• 検索結果がありません。

近年,保育現場における運動指導・援助の重要性は高まっているものの,保育中に幼児が どれほど活発に動き回っているのか,走・跳・投やその他の基本動作はどの程度の種類や回 数が行われているのか,また性別や運動能力による差異があるとすればどの程度なのかと いった運動経験についての実態は明らかではない.そこで本章では,自由遊び1場面及び 体育遊び1場面における幼児の運動経験を調査し,歩数及び基本動作の分析によって量的・

質的な側面からその実態を明らかにした.

第一節 研究②背景と目的

研究①では,幼児を対象とした運動プログラムに関する先行研究の文献調査によって,そ れらの内容・方法及び効果を比較・検討した.研究②では,幼稚園及び保育所における実地 調査によって幼児の運動経験の実態を探る.

現行の子どもの身体活動ガイドラインでは,歩数や運動強度といった運動経験の量的側 面だけでなく,基本動作の多様性といった質的側面についても触れられている.歩数や運 動強度に関しての研究は比較的多く(波多野,1979;星川,1987;斎藤,1990;石井・坂 本,2000;加賀谷ほか,2003;加藤ほか,2005;中野ほか,2010,2016),これまで保育 中の活動内容による身体活動量の変化(前橋ほか,2001;吉岡ほか,2012;石沢ほか,

2014)や,幼児期の運動遊びにおける至適運動強度(三村・佐々木,1978;三村ほか,

1985,1987,1988a,1988b)などが明らかにされてきた.

一方,運動経験の質的側面ともいえる「動き」に関しては,幼児の体力構造や動作の発達 を捉えた研究が古くから実施され,成果を挙げてきた.また,保育中に出現する動作につい ては体育科学センター(1980)によって調査され,84 種の基本動作分類表としてまとめら れている.しかし,保育中に観察される基本動作の回数や種類について調査した研究は少な く(油野,1988;田中,2009;杉原ほか,2011;尾方ほか,2012;細川,2014),幼児期の 運動発達や基本動作の習得においては「多様な動き」の経験が重要視されているものの,そ の実態は明らかではない.

また,性別や運動能力などの特性や,保育形態の違いによる運動経験の差異についてはほ とんど着手されていない.従って,保育中における幼児の運動経験の実態については,以下 に示すような点を明らかにする必要がある.

①自由遊び中における幼児の性別や運動能力による運動経験の差異及び不足部分

79

現在,幼少年の運動習慣及び体力は二極化が進行していることが明らかにされており,普 段よく動く子どもとあまり動かない子どもの運動経験の差によって体力格差が生じている ことが指摘されている(春日ほか,2010;池田・青柳,2011,2014;文部科学省,2011b,

2015b).幼児における運動経験の差は,個々が好む遊びに従事する自由遊びにおいて特に大

きくなると考えられ,その実態を調査したものとしては油野(1988),田中(2009),杉原ほ か(2011),尾方ほか(2012)の研究がある.

しかし,研究者によって異なる分析手法を用いていることなどから結果が一様ではなく,

更なる研究データの蓄積が必要である.また油野(1988),田中(2009)は,幼児の性別や 運動能力による運動経験の違いを分析しているが,いずれもサンプルサイズが小さく,統計 的な分析をするには至っていない.

自由遊び中は幼児それぞれが好む活動を行うため,性別や運動能力などの特性によって 運動経験の偏りが生じるものと思われる.これを明らかにすることは,現代の幼児にとって 必要となる運動経験を浮き彫りにすることにつながり,新たな運動プログラムの考案にと って有益な情報となるものと言える.

②保育形態の違いによる運動経験の差異

保育中における幼児の運動経験を考えた場合,中心となる保育形態としては上記に示し た自由遊びの他に,一斉活動による運動指導・援助が考えられる.保育中の運動指導・援助 において,一斉活動が有効な場面としては①それぞれの季節に経験させたい活動,②自由遊 びで発展させたい活動,③自由遊びで出にくい活動,④道具の出し入れや使い方を知らせる 活動などが挙げられている(吉田ほか,2008).また,杉原・河邊(2014)も同様に「子ど もの自発性ばかりに任せていると,嗜好によって活動に偏りが生まれる.一日中室内で折り 紙をする子どももいるだろう.その遊びがその子どもにとって意味のある経験になってい ることを尊重しつつも,活動の幅を広げてやることも保育者の役割である.経験をしてみれ ばおもしろいと感じることも,経験をしなければ感じることはできない.子どもの未体験の 活動のおもしろさに気づかせるためにはクラス全体の子どもを対象とした一斉の活動が有 効である」と述べ,一斉活動の有効性を示している.

しかし一方で,一斉活動による運動指導・援助については①子どもが順番を待ったり指導 者の説明を聞いたりしている時間が長く,実際に体を動かして運動している時間が短いこ と,②同じような運動の繰り返しが中心で,運動能力の発達にほとんど貢献していないこと,

③やりたくない運動をやらされるため,運動に対する意欲が育たないこと,といった批判が

80

あるのも事実である(杉原,2008).しかし,このような一斉活動の場面において幼児の運 動経験の調査した研究は見当たらない.従って,保育中における幼児の運動経験の実態を明 らかにするためには,自由遊びの場面だけでなく,一斉活動による運動指導・援助の場面つ いても検討が必要である.

そこで研究②においてはまず,5歳児10の自由遊び中における運動経験の実態について,

歩数・動作回数・動作種類数の観点から調査を実施し,性別・運動能力といった特性との関 係を明らかにした(研究②-1).次に,外部指導者による体育遊び中の歩数・動作回数・動 作種類数を調査し,自由遊びにおけるデータと比較することで,保育形態の違いによる幼児 の運動経験の差異について検討した(研究②-2).

81 第二節 研究②-1方法

第一項 自由遊びの調査及び遊びの内容

調査協力者は,兵庫県内にある私立保育所の5歳児クラス22名(男子10名,女子12名)

であり,2013(平成25)年4月~9月に行われた約1時間の戸外自由遊びを調査の対象とし た.本研究の調査協力園の園庭はおよそ180m2(砂地)で,砂場と大型滑り台が設置されて いる他は固定遊具がなく,ボールやフラフープ,縄跳びといった非固定遊具を用いた遊びが 中心であった.自由遊びの時間には毎回保育士が3~4名で子ども達の主体的な遊びの展開 を援助し,子ども達は通常保育士や他児とともに自分の好む遊びを選んで活動していた.本 研究で観察された遊びの例は表4-1に示す.

4-1.自由遊び中に観察された活動例

第二項 運動能力による幼児の分類

幼児の体力テストの方法には,大きく分けて3種類ある.第一の方法は,文部科学省の新 体力テストに見られるように,速さや距離を測定するものである.これはストップウォッチ やメジャーを用いて実施されるため,測定者の技能に寄らずある程度精確な測定が可能で ある.幼児においては特有の体力構造があると考えられており(青柳・松浦,1982;青柳,

1996),学童期以降の体力テストとは種目や方法が若干異なる場合がある(森ほか,2011).

第二の方法は,観察によって幼児の動作を評価するものである(e.g., 宮丸,1973,1975;

中村ほか,2011).近年,幼少年の体格は大型化したものの,体力には低下傾向が見られた ように,身体的に不器用な子どもの増加が懸念されている.そのため,子どもの身体活動ガ イドラインにおいても「動きの質(できばえ)」及び 「動きの質的評価のための観点(目の 付けどころ)」を重視し,質的側面から子どもの体力を捉えることの重要性について示され

82 ている(日本体育協会,2015).

第三の方法は,ある運動課題の合否や成就度によって評価を行うものである(e.g, 出村ほ か,1992;郷司・出村,1992;郷司ほか,1999;宮口ほか,2009,2010).これは合否判定 テストや成就度判定テストと呼ばれ,特定の運動スキルの水準を評価する場合に用いられ ることが多く,第二の方法と同様に体力の質的評価に分類される.

研究②-1では量的・質的側面の両方から幼児の運動能力を捉えるため,森ほか(2011)の 幼児運動能力検査7及び,中村ほか(2011)の観察的評価法11を参考に測定を行った.

測定は25メートル走,立ち幅跳び,ボール投げの3種目を行い,同時に幼児の試技の様子 をビデオカメラにて撮影した.

測定の結果はいずれも上記の方法に則って5段階評価し,2つの測定結果が3点以上の被 験者を男子運動能力上位群(以下,MH群.n=6),女子運動能力上位群(以下,FH群.n=5), 3点未満の被験者を男子運動能力下位群(以下,ML群.n=4),女子運動能力下位群(以下,

FL群.n=7)とした.なお,文中で運動能力上位群とした場合にはMH群及びFH群を,運

動能力下位群とした場合にはML群及びFL群を指す.研究②-1で調査対象とした幼児の運 動能力及び身体的特徴,月齢は表4-2に示す.

4-2.幼児の運動能力及び身体的特徴,月齢

第三項 歩数の測定

研究②-1においては,幼児の腰部にPedometer(セルトナ歩数計)を装着し,歩数の測定 を行った.分析結果はいずれも1 回の調査における1 人あたりの平均±標準偏差で示した.

第四項 基本動作の分析

本研究では,園庭がすべて収まるように3台のビデオカメラを設置し,幼児の活動が開始