第1節 本研究の目的
現在わが国では様々な経済効果を見込み、新たなレジャー産業として「カジノを含む統合 リゾート(IR カジノ)」の誘致に取り組む動きが活発になってきている。しかし、「カジノ」を含む
「賭博産業」の否定的な影響として「病的賭博」という問題があげられ、わが国では病的賭博 者が180万人存在しており、成人人口の約2%にのぼるのではないかと推測されている(森山, 2005)。また、Toyama et al.(2012)の大規模な疫学的調査の結果からはわが国の「病的賭 博」の有病率は 5.3%であるという結果が得られており、これらの有病率が海外の有病率と比 較し高い傾向にあることから、「病的賭博」に対する予防や治療など早急な対策が望まれる。
しかし、「病的賭博」に対する問題意識は「賭博産業」や「医療機関」を始めあまり高くなく、同 じ「嗜癖」である「非合法薬物」や「飲酒」、「喫煙」と同様に予防や啓発、治療など対策がなさ れていない状況である。この原因としては、大規模な疫学的調査が実施されたばかりであり、
その実態に対する理解はまだ表層的なものに止まっているからであると考える。
そこで、本研究では「病的賭博」に対する問題意識の低さを改善し、予防や啓発、治療な どの対策に繋げていくために「わが国の“病的賭博”の現状について実態データを示すこと」
を目的とする。そして、この目的に付随し、本研究では「1. “賭博への嗜癖”と他の“嗜癖”と の関連を調べるための実態調査(研究 1 から 2)」、「2. わが国の“病的賭博”の現状を示す ための実態調査に“有効”なスクリーニングテストの開発(研究 3 から 5)」、「3. “有効”かつ
“有用”なスクリーニングテストの開発と“病的賭博”の実態調査(研究6から7)」を行う。
第2節 本研究の構成
本研究は「1. “賭博への嗜癖”と他の“嗜癖”との関連を調べるための実態調査(研究1か ら2)」、「2. わが国の“病的賭博”の現状を示すための実態調査に“有効”なスクリーニングテ
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ストの開発(研究3から 5)」、「3. “有効”かつ“有用”なスクリーニングテストの開発と“病的賭 博”の実態調査(研究6から7)」の大きく3つの研究で構成されている。
研究 1 では現在の社会においてどの様な「嗜癖」が存在するのか大学生を対象に調査を 実施し、「嗜癖」の対象となるものの抽出を行った。そして、研究 2 では研究 1 で抽出された
「嗜癖」の対象となるものについて、従事人数やどの程度「嗜癖」の性質をもっているのか、そ して各「嗜癖」の類似性を検討し、「“賭博”への嗜癖」と他の「嗜癖」の関連について考察し た。
次に「2. わが国の“病的賭博”の現状を示すための実態調査に“有効”なスクリーニングテ ストの開発」という目的に付随し、研究3から5の内容を説明する。ここでいう「“有効”なスクリ ーニングテスト」とは「病的賭博者を正確に間違いなくスクリーニングでき“病的賭博”の有病 率を示すことができる、信頼性と妥当性、高い分類精度を持っているスクリーニングテスト」と いう意味である。研究 3 では「病的賭博」のスクリーニングテストである SOGS の日本語版
(SOGS-J)を開発し、大学生を対象に調査を実施した結果から SOGS-Jの分類精度につい
ての検討として信頼性と妥当性、cut off点の検討を行った。そして、研究4ではSOGS-Jの 更なる分類精度の検討のために、統制群として「大学生群」、対照群として日常的に「賭博」
に従事している「日常賭博者群」の 2 群を設定し調査を実施し結果の比較を行った。研究 5 ではSOGS-Jの得点でcut off点以上で病的賭博者であると考えられる大学生と「病的賭博」
の自助グループであるGAのメンバーとの比較を行った。研究 5は SOGS-Jの結果の比較
(研究5-1)と「ギャンブル課題(Iowa Gambling Task, IGT)」の結果の比較(研究5-2)の2 部構成になっており、研究5-1ではSOGS-Jの従事しているギャンブルの種類や従事頻度、
使用金額について回答内容を比較することで主観報告の観点から「賭博行動」の類似点・相 違点について検討した。また、研究5-2では「ギャンブル課題」における選択行動を比較する ことで客観的指標の観点から「賭博行動」の類似点・相違点について検討した。これら研究 3 から5を通してSOGS-Jの「有効性」について検討を行った。
最後に「3. “有効”かつ“有用”なスクリーニングテストの開発と“病的賭博”の実態調査」と
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いう目的に付随し、研究6と7の内容を説明する。ここでいう「“有効”かつ“有用”なスクリーニ ングテスト」とは「病的賭博者を正確に間違いなくスクリーニングでき“病的賭博”の有病率を 示すことができることに加え、大規模な実態調査において調査対象者が回答する際に負担に ならず、便利に使用できるスクリーニングテスト」という意味である。研究 6 では大規模調査で 使用する際に「有効」かつ「有用」なスクリーニングテストを開発するために、SOGS-J の項目 を減らし短縮版 SOGS-J(SSOGS-J)を作成した。そして、大学生のSOGS-J の得点結果と SSOGS-Jの得点結果から、SSOGS-Jの分類精度の検討を行った。研究7では研究6で開
発したSSOGS-J を大規模サンプルを対象にした実態調査に使用し、同時に調査された「病
的賭博」関連する様々な変数との関連からSSOGS-Jの「有用性」について検討を行った。
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第Ⅱ部 「嗜癖」における「賭博」の位置づけ
序
本研究では「嗜癖」を「1. ある物質や行動への渇望がある。」、「2. そうした物質の摂取や 行動の制御困難がある。」、「3. 離脱症状がある。」、「4. 耐性がある。」、「5. その物質摂取 や行動以外に対する関心の低下がある。」、「6. その物質や行動に起因する障害があるにも かかわらず、摂取や行動を継続する」ものとして操作的に定義した。これらの定義から「嗜癖」
は人間の社会生活に様々な問題や実害をもたらすので、例えば「非合法薬物の摂取」や「飲 酒」、「喫煙」に対しては「予防」や「治療」などの対策がされている。しかし、現在「嗜癖」の対 象が「物質」のみならず「インターネット」や「賭博」への過度の従事といった「行動」にまで広が り、その中には「非合法薬物の摂取」や「飲酒」、「喫煙」と同様、人間の社会生活に問題や実 害をもたらしているものある。しかし、わが国においては「物質嗜癖」と同様に対策がなされて いるとは言い難く、その実態は不明瞭なままである。海外ではSussman et al.(2011)が「非 合法薬物の摂取」や「飲酒」、「喫煙」を含んだ様々な「嗜癖」に関する研究のレビューを行っ ており、どれくらいの人がその行動に嗜癖的に従事しているのか、また他の「嗜癖」との併存す る割合はどの程度なのかその概算の結果を示している。わが国でも同様の研究が石田(2010)
や尾崎ら(2010)によって行われているが、単に経験のみ尋ねていたり対象が限定されてい たりと、わが国の「嗜癖」の実態について概観できる情報は得られていない。
そこで本研究では、研究1としてどのような「嗜癖」の対象がわが国に存在するのかを抽出 するために調査をする。そして研究2として研究1にて抽出された「嗜癖」の対象についてど れくらいの人数が従事しているのか、そして「衝動性」や「コントロールの欠如」など「嗜癖」の 性質を持っているのかについて実態調査を行う。さらに、対策があまりなされていない「嗜癖」
の対象の1つである「賭博」に注目し、現在わが国で対策されている「非合法薬物の摂取」や
「飲酒」、「喫煙」の「嗜癖」やその他の「嗜癖」とどの程度類似した性質を持っているのかを分 析する。そうすることで、今後の対策の必要性についての有益な情報を提供できよう。
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