第 4 章 海外に向けた流通に関する工程・仕様
4.1 日本のマンガの海外展開の現状と流通に関する工程・仕様
本章では海外に向けた流通に関する技術的な課題を考察するにあたり、日本のマンガの 海外展開の現状を整理するとともに、制作された作品がどのような工程を経て、どのよう な仕様で流通しているのかを調査した。
4.1.1 国内事業者による海外向けサイマル配信
ここでは、日本の事業者が直接海外配信しているサービスの事例を取り上げる。4 つの 事例について、それぞれの翻訳言語とサービスの概要をまとめたのが下表である。翻訳言 語は、英語・中国語(繁体字)などが多い。
表 4.1 国内事業者による直接海外配信サービスの事例
配信事業者・サービス名 翻訳言語 サービスの概要 KADOKAWA・コミックウォーカー
英語・中国語
(繁体字)
日本向けと同様のフォーマットで、翻訳言語で 国内サーバから無料配信。WEB ブラウザーでも 閲覧可能。
DeNA・
マンガボックス
英語・中国語
(繁体字)
日本向けと同様の EPUB フォーマットで、翻訳言 語で国内サーバから無料配信。海外向けもほぼ 同時配信を実現。長いものでも 1-2 週間のタイ ムラグ。WEB ブラウザーでも閲覧可能。
学研パブリッシング・
マンガサムライスタイル 英語
日本向けと同様のフォーマットで、翻訳言語で 国内サーバから無料配信。WEB ブラウザーでも 閲覧可能。
ジーツーコミックス・
G2Comix
英語・中国語
(繁体字)等 数カ国語
日本語版データを元にフォーマットを変換し、
翻訳言語で App Store、Android マーケットのビ ューアアプリで提供。また iBooks 等に EPUB で 有料配信。WEB ブラウザーでも閲覧可能。
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4.1.2 海外事業者へのライセンス販売によるサイマル配信
ここでは日本の事業者が海外の事業者に配信を許諾(ライセンス)する形で海外配信し ているサービス事例を取り上げる。2 つの事例について、それぞれの翻訳言語とサービス の概要をまとめたのが下表である。サイマル配信を実施している企業として、VizMedia や Crunchyroll があり、前者は集英社週刊少年ジャンプ掲載作品をサイマル配信しており、
後者は講談社、少年画報社等の作品をサイマル配信している。
なお、この様な日本のマンガに特化した事業者のサービスによる配信の他に、Amazon の Kindle Store 等への配信もあるがそれほど多くはない。
表 4.2 海外事業者によるサイマル配信サービスの事例
配信事業者/日本側出版社
翻訳言語 サービスの概要 VizMedia/
集英社 英語 EPUB データ(JPEG)を英語で有料配信。
少年ジャンプ掲載作品をサイマル配信。
Crunchyroll/
講談社、少年画報社等 英語
独自ビューア向けのフォーマットで、英語で有料 配信(ただし、サイマル公開分の最新話は無料)。
取り扱っている作品は 60 タイトル(内、9 割がサ イマル)
・海外配信事業者との契約状況
現在、在米の VizMedia(小学館グループ関連企業)や、日本企業も資本出資しているア メリカ企業の Crunchyroll(テレビ東京が株主の一人)等、各国にマンガの配信事業者が 存在する。特にスマートフォン普及以降、新しい海外配信事業者が増加し、国内事業者に 配信許諾を要望する話は多くなっているが、国内事業者からこうした事業者への配信許諾 の契約はそれほど実現していない。
・印刷出版ライセンス先への配信ライセンス契約状況
海外での印刷翻訳出版と配信のライセンスに関しては、VizMedia などの一部の企業を除 けば、両者を一体で契約することはほとんどない。従来の印刷出版のライセンス契約先で ある現地の出版社が配信権を希望する場合もあるが、多くの国の出版社では、配信への対 応はほとんど進んでいない。
4.1.3 海外におけるマンガの印刷出版の現状
海外におけるマンガの印刷出版に関しては、海外の現地出版社と日本の出版社等がライ センス契約を結び、雑誌連載や単行本の形で出版されている。
一般的には、日本で単行本が印刷出版された後、海外の出版社から申し出があり、出版 社同士で翻訳出版のライセンス契約が締結される。そのうえで、日本の出版社等が旧版印
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刷用製版データ・下版データ、または、底本スキャンデータを提供する。これに対して海 外出版社が翻訳を手配し、フキダシの中の日本語を消して、その国の言語を入れた翻訳版 を作成する。最後に日本側出版社と作者が監修して、海外での印刷出版が行われている。
一方で、単行本と比べるとマンガ雑誌の印刷出版は、現地のマンガ、日本のマンガとも に事例は少ないものの、アメリカでは少年ジャンプが VizMedia から印刷出版されている。
中国でも、マンガ雑誌が発行されるようになり、日本の出版社と提携した出版社から発行 されている例もある。
ただし、雑誌の印刷出版はマンガの電子配信の普及と海賊版の影響により厳しい環境に あり、サイマル化か休刊かという選択を迫られている。事例としては、台湾における少年 ジャンプがある。日本より数週間遅れで作品を掲載していた現地の雑誌があったが、海賊 版の影響からサイマル化をするか、それとも廃刊かという状況となり、日本側も協力する ことでサイマル印刷出版が実現した。
特殊な例ではあるが、漫画家が直接海外の出版社と契約して作品を発表するケースもあ り、中国の雑誌に描き下しを連載している事例がある。こうした事例は必ずしも成功して いるとは限らず、失敗例は表には出てこないのが実情である。漫画家の直接進出はリスク が高く、それを理解した上で条件を明確にして契約を結ぶなどの対応が肝要である。
また、国内とは異なる市場環境であるため、海外で連載するのであれば、現地の嗜好や 事情を分かっている編集者がいないと難しいことも多い。例えば、中国でのマンガは、子 供向けが主流で対象の年齢層が低いうえ、絵面について、アニメやゲームと特に区分され ていない。そのため、アニメ的な絵が好まれ、綺麗な画面が欲しいと漫画家に要求される ことがある。また、現地の人は日本のマンガは話の展開が遅いと感じており、展開が早い ものが好まれるといわれる。
また、海外でも電子化が進む中、印刷出版が持つメリット、例えば付録を、どのように 電子配信で展開するか、という取り組みも行われている。かつて紙の米国版少年ジャンプ では、遊戯王カードを付録につけ人気を獲得したことがある。電子配信では付録をつけに くいが、米国の電子版少年ジャンプでは、定期購読をすると遊戯王カードを実際に郵送す るというプロモーションを行った。このように、電子配信で付録によるキャンペーンをど う実現するのかという模索もなされている。
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