第1節 概説
本章は、係争委の審査の過程を検討することにより、沖縄県取消権説 が原処分の不当を理由とする取消権発生であることを確認すること、ま た、取消権の発生が原処分である本件承認処分の不当を理由とした場合 に、是正指示の理由である「法令に違反する」(違法)として、①本件承 認処分の「違法又は不当」の判断、②取消権制限法理の成否、③本件取 消訟処分裁量権濫用(要件裁量の逸脱・濫用)、④取消権限濫用(効果裁 量の逸脱・濫用)の成否、そして、もう一つの是指示の理由である⑤「著
しく不適正かつ明白な公益侵害」の判断への影響を確認することである。
つまり、原処分の不当を理由とする理論構成として確認される沖縄県取 消権説は沖縄県にとって不利な理論構成であることが国の5・9回答書 の法律構成により判明したことを確認することである。
ところで、本件取消処分の違法性は代執行訴訟において訴訟物であり、
また国による是正指示の理由の一つでもある。国は代執行訴訟の本件取 消処分の違法性の請求原因として本件承認処分の適法性、取消権制限法 理を法律構成したのに対し、沖縄県は取消訟処分の違法性(訴訟物)の 審理の対象を沖縄県取消権説で一貫して主張立証してきた。沖縄県取消 権説とは、職権取消権の発生根拠は原処分の違法にあるとする原処分違 法性説に対して、取消処分者が、原処分の所定の要件の充足を欠いてい ると判断した場合に取消権が発生するとする見解である。つまり、①前 沖縄県知事は、本件承認出願が公有水面埋立法(埋立法)上の要件を充 足しているとして本件埋立承認をしたものであるが、②現沖縄県知事は、
本件承認出願は埋立法上の要件に適合しているか否かについて検討した 結果、同法4条1項1号及び2号の要件に適合していないと判断して本 件取消処分をしたというのである。職権取消権(取消権)は原処分の違 法を理由として発生するのが原則であるが、原処分が不当の場合も取消 権が認められている。本章の係争委の審査過程の検討により判明したこ とは、沖縄県取消権説は取消権発生の理由である原処分の違法又は不当 の場面に移すと原処分の不当を理由とした取消処分となることを沖縄県 が自認したことである。原処分者(①前知事)は所定の要件の適合・適 法との判断をして本件承認処分をしたのに対し、取消処分者(②現知事)
が不適合・違法として本件取消処分をしたような正反対の処分をした場 合には、本件取消処分は自庁内の自主的・自立的判断であるので、客観 的には原処分の不当を理由とした取消処分となるのである。国の関与に おける違法と不当の区別は、自治事務に関して、「当該国の関与が違法で
なく、かつ、地方公共団体の自主性および自立性を尊重する観点から不 当でない」、「逆に、国の関与が違法であり、または、上記の観点から不 当である」(250条の14第1項)との表現に見られるように、「不当」は地 方公共団体の自主性および自立性を尊重する観点からの行政庁部内の否 定的評価である行政部内の合目的的違反であるが、「違法」は文字通り法 律による行政の原理ないし法治主義の法律違反の違法という客観的法秩 序違反である。つまり、「違法」は近代民主国家の法治主義による法秩序 違反、「不当」は違法とまでは言えない行政部内の合目的違反として区別 され、「違法」は、最終的には法律による行政の原理の要請による裁判所 の司法判断、「不当」は行政部内の役割分担原則を基盤とした判断となる。
詳細は後述するが、係争委の審査過程で沖縄県取消権説が原処分の不 当を理由とした取消処分であることが判明した過程の概略は以下のとお りである。
沖縄県は国の是正指示の違法性を争点とする係争委の3月23日の審査 申出書においても、本件取消処分の違法性として沖縄県取消権説を法的 主張するが、国は、3月29日の答弁書で、本件承認処分の違法を理由と する場合には沖縄県取消権説の主張は理由なしと主張する。これを、受 けて、沖縄県は、4月4日の反論書において、この主張の理由なしを回 避するために、原処分違法性説を理由(請求原因)に追加する。しかし、
国は4月11日の再答弁書において、これまでの主張に理由なしとして否 定し続けてきた沖縄県取消権説自体の主張は認める。そして、4月22日 の係争委の知事意見陳述等において、係争委による沖縄県取消権説は本 件承認処分の「不当」を理由とする本件取消訟処分かの質問に対して、
沖縄県側の弁護士の一人が「端的に言えば、不当を含む」と答える。即 座に、係争委は、国に不当への対応を質問し、国は対応すると答える。
係争委は、同日、沖縄県に、沖縄県取消権説は「不当」を理由とするも のかの質問をし、沖縄県は5月2日の回答書及び再反論書で沖縄県取消
権説をもって内容的に「不当」を認める回答する。同日、係争委は、国 に、沖縄県の回答書に対する回答を求め、国は5月9日に、「不当」を理 由に「整理」した回答書を提出する。ここに、本件承認処分の「不当」
を理由とする本件取消処分の違法性が本質的争点となる。そして、6月 17日、係争委は、判断回避の決定による沖縄県の実質的却下の「敗訴」
の決定をするのである。
本章では、まず、第2節で、本件係争委審査の展開を考察する座標軸 を設定し、次に、第3節において、係争委審査の展開を概観し、そして、
第4節で、係争委審査の展開を詳述し、最後に、小括として、沖縄県取 消権説が原処分の不当を理由とする取消権の発生の法律構成であること の6点の理由を述べる。
第2節 係争委審査の展開を考察する座標軸 1 職権取消権の二つ場面を座標軸
本件の係争委審査の展開を考察する座標軸は、職権取消権(取消権)
の二つの場面の区別である。つまり、①取消権発生の場面と、取消権発 生を前提に、②その取消権の許容性の場面の区別を、係争委審査の展開 の座標軸とするのである。第1の取消権発生の場面は、職権取消権発生 は「違法(の瑕疵)」又は「不当(の瑕疵)」を発生根拠(理由)に発生 するが、その発生根拠の「違法(の瑕疵)」又は「不当(の瑕疵)」の区 別である。そして、本件審査で判明した特徴は、沖縄県取消権説が仲井 真前知事の承認(原処分)は「違法」ではないが「不当」であるとして 翁長現知事が取消した(取消処分)という点である。第2の取消権の許 容性の場面は、取消権の発生を前提に、その取消権の制限の在り方であ り、取消権制限法理、本件取消処分裁量権濫用(要件裁量の逸脱・濫用)、
取消権限濫用(効果裁量の逸脱・濫用)の成否が問題となる。
2 取消権の発生の場面(取消権発生の原処分の違法又は不当の区別)
職権取消権(取消権)は、原処分の「違法」又は「不当」を理由とし て発生するが、沖縄県は取消権発生の理由を、後述する沖縄県4・4反 論書で「不当」と明言したことである。
一般的には、違法と不当の区別は、違法が処分や手続きが法令に違反 していることで、不当は、違法とは言えないが、その制度目的からみて 適当でないことであるが、取消し理由の区別においては、どのような違 いがあるのであろうか。原処分の「違法」を理由とする取消しは、「違法」
が、客観的法秩序違反であるので、「原処分を無効」とすることによる
「司法統制」である。これに対し、適法を前提とする「不当」は、制度目 的からみて適当でないことなので、行政部内における「自己統制」とし て「原処分の是正が可能」とされるものである。
したがって、「違法」又は「不当」を理由とする取消しの実質的根拠は、
「違法」の場合は、法律による行政の原理に基づく「適法性の回復」にあ るが、「不当」の場合は「合目的性の回復」となる。つまり、法治主義の 根幹をなす法律による行政の原理は「違法」の場合に限定され、「不当」
の場合には働かない。
職権取消権(取消権)の理由(発生根拠)は何かに関して、原処分違 法性説と沖縄県取消権説が主張されてきた。政府は、裁判上で主張でき る取消権は、原処分の違法を理由とする見解で、沖縄県取消権説は、現 知事が、前知事の所定の要件充足を欠いていると判断した場合は職権取 消しが認められるとする見解である。取消処分の理由は原処分の違法で はなく取消処分者が所定の要件の充足を欠いているという判断とするこ とである。