の ‘ ルネッサンス ’,NP の ‘ 桃太郎 ’ を用い,ガラス室内で 栽培した.両品種とも,25℃,3日間の暗黒条件下で催芽した.それらの種子を,

2007 年9月 4日に,ピートモスとバーミキュライトの混合培養土(2:1,v/v)で 充填した72穴セルトレイ(50 mL/穴)に播種した.播種30日後に2号ポットに 鉢上げし,播種 50 日後に 7 号ポットに定植し,複合液肥を用いて 32.4/16.6 ℃

(最高/最低)のガラス室内で養液土耕栽培を行った.開花 1 週間前に,PA の花 房を0または100 mg・L-1のPCIBに浸漬処理した.花は開花前に除雄し,11月3 日~ 11月10日の間に開花した花について,1株当たり 5花を開花時に人為的に

交配処理した.調査対象花数は,1 区当たり 30 花とし,調査項目は,着果率,

有種子果率,1果重および1果当たりの種子数とした.

結 果

PCIB処理は,PAの着果率および 1果重に影響を及ぼさなかった(第3-1表).

また,PCIB 処理は PA の有種子果率を 83 %から 92 %に高め,1果当たりの種 子数も 13 粒から 74 粒となり,有意に増加した.PCIB 処理による PA の種子数

(74粒)は,NPの種子数(152粒)の約半分まで回復した.

考 察

オーキシンは,単為結果性の発現に重要な役割を果たす(Gorguet ら,2005).

また,遺伝的な単為結果性は,子房中のオーキシン蓄積と相互関係を持つことが 報告されている(George ら,1984; Ikeda ら,1999;Pandolfini ら,2002).第 2 章第 2 節において,PA では,子房に続く花柱基部の内生オーキシン濃度が高 いことが,花粉管の伸長を抑制している可能性があると推察された.Mapelli ら

(1978)も,単為結果性遺伝子 pat を持つトマトと持たないトマトの開花時にお ける IAA 濃度を測定し,それぞれ 0.16 および 0.05mg・kg-1で,pat 遺伝子を持つ トマトの IAA濃度が高かったことを報告している.また,IAAを 0.1 mg・L-1

3-1 単為結果性品種ルネッサンスおよび非単為結果性品種桃太郎 の着果率,有種子果率,1 果重および 1 果当たりの種子数に及ぼすパ ラクロロフェノキシイソ酪酸(PCIB)処理の影響

1果重

(g)

ルネッサンス 0 100 83 167 a 13 c

100 100 92 164 a 74 b

桃太郎 - 87 100 180 a 152 a

種子数

(粒/果)

有種子果率

(%)

PCIB濃度 (mg・L-1

異なるアルファベット間には5%水準で有意差あり(Tukey's-test)

 品種 着果率

(%)

ている(Oono ら,2003).本節において,開花前の花房に PCIB を浸漬処理し,

開花時に交配処理したところ,1 果当たりの種子数は有意に増加した.したがっ て,PCIB 処理によって PA の花粉管伸長阻害が緩和され,受精に至った胚珠が 増加して,種子数が増えたと推測される.

本節においては,PCIB の処理濃度および処理時期については検討していない.

開花時における子房当たりの胚珠数は,PA と NP との間に有意な差はなかった

(第 2 章第 2 節)にもかかわらず,現状では,PA の 1 果当たりの種子数(74 粒)は NP の 1 果当たりの種子数(152 粒)の半分程度にとどまっている.した がって,PCIB の処理濃度および処理時期についてはさらに検討すると同時に,

オーキシンによる花粉管の伸長抑制の他にも PA の種子形成に関与する要因の存 在が推測される.

第2節 ジベレリン生合成阻害剤パクロブトラゾール(PBZ)の処理が単為結果 性トマトの種子形成に及ぼす影響

第 1 節において,オーキシン作用阻害剤パラクロロフェノキシイソ酪酸

(PCIB)を開花前の PA(単為結果性品種)の花房に浸漬処理し,開花時に交配 することによって,PA の着果率や 1 果重に影響を及ぼさず,有種子果率を 83

%から 92 %に高め,1 果当たりの種子数も 13 粒から 74 粒に有意に増加させる ことを明らかにした.ただし,その数は NP の種子数の半分程度にとどまってい る.したがって,PA の種子形成には,オーキシンによる花粉管の伸長抑制の他 にも関与する要因が推測される.

オーキシンは,ジベレリン(GA)の生合成や GA 情報伝達回路を制御するこ とが明らかにされている(山口,2004).また,単為結果果実では,開花直後に GA 活性が増加し(Kataoka ら,2004b;Koshioka ら,1994;Mapelli ら,1978),

果実肥大初期にGAの役割が大きいことも報告されている(Kataokaら,2004b).

したがって,PA の花柱基部において高濃度と推測されるオーキシンも,活性型 GAを誘導している可能性がある.

また,トマトでは合成オーキシン処理による単為結果により,子房内部では胚 嚢 内の 細胞 が分裂 して細 胞塊 となる 偽胚が形成 される (Asahira ら ,1967;

Kataoka ら ,2003;Serrani,2007) . 単 為 結 果 性 遺 伝 子 pat-2 を 持 つ 品 種

‘Severianin’ でも,合成オーキシン処理した NP(非単為結果性品種)と同様な偽

胚の形成がみられ(Lin ら,1983b),偽胚は本来,種子のできる胚嚢内で発達 する(Kataoka ら,2004a).Kataoka ら(2008)は,本来であれば種子のできる 胚嚢内が偽胚で占有されることが,受精を妨げている要因と報告している.この 偽胚の発達は,GA 生合成阻害剤ウニコナゾール-P によって阻害され,同時に果

そこで本節では,GA 生合成阻害剤であるパクロブトラゾール(PBZ)の処理 によって,PAの種子形成を促進させることができるかを検討した.

材料および方法

供試材料は,PAの‘ルネッサンス ’とした.2月6日に播種,2月15日に3.5 号ポットに鉢上げし,3月23日に7号ポット(容量5.1 L)に定植して,複合液 肥(OK-F-1,大塚化学(株)製,N:P2O5:K2O=15:8:17)を用いて養液土耕栽培を 行った.3 月 25 日に,バウンティフロアブル(パクロブトラゾール 21.5 %)の 50000 培,10000 培,2000倍,400 倍の各希釈液を 1 ポット当たり 47mL 土壌灌 注した.1ポット当たりのパクロブトラゾール施用量は,それぞれ0.2 mg,1 mg,

5 mg,25 mgとなる.その他に0 mg区(無処理区)を設け,蒸留水を47 mL土

壌灌注した.いずれの処理区とも,各花の開花時に花を振動させて受粉した.換 気温度は 28℃,最低温度は12 ℃で管理し,2 段摘心栽培とした.花房当たりの 処理花数は 3 花で,その他の花はすべて除去し,1 区当たり 30 果を調査した.

調査項目は,栽培終了時の生育,正常果数,発育不良果数,有種子果数,1 果 重および種子数とした.なお,発育不良果および尻腐れ果は1果重および種子数 の調査対象からは除外した.

結 果

単為結果性品種ネッサンス茎径,茎長,茎重,葉長,葉幅,葉重および花房着生節位に及ぼすパクロブトラゾール PBZ)施用量の影響 yy 茎径(mm)茎長茎重葉長葉幅葉重花房着生節位 (mg/ポット)第1花房第2花房(cm)(g)(cm)(cm)(g)第1第2 013.1d12.2c70.0a122ab44.7a58.4a426a9.0a13.0a 0.216.3c14.5b49.3b102b41.6ab45.4b434a9.0a13.4a 118.5bc15.5b46.3b114ab39.8ab43.6b448a9.0a13.2a 521.2a18.0a41.9c134a37.9b41.2b438a8.8a13.0a 2520.1ab16.3ab35.3d99b29.9c33.6c305b8.8a12.8a 5.1L 2花房直下葉 るアルファベット間に5で有意差あり(Tukey-Kramertest

た.また,第1および第2花房の着生節位は試験区間に差はみられなかった.

パクロブトラゾールの施用量が,PA の着果率,有種子果率,1 果重および種 子数に及ぼす影響を第3-3 表に示した.着果率はいずれも100%で,発育不良果 の発生はみられなかった.有種子果率は,0 mg区(無処理区)では67%で無種 子果の発生が認められたが,パクロブトラゾール施用量が1 mg以上で100%と

なった.1果重は,0 mg区が225 gと最も重く,パクロブトラゾールの施用量が

増えるにつれて軽くなった.1 果当たりの種子数は,0 mg 区の 12 粒から,0.2 mg区は25粒,1 mg区は52粒,5 mg区は74粒と増加し,特に1 mg区と5 mg 区は無処理区よりも有意に多かった.なお,25 mg 区の 1 果当たりの種子数は 40粒で,無処理区よりは有意に多かったが,5 mg区よりは少なかった.1果重 と1果当たりの種子数の間には,0 mg区および0.2mg区では相関がみられなか ったが,パクロブトラゾール施用量が 1 mg 以上では正の相関がみられた(第 3-1図).

考 察

ジベレリン生合成阻害剤パクロブトラゾールは,ジベレリン生合成経路の ent-kaureneから ent-kaurenoric acid への反応を触媒するチトクロームP-450 酸化 酵素(カウレンオキシターゼ)の活性を阻害し(Hedden・Graebe,1985),パク ロブトラゾールを処理した植物は,栄養成長の抑制すなわち矮化症状を示すこと

単為結果性品ルネッサンの着果率,有種子果率1重および種子数に及ぼすパクロブトラゾール(PBZ施用量 の影 zw 着果率有種子果率1果重種子数 yxv (mg/ポット)正常果率(%)発育不良果率(%)(%)(g)(粒/果) 0100067225a12d 0.2100087194ab25cd 11000100166b52ab 51000100132c74a 25100010088d40bc /開花×100 果数/開花×100 不良果数/開花数×100 子果/着果×100 るアルファベット間に5で有意差あり(Tukey-Kramertest

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