第3章 初代肝細胞の三次元培養法の確立
3.2 本章の目的
in vitroで、の肝細胞の高機能の維持と細胞を容易に固定化 できる培 養担体という点で , 初代肝細胞の PUF/スフエロイド培養法は肝臓シミュレータ開発に有効で、あると思われる。 さらに, PUFを使用したス フエロイド培養法が肝臓シミュレータとして一般化されるためには, r容易にスフエロイドを形成でき る」技術でなければならない。
そこで, 本章では, 平板状のPUFを使用し, これを組織培養用デイシュに入れて静置状態で初代肝細 胞の三次元培養法の硲立を試みた。 まず, 松下ら 11)の報告と同様初代ラ ット肝細胞を使用してPUF干し内 でスフエロイドの形成について再時認を行った。 また, D1JJ物実験に使用される動物種を考慮して, イヌ やブタの初代肝細胞についてもスフエロイドの形成について検討した。 さらに, 三次元状のスフエロイ
ド形態の対照実験として, ラット ・ イヌ ・ ブタ肝細胞の二次元状の単層形態について検討し, スフエロ イドとの形態比較を行った。 また, PUF孔径および表面特性がスフエロイド形成に与える影響について も検討したO さらに, in vitroで、の細胞の生存維持が機能発現に大きく関与すると考えられることから スフエロイド培養肝細胞の生細胞数変化を単層培養肝細胞と比較することで評価した。
3.3初代ラット ・ イヌ ・ ブタ肝細胞の三次元培養
3.3.1実験方法 3.3.1.1 培養担体(PUF) (1)特性と構造
細胞の培養担体として, ポリエーテル系硬質ポリウレタンフォーム(RigidPolyurethane foam : PUF,
Photo. 3-3-1)を使用しt:.o PUFは, 骨格と薄い膜張り構造を有する多孔性物質であり, その分子構造は Fig.3-3-1に示すものと考えられる。 また, 一般にクッションや断熱材として用いられるほかシリコーン コムに代わって現在使用できる唯一の人工心臓ポンプ材料でもある。 本研究では, 松下ら11)の報告によ りラット肝細胞のスフエロイド 形成と機能維持において良好な結果が得られているR-l(Rigid)タイプ(平 均孔径約500f.1m, 疎水性)のPUFを基準として, その孔径を半分にしたR-4(Rigid)タイプ, 表而特性を親 水性にしたW-I(Water)タイプを使用し, PUF孔径と表面特性がスフエロイド形成に与える影響を検討し fこ(Table 3-3-1)0
200μm
Photo. 3-3- 1 培養担体として用いたポリウレタンフォーム(PUF; R-)タイプ)
ーかOC'R2-OC丸一日
失
/
CH O-Rl-CO R2-coo-ー-0-OC'R2・OC'R1-0-CH2
R) ;
R2 ; HN
O 叶)-
NHFig.3-3-1 PUFの分子構造
Table 3-3-1 本研究に使用したPUFの特徴
PUFの種類
R-l (Rigid)タイプ
特徴
ポリエーテル系硬質PUF 平均孔径;約SOÜj..lm 疎水的性質
見かけ密度; O.OI2g!cm3
(化学組成) ポリオール/イソシ
アネートの重量比
40/60 ニベ-,
ト-+--PUF干し径 R-4(Rigid)タイプ
W-I (Water)タイプ
ポリエーテル系硬質PUF 平均孔径;約2SÜj..lm 疎水的性質
見かけ密度; O.019g/cm3 ポリエーテル系硬質PUF 平均孔径;約SOÜj..lm 親水的性質
見かけ密度; O.018g!cm3 28
い の影響 40/60 ___J :
5)/49
-- PUF表面特 性の影響
ポリウレタンフォームは, 主原料としてイソシアネートとポリオールを使用し, 他に触媒, 発泡剤,
整泡剤, その他の11))剤を添加して製造されるが, イソシアネートにはジフェニルメタンジイソシアネー ト(OCN
-o-
CHぺご
いCO ; MDI)を, ポリオールにはグリセリンやトリメチロールプロパンを使用し,酸化アルキレン(プロビレンオキサイド)を付加して合成したものである。
PUFのR-lタイプとW-lタイフ。の表市特性の違いは, 主原料となるイソシアネートとポリオールの重量 比の違いに由来し, R-lタイプではポリオール/イソシアネート比=40/60, W-lタイプではポリオール/イ ソシアネート比= 51/49である。 イソシアネートはポリオールに比べ疎水的性質をもつことから, R-lタ イプはW-lタイプよりも疎水性を示す。
(II) PUFの調製方法
PUFは大きなブロックからカッターを用いて25X25X 1 mmのシート状に切り出し, 静置培養用のPUF 平板として用いたO 播種前の調製は以下の手順で行った。
(1) 切り出したPUF平板をガラス製の容器に入れ, 18.2 MD以上の電気抵抗を示す超純水で、5回ほど激 しく洗浄した。
(2) ガラス製の容器内に超純水を張っ た状態でPUF平板を真空ポンプを用いて脱気した。 この操作を3 回ほど繰り返し, PUF平板を完全に水巾に沈めた。 この操作が不十分な場合は, 播種操作中にPUF孔 内に気泡の混入が多くなり, その部分に細胞が付着できない。
(3) PUF平板はガラス製の容器内で、浸水したまま, オートクレーブを用いて蒸気滅菌(122 oC, 1.6 kg/cm2) した。
(4)滅菌したPUFは, クリーンベンチ内で鴻過滅菌した新鮮培養培地に移し, 細胞播種を行うまで低温(4 'C)保存したO
3.3.1.2初代ラット肝細胞の細胞調製法と培養方法 (1)細胞調製法
7�8週令のWistar系雄性ラット(九動, 佐賀)を使用した。 遊離成熟ラット肝実質細胞はSeglenの方法 (コラゲナーゼ海流法)21)に若干の改良を加えた中村等58)の方法を参考にして調製した。 その手)11買を以下 に示す(Fig.3-3-2参照)0
(1)ラットの腹腔内にネンブタ ール(ペントパルピタール系麻酔剤; NEMBUTAL INJECTION, ABBOTT laboratories, Chicago)を0.4�0.5 mI注射し, 麻酔が効くまで放置した。
(2)ラットを手術台に固定して腹部を70%エタノール消毒後開腹し, 腹腔内を露出させた。
(3)腸を向かつて右側にかき寄せ, 肝臓をめくり門脈を露出させた。 ピンセットを用いて門脈に縫合糸 のループをかけた。
(4)腹膜を切り裂き下大静脈を露山させ, (3)と同様にして縫合糸のループをかけた。
(5)門脈を半切後カニューレ(17 G)を挿入し, 速やかにループを縛ったO
(6) ペリスタリックポンプを用い, 門脈側から前j謹流液(Table 3-3-2)を 20 �30 ml/minで、流した。
(7)前瀧流開始と同時に下大静脈を半切し, 肝臓内部から速やかに脱血させた(2�5min)。
(8)前瀧流終了後, コラゲナーゼ(タイフ\り溶液(Table 3-3-2)を10 ---15 ml/minで、流した。 適時, 下大静脈 をピンセットで押さえて圧力をかけ 肝臓内部にコラゲナーゼ溶液を十分に浸透させる注意を払っ
た(1O---15min)。
Table 3-3-2 前滋流用緩衝溶液及びコラゲナーゼ溶液組成表
試薬 前j産流用緩衝液(g/I ) コラゲナーゼ溶j夜(g/I )
NaCI KCl CaCl2
NaH,..,PO ・2H,.., O21 '-'4 -'-112 N�HP04・12H20 HEPES
コラゲナーゼ
トリフ。シンインヒピタ-EGTA
NaHC03 グルコ ース
8 0.4
8 0.4 0.56 0.078 0.151 2.38
0.5 (ブタの場合; 1.0) 0.05
0.078 0.151 2.38
0.19 0.35 0.9
0.35
ラット肝細胞調製に使用した抗生物質
Penicillin 0.0588
0.1
0.0588 Streptomycin 0.1
イヌ ・ ブタ肝細胞調製に使用した抗生物質
O 円し
ρu nH n e u凶町m qd rι
to n-h
e
・n G
C 0.05
0.05
0.05 0.05 30
(9)肝臓内部がペースト状になったところでこの肝臓を切除し, クリーンベンチ内に移した。
(10)内部がペースト状になった肝臓をさらにメスで細分しt.:.o
(11 )ガーゼ4枚を重ねた フィルターを用いて基礎培:I:lli(Williams' E ;抗生物質,pH調節剤添加)を滴下し ながら 細胞を液過した。
(12)さらに金属メッシュのフィルター(孔径のμm)にかけた。
(13)遠心分離(400---450中m(21---27 Xg), 1 minX3回)を行ったO
以上の(11) --- (13)の操作により, 肝実質 細胞のみを得るため, とくに慎重な操作が必要である。
(14)培養培地を添加して懸濁させ, 細胞計数および生存率の測定を行った。
(15)所定の細胞密度に希釈して掃種した。
ラット
"'" (lOg-liver!200g-b.w.)
細胞懸濁液
イヌ
(300g-liver/I3kg-b.w.)
A ↓
コラゲナーゼ濯流法
一一---主
t 、E・
i σb r・-/e )'一w--w一y:;b 一印 g一bLA--, i--タ川一w'!・
ブ 町 一・b
V一・Il-σbv一nu一ハUc、Jf,、、-
一・Il-σbv一nu一ハUc、Jf,、、-肝臓
Fig. 3-3-2 初代肝細胞の調製法
PUFへの細胞播種
(II)培養培地
Williams' medium E を基礎培地とし, Table 3-3-3に示される添加物を加えて調製した無IÚl清培地であ るHormonally Defined Medium 1 (HDM 1) を用いた。
Table 3-3-3 HDM-I 培地組成
成分 組成
Williams' medium E 10.8 g/I
E pidermal Growth Factor 50 μg/l
Insulin 10 mg/l
Copper ( CuSO 4 . 5H20 ) 0.1 μM
Selenium ( H2Se03 ) 3 μg/l
Zinc (ZnS04 . 7H20 ) 50 pM
Linoleic Acid 50 mg/l
Penicillin 58.8 mg/l
Streptomycin 100 mg/l
Amphotericin B mg/l
NaHC03 1.05 g/l
HEPES 1.19 g/l
(1lI) 培養方法
細胞の付着担休である平板状のPUFは 25 X25 X 1 mmのものを使用し, その準備方法は3.3.1.1伺) で 示したo 細胞播種の直前に組織培養用デイシユリ35 mm, y線滅菌済み, IWAKI GLASS, Japan)内に PUF平板l枚を入れた。 その後, PUFに1.5 X 106 cells/ml (4.8 X 106 cells/cm3-PUF)の密度の肝細胞懸濁液 2mlをPUF上方から均一に滴下することによって播種を行った。 播種4時間後, 新鮮培地をj前たした別 の組織培 養用デイシユにピンセットを川いてPUFを移すことによって第1回目の培地交換を行った。 こ の操作により死細胞およびPUFに付着していない肝細胞 を除去したO 培養1日目 に再度 培地交換を行い その後は2日毎に培地交換を行った。
32
3.3.1.3初代イヌ肝細胞の細胞調製法と培養方法 (T)細胞調製法
10� 13kgの野犬を使用した。遊離イヌ肝実質*mn包はDemetriouら59)のコラゲナーゼ濯流法を参考にして 調製した。その手)11買を以下に示す(Fig. 3-3-2参照)。
(1)イヌに各種麻酔剤(4.23mlケタラール筋注, 5.0mlペントパルピタール静注)を注射後, 腹部の剃毛と 70%エタノール, イソジンによって術野の殺菌を行った。
(2)イヌを手術台に載せ, 気道に挿管した 後, ハロセンによって麻酔を続けた。
(3)開腹後, 腹部大動脈にカニユレーション を行い, 胸部大動脈を遮断するのと向H寺に氷渦のfÌÍî ì1[流液 (Table 3-3-2)を550 ml!minで、約3,500ml流し, 肝臓内部から速やかに脱血させた。
(4)門脈にカニュレーション後, 下大静脈と肝接着組織を切断して肝臓を摘IUした。
(5) 摘出後, 生理食店水で、希釈したイソジンで肝臓の外表面を殺菌し, 生理食塩水で、洗浄 した。
以上の操作は本学医学部アニマルセンター内で第二外科研究グルーフ。の協力のもとで行い, 氷冷下で 工学部まで運搬後 以下の操作を行った。
(6)肝臓をクリーンベンチ内に移し, 門脈側から37"Cの前濯流液を150 �200 ml/minで、約500ml流すこと で肝臓内の温度を37"Cに保った。
(7) 37�39"Cの コラゲナーゼ(タイフ。-1)溶液(Table 3-3-2)を門脈側から150 �200 ml/minの流量で3,000 � 4,000ml流し, 肝臓内部がペースト状になるまで酵素処理した。
(8) 内部がペースト状になった肝臓をさらに術用ハサミ, メスで細分したO
(9)ガーゼ4枚を重ねた フィルターを用いて基礎培地(Williams'E ;抗生物質,pH 調節剤添加)を滴下し な がら細胞をi慮、過した。
(l0) さらに金属メッシュのフィルター(孔径のμm)にかけた。
(11)遠心分離 (700�900 rpm (70� 120Xg), 1.5�2 minX5�7回)を行った。
以上の(9) � (11)の操作により, 肝実質細胞のみを得るため, 慎重な操作が必要である。また , 生休肝 に由来する雑菌汚染を防止するために, 木過程では約8Lの基本培地と約 4LのPBS緩衝液(Table 3-3-4) を 細胞洗浄に使用した。(l 1)の操作は, 肝実質細胞の沈降具合により記述し た範囲内で回転数, 遠心時間
を変化させた。
T able 3-3-4 PBS緩衝液組成
NaCl KCl
成分
N�HP04 . 12H20 KH'1PO 21 \.J 4
8.0 0.2 2.9 0.2
組成
g/l g/l g/I g/l
さらに,
(12)培養培地を添加して懸濁させI *'''11包計数および生存率の測定を行った。
(13)所定 の細胞密度に希釈して播種した。
(Il)培養培地
大型動物 の初代肝細胞培養に有効な培養培地がHuら56)によっ て報告されていることからI Williams' medium Eを基礎培地としI Table 3-3-5に示される添加物を加えて調製した無血清培地であるHormonally Defined Medium II (HDM II)を用いた。
Table 3-3-5 HDM-II培地組成
成分 組成
Williams' medium E 10.8 g/l
E pidermal Growth Factor 25 μg/I
Insulin 7.3 mg/I
Copper ( CuSO 4 . 5H20 ) 0.1 μM
Selenium ( H2Se03 ) 0.39 μg/I
Zinc (ZnS04 . 7H20 ) 50 pM
Linoleic Acid 50 mg/I
G entamycine 50 mg/I
Chloramphenicol 50 mg/l
Amphotericin B mg/I
NaHC03 1.05 g/I
HEPES 1.19 g/I
D examethasone μM
T ransf erri n 6.25 mg/l
Albumin 500 mg/I
Glucagone 4 μg/I
Liver Growth Factor 20 μg/l
(III)培養方法
細胞の播種・培養方法は3.3.1.2 (田)で示した初代ラ ッ ト肝細胞の方法と同様である。
3.2.2.4初代ブタ肝細胞の細胞調製法 (1)細胞調製法
18kg雄性白色小豚を使用した 。 遊離ブタJJ干実質細胞はGerlach等の 方法的に若干の改良を加えたコラゲ ナーゼ瀧流法によって調製したO その手JiI買を以下に示す(Fig.3-3-2参照)0
(1)ブタに各種麻酔剤(4.23mlケタラール筋注, 5.0mlペントパルピタール静注)を注射後, 腹部に70%エタ ノール, イソジンを噴霧し, 術野の殺菌を行った。
(2)プタを手術台にのせ, 気道に挿管した後, ハロセンによって麻酔を続けた。
(3)開腹後, 門脈・肝動脈にカニユレーションを行い, 下大静脈と肝接着組織を切断するのと同H寺に 氷jflの前j産流液(Table3-3-2)を550ml/minで、約3,500ml流し, 肝臓内部から速やかに脱血させた。
(4)肝臓を摘出後, 生理食塩水で、希釈したイソジンで 肝臓の外表面を殺菌し, 生理食塩水で、洗浄した。
以上の操作は本学医学部アニマルセンター内で第二外科研究グループの協力のもとで 行い, 氷冷下で 工学部まで運搬後, 以下の操作を行った。
(5)肝臓をクリー ンベンチ内に移し, 門脈 ・肝動脈から39"(の前濯流液を350 ml/minで 約1,000ml流すこ とで肝臓内の温度を39"(に保った。
(6) 39"(のコラゲナーゼ(タイプ-I\つ溶液(Table 3-3-2)2,000mlを使用し, 肝臓内部が ペースト状になるまで j墓流を行った。 この時, コラゲナーゼ溶液は門脈・肝動脈から500 ml/minで、流した(21min)0
(7) 内部がペースト状になった肝臓をさらに術用ハサミ, メスで 細分した。
(8)ガーゼ2枚を重ねたフィlレタ ーを用いて基礎培地 (Williams' E ;抗生物質,pH調節剤添加)を滴下しな がら細胞を鴻過した。
(9) さらに金属メッシュのフィルター(干し径106μm)にかけた。
(10)遠心分離 (600---900中m (50---120Xg), 2 minX4回)を行った。
以上の(8) --- (10)の操作により, 肝実質細胞のみを得るため, 慎重な操作が必要である。 また, 生体}]干 に由来する雑菌汚染を防止するために, 木過程で は約8Lの基本培地と約4LのPBS緩衝液を細 胞洗浄に使 用した。 また, (10)の操作は , 肝実質細胞の沈降具合により記述した範囲内で 回転数, 遠心時間を変化
させた。
(11 ) 培養培地を添加して懸濁させ, 細胞計数および生存率の測定を行った。
(I2)所定の細胞密度に希釈して播種した。
(II)培養培地
培養培地は3.3.1.3但)で 示した初代イヌ肝細胞の培養培地と同様である。
(III)培養方法
細胞の播種・培養方法は3.3.1.2(田)で示した初代ラット肝細胞の方法と同様である。