第 4 章 経済的に長大橋を実現する耐風設計手法
4.3 設計風速の設定法に関する検討
4.3.2 明石海峡大橋の基本風速設定方法
明石海峡大橋の設計基本風速は,「明石海峡大橋耐風設計要領・同解説(平成 2 年 2 月)」において海面上 10mにおける10分間平均風速として 46m/sが設定されている.
この値は,架橋地点近傍に設置した観測鉄塔における 20 年間の風観測記録を極値統 計解析して算出される150年再現期待値(49.4m/s)を基本に,既往の予測手法による推 定値を参考として高度80mにおける風速を49.4m/s×1.1=54.3m/sを決定し,観測鉄塔 と支間中央の風速の関係を求めるために実施した地形模型風洞試験(縮尺 1/5000)によ る風速比よりさらに1.1倍した風速を,鉛直風速分布のべき法則(べき指数=1/8)を適用 し地上10mに換算した値である.
s m m
s m m
U 46 /
80 1 10 . 1 1 . 1 / 4 .
49 8
1
10
(式 4.3.1)
現地観測が実施された垂水観測塔は,図- 4.3.1に示す位置(北緯34度37分30秒,
東経135度 04分10秒)に,昭和39年(1964年)に設置されたものであり,海上31.5m および 80m で風観測が実施された.各年の海上80m における最大風速を整理した結 果は,表- 4.3.1 に示すとおりとなっており,1965 年の台風 23 号通過時に最大平均
風速52.2m/sが記録されている.
各年の最大風速を順番に並べ,二重指数確率紙にプロットした結果を図- 4.3.2 に 示す.1964年と1965年の台風による強風が他の年に比べ大きな値であるため,回帰 直線との差が大きくなっている状況が見受けられるが,明石海峡大橋の基本風速は 1964年から1983年まで20年間のデータに対する回帰直線(赤色ライン)を基本に150 年再現期待値として 49.4m/sが算出されている.一方,垂水観測塔における風観測は 設計基本風速を設定した後も継続されており,最終的に 34 年間の記録が残されてい
る.34年間のデータを整理した結果が図- 4.3.2の青色ラインである.20年間のデー タよりも相関係数は上がるものの,追加された 14 年間に最大風速となる様な強風が 記録されなかったため,150年の再現期待値は低下する傾向となる.
さらに,明石海峡大橋供用後は橋の動態観測システムで計測された風速データが蓄 積されているため,できるだけ対象となるデータを多くすることを目的として,1999 年以降は明石海峡大橋支間中央における風速計の定時観測データ(表- 4.3.2)を対象 として分析を実施した.ここで,記録された最大風速が台風によるものか,季節風に よるものかに分類し,それぞれのデータに関して極値統計解析を実施した.解析結果 は図- 4.3.3 に示すとおりであり,台風と季節風では異なる傾向を示すことを確認し ており,低風速域におけるデータの取り扱いには注意が必要であることが明らかとな った.
図- 4.3.1 垂水観測塔の概要と位置
←80m
80m 75m
50m
31.5m 65m
W
S N
E 15m
計測室
表- 4.3.1 垂水観測塔において観測された年最大平均風速
年度 風速(m/s) 順位
風向 備考
観測値 補正値 観測値 補正値
1964 42.3 40.2 33 33 S 9/25 T6420 台風 1965 52.2 49.6 34 34 SE 9/10 T6523 台風
1966 23.7 22.5 8 4 - 5/22 南岸低気圧 季節風 1967 24.0 22.8 9 5 W 4/ 4 関連前線通過 季節風 1968 30.7 29.2 29 27 S 8/29 T6810 台風
1969 29.5 28.0 26 25 W 12/ 3 冬型気圧配置 季節風 1970 27.8 26.4 23 19 S 8/15 T7009 台風
1971 30.5 29.0 28 26 S 3/20 日本海低気圧 季節風 1972 25.8 24.5 15 11 - 9/16 T7220 台風
1973 28.0 26.6 24 20 WSW 3/22 冬型気圧配置 季節風 1974 27.2 25.8 21 16 SSE 4/21 日本海低気圧 季節風 1975 26.2 24.9 16 17 W 8/23 T7506 台風
1976 23.2 6 8 W
1977 30.0 27 29 W 2/28 寒冷前線通過 季節風
1978 25.2 11 12 S
1979 25.5 14 15 W 10/ 1 T7916 台風
1980 26.9 19 22 - 10/26 冬型気圧配置 季節風
1981 22.9 4 6 WNW
1982 25.2 12 13 WSW
1983 25.3 13 14 W
1984 26.2 17 18 S 8/22 T8410 台風
1985 20.5 1 1 -
1986 24.5 10 10 WNW 12/28 日本海低気圧 季節風 1987 29.4 25 28 SSE 10/17 T8719 台風
1988 20.5 2 2 W 1/20 冬型気圧配置 季節風
1989 23.1 5 7 W 8/27 T8917 台風
1990 27.5 22 24 W 12/11 冬型気圧配置 季節風
1991 34.8 32 32 S 9/27 T9119 台風 1992 27.1 20 23 S 8/ 8 T9210 台風 1993 32.9 30 30 S 9/ 4 T9313 台風
1994 23.4 7 9 SSW 4/12 日本海低気圧 季節風
1995 21.8 3 3 S 4/23 日本海低気圧 季節風
1996 34.4 31 31 S 8/14 T9612 台風 1997 26.8 18 21 NE 7/26 T9709 台風 注 1) 1964~1975 は三杯型風速計のため 95%に補正している.
2) 備考欄に強風要因「台風によるもの」,「季節風によるもの」を示す.
ln ( )
ln P j
y
△ :20年間のデータ 経験的超過確率
● :34年間のデータ Gringortenの式を適用 Pj=(j-a)/(N+1-2a)
図- 4.3.2 風速と再現期間の関係(垂水観測塔;H=80m,1964-1997)
0.999
0.995
0.99
0.98
0.97
0.95
0.9
0.8
0.7
0.5
0.30.20.10.05
0.01 100050020015010050201052
R2 = 0.919 R2 = 0.8066
15 20 25 30 35 40 45 50 55 60
-2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7
(m/s)
再現期間 T (年)
表- 4.3.2 台風による年最大風速の整理(明石海峡)
西暦 和暦
明石海峡大橋動態観測データを考慮
西暦 和暦
垂水観測塔のみのデータ
y 風速 風向 日時 台風 y 風速 風向 日時 台風
1 1985 S60 -0.5798 11.1 N S60. 6.30 21:55 T8506 1 1985 S60 -0.4628 11.1 N S60. 6.30 21:55 T8506 2 1995 H 7 -0.4970 17.3 SW H 7. 9.24 09:55 T9514 2 1995 H 7 -0.3692 17.3 SW H 7. 9.24 09:55 T9514 3 1983 S58 -0.4184 18.2 N S58.10.11 07:06 T8313 3 1983 S58 -0.2794 18.2 N S58.10.11 07:06 T8313 4 2000 H12 -0.3429 19.8 SSE H12. 9. 1 09:00 T0012 4 1981 S56 -0.1922 20.0 E S56.10.22 09:34 T8124 5 1981 S56 -0.2697 20.0 E S56.10.22 09:34 T8124 5 1988 S63 -0.1065 20.0 ENE S63. 8.16 00:56 T8813 6 1988 S63 -0.1981 20.0 ENE S63. 8.16 00:56 T8813 6 1986 S61 -0.0217 20.7 ESE S61. 8. 4 02:05 T8610 7 1986 S61 -0.1276 20.7 ESE S61. 8. 4 02:05 T8610 7 1990 H 2 0.0630 22.1 ENE H 2. 9.30 09:20 T9020 8 1990 H 2 -0.0578 22.1 ENE H 2. 9.30 09:20 T9020 8 1994 H 6 0.1481 22.5 S H 6.10.12 14:20 T9429 9 1994 H 6 0.0117 22.5 S H 6.10.12 14:20 T9429 9 1989 H 1 0.2342 23.1 W H 1. 8.27 16:40 T8917 10 2001 H13 0.0813 22.7 NNE H13. 8.21 13:00 T0111 10 1980 S55 0.3219 23.7 S S55. 9.11 18:14 T8013 11 1989 H 1 0.1512 23.1 W H 1. 8.27 16:40 T8917 11 1972 S47 0.4118 24.5 - S47. 9.16 --:-- T7220 12 2002 H14 0.2219 23.3 SSE H14. 7.19 14:00 T0209 12 1982 S57 0.5044 24.7 N S57. 9.12 14:24 T8218 13 1980 S55 0.2935 23.7 S S55. 9.11 18:14 T8013 13 1978 S53 0.6006 25.2 S S53. 8. 3 08:17 T7808 14 1972 S47 0.3665 24.5 - S47. 9.16 --:-- T7220 14 1979 S54 0.7012 25.5 W S54.10. 1 --:-- T7916 15 1982 S57 0.4412 24.7 N S57. 9.12 14:24 T8218 15 1975 S50 0.8071 26.2 W S50. 8.23 --:-- T7506 16 1978 S53 0.5179 25.2 S S53. 8. 3 08:17 T7808 16 1984 S59 0.9197 26.2 S S59. 8.22 01:21 T8410 17 1979 S54 0.5970 25.5 W S54.10. 1 --:-- T7916 17 1970 S45 1.0404 26.4 S S45. 8.15 --:-- T7009 18 1975 S50 0.6791 26.2 W S50. 8.23 --:-- T7506 18 1997 H 9 1.1714 26.8 S H 9.6.28 17:30 T9708 19 1984 S59 0.7646 26.2 S S59. 8.22 01:21 T8410 19 1992 H 4 1.3154 27.1 S H 4. 8. 8 20:00 T9210 20 2003 H15 0.8542 26.2 NE H15. 8. 9 04:00 T0310 20 1968 S43 1.4764 29.2 S S43. 8.29 --:-- T6810 21 1970 S45 0.9487 26.4 S S45. 8.15 --:-- T7009 21 1987 S62 1.6603 29.4 SSE S62.10.17 03:50 T8719 22 1997 H 9 1.0491 26.8 S H 9.6.28 17:30 T9708 22 1993 H 5 1.8766 32.9 S H 5. 9. 4 03:50 T9313 23 1992 H 4 1.1564 27.1 S H 4. 8. 8 20:00 T9210 23 1996 H 8 2.1416 34.4 S H 8. 8.14 20:50 T9612 24 1968 S43 1.2722 29.2 S S43. 8.29 --:-- T6810 24 1991 H 3 2.4882 34.8 S H 3. 9.27 22:20 T9119 25 1987 S62 1.3986 29.4 SSE S62.10.17 03:50 T8719 25 1964 S39 3.0000 40.2 S S39. 9.25 --:-- T6420 26 1999 H11 1.5383 29.8 SSE H11. 9.24 13:00 T9918 26 1965 S40 4.0405 49.6 SE S40. 9.10 --:-- T6523 27 1993 H 5 1.6953 32.9 S H 5. 9. 4 03:50 T9313
ln ( )
ln P j
y
a N
a j j
P 1 2
) ) (
(
28 1996 H 8 1.8754 34.4 S H 8. 8.14 20:50 T9612 29 1991 H 3 2.0880 34.8 S H 3. 9.27 22:20 T9119 30 1964 S39 2.3495 40.2 S S39. 9.25 --:-- T6420 31 1965 S40 2.6930 49.6 SE S40. 9.10 --:-- T6523
※ 上表には季節風による年最大風速のみが記録された6年(1966年,1967年,1969年,1971年,1973年,1974年)については,
台風時の記録が存在していないため,風速を0m/sとして経験的超過確率を算出している.
ln ( )
ln P j
y yln
ln
P(j)
垂水観測塔全観測データ+明石動態観測データ 垂水観測塔データ(連続する20年分のデータ)
青色のプロット:台風によるデータ 赤色のプロット:季節風によるデータ 図- 4.3.3 年最大風速の分析結果
架橋地点近隣における,より長期的な観測データとして,神戸海洋気象台の観測記
録[4.13] が存在しており,垂水観測塔での観測記録との相関を調べた.
図- 4.3.4 は全風向に対する相関を整理したものであり,バラツキはあるものの神 戸海洋気象台の風速は垂水観測塔の約60%程度となっていることを確認した.ここで,
神戸海洋気象台の観測高度が26.8mであることを考慮すると, 26.8 80 1/8 = 0.87の 高度補正が必要であり,実際には70%程度に低減されていると考えられる.風向特性 については,神戸海洋気象台が北西から南西の範囲の風向が卓越しているのに対して,
垂水観測塔では西および南の風が卓越する傾向にあり,観測位置の違いが現れている と考えられる.
0.999
0.995
0.99
0.980.97
0.95
0.9
0.8
0.7
0.5
0.30.20.10.05
0.01 100050020015010050201052
15 20 25 30 35 40 45 50 55 60
-2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7
(m/s)
再現期間 T (年)
0.999
0.995
0.99
0.980.97
0.95
0.9
0.8
0.7
0.5
0.30.20.10.05
0.01 100050020015010050201052
15 20 25 30 35 40 45 50 55 60
-2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7
(m/s)
再現期間 T (年)
両者の風向の特性が異なっていることから,垂水観測塔で記録されてデータに対し て±22.5deg.のデータが記録されている神戸海洋気象台のデータを用いて風向別の相 関を整理した結果を図- 4.3.5 に示す.相関の高い風向も存在しているが,全般的に 両者の相関は高くなく,神戸海洋気象台のデータを極値統計解析することにより明石 海峡の再現期待値を算出することは困難である判断できる.
(全風向の観測データを整理)
図- 4.3.4 垂水観測塔と神戸海洋気象台の風観測データの相関関係
y = 0.6046x
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0
0.0 10.0 20.0 30.0 40.0 垂水観測塔 (m/s)
神戸海洋気象台 (m/s)
0%
5%
10%
15%
20%N
NNE NE
ENE
E
ESE
SE SSE S
SSW SW WSW
W WNW
NW NNW
神戸海洋気象台 垂水観測塔 r2=0.196
(垂水観測塔の風向を基本に±22.5deg.風向の範囲の観測データを整理) 図- 4.3.5 垂水観測塔と神戸海洋気象台の風観測データの相関関係