最後にそれぞれのトラッカーについて時間分解能を見た。図40は各径のファイ バーの典型的な時間情報である。
図 40: 各ファイバーにおける時間分布。
横軸は時間、縦軸はカウント数である。図より、テールを引いているのが見え
るが、これは光量が少ないためにシンチレーターの減衰時間が見えていると考え られる。これを確かめるため、Kuraray社が公表しているデータと比較した。
フィットは、イベント数Nと減衰時間Tをパラメーターとして f(x) =N exp(−x
T) (23)
で行った。
測定では0.3mmで2.8±0.4nsec、0.5mmで2.8±0.2nsec となった。予想される 平均光電子数は1p.e.と同程度、またはそれ以下であるので、得られる時間分布は シンチレーション光の減衰時間分布となる。公表されているSci-Fiの減衰時間は 2.8nsecであり、得られたデータと一致した。よって時間分解能はSci-Fiの減衰時 間に支配される。これらの分布の標準偏差は2.8nsecとなった。
4 結論、考察
1.0GeV/cのπを用いたときの、ファイバーから得られる時間分解能は2.8nsec、
光量は0.3mmでは0.54±0.03個、0.5mmでは1.22±0.02個陽子の場合の光量は 0.3mmでは0.77±0.05個、0.5mmでは1.62±0.07個であった。
MICEでは180∼300MeV/cのμを用いる。このμがSci-Fiに落とすdE/dxの 値は陽子とπのdE/dxの間にあるので、ほぼ同程度の値が得られると思われる。
よって、今回の試作器はMICEが求める位置分解能と時間分解能は十分に満たし ているといえる。
ただし、光量は1p.e.程度であり、十分な量であるとは言い難い。ファイバーに よる減衰や接続の際の損失など、できるだけもとの光量を減らしてしまうような 要因についてはそれぞれ独立に実験を行い、90%に近い効率を確保してきたつもり である。よって、改善の可能性としてはファイバーそのものの光量をあげる必要 がある。
光量をあげる方法としてファイバーのコーティングが挙げられる。これについ ては、以下の結果及び考察をもとにしている。
まず、今回得られた平均光電子数が理論と合っているかの確認を行った。光電 子数を求めるのに必要な成分を表2にまとめた。
エネルギー損失(MeV・cm2/g) 陽子:2.56 π:1.8 ファイバー有効厚さ(mm) 0.3mm:0.2355 0.5mm:0.3925 ファイバー密度(g/cm3) 1.05
1eV当りの光電子数[Sci-Fi] 0.01
一次蛍光の捕獲確率 0.3mm:0.263 0.5mm:0.657 全反射条件(立体角) 0.0533
Sci-Fi減衰長(効率) 0.3mm:0.94 0.5mm:0.95 ファイバー接続損失(効率) 0.9
MAPMTのdead space(効率) 0.3mm:0.749 0.5mm:0.754
MAPMTでの量子効率 0.2
表 2: 平均光電子数の計算に必要な要素
ここで表について補足をしておく。一次蛍光の捕獲確率とは、3.2.2で前述して いるが再度述べておく。Sci-Fiにおいて、波長変換する前の第一次蛍光が十分短け れば粒子が通過したSci-Fi自身の中で波長変換し、伝送するが、蛍光が長い場合 はファイバーから逃げてしまう。この確率について各径で計算を行った。なお、こ の長さを350μm[11]とし、350μmの球がファイバーを切り取る体積と、球の体積 との比を捕獲確率とした。
また、MAPMTのdead spaceは、図21において入射光が光電面に入る面積と、
入射光の円の面積との比を取った。
以上を用いて各条件について平均光電子数を算出したのが図4である。
0.3mm 0.5mm π 0.54±0.03 1.22±0.02 陽子 0.79±0.05 1.62±0.07 表 3: 平均光電子数(実験値)
0.3mm 0.5mm
π 0.79 3.35
陽子 1.12 4.76 表 4: 平均光電子数(計算値)
結果を見ると径0.5mmでは光量が実験値よりもかなり大きい値を示している。
この違いについては0.5mmのSci-Fiトラッカーの製作精度があまりよくなかった ためと思われる。0.5mmSci-Fiの端面を確認したところ、並べ方に明確な不均一が 認められた。よって、これによる接続損失が生じたと考えられる。
ここで、0.3mmの一次蛍光の捕獲確率に注目してみると、約26%しか捕獲して いないことがわかる。よって、ファイバーをコーティングすることで、約4倍の光 量が得られると予想される。
上記の結果を用いると、入射粒子π、ファイバー径0.3mmで得られる平均光電 子数はコーティングにより2.1個となる。入射粒子がμでも、同程度の光電子数が 期待できる。
次に、光量が上がったときに時間分解能がどのように変化するかについて考え る。1光電子が時間tにくる確率は減衰時間をτ として、
exp(−τt)
τ (24)
と表される。
光電子数がN個の時、時間分布はN個の光電子の重ねあわせとなる。このとき の時間分布は、TDCの仕組みを考えると最も早く来るイベントによって支配され る。この時間をt1とすると、ある1光電子がt1に来てそれ以外の(N-1)個の光電 子がt1以後に来る確率分布P(N,t1)は、
P(N, t1) = Nexp(−tτ1) τ
∞
t1
exp(−τt)
τ dt
N−1
(25)
= N
τ exp(−N t1
τ ) (26)
と表される。
ここから平均値tmean及び標準偏差σを求めると、
tmean =
∞
0 tP(N, t)dt (27)
= N
τ (28)
σ =
∞
0 (t−tmean)2P(N, t)dt
1/2
(29)
= N
τ (30)
となる。この標準偏差が、光電子数N個の時の時間分解能である。図41に、減衰
時間2.8nsecの場合での、光電子数による時間分解能の変化を示す。
図 41: シンチレーターの減衰時間が2.8nsecのときの、光電子数に対する時間分解 能の変化。
解析で得られた結果のように、1p.e.でも十分な時間分解能が得られているが、光 量の増加に伴って更なる時間分解能の向上が見込まれる。また、ファイバーをコー ティングした場合、入射粒子π、ファイバー径0.3mmでの時間分解能は1.4nsecが 期待される。
謝辞
本論文をまとめるにあたりまして、多くの方の助力を頂きましたので、この場 にて感謝申し上げます。
まず、久野良孝教授には、指導はもとより今回の実験を行う機会を与えて頂き ました。大変感謝しております。青木正治助教授には物理について様々なことを 教えてくださり、ありがとうございました。佐藤朗先生には実験や解析など、全 ての面で面倒を見て頂き非常にお世話になりました。本当にありがとうございま した。
吉村浩司助教授をはじめとするKEKの皆様方には今回の実験においていろいろ な協力、助言を頂きました。とても感謝しております。MICEの共同研究者であ る、Edward McKigney先生にはテスト実験で協力、助言を頂きありがとうござい ました。また、トラッカー試作器の開発でお世話になった林栄精器(株)の方々に も感謝いたします。
また、研究室の学生の皆さんにも物理のみならず日常生活においてお世話にな りました。新田さん、田窪君とは物理においていろいろな意見交換ができ、勉強 になりました。感謝します。中原君には基礎データをまとめるにあたり、いろい ろ手伝ってもらい感謝しています。前田君、坂本君、寺井君にはテスト実験でお 世話になりました。皆さん、本当にありがとうございました。
最後に、久野研究室で2年間学べてとてもよかったです。すばらしいスタッフ と仲間に巡り合えたことをとても幸せに思います。