I はじめに
前節での解析の結果、 これまで林野火災の動態解析等で用いてきた、 火災現場の 周辺で測定された風向 ・風速データは、 火災時の延焼地域内の風向・風速とは異な り、 データの信頼性に問題があることが指摘された。 この問題点を解決するために は、 火災時の現地での風向・風速を知ることが必要不可欠である。 そこで、 その一 つの新しい試みとして樹木の片面燃焼を利用した風向・風速の推定について検討を すすめた。
E 片面燃焼とは
樹木の片面燃焼とは、 林野火災跡地の立木の樹幹の片側の焦げ痕がその反対側の 焦げ痕に比べて高い位置まで残る燃焼現象である。 実際の火災跡地では、 樹幹に対 する焦げ痕のつき方は、 樹幹全体が真っ黒に焼けた もの、 樹幹の片側にはまったく 焦げ痕のないものなどいろいろな形態があるが、 樹幹の片側ともう一方の側とで焦
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-げ痕のつき方(高さ)が異なる場合を総称して樹木の片面燃焼と呼ぶ。 一般的にこ の焦げ痕は樹皮のみにとどまり、 木質部は多少変色する程度であることが多い。 こ のような片面燃焼の発生原因について鈴木63)は以下のように整理している。 まず、
片面燃焼が発生する条件として、 ①立木の根元に燃焼しやすい枯れ葉等が堆積して いること、 ②枯れ草の延焼時に一方向よりの気流があること、 ③樹幹は燃えやすい 樹皮を持つこと、 の3つを挙げている。 このことからもわかるように、 一般に林野 火災は地表火、 樹冠火、 樹幹火、 地中火に分類9)されるが、 この片面燃焼は地表火 の場合にのみ生起する現象である。 地表火において、 落葉・ 落枝・ 下草等が燃焼す るとき、 一定方向の気流(風)があると火炎は風下になびいて直立しない。 しかも 風に冷やされるため立木は風上側に低くしか黒化が起こらない。 一方、 風下側はた とえ狭い範囲であっても風の影ができるから、 火炎は直上して片面を焼くことにな る。 さらに風下側は弱風のため熱を奪われないから、 この現象は強化される。 しか も、 スギのように燃えやすい樹皮を有するものは上方まで火が上がるとしている。
これは、 片面燃焼においては、 風下側の燃焼痕が風上側の燃焼痕よりも高くなるこ とを意味しており、 また、 片面燃焼は風が強いと、 ある程度まで高く起こるとも言 われている。 以上のように、 樹木の片面燃焼は火災時の現地での風向・風速を示す 重要な指標となる可能性を有しているといえる。
E 林野火災事例における片面燃焼
ill-l 調査方法および資料
前に示した昭和60年2月の愛媛・香川県境林野火災において、 火災後、 地元消 防本部、 消防団の協力を得て、 片面燃焼に関する現地調査を実施した。 調査方法は、
まず、 図-1-26に示すように火災被害地域全体を網羅すベく稜線、 谷線に9本 の測線を引いた。 片面燃焼の調査は直径10cm以上についてのみ実施し、 各測線上 約30m毎に測点を設け、 その地点最近の立木を選定し、 さらに、 測点から左右の
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-斜面に入り、 それぞれl本ずつの立木について調査を行った。 したがって、 各測点 では原則として、 測線上(稜線または谷線)でl本、 両側の斜面でl本ずつ、計3 本の立木について調査を行った。 調査項目は、 風上側燃焼高(低い方の焦げ痕の高 さ)と風下側燃焼高(高い方の焦げ痕の高さ)、 および片面燃焼の方向(風上側燃 焼痕位置から風下側燃焼痕位置ヘ向かう方向)、 樹種、 樹高、 直径である。
その他の資料として、 火災動態図、 地形図等を参考にしながら、 燃焼方向、 燃焼 時間帯、 斜面の方向、 燃焼程度、 斜面燃え上がりであるか燃え下がりであるかなど を各測定木について明らかにした。 また、 気象データとしては、 現地の消防本部で
観測された風向・風速データを用いた。
以上のような調査と収集資料によって、 火災動態、 風向・風速、 地形因子等と片 面燃焼との関係について検討した。
Ill-2 片面燃焼の実態
上述のような方法で調査したが、 調査木は尾根部で1, 0 8 1本、 谷部で396 本、計1, 4 7 7本に達した。 その中には燃焼痕の見られない非燃焼木、 完全に黒 こげになった完全燃焼木を含んでいた。 この完全燃焼木と火災の燃焼程度との関係 については、 尾根部における全調査木の割合が燃焼程度・激、 中、 徴それぞれ32 •
2%、 46. 8 %、 21. 0 %であるのに対し、 完全燃焼木の割合はそれぞれ49 . 0%、 38. 3 %、 12. 7 %となっており、 燃焼程度・激に占める割合が高いこ とがわかる。 完全燃焼木が片面燃焼とどのような関係にあるかは明かではないが、
林野火災そのものを特徴づける一つの因子であろう。 この完全燃焼木および非燃焼 木を除くと片面燃焼が発生していたのは1, 0 3 7本であった。 このデータを用い て、 実際の林野火災跡地にみられる片面燃焼の実態について、 以下のような解析を 行った。
1 )数量化I類による解析
- 44 -まず、 数量化I類による、 片面燃焼に関与する因子の解析を行った。 データの範 囲として、 谷部では調査木自体も少ないうえ、 非燃焼木も多いため、 尾根 部のデー タのみを抽出し、 タト的 基 準を片面燃焼の風上側燃焼高および風下側燃焼高とし、 そ れぞれの場合について解析した。 取り上げたアイテムは樹種、 延焼方向、 燃焼程度、
片面燃焼方向と斜面方向との差および直径の5種類とした。
表-1-10ならびに表-1-1 1に解析 結果を示している。 直径を除く名義尺 度の各アイテムについては表に 示しているカテゴリーに分類したが、 片面燃焼方向 と斜面方向の差というのは、 片面燃焼方向と斜面最大傾斜方向を1 6方位で計測し、
その変位のことを指しており、 カテゴリーOはこの両者が一致していることを示し、
カテゴリ-8は両者が 正反対の方向であるこ とを意味している。
表-1-10によれば、
風上側燃焼高はレンジ および偏相関係数から みて延焼方向、 燃焼程
度、 片面燃焼方向と斜 面方向の差の3アイテ
ムがほぼ同程度に強く
影響を及ぼしているよ うである。
延焼方向については 燃え上がりよりも燃え 下がりの方が風上側燃 焼高を大きくしており、
表-1-10 数量化I類の解析結果(尾根部)
[外的基準:風上側燃焼高]
アイ カテゴ 度数 スコア レンジ 偏相関係数 テム リー
樹種 ヒノキ 68 10.6807
アカマツ 463 0.1725 28.5949 0.0917
雑木 45 -17.9142
延焼 燃え上り 210 -23.8729 37.5705 0.2581*珍事
方向 燃え下り 366 13.6976
燃焼 激 154 11. 9483
程度 中 270 6.4336 35.4819 0.2076***
微 152 -23.5336
片面燃 。 74 -6.8568
焼方向 l 153 -8.0150 と斜面 2 110 -0.0357
方向の 3 62 -14.9970
差 4 52 -6.8121 62.9204 0.1778***
5 38 14. 7397
6 38 4.3425
7 31 19.9292 8 18 42.9912
直径 576 (0.6121) 0.0508
重相関係数R=0.3656*** F=6.1820*日 n・:有意水準 99.9%
一般的に燃え 下 がりの 方が燃焼速度が遅いと 考えられ、 火との接触 時間が長くなったため ではないかと考えられ る。 燃焼程度に関して は、 程度が激しくなる ほど風上側燃焼高が大 きくなり、 炎の高さや 熱量の大きさ等の影響 と考えられる。 また、
片面燃焼方向と斜面方 向の差に関しては両者 が一致している方が風 上側燃焼高は小さいよ うであり、 これも燃焼
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-表-1-1 1 数量化I類の解析結果(尾根部)
[外的基準:風下側燃焼高]
アイ カテゴ 度数 スコア レンジ 偏相関係数 テム リー
樹種 ヒノキ 68 3.3484
アカマツ 463 3.1904 41. 2347 0.0815 雑木 45 -37.8863
延焼 燃え上り 210 -35.6418 56.0920 0.1974*本$
方向 燃え下り 366 20.4502
燃焼 激 154 28.9534
程度 中 270 8.3792 73.1720 0.2012務付
微 152 -44.2186
片面燃 。 74 14.4445
焼方向 l 153 1. 7447
と斜面 2 110 4.4135
方向の 3 62 -21. 3891
差 4 52 13.3808 75.4358 0.1222本車
5 38 -27.1910
6 38 18. 7028
7 31 4.9277
8 18 -56. 7330
直径 576 (5.2428) 0.2131**窓
重相関係数R=0.3691*** F=6.3185縁取寧 日:有意水準99% 日* .有意水準99.90/0
速度が影響している可能性がある。 ただし、 尾根部は斜面に沿って吹き上がる局地 風がぶつかって風向が一定でないと予想されるため、 前述どおりになるとはいえ な
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風下側燃焼高については、 風上側燃焼高の場合と異なり、 風下側燃焼高に最も大 きく影響するのは樹木の直径であり、 直径が大きいほど風下側燃焼高は大きくなる ことを示している。 続いて、 燃焼程度、 延焼方向のn頂であり、片面燃焼方向と斜面 方向の差は風上側燃焼高の場合ほど影響力は大きくないようである。 この 解析の結 果、片面燃焼の風下側燃焼高と風上側燃焼高で最も大きく異なるのは樹木の直径の 影響である。 風上側燃焼高にはほとんど関与していないのに、 風下側燃焼高では最
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-大の影響因子となっており、 直径によって風下側に生じた風の影の大小に風下側燃 焼高が左右されると考えられる。
2 )片面燃焼差
次に、 片面燃焼を表わす因子として、 風下側燃焼高と風上側燃焼高の差(片面燃 焼差と呼ぶ)について検討した。 この片面燃焼差の度数分布を図-1-27に示す。
この図によると片面燃焼差は数10cm'"'-'250c皿の範囲に集中しているが、 それ以 上の値を示すものも存在する。 この片面燃焼差についても風下側燃焼高、 風上側燃 焼高の場合と同様に数量化の解析を試みたが、 全体的には有意な結果は得られなか った。 しかしながら、 片面燃焼差が大きなものについては、 このような片面燃焼差 をもたらした原因が顕著に表われているのではないかと考えられる。 そこで、 一つ の試みとして、 ここでは、 図-1-27の片面燃焼差の分布曲線における裾の部分、
すなわち差が30 0 crn以上について取り上げて考察した。 片面燃焼差30 0 cm以上 の調査木は全部で50本抽出され、 それらを個別に燃焼動態との関係を調べた。
図-1-28は燃焼動態における燃焼時間帯別の頻度を示している。 全調査木の分 布に対して、 片面燃焼差300cm以上のものの分布は第6時間帯に集中しているこ とがわかる。 この第6時間帯というのは、 表-1-12に示すように本火災中最も 風速が大きく、 延焼面積も大きかった時間帯である。 すなわち、 片面燃焼差は風速 の影響を大きく受けるのではないかと考えられる。 また、 主風速が大きいときは、
義援 120 100 80
60 蝋40
0
o 100 200 300 400 500 600 700 800 900 片面燃焼差 (cm) 図-1-27 片面燃焼差の度数分布