5. 日墨 EPA 発効後の NAFTA 市場参入の可能性
5.2. 日墨 EPA の状況
5.2.1. メキシコのFTA・EPA締結状況
メキシコは、1994年に、米国、カナダとNAFTA(北米自由貿易協定)を締結、以降2004 年までの10年間に、中南米9カ国、EU(欧州連合)やEFTA(欧州自由貿易連合)などのヨ ーロッパ諸国31カ国(EUは現在27カ国、EFTAは4カ国)、およびイスラエルを合わせた 合計44の国々と、次々にFTA(自由貿易協定)を結んできた。
メキシコが結んだ数ある FTA の中で、メキシコに最も大きな影響をもたらしたといえるの が1994年のNAFTAである。NAFTA締結後、メキシコは相対的な人件費の安さを強みに、
米国、カナダへのメキシコ製品、特に自動車(完成車)の輸出を大幅に伸ばしてきた。自動車 産業、電気・電子産業をはじめ多くの製造業者が、同様に米国市場への輸出をにらみ、さらに 1億人を超えるメキシコ国内市場を目指し、次々と新しく工場を建設した。すなわち、メキシ コへの直接投資も、NAFTA締結を契機に増加してきた。世界最大の消費市場である米国に隣 接するという地理的優位性が、NAFTA締結でさらにその価値を高め、輸出と直接投資受入れ の増加を通じて、メキシコは大きな経済発展を遂げた。
2007年は国外からメキシコへの直接投資が前年の20.8%増の232億ドルとなり、過去2番 目となった。この大部分は製造部門に投資された。このうち米国からは47.3%、残りはEU主 要国からとなっている。
メキシコの小型車輸出実績
567 781
975 983 9631059
1434 1404 1314
117010941186
15371613
0 200 400 600 800 1000 1200 1400 1600 1800
1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005
2006 2007
千台
(出所)PROMEXICO
69 対メキシコ直接投資推移
13,826.00 17,972.90
29,749.80
23,679.10
16,245.70
23,573.7022,751.30 19,626.40
27,038.90
0.00 5,000.00 10,000.00 15,000.00 20,000.00 25,000.00 30,000.00 35,000.00
1999 2000 2001 2002 2003 2004 2005 2006 2007
FDI(百万ドル)
(出所)メキシコ経済省、外国投資局(Secretaría de Economía. Dirección General de Inversión Extranjera)
メキシコの主要FTA締結相手国
NAFTA 2 米国、カナダ
EU 27 (締結当初15カ国から、現在EU27カ国に増加している)
EFTA 4 アイスランド、ノルウェー、スイス、リヒテンシュタイン
中南米 9 コスタリカ、ニカラグア、ベネズエラ、コロンビア、ボリビア、チリ、
グアテマラ、ホンデュラス、エルサルバドル その他 2 イスラエル、日本
計 44
また、メキシコは、メルコスール加盟国であるアルゼンチン、ブラジル、ウルグアイ、パラ グアイとの間で、自動車および自動車部品について相互に特恵関税を適用する自動車協定を結 んでおり、特に、アルゼンチン、ブラジルとは完成車貿易が完全自由化されている状況にある。
5.2.2. 日墨EPAの経緯
日本とメキシコとのEPA締結の契機となったのは、2001年6月、小泉総理、フォックス墨 大統領会談である。2002年7月には、日墨共同研究会報告書が公開された。そこで、日墨EPA の意義は、以下のように述べられている。
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「日本にとってのメキシコは、中南米地域の中でも特に今後の発展が期待される国の1 つであるとともに、北米、中南米及び欧州へのゲートウェー(進出基地)として戦略的 に重要である」
「メキシコはこれまで、米、加、EU、EFTA、イスラエル及びいくつかの中南米の国々 など合計32ヶ国55と自由貿易協定を締結している。そのFTAネットワークは世界GDP の6割を占める。こうした市場への優先的アクセスを有するメキシコとの経済関係強化 は、日本企業の国際的なビジネス展開を図る上で重要な要素である」
「緊密な日墨関係が本来有するであろう経済上の利点はこれまで十分に活かされてこ なかった。日墨間の貿易・投資は絶対額では増加しているものの、双方にとって両国関 係のウェイトは低下している。特に、日本にとっての貿易相手国としてのメキシコのシ ェアは概ね横這いであるのに対し、メキシコの貿易相手国としての日本の地位は低下し ており、NAFTAやEU・墨FTAの締結により、メキシコの北米や欧州との貿易が急増 する中、メキシコの総輸入額に占める日本からの輸入額のシェアは1994年の6.1%から 2001年の4.8%に急減し、メキシコの総輸出額に占める日本への輸出額のシェアは1994 年の1.6%から2001年の0.3%へと漸減している。これは米が輸入額の68.0%、輸出額 の88.5%を、EUが輸入額の9.6%、輸出額の3.4%を占めているのに比べ明らかに低調 である。
投資についても、メキシコへ流入する対外直接投資に占める日本からの投資は 1994~
2001年の累計で3.3%を占めるに過ぎない。これは、米の67.3%、EUの18.6%に比べ 明らかに低水準である。日墨双方の利益となるような形で、日墨両国経済の本来有する 相互補完性が発揮されることを制約する問題を解決していくことは喫緊の課題となっ ている」56
また、同報告書は、日本が、欧米諸国と比較した場合の相対的不利により、欧米企業に市場 を奪われ、年間4000約億円の輸出利益が逸失していること、平均実効関税率16%の負担によ り、メキシコ国内での欧米企業との競争に勝てず、発電プラント事業等で、1,200 億円余りの 損失を出して撤退する例もあったことを述べている。
上のような問題意識の下、共同研究会は、以下の認識で一致し、日墨政府に対し、早期の日 墨FTA・EPA交渉の開始を提言した。
(1)1994年のメキシコによるNAFTA締結、2000年のEU・墨FTAの締結により、日本企 業が関税の面で欧米企業に比べ競争上不利な状況に置かれている。また、サービス、投資、政 府調達といった面でメキシコ政府はFTA締結国企業を未締結国企業より有利に扱っている。
55 日墨交渉当時の数である。
56 関連資料は、共同研究会付属資料
(http://www.mofa.go.jp/Mofaj/area/mexico/nm_kyodo/pdfs/nm_kyodo_06.pdf)を参照。
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(2)日墨双方は更なる市場開放を行うことで、両国において経済成長と雇用創出、そしてこ れは特にメキシコ側に当てはまることであるが、輸出先の多角化をもたらす余地がある。
(3)日墨両国間でのモノや投資の円滑な流れを実現するために、両国はビジネス環境整備や 貿易・投資促進のための様々な計画の実施において協力すべきである。
上に見るとおり、日本がメキシコとの FTA を強力に推進した背景には、メキシコが米国や EUと結んでいるNAFTA、FTAによって、日本がこれらの国との対比で、相対的に不利な状 況に置かれていることがあった。さらに当時、中国が世界の複数の国々との間で積極的にFTA 締結を推進しており(2001年にASEAN諸国とのFTA締結を発表)、FTA締結の低調の懸念 が、メキシコとの FTA 締結を後押ししたと指摘する者もある。前述の共同研究報告書では、
中国とメキシコのFTA締結のインパクトについても比較・分析されている。
日墨FTA・EPA締結の経緯
2001年6月 日墨首脳会談。小泉純一郎首相とメキシコのビセンテ・フォッ クス大統領間で、両国の経済関係強化のための FTA可能性の 包括的検討の必要性について合意。日墨共同研究会設置を決定 2002年7月 日墨共同研究会による「経済関係強化のための日墨共同研究会
報告書」公表
2002年10月 日・メキシコ首脳共同発表。FTA交渉を2002年11月開始で 合意
2004年3月 経済連携協定に関する大筋合意 2004年9月 メキシコ市にて署名
2005年4月1日 発効
5.2.3. 日墨EPAの効果と、日本鉄鋼業の参入状況
メキシコは、1994年にNAFTA発効、2000年にEUとのFTAが発効、2005年には日本と のEPAが発効している。ここでは、日墨EPA発効後の効果について、貿易額と投資額から検 証する。
まず、貿易推移を見ると以下の通りである57。
メキシコの主要輸出・輸入相手地域は、依然、圧倒的にNAFTA圏で、輸出の82.4%、輸入 の52.7%を占める。日本は、2005年のEPA発効から3年を経過した2008年を見ると、メキ シコからの輸入では約 46%の伸び、メキシコへの輸出では約 30%の伸びを示している。しか し、輸出先国としてのシェアは0.7%、輸入元国としてのシェアで5.1%を占めるにとどまって
57 資料はメキシコ銀行(Banco de México)発表をメキシコ経済省が取りまとめたもの。各年すべて、1~10 月の累計値で比較を行っており、通年値ではないことに留意されたい。
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いる。日本からの輸入額は大幅に増えているものの、2003 年にはメキシコの輸入額は、両国 間にEPA等の枠組みがない、中国からの輸入が、日本からの輸入を上回っており、EPA締結 を経ても、日中間の差は広がる一方である。2008年1~10月の中国の輸入シェアは11.1%に 達している。
なお、2000年にEPAが発効したメキシコ・EU間での貿易においては、EUはメキシコの 輸出に占めるシェアを 6.0%まで、メキシコの輸入に占めるシェアを 12.5%にまで伸長させて おり、我が国にとっては、メキシコをEUへのゲートウェイとして考慮する場合の最低限の交 易環境が整備されつつあると読むこともできる。
メキシコの輸出先地域
1994 2000 2002 2003 2005 2007 2008 2008年
シェア NAFTA 43,203.30 124,434.50 121,014.90 121,558.90 153,107.20 190,120.50 208,942.10 82.4%
南米 1,396.20 2,732.10 2,600.90 2,347.80 4,962.70 9,116.10 12,217.80 4.8%
EU 2,260.10 4,789.00 4,643.50 5,253.90 7,586.20 11,341.60 15,088.50 6.0%
EFTA 136.9 119.3 143.3 99.4 117.9 226.8 553.2 0.2%
日本 825.8 941.4 982.7 959.1 1,195.50 1,545.90 1,751.10 0.7%
(出所)メキシコ経済省 (単位:百万ドル)
メキシコの輸入元地域
1994 2000 2002 2003 2005 2007 2008 2008年
シェア NAFTA 46,078.70 108,630.20 92,344.80 90,103.40 101,462.20 122,562.60 140,240.50 52.7%
南米 2,149.90 3,242.80 4,387.50 5,271.10 8,569.60 10,358.00 10,403.70 3.9%
EU 7,429.50 12,147.10 14,025.20 15,245.50 20,739.90 28,043.10 33,159.80 12.5%
EFTA 439.3 687.2 714.4 749.3 973.7 1,199.10 1,480.10 0.6%
日本 3,949.60 5,310.40 7,911.50 6,204.70 10,517.70 13,392.00 13,658.00 5.1%
韓国 978.4 3,101.50 3,269.00 3,313.00 5,217.50 10,267.80 11,752.10 4.4%
中国 380.1 2,308.60 4,929.50 7,360.80 14,003.20 24,403.90 29,418.10 11.1%
(出所)メキシコ経済省 (単位:百万ドル)
一方、メキシコに対する外国直接投資(FDI)額の推移は下表の通りである。
米国は2001年をピークとしており、EUも2000年のFTA発効後緩やかな伸長を見せてい るが、日本は、2005年のEPA発効後も EUほどに顕著な伸びは見られず、1999年の12 億
3,270万ドルの投資額のピークを超えていない。メキシコへの投資は、メキシコに製造拠点等