• 検索結果がありません。

本研究における課題と研究の構成

Do X = 0における溶存酸素不足量[ML-3]

第3節 本研究における課題と研究の構成

3. 1

沿岸低平農業地帯における農業土木的課題

1

)広域水利システムの整備

松村(1988)の試算による と, 1年間の日本の水田農業用水量は約540億トン におよび, 古くから稲作を中心として, この農業用水の確保の努力がなされて きた. その中で, 1896年の河川法制定における公水管理思想、の概念が導入さ れるはるか以前から, 流域の上流から下流にかけて水支配の事実を基礎にした 水利秩序が形成され, 現在の農業水利権の主体をなす慣行水利権とされるに至 っている. 慣行水利権はその性格上, 地形的有利性を背景に, 一部ではいわゆ る客水権の行使による上流優位や漏水権による上流側水利の制約など時代の変 化とともに高度な水利用に対する 不合理が生じているものがある.

更に近年では, 農地における土地利用の高度化に ともなって新たな課題が出 現している. すなわち, 広域の作付け体系が複雑化し, 地域の用水要求と排水 要求が不規則となるため, 従来の水利秩序ではこのような細やかな要求に対応

したコントロールが困難となる可能性が生じやすくなる.

このため, 流域の上流から下流にかけた広域の総合的水利体系を確立する必 要がある.

2

)水源確保

沿岸低平地は, 一般に中山間地に比べて宅地, 工業用地, 農地について土地 利用が高度で大規模化することや上述の慣行水利権による上流優位のため, 慢 性的な水不足に悩まされている地域が多い.

有明海沿岸低平地では, 干拓によって農地が開拓され, 14世紀末には16.00 Oha, 江戸時代初期には20,000ha, そして, 現在では30.000ha の水田を有す るに至っている. このため, 14世紀末にはすでに1. 500万トンの水不足を生じ ており, その後は, 農地の拡大と同時に水利開発に力が注がれた(安中, 1988).

その結果, 有明海の満潮時に筑後川に形成される塩水 クサビの上に乗る淡水 (アオ)を取水する方式を開発し, その潅概面積は柳川市から久留米市, 佐賀市 に固まれる広域におよぶ. しかしながら, アオ取水は取水量が潮汐などの海象 条件に左右され, 不自由な水使いであったことに変わりない. このため, 不足 分の水源を地下水に求めつつ, 全域に大小無数に網目のように発達したクリー クに大きな貯留機能をもたせたクリーク水田農業の展開と用水の高度な反復利 用体系を形成していった.

このことは, 以下に述べる水質環境の悪化や地盤沈下, アオに含まれる浮泥 の水路内への堆積による通水阻害など低平地の水環境に対していくつかの悪影 響を引き起こす原因ともなっている(山本ら, 1987).

3 )排水促進

沿岸低平地は, 大河川の氾濫原である扇状地として形成されてきたものや有 明海沿岸など潮汐作用による干潟の生成に続く干陸化などその成因は様々であ るが, 地形勾配が極めて緩やかで, 洪水時の迅速な排水に対して困難な場合が 多い.

特に, 有明海沿岸低平地では海域の干潟の生成が著しく, 筑後川右岸の川副 地先では最も発達が速く, 水平方向10m.year-1, 鉛直方向0.07"'"' 0.lm.year.1

といわれている. その結果, 海岸堤防付近では海域の干潟標高に対して堤内の 地盤標高が1m以上も低い地域がみられ, 有明海の大きな潮汐と併せて常時排 水不良の危機にさらされている. したがって, 迅速な排水のためには機械排水

にたよらざるを得ないが, 併せて地域内の排水路整備を進める必要がある.

4 )農村の水質環境の保全

農村は, 農業を基幹的産業とする生産 生活空間であるが, 高度経済成長と 農産物の自由化などの社会環境の変革によりその構成要素は複雑 ・ 多様化し,

求められる農村環境も変化している. しかしながら, 農村は水と緑に満ちあふ れた美しい景観を有し, 水田に固まれた集落として日本人の原風景となってい る(小出, 1989)ことは今も変わらないし, 農村の一つの理想形態である. そこ での水は農業用水としてのみならず, 飲料水などの生活用水, 防火用水, 親水 空間を形成する環境用水として多目的に使用されてきた.

現在, 農村の基幹産業としての水田農業が衰退傾向にあり, 農村内の兼業農 家, 非農家の増加により水利施設の管理体制の弱体化と同時に快適な農村の水 空間は変貌しつつある. 農村の都市化, 混住化の進展と食生活, 生活様式の多 様化および化学肥料の多投により, 増大した排水負荷は農業用水路に流入する.

その性状と負荷量は自然の浄化能力を超えたものとなり水質環境の悪化につな がっている. 水域内の滞留時間が長い沿岸低平地の農村においては, 農業用水 の反復利用と農地の畑地的利用による流出負荷の増大, さらに農業集落排水の 混入など潅淑用水の有機性汚濁の進行など水質汚濁は顕著である. ホテイアオ イやヒエ類なとブk生植物の増殖による水路の通水阻害や下流への流下にともな う悪影響なども発生している

5 )地盤沈下の防止

地盤沈下による被害は, 関東平野, 大阪平野などの大都市を抱える沿岸低平 地では第二次世界大戦以前から発生しているが, r工業用水法」および「建築 用地下水の取水の規制に関する法律」などの地下水取水規制などにより地盤沈 下の進行は鈍化あるいはほとんど停止している(環境庁, 1994)・ しかしながら,

筑後・佐賀平野など大規模な農業地帯では現在でも農業用水, 都市用水を地下 水に依存しているため, 年間O.04m以上の沈下が進んでいる.

その主な原因は, 地下水の過剰な摂取であるが, 有明海沿岸においては地盤 の土質力学的性質によって沈下が大きくなっていることも考えられる. つまり,

有明海沿岸に広がる筑後 ・佐賀平野は有明海の最大6mにも及ぶ大きな潮汐作 用によって形成された軟弱な粘土地盤(有明粘土)であるため, 地盤内の含水比 が高く, 地下水の取水などにより土層間隙水の排除にともなう圧密沈下が生じ や すい ことによる. 更に, 農業地帯 では水田の乾田化と畑地化が進み, 土層が 長期間の乾燥状態に置かれることで, 地盤表層の乾燥収縮と地下水酒養量の減

少が農地地盤の低下, 地盤沈下を加速することが考えられる.

3. 2 研究フィールド

本研究では, 沿岸低平地における農業地帯として代表的な佐賀 白石平野を 対象として, 水質環境の実態と保全に関して議論を行うこととする が, ここで は研究を進めるに当たって重要となる水域の特徴についてまとめる.

1 )水利事情

佐賀 ・ 白石平野は, 図- 1 - 6および写真一1 - 1に示すように, 背振山麓 から有明海まで広がり筑後川と六角川に挟まれた佐賀平野と, 多良岳山麓に広 がり六角川から塩田川に挟まれた白石平野の総称であり, 水田農業を主な産業 とする有明海沿岸低平農業地帯である. 平野を貫流する主な河川は筑後川, 嘉 瀬川, 六角川の一級河川と福音川, 只江川の二級河川であるが, それぞれの河 川の特性は, 農業にとって利水 ・ 治水両面で大きな影響をもっている.

340 1300 1310

330

東シナ海

図- 1 - 6 佐賀 ・ 白石平野の位置図

写真- 1 -1 佐賀平野のランドサット画像〈福原ら, 1993)

1986年5月12日観測(path:113・ro\\':37, band 1を青, band 4を緑, band 5を赤)

そのなかで, 筑後川は浸食河川で河床が低く, 両側の支川を集めて流れ, 従 来はむしろ洪水を乗せる川であり(安中, 1988), 取水の多くはアオ取水によっ て行われてきた. しかし, 筑後大堰(久留米市)の完成によって筑後)f fは大きな 水源的役割をもつことになり, 現在, 筑後川下流土地改良事業によって佐賀平 野における旧来のアオ取水を含む水利体系は大きく変わろうとしている.

また, 嘉瀬川はほぼ佐賀平野の中心を流れ, 古くから石井樋によって佐賀城 下の生活用水と佐賀南部の川副, 与賀, 嘉瀬新庄方面の潅淑用水を供給してき た. 現在では, 嘉瀬川農業水利事業によって1958年に北山ダムが建設され,

それに続いて川上頭首工(大和町)が背振山麓に築造され, 旧来の14ヶ所の小規 模な井樋を合口し取水 ・分 水施設が完備され新しい水利体系が整った. 川上頭 首工は左岸より取水し, 堤体に埋設した逆サイホンにより右岸側に分水し, 東 与賀, 南川副, 久保田, 芦刈など佐賀平野の約11.200ha の農業用水源となっ ている.

白石平野は大きな水源がなく, 六角川では上流で多くが取水されるため, 厳 しい水不足地帯であり, 多良岳山麓のため池から導水しつつ不足分は地下水に たよっている.

図- 1 -7 佐賀 ・ 白石平野の水機構

佐賀・ 白石平野における広域的な水機構は図- 1 -7のようにまとめること ができる. クリークは, その機能から幹線水路となる導水クリーク(流れ堀)と 貯留機能を果たす普通のクリークに分けられる. 本論文では, 前者を幹線クリ ーク, 後者を支線クリークと呼ぶこととする. 用水は河川や溜池, 地下水を主 な水源とし, 農地の周囲に張り巡らされた支線クリークに一旦貯留された後,

農地への直接的取水および農地排水は支線クリークに対して行われる 71<の 貯留は, 自由な水利用を可能とするようクリークの間に設置された多くの井樋 によって細かくコントロールされている.

佐賀平野のクリーク密度を図- 1 -8に示すが, クリーク密度から佐賀平野 は佐賀平野中北部, 東部・ 干拓地, 中間地帯の三つの地帯に分類される. この ことは, クリークが潅淑用の貯水堀であるため, それぞれの地域の水利機構の 特徴を反映したものとなっている. つまり, 佐賀平野中北部は奈良・ 律令時代 の条里遺構が残っており, 山麓部の余水を受けるためクリーク密度は5%前後 と小さい. 佐賀平野東部および干拓地は, 用水としてアオ利用が可能な地域で あるが, 元釆アオ取水は取水時聞が潮汐に規制される極めて不安定な取水方式 であることや地形勾配の緩やかな地域の排水を目的とするため, 密度は5---1 0%と比較的大きいが, 干拓地では利水に地下水が加わるため5%以下と小さい.

佐賀平野中間地帯は山麓部の余水もアオも少ないことから水源に乏しく, 貯水 機能を高めるためクリーク密度は10%以上と最も大きい. また, 白石平野はク リーク密度は3---4%と高くはないが, 皐魁常襲地帯で用水を約160本の深井戸 で補っており, 近年の深刻化する地盤沈下と電力量の高騰などのため, 他の地 域に比べてクリーク用水の反復利用率が高い.

また, クリークは常に用水と排水が一体不可分なものとして密接な関連をも っている. 下流地区の用水は上流地区の排水に依存し, 上流地区の排水は下流 地区の用水となることを前提として考えられている. クリークの水は, 上流か り下流へと平野を徐々に流下しながら, また地域内において何回となく反復利 用され, 地区外へと排水される(八木, 1981に加筆)

一方, クリークの貯留堀としての機能は排水においても重要な役割を持って いる 地域内の排水は, 佐賀江川や六角川などの感潮河川をとおし, 筑後川や 有明海へと導かれるが, 有明海は潮汐が大きく, 排水可能時間が潮位の低い時

関連したドキュメント