第1節 総説
本件埋立承認処分の違法性判断を、沖縄県は、公有水面埋立法(埋立 法)4条1項1号(以下、第1号要件とする)及び2号(以下、第2号
要件とする)の不適合性判断においている。本章では第1号要件である
「国土利用上適正かつ合理的なること」の規範的要件の適合性判断を考察 する。第1号要件が埋立て承認(免許)の基本要件だからである。また、
第2号要件の環境の十分な保全条項は、那覇空港沖合の埋立て工事も埋 立予定区域面積が1.6㎢で同規模であり自然環境も辺野古沿岸域と本質的 な違いはなく、また、那覇空港沖の埋立事業と比較して辺野古沿岸域埋 立事業の環境保全措置は「遜色はない」とするのが国の評価である(5・
9回答書116頁)。両埋立て事業の本質的な違いは、辺野古沿岸域の埋立 地の用途が米軍基地過重負担の中での新米軍基地の建設であることに対 して、那覇空港沖の「埋立地の用途」が沖縄の基幹産業の基盤整備であ る「飛行場」の建設であるということである。埋立法の趣旨をどう捉え るかによって根本的な違いがでる。
埋立法の趣旨を埋立予定地域及びその周辺の自然環境の保全とするな らば、辺野古沿岸域の埋立て承認を否定する合理的理由を見つけるのは 困難であるが、同趣旨を「国民経済の向上」即ち「地域経済の向上」捉 えると、辺野古沿岸域の「埋立地の用途」は、沖縄の地域経済の最大の 阻害要因である「米軍基地」の象徴である「米軍飛行場」であるのに対 し、那覇空港沖合の「埋立地の用途」は沖縄の基幹産業である観光産業 の基盤整備となる「国際・国内空港」である。したがって、本件埋立て 承認の本質的条項は第2号要件の環境保全配慮の十分条項ではなく、「埋 立地の用途」により「地域経済の向上」に資するかの第1号要件の「国 土利用上適正かつ合理的なること」の承認基準が本質的基準となるので ある。
そして、沖縄の米軍基地過重負担の歴史的現実を埋立て承認の判断要 素に法律構成することによって、埋立て承認の違法性の強さの主張立証 が可能となるのである。さらに、この本件埋立て承認の違法性の強弱は、
前述のように本件取消処分の違法性の有無(取消権制限の有無)を規制
する。したがって、本件埋立て承認の違法性の強さを米軍基地過重負担 の歴史的現実を判断要素とすることによる主張立証に成功することによ り本件取消処分が許容(適法)されることになるのである。つまり、本 件取消処分の違法性は取消権発生の場面である沖縄県取消権説ではなく、
原処分違法性説で、本件埋立て承認の違法性の強さを主張立証すること の法律構成が沖縄県に求められているのである。
ところで、第1号要件の「国土利用上適正かつ合理的なること」の裁 量判断において、その裁量処分が裁量権の範囲を逸脱またはその濫用の 場合に違法性を帯びる。つまり、第1号要件の適合性判断に係る判断過 程の考慮要素の選択および判断過程に合理性を欠いていると判断すると、
その裁量判断(裁量処分)は裁量権の逸脱・濫用として違法性を帯びる。
したがって、問題は、その判断過程の考慮要素(判断要素)に何を組み 込むか(選択)が肝要となる。言い換えると、本件埋立承認取消を巡る 裁判等の勝機は、第1号要件の「国土利用上適正かつ合理的なること」
の判断要素に「沖縄の米軍基地過重負担の歴史的現実」をどう法律構成 するかにかかるのである。
まず第1に、第1号要件の裁量判断に係る判断過程の判断要素(考慮 要素)は、第1号要件の趣旨解釈によって決定される。
第2に、第1号要件は埋立法の基本要件であるため、第1号要件の解 釈は埋立法の趣旨によって規定される。
また、第3に、その埋立て免許・承認の裁量処分は何を目的とするか という免許・承認の趣旨(法的性質)が論点となる。
そして、第4に、その前提としての、埋立ての承認・免許を都道府県 知事に授権した理由が論点となる。この4つの論点は相互規定的な関係 にある。したがって、この4論点の概念構成は、4論点の関連の中で判 断される。
とくに、法律的な争点で問題となるのは、第1号要件の趣旨・解釈で
あるので、その趣旨・解釈により、具体的の争点である、沖縄の米軍基 地過重負担の歴史的現実(第4章)及びキャンプ・シュワブ跡地の利用 計画(第5章)が判断要素となるか否かが決定される。
第1号事件の趣旨・解釈の観点から判断要素の側面(段階と場面)を 分析すると、第1段階は、公有水面を陸地(土地)化する段階で、海洋 汚染、海洋の生態系の破壊等の場面(第1場面)、第2段階は、埋立地の 用途の段階で、特定の事業又地域形成計画上の「埋立地の用途」として の土地の合理的利用の場面(第2場面)、埋立予定地域の埋立地の用途か らの自然環境への影響の環境保全場面(第3場面)、第3段階として、埋 立予定地以外(陸地)の地域の土地の合理的利用の場面(第4場面)が 問題となる。この4場面が、判断の対象(要素)となるかは、第1号要 件の趣旨・解釈により規定される。当該要件の趣旨・解釈が、法律上、
裁判上、重要なのは、定義自体ではなく、その定義により判断要素の範 囲(判断対象)が規定されるからである。
そこで、まず、第1号要件の解釈を沖縄県の解釈変更の観点から「沖 縄県の第1号要件の解釈の変更」を論点として考察する(第2節)、次 に、「公有水面埋立法の理論構成」として、都道府県知事への承認・免許 の授権の趣旨、埋立法の趣旨、承認・免許の法的性質、1号要件の趣旨 を考察する(第3節)。また、沖縄の米軍基地過重負担の違法性(第4 節)、そして、キャンプ・シュワブ跡地利用計画(第5節)、最後に、小 括とする(第6節)。
第2節 沖縄県の第1号要件の解釈変更 第1款 序
本章は、辺野古埋立訴訟を勝訴するために沖縄県の法律構成の基本的 枠組みを土地所有権取得権説の立場から再構成することである。そのた めに、第3章の本件訴訟における沖縄県取消権説の破綻の必然性の確認
を前提に、「本件承認処分の強い違法性」を法律構成するために、「国土利 用上適正かつ合理的なること」(第1号要件)の判断要素に「沖縄の米軍 基地過重負担の歴史的現実」を評価障害事由とする法律構成をより説得 力・合理性あるものとすることである。そこで、本節では、第1号要件 の解釈の変更に伴う承認・免許の法的性質論の非権利説から土地所有権 取得権説への変更の必然性を考察する。
まず、第1号要件の「埋立地の用途」(第2款)、次に、第1号要件解 釈の変更の契機(理由)として(第3款)、①新米軍基地建設のための埋 立て承認は知事の権限、②沖縄本島の米軍基地過重負担を判断要素とす る法律構成、③土地所有権を米軍基地の土地利用に固定化するの意味、
④第1号要件の沖縄県の新解釈は土地所有権取得権説に基づくとする。
最後に、小結とする(第4款)。
第2款 第1号要件の「埋立地の用途」概念の機能
沖縄県は埋立法4条1項1号の「国土利用上適正かつ合理的なること」
(第1号要件)の解釈を変更した。旧解釈は、第1号要件を、「埋立ての 必要性と自然の保全の重要性、埋立及び埋立後の土地利用が周囲の自然 環境に及ぼす影響の比較衡量」(代執行訴訟被告第1準備書面15・16頁、
以下、代執行訴訟を「代・」とする。)との定義であった。これに対し、
沖縄県の新解釈は、「『国土利用上適正且合理的ナルコト』とは、埋立自 体及び埋立地の用途(埋立後の土地利用)を対象として、得られる利益 と生ずる不利益という異質な諸利益について、現行の法体系の下で社会 に普遍的に受け入れられている諸価値に基づいて比較衡量をして総合的 判断をした結果、前者が後者を優越することを意味するものと解される」
(4・4反論書{1}12頁、反論書{8}10頁、ただし4・22知事陳述で は、「埋め立ての用途」となっているが、埋立法上は同義である。)と定 義した。
この第1号要件の解釈変更の内容は、旧解釈での「埋立後の土地利用 が周囲の自然環境に及ぼす影響」が、新理論構成では、「埋立地の用途
(埋立後の土地利用)を対象」へと変更された点である。より本質的に言 えば、第1号要件の判断対象つまり比較衡量の対象である利益、不利益 の異質な諸利益の中に、旧解釈では「埋立地の用途」は含まれていない が、新解釈では、不利益の側面で明示に「埋立地の用途」を含めたこと である。「埋立地の用途」は、埋立法の法的仕組みの基軸概念である。な ぜなら、埋立法を根拠法規とする免許・承認の趣旨(法的性質)は、埋 立事業計画者に、公有水面の埋め立てにより、土地造成をして、最終的 に「埋立地の用途」に「制限された土地所有権」を取得させる権利を設 定する処分だからである(土地所有権取得権説)。つまり、第1号要件の 判断対象に「埋立地の用途」を含めたことは、土地所有権取得権説を含 意している。
なお、国は、次のように、取消権制限法理の場面で、明確に土地所有 権取得権説を採っている。「国に対する承認は公有水面を埋め立て得る法 的地位を付与する点において、私人に対する免許と何ら変わりがない。
すなわち、私人も国も職権取消しを受けることによって、公有水面の埋 め立てが不可能になり、埋め立てに要した費用や労力、埋立てにより実 現しようとした利益などが全て失われるのであって、名宛人が国の場合 と私人の場合とではその保護に差異を設ける理由はない」(国の5・9回 答書79頁)。したがって、取消権制限法理を主張するに際して、承認によ り最終的に制限された土地所有権を取得する側面では、「国は行政処分を 受ける私人と同様の立場にあるのであって、かかる行政庁による行政処 分を信頼するのは、行政処分の相手方が私人である場合と異ならない」
(同上回答書79頁)。また、埋立法の趣旨も国民経済その他国民の諸活動 の原動力・基盤である土地所有権の付与による「国民経済の向上」即ち
「地域経済の向上」に資するものとなるのである。