本章では、本研究の目的と本研究のオリジナリティおよび意義について述べる。
まず、4.1 節で本研究の目的について述べる。次に 4.2 節でそのオリジナリティと意義 について述べる。最後に4.3節で本章をまとめる。
4.1 本研究の目的
本節では、ここまでの議論をまとめ、本研究の目的について述べる。
ここまで、本研究における言語観、言語教育観、文法教育観について、述べてきた。
具体的には、本研究は、言語とコミュニケーションの関連を重視する言語観をとり、言 語は、それが使用される状況と切り離して記述することができないという立場をとる。
そして、「言語の学習」が「差異の学習」であるという言語学習観をとり、差異の記述は、
差異の把握が最も困難であると思われる個所に関して、一層丁寧に行われる必要があると 述べた。そのような個所とは、共通性が際立ち、差異性が見えにくいと思われるものであ り、言語形式においては、類義表現と呼ばれるものがそれにあたる。そして、第二言語と しての日本語教育において、言語の差異の記述は、「形」「意味」「使用環境」を連動させた 形で行う必要があることを述べた。その中でも、「使用環境」が差異を引き起こす重要な要 因であると考え、これを重視する立場をとる。また、これまでの文法記述をめぐる議論を 整理することによって、言語教育のためには、「規則の記述」だけでなく、「傾向の記述」
が重要であると指摘した。これは特に、「使用環境」の記述において有効性を発揮する。
これらの記述方針は、本研究の言語教育観を直接反映しているものである。
このような言語観と、そこから導かれる言語学習観、言語教育観を有する本研究の目的 は、日本語教育における差異の記述に関して方法論を提案し、その方法論を用いた記述を 実践することである。本研究では、その対象として、現在初級レベルとされる類義表現、
その中でも文法的な働きを有する表現を取り上げる。
類義表現とは、意味的または機能的に類似した言語形式のセットである。そのため、意 味・機能の点において共通性が大部分を占め、差異性が見えにくい。類義表現の意味の記 述は、その大部分が共通しているがゆえに、抽象度の高いものになる。しかし、日本語の 内省のない日本語学習者にとっては、抽象度が高く、母語話者の内省によって導き出され
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た主観的な意味記述は、把握に困難が伴う。特に、日本語の内省が全くない初級学習者に とっては、その傾向が顕著であると考える。それが、本研究の対象として初級の類義表現 を扱う所以である。
また、「形」「意味」「使用環境」の 3 点を連動させて行うという記述方針は、言語の差 異を記述する際に汎用的に用いられるものだと考えるが、特に類義表現の場合は、どれが 欠けたとしても運用に結びつく記述にならない点で、この方法が最も効果を表す言語形式 ではないかと思われる。それが、本研究の対象として類義表現を選択する理由の一つでも ある。
4.2 本研究の意義
本研究のオリジナリティは、以下の3点にある。オリジナリティは、そのまま、本研究 の意義となりうる。
一つ目は、言語の差異の記述方針として提案した、「形」「意味」「使用環境」を連動させ た記述である。その中でも特に、差異を生み出す大きな要因としての「使用環境」を重視 する。この基本的な記述方針が、方法論としてのオリジナリティである。これまでの文法 記述は、大きな成果を残してきたものの、「使用環境」の記述に関して関心を払ってこなか った。しかし、第二外国語としての日本語教育が求める文法は、学習者の言語理解と言語 産出を支援するものでなければならない。その点において、「使用環境」の記述は欠かすこ とができない。また、コミュニケーションを重視する文法が叫ばれているが、そのような 文法を実現するためには、言語形式の具体的な運用を記述する姿勢が必要となる。それは、
「形」「意味」「使用環境」を連動させることに他ならない。「形」や「意味」は、それ単独 で記述されるだけではなく、「使用環境」を伴ってこそ、生きた情報となる。本研究は、こ の点において、これまでの研究を超えようとするものであり、それが本研究の意義である といえる。
二つ目のオリジナリティは、文法記述として、傾向を記述するという方針を打ち出した 点である。「傾向の記述」は、これまでその重要度が十分認識されてこなかった。その理由 には、日本語学において傾向の記述が重視されていなかったことがある。そして、日本語 教育が日本語学の成果を受け取るという姿勢を保っていたことによって、日本語教育にも 同様の意識が存在していた。また、実証的な調査を可能とするデータが不足していたこと
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も理由の一つに挙げられる。しかし、「傾向の記述」、中でも選好傾向に関する記述は、類 義表現の差異を把握するために欠かすことができない。本研究は、これらの課題を克服し、
「傾向の記述」の実践を行うものであり、それが本研究の意義である。
三つ目のオリジナリティは、傾向に関する調査方法に関するものであり、定量的な調査 を基盤としながら、定性的な調査との往還を提案する点である。これまでの文法記述は、
内省に基づくものがその大部分を占めていた。しかし、傾向の把握は、実証的な調査に基 づいて行われる必要がある。それらは定量的な手法を用いることが多いが、定量的な手法 の限界をふまえつつ、定性的な調査との往還をはかる必要がある。詳細は第6章6.3.4節 で述べるが、本研究は、その方法を新たに模索するものである。具体的な記述の実践は「第 3 部各論」の各章においてなされるが、その提案や実践自体が、これまでの研究手法を超 えるものであると考えている。これが本研究の三つ目の意義である。
この三つが、本研究のオリジナリティであり、意義でもある。
4.3 第4章のまとめ
本章では、本研究の目的と本研究のオリジナリティおよび意義について述べた。
まず、4.1 節で本研究の目的について述べた。本研究の目的は、日本語教育における言 語の差異の記述に関して方法論を提案し、その方法論を用いた記述を実践することである。
また、その対象として、初級レベルで扱われる類義表現、その中でも文法的な働きを有す る表現を取り上げる。
次に 4.2 節でそのオリジナリティと意義について述べた。本研究のオリジナリティは、
(ア)言語の差異の記述は、「形」「意味」「使用環境」の 3 点を連動させて行う必要があ り、その中でも特に「使用環境」を重視するという記述方針、(イ)文法記述として、傾向 を記述するという方針を打ち出した点、(ウ)定量的な調査を基盤としながら、定性的な調 査との往還を行うという調査方法、である。この3点における、これまでの文法研究を超 え、日本語教育における文法記述を模索し、また、新しい方法論を提案するという点に、
本研究の意義が認められる。
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