第一章の前半では,社会環境の変化に伴う子どもの体力低下の実態及びその背景や,幼少 年期における心身の健康・発達と身体活動・運動の関わり及びその意義について示した.ま た後半では,子どもの体力向上に向けた国家的な施策やその他の様々な取り組みを示すと ともに,保育現場における運動指導・援助の現状について述べた.そして章の最後では,幼 児期における健康・体力づくり,あるいは保育中における運動指導・援助の課題として,以 下の3つを挙げた.
(ア) 内容・方法が体系化され,体力向上効果が実証された運動指導・援助方法の不足.
(イ) 「小型化された運動・スポーツの実施」を典型とした発達段階に適さない指導・援助.
(ウ) 外部指導者への依存とそれに伴う保育者の力量不足.
上記の問題解決にあたっては,保育現場での運動指導・援助に有用であり,かつ幼児の体 力向上に資する運動プログラムを新たに考案することが有効であると考えられ,そのため に達成すべき課題としては,次のa~e.のような要素が挙げられる.
a. 現代では動作の未熟な子どもや不器用な子どもの増加が懸念されており,コーディネ ーション運動のように脳神経系への働きかけを通じて,調整力の発達や多様な動きの 獲得が期待される内容であること.
b. 運動習慣及び体力の二極化に伴う普段あまり動かない子どもや,体力の低い子どもに 対する働きかけとして有効であること.
c. 保育現場における利便性・実用性を重視し,運動内容が体系化されており,かつ実施方 法が簡便であること.
d. 従来から実施されてきた運動プログラムに比べ,より優れた体力向上効果が期待でき ること.
e. 保育中における運動経験の質・量に貢献する内容であること.
しかし上記の内d.に関しては,塩田(2007)が幼児期の体育・運動に関する研究の動向に ついてまとめているものの,幼児の体力向上をねらいとした運動プログラムの先行研究に ついて,科学的に比較・検討した研究は見当たらない.またe.に関しては,保育中における 幼児の運動経験は以前にも増して重要視されるようになっているものの,その実態や内容 等の知見は不足していることが指摘されている(田中,2013).従って,今後必要とされる 運動指導・援助の在り方を検討する上で,過去の研究を省察するとともに,現在の保育中に おける運動経験の実態を明らかにすることは必要不可欠である.
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そこで本研究は,保育現場での運動指導・援助に有用であり,かつ幼児の体力向上に資 する運動プログラムの考案,及びその教育的効果について検証することを目的として,以 下に示す3つの調査及び実践を行った.
第一に,幼児を対象とした運動プログラムに関する先行研究について文献調査を行い,
体力向上効果について科学的に比較・検討することを試みた(第三章:研究①).
第二に,幼稚園・保育所における自由遊び及び体育遊び場面での運動経験について実態 調査を行い,性別及び運動能力による差異や特徴について検討することを試みた(第四 章:研究②-1,②-2).
第三に,上記2つの調査から得られた知見を基に,保育現場における利便性・実用性と 幼児の体力向上効果を両立した運動プログラムとして「ライントレーニング」を考案し,
5歳児を対象とした実践を通じて成就度及び効果を検証した(第五章:研究③).
また第六章では,研究①~③で得られた知見を総合的に考察し,保育現場における運動 指導・援助方法としてのライントレーニングの有効性について述べた.そして第七章で は,保育現場における実践を踏まえ,指導・実践において留意すべき点や,発達段階に応 じた内容・方法の提案を行った.本研究の構成については図2に示す.
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図2.本研究の構成
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