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最後に — 量子力学への橋渡し

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第 7 章 2次元・3次元波動の進行

7.6 最後に — 量子力学への橋渡し

「波動論」の締めくくりとして、波動の性質のうち、3年になって量子力学を勉強する時に大きく関係する部分につ いて解説しておく。

7.6.1 分解能と不確定性関係

「波である光が直進する(ようにみえる)のは干渉により直進しないような光が消されてしまうからである」という ことを述べた。「直進しないような光が干渉により消される」と言っても、完全に消えてしまうというものではなく、多 少は残る。光にも小さいとはいえ有限の波長があるので、ある程度干渉によって消されずに残る部分があるのはしかた がない。日常生活ではそれが目に見えるほどになることはないが、例えば光の波長程度より小さいものを見ようとする 時には、この光の広がる性質が邪魔をすることになる。

φ

A

P Q x B

P点から出る光をレンズで集め、スクリーンで見るとする。光を直線的に進ん でいく光線のように考えるならば(このような考え方を「幾何光学的な考え方」

と呼ぶ)、レンズの中心の真下P点から出た光はちょうどその真上にあたるA点 に到達する。また、レンズの真下より少し離れた点Q点から出発した光は、Aよ り少し離れたB点に到着する。スクリーン上のどこに光がきたかによって、光 がどの場所から発せられたかがわかる(カメラであればこの場所にはフィルムが あり、フィルムに塗られた感光物質が化学変化を起こす。目であれば視覚細胞が 反応する)。カメラにしろ人間の目にしろ、このようにして光の到着点から「光 がどこから来たか」を判断しているわけである(レンズがなくてただ光を感じる だけであったなら、明るさは判断できても物を見ることはできないのである)。

光を「光線」ではなく「波動」だと考えた場合、P点から出た波がA点に到達 する理由は上とは違ってくる。波はいろんな方向に伝播する。A点ではP点か ら来たいろんな光の位相がぴたりと揃い、互いに強め合う。これがA点から出 た光がP点に到着する理由である(このような考え方が「波動光学的な考え方」

である)。光の位相が揃う理由は、レンズ中では光速が遅くなるからである。一 見遠回りしているかに見えるレンズ周辺を通ってきた光と、直進して近道を通っ たかに見えるレンズ中心を通ってきた光は同じ時間をかけて伝播している。それ ゆえ、P点でこれらの光の位相はぴったり同じになる。逆に、P点以外の場所に やってくる光は、位相がずれているために消し合ってしまう。

ここで注意すべきことは、P点より少し離れたQ点から出発した光も、図に書いた二つの光線(破線で表した)の光路 差が一波長程度までしかなかったなら、Aに到達することができることである。この場合も光は干渉によって消し合う が、完全に消えてしまうことはない。このため、A点に光が到達したとしても、図の∆x程度はどこから来たのかを判 定できなくなる。近似をつかってくわしい計算をするとこの∆xは λ

2 sinφとなる。∆xを「離れた2点を分離している と認めることができる能力」という意味で、「分解能」と呼ぶわけである。

分解能は光の波長程度の大きさを持つから、光を使って物を見る限り、光の波長より小さいものを見ることはできな い。一点から来た光が広がりを見せるので、像がぼやけてしまうのである。分解能を小さくする(小さいものを見る)た めには、波長を小さくするか、sinφを大きくする。

しかし、どんなにがんばっても∆x= λ

2 sinφを半波長よりも小さくすることはできない。つまり、光を使って物を見

る限り、波長よりも小さいものは見えないと思って良い。これがウィルスが顕微鏡では発見できなかった理由である8。 原子のサイズは光の波長以下なので、「原子の写真」を取ることも不可能である。

8光ではない、もっと波長の短いものを使って物を見るという方法はもちろんある。電子顕微鏡は電子を使って物体の形を知る。

7.6. 最後に—量子力学への橋渡し 107 これは「波」というものを使って何かの位置を測定しようとする時、避けられない測定誤差となる。量子力学では全 ての物質が波の性質を持つが、それゆえに物体の位置の測定には避けられない不確定性が伴うことになる。量子力学で はこれが「不確定性関係(または不確定性原理)」として出現する。

7.6.2 フェルマーの原理と最小作用の原理

波動として光を考えた時、フェルマーの原理すなわち「光が最短距離を通る」という現象は、「光の波の位相が極値を 取る」ということに対応していることはすでに述べた。

今、ある時空点(x1, t1)から(x2, t2)へ、いろんな経路をたどって波が到達したとする。(x2, t2)において観測される波 は、そのいろんな経路をたどった波の和である。経路によって、波はいろんな位相を取る。そしてそのいろんな位相の 波の足し算が行われることになるが、この時足される波それぞれの位相差が大きすぎると、波が互いに消しあってしま う。位相が極値を取るというのが重要なのではなく、極値を取るところでは変化が小さい、ということが重要なのであ る。変化が小さいところの足し算は、位相が消し合うことなく残る。それに対して位相が大きく変化しているところの 足し算は、足し合わされて消えてしまうのである。

つまり、いろんな経路を伝わって波がやってく

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(x ,t )

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(x ,t )

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1 1

2 2

るが、実際にその場所にやってきた波の主要部分 は、位相が極値を取っているような波だと考える ことができる。これは前の章でやったホイヘンス の原理の数式的表現を考えれば納得できるだろ う。eik|~x~x0|を積分することで波がどのように進 行するかを考えることができたのだが、計算の中 で激しく位相(この場合、k|~x−~x0|)が変化する ような部分については、積分してもどうせ答は0 と考えてよかった。

この波の重なる様子を具体的に考えるのは難し いので、だいたいのところどういう状況なのかを 理解するために、簡単な積分の場合で変化のゆる

やかな部分だけが生き残る例を示しておく。右のグラフは(x22x+ 2) cos 100x2のグラフである。この関数は、x= 0 付近以外では非常に激しく振動している(位相が100x2という式であることを考えればわかる)。この積分を行うと、ほ とんどx= 0付近だけの積分と同じになる。つまり、x= 0付近以外の寄与は、結果にまったくといっていいほど影響さ れないのである。これと同様のことが、波動力学における波の重ね合わせでも起きている。ゆえに位相が極値となるよ

うな経路(古典力学的にはEuler-Lagrange方程式の解となっているような経路)が主要な波の経路であると考えてよい。

古典力学と波動力学はこのようにつながる。

108 第7章 2次元・3次元波動の進行 ド・ブロイが物質波というものを考えた背景には光学があ

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(x -2x+2) cos 100x 2 2

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る。光学においても幾何光学という立場と、波動光学という 立場がある。幾何光学では「光線」を考え、光線がどのよう に進んでいくかを計算する。一方波動光学では「波」を考え、

空間の各点各点に発生する波の重ね合わせによって波の運動 を計算する。この二つのどちらを使っても光がどのように進 行するかを考えることができる。

さて、光を記述するには、粒子的(光線的)に考えてフェ ルマーの原理を使う方法と、波動と考えてホイヘンスの原理 を使う方法があるが、この二つは実は同じ現象を別の記述を しただけのものであることがわかる。波長の短い波では「粒 子的振る舞い」が主に見え、波長の長い波では「波動的振る 舞い」が主に見える。

波長の短い光はあまり回折せず、直進する傾向を持ってい た(ニュートンが光の本質を波ではなく粒子的なものだと考

えた理由はまさにこの直進性にあった)。同じ電磁波でありながら、テレビやラジオなどの電波と光はその進行の仕方に おいて、全く違う性質を持つ。

ここで「波長が長い/短い」を分ける基準は、もちろん状況によって違う。光は日常生活(長さのスケールが数セン チから数メートル)ではじゅうぶん粒子的である(直進するように見える)。しかし、顕微鏡でウィルスを発見しようと いうような時には、波動的な性質が大きくなりすぎて、ウィルスの像を写すということは不可能になってくる。物理現 象のスケールによって、波の起こす現象は全く違うのである。

さて、ここまで諸君らが勉強してきたのは「古典力学」と呼ばれる「量子力学以前」の力学である9。古典力学におい て、波動論におけるフェルマーの原理に対応するのは、解析力学における最小作用の原理である。

フェルマーの原理では「光が進むのにかかる時間」あるいは「光の位相」が極値を取るが、解析力学において極値を 取るのは「作用」である。

波動(光など)がどのように進行するかは、フェルマーの原理で考える(幾何光学)こともできるし、波の重ね合わ せを使って考える(波動光学)こともできる。考えているスケールに比べて波長が短い場合(日常現象における可視光 の場合など)は幾何光学を使う方が簡単である。逆に考えているスケールに比べ波長がcomparable10であるか大きい場 合は、波動光学を使わねばならない。

力学でも粒子の進行を、最小作用の原理を使って考えることができる。最小作用の原理に対応するのがフェルマーの 原理すなわち幾何光学である。では波動光学に対応するものは何か???—ド・ブロイはこのような考え方から物質の波 動説に到達し、自身のこの考え方を「波動力学」と呼んだ。

波長が短い場合 波長が長い場合 光学の世界 幾何光学 波動光学

(フェルマーの原理)

力学の世界 古典力学 波動力学

(最小作用の原理)

解析力学を作っていた段階では、ただ「作用が極値を取るような運動が実現する」としか考えられていなかった「作 用」という量に「物質波であると考えた時の位相に対応するもの」という意味を、ド・ブロイが与えたのである。位相 が極値を取るような経路の波は干渉で消えずに残る。同様に作用が極値をとるような運動が実現する。これが、我々が この世界で古典力学が成立している(そして、最小作用の原理という物理法則がある)と‘錯覚’した理由なのである。

9物理の世界で「古典(classical)」というのは「古い」という意味ではない。「量子力学ではない」という意味である。

10comparableは「比較することができる」という意味。つまり同程度の大きさであることを表す言葉。

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