本論で扱う「経験者jが主語位置にくる日本語心理動詞を、助詞の分布から観察すると、大き く二つに分類できる。その目的語位置に助詞「にjを伴う名詞句がくる場合と、「をJを伴う名詞 句がくる場合、両方が可能な場合である。 更に、その r~ に J 名詞句と r~ を j 名詞句の取る名 詞句の文中における役割に着目すると、原因jの意味を担うもの、「対象jの意味を担うもの、両 方の役割をもつものに分類できる。以下では、この助詞の分布と意味役割の分布を関連付けて四 分類し、その分類を基に、各動詞のアスベクト的特徴を指摘する。
3.1 Group A:
r
原 因 」 の 意 味 を も っr ‑ (
こ名詞句Jを 伴 う 心 理 動 詞まず、 r~ に J 名詞句と共起する心理動詞で、且つ、その名詞句が動詞の表す感情の「原因 J を 表す場合をみる。例えば、
( 1 6 a
,b)のような文である。この特徴を持つ動詞をまとめてGroupAと分類する。
( 1 6 ) a .
赤ちゃんがものすごい雷の音にびっくりした。(基本動詞用法辞典,p. 444) b.彼は大きな物音に驚いた。(基本動詞用法辞典, p. 102)Group A:~ にびっくりする、(雷の音)に驚く、(思し、がけないプレゼント)に喜ぶ、~にぎょっ
とする、等。
このグループに入る動詞のアスペクト的特徴とその品詞、さらに、その動詞をもっ文のアスベ クチュアリティを前節の言語テストを用いて客観的に観察してみる。
(17)のように受動態が不可であること、一般的に目的語と共起する助詞『をjとの交替ができ ないこと (18)から、このグループの「びっくりするj、『驚くJは自動詞であると考えられる。
(17) a. *ものすごい雷の音が赤ちゃんにびっくりされた。
b.傘大きな物音が彼に驚かれた。
(18) a.*赤ちゃんがものすごい雷の音をびっくりした。
b.*彼が大きな物音を驚いた。
助詞「にJと共起する名詞句は、 (19)のように、助詞「でJと交替ができることからも、その 意味的特徴はびっくり したり驚いたりした「原因Jと考えられる。
qJU q δ
(19) a.あかちゃんがものすごい雷の音でびっくりした。
b.彼が大きな物音で驚いた。
その r~ に名詞句 J を主語にした使役化をしてみると、 (20) のように可能であることから、' の名詞句を動詞が表す感情を引き起こす「原因Jとする。
(20) a.ものすごい雷の音があかちゃんをびっくりさせた。
b.大きな物音が彼を驚かせた。
次に、「わざとjとし、う意図性を修飾する副詞との共起ををみて、非対格自動詞か非能格自動詞 かの分類をする。
(21) a.*赤ちゃんがわざとものすごい雷の音にびっくりした。
bア彼はわざと大きな物音に驚いた。
(21)のように意図性はないことから、非対格自動詞に分類できる。
動詞に「ているJ形を付加して、文のアスベクチュアリティをみるテストでは、このグループ の動詞を含む文では非文法的になる。
(22) a.キ赤ちゃんがものすごい雷の音にびっくりしている。(キ継続/傘結果の残存) b.*彼は大きな物音に驚いている。(ホ継続
1 *
結果の残存)(22a,b)の結果から、この文は一瞬の感情の動きを表し、且つ、その感情が長く残らないことを 示す。
含意関係からも (23)の文のアスベクチュアリティを観察してみる。
(23) a.*赤ちゃんがものすごい雷の音にびっくりした→赤ちゃんがびっくりしている。
b.*彼が大きな物音に驚いた→彼が驚いている。
ともに結果状態を含意しないので、テストからは到達動詞、達成動詞ではなく、「走るJと閉じ 活動動詞であることになるが、活動動詞を修飾する副詞 r~ 時間 j とも共起しない。
(24) a.*赤ちゃんが一分間ものすごい雷の音にびっくりした。
b.*彼は十秒間大きな物音に驚いた。
一方、到達・達成動詞を修飾する副詞 r~時間でJ との共起は可能である。
(25) a.赤ちゃんがものすごい雷の音に一瞬でびっくりした。
b.彼が大きな物音に一瞬で驚いた。
以上の結果をまとめると、 GroupAの動詞は非対格自動詞であり、その動詞をもっ文のアスベ クチュアリティは、一瞬の状態変化を表す「瞬間の到達Jである。変化結果の状態は存続せずす ぐに元の状態に戻る。この文を作る非対格自動詞の特徴を語集概念構造の形式を用いて、 (26)と 仮定する。
(26) odorok‑: [event SECOME STARTLED(x) [SY(y)]]
変項xは「経験者J、変項yは経験者が事前に知覚できない「原因Jの出来事が入る。 SE関 数がないのは結果残存を含意しないことを表す。
円︿U
円ぺ
U
3.2 Group B:
r
原 因 か つ 対 象Jの 意 味 を 持 つr ‑ I
二」、「対象Jのr‑
を 」 名 詞 句 と 共 起 す る 心 理 動 詞次のグループに入る心理動詞は、 GroupA の動詞と同様、 r~ に j 名詞句と共起するが、その 名詞句の文中における意味役割が、感情の「原因Jであり、かっ、その「対象jとも解釈できる
ような名詞句をとるものである。この特徴をもっ動詞を GroupBとして分類する。
(27) a.みんなが演奏の素晴らしさに驚いた。(広辞苑, p. 388,
r
経験者J筆者追加) b.母は私のプレゼン卜にとても喜んだ。(基本動詞用法辞典,p. 544)Group B: ~に呆れる、~に安心する、(演奏の素晴らしさ)に驚く、~におびえる、~にがっか りする、~に悩む、~に感動する、~に感心する、(プレゼント)に/を喜ぶ、~に/~を悲しむ、
~に/~を嘆く、~に/~を怒る、~に/~を楽しむ、~に/~をためらう、等。
Group Bの動詞の品詞を観察してみよう。まず、受身化が可能である。
(28) a.演奏の素晴らしさがみんなに驚かれた。
b.彼の成功の知らせは山田先生に喜ばれた。
助詞
r
こ,Jが「をJと交替するかどうかをみると、 (29a)の「驚くJは不可で(29b)の「喜ぶJ は可能である。(29) a.'"みんなが演奏の素晴らしさを驚いた。
b.母は私のプレゼントをとても喜んだ。
受身化が可能な点では「驚くJも「喜ぶJも他動詞的でがあるが、助詞「をJとの共起をみる と、「驚くjは自動詞であり、「喜ぶJは他動詞に分類される。この時点での品詞決定は早計であ るが、
r
こ,J名詞句と共起する場合には、「驚くJも「喜ぶJも自動詞として働き、受身形が可能 なことから、 GroupAより他動性を帯びてきて、「をJ名詞句をとる動詞に関しては、他動詞としても機能すると考えられる。このような受身形の主語になり、ある場合には「をJ名詞句と交 替する「にJ名詞句は、他動詞性をもっ動詞の感情の f対象Jと考えられるが、 GroupAの「にJ 名詞句が担っていた「原因jの意味の役割はどうであろうか。「でJとの交替をみてみよう。
(30) a.みんなが演奏の素晴らしさで驚いた。
b.母は私のプレゼントでとても喜んだ。
更に、「原因Jを主語にする使役化でも観察する。
(31) a.演奏の素晴らしさはみんなを驚かせた。
b.私のプレゼン卜は母をとても喜ばせた。
以上、このグループの「にJ名詞句は、受身化の主語になり助詞「をJとも交替が可能な場合 があることから、感情の「対象Jであり、かつ、「でJとの交替が可能であり、使役文の主語にな ることから、感情の「原因Jでもあることになる。ここで、この「にJ名詞句の意味役割を「原 因かっ対象j と表すことにする。
次に、意図性の有無を観察すると、 (32a,b)のように、動詞の意図を修飾する副詞は共起でき ない。
4 nぺU
( 3 2 )
a.キみんなが演奏の素晴らしさに意図的に驚いた。b.本母は私のプレゼントにわざと喜んだ。
c.母は私のプレゼン卜をわざと喜んだ。
この結果から、「驚くJ
r
喜ぶJともに「にJ名詞句をとる自動詞の場合は「活動Jや「達成Jよ りは、「状態J、「到達jのアスペクト的特徴を持っていることがわかる。「喜ぶ」が「をj名詞句 をとると、反対に、「活動Jr
達成J的アスペクトを担ってくる。「状態J
r
到達JIこ共通する語集概念構造上の含意はBEである。そこで、「驚くJr
喜ぶJが「にJ名詞句と共起する場合は、 GroupAと異なって、動詞の概念に BEが存在することを仮定 する。概念BEがあれば、「ているj形を付加するとその変化結果BEの部分を「ているJで実現 できる。一方、「をJ名詞句と共起できる「喜ぶJが「活動Jまたは「達成J的であるとすれば、
「活動J
r
達成Jに共通する概念として、動詞の概念、にACTの存在が考えられる。「ているJ形を 付加して感情が継続している読みがあれば、「ているJはその ACTを実現していることになる。( 3 3 )
a.みんなが演奏の素晴らしさに驚いている。(結果の残存) b.母が私のプレゼントにとても喜んでいる。(結果の残存) c.母が私のプレゼントをとても喜んでいる。(継続)( 3 3 )
の結果から、r l
こJ名詞句と共起する「驚くJr
喜ぶJをもっ文は変化結果を含意する「到 達Jのアスベクチュアリティであり、その動詞は BEを含意する「到達jアスベクトの特徴を持 つ。「をJ名詞句と共起する「喜ぶJをもっ文のアスベクチュアリティは喜んでいる感情がしばら く「継続jすることを示し、その動詞はACTを含意する「活動Jまたは「達成Jのアスペクト 的特徴をもっ。ここで、含意関係を観察し、その感情の結果と継続の含意が他の到達動詞や活動または達成動 詞と同様の振る舞いをするかどうかを見てみる。
(34) a. *みんなが演奏の素晴らしさに驚いた。→みんなが驚いている。
b.本母が私のプレゼン卜にとても喜んだ。→母が喜んでいる。
c.キ母が私のプレゼントをとても喜んだ。→母が喜んでいる。
(34a , b) が示すように、 r~ に驚いた J は現在も尚「驚いている j ことを含意しない。 r~ に/を 喜んだJ も同様である。 「ている」の言語テストで r~ に驚く J や r~ に喜ぶ J が到達動詞であり r~ を喜ぶ J が活動または達成動詞と判定できる結果が出たが、ここで心理動詞と非心理動詞を区 別する必要が示されている。閉じ達成動詞と分類されても、「氷が溶けたjはもはや元の氷には戻 らず溶けた状態が続くのに対して、人間の驚いたり喜んだりしたあとの感情は暫く継続すること があってもまた元の驚いていない、あるいは、喜んでいない状態に戻る。この元に戻るという点 で、同じアスペクト的特徴を担っていても非心理動詞とは異なる。
最後に、時間副詞との共起をみて、このグループの動詞をもっ文のアスベクチュアリティを決 定してみる。
時間副詞 r~ 時間で J との共起を観察すると、 (35a, b) は可能であるのに対し、 (35c) は付加で ある。
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