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4 我が国における言語・方言の現状(三井はるみ)

4.2 方言衰退の現状

4.2.2 方言の文法的特徴の多様性と衰退の状況

方言の衰退は,一つ一つの単語の消滅だけでなく,文法的特徴の面にもはっきりと 現れている。文法的特徴とは,助詞・助動詞などの文法形式の語形,動詞・形容詞な どの活用,テンス・アスペクト・可能・推量・命令・条件・終助詞など様々な文法範 疇の表現のしかた等で,各方言の文の成り立ちに関する広範囲に及ぶ。

国立国語研究所編『方言文法全国地図』1~6(1989-2006,国立印刷局)は,このよ うな方言の文法事象に関する 267 項目に関する調査結果を示した全国地図集である。調査 は,1980 年前後に,全国 807 地点で行われた。話者は 1925(大正末)年以前生まれ(平均 1911 年)の,生え抜きの男性各地点1名である。『日本言語地図』と並んで,伝統的方言 の文法的側面の全国分布の様相を記録した資料と言える。そこで,4.2.1 と同様に,この 資料おける「共通語形」の分布状況と,井上(1997)の全国中学校調査の結果を対比する ことによって,この間の文法事象の共通語形の使用率の増加の様子を見ることにする。

図6は,「雨が降っているから行くのはやめろ」というときの,「から」にあたる部分(原 因・理由の接続助詞)を,各地でどのように言うかを示した,『方言文法全国地図』第 33 図の略図である(原図にはこの3倍以上の方言形が記載されている)。中部地方・鹿児島の ニ,近畿・北陸地方のサカイ,中国・四国・九州地方のケーの類(ケー・ケ,ケニ・ケン,

キー・キ等),沖縄本島のクトゥ,奄美大島・宮古・八重山諸島のバなどの方言形の存在を 見て取ることができる。また,共通語形と同じカラは,主として,関東地方から東北の日 本海側にかけて使われており,分布地域は限られている。量的に示すと,図6の原図であ る『方言文法全国地図』第 33 図で,共通語形と同じカラを使用している地点は,全体の 33.3%である(鑓水 2009)。

『方言文法全国地図』全6集のうち,第1~3集所収の 144 項目の地図について,都道 府県ごとに(東京は本土と島嶼部に分けて),共通語形の分布率を計算して地図化したもの が,図7である(鑓水 2009)。第1~3集の項目は,文法のうち,主として助詞と活用形 に関するものである。結果は,語彙についての分析結果である図3と似通っていて,やは り,共通語形の分布率は,関東西部から中部地方東部にかけて高く,東北や九州などの周 囲にゆくほど低くなっている。沖縄の共通語形の分布率が 0.13%と際だって低く,北海道

- 26 - 図 4.5 1993-96 全国中学校調査「かかと」

質問文

以下は,同じ意味のことばですが地方により言い方が違 うものです。自分が友達と話すときどれを使うか,教え てください。自分がふだん使うものを○で囲んでくださ い。使うものがふたつ以上あるときには,たくさん囲ん でいいです。

111. 足の裏の後ろ(絵 あり)

43.かかと 44.きびす 45.あくと 46.あど 47.知らない 22.他

井上史雄(1997)『社会方言学資料図集 ─全国中学校言語 使用調査(1993-1996)』p.47

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図 4.6 『方言文法全国地図』第 33 図「降っているから」の分布図(略図)

日高水穂・小西いずみ・竹田晃子(2010)「原因・理由表現の地理的概観」『全国方言文法辞 典資料集(1) 原因・理由表現』科学研究費補助金研究成果報告書,p.23 より

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図 4.7 『方言文法全国地図』第1~3集における共通語形の分布状況

※全国総平均は,35.8%

鑓水兼貴(2009)「共通語化過程の計量的分析 ―『方言文法全国地図』を中心として」

東京外国語大学博士学位論文,p.80 より

は東京並みに高いことも,図3と共通している。144 項目の平均共通語分布率は,35.8%

であった。

これを,井上史雄(1997)の全国中学校調査の調査結果と比較する。

井上(1997)の調査(1993~1996 年実施,対象者は中学生=1980 年前後生まれ)には,

調査項目として,『方言文法全国地図』第1~3集の 22 項目が含まれている。この 22 項目 について,『方言文法全国地図』と井上(1997)の調査の全国総平均共通語使用率を対比し て示すと,次のとおりである(鑓水 2009)。

『方言文法全国地図』 (話者平均生年 1911 年) 37.6%

井上(1997)全国中学校調査(回答者生年 1980 年前後) 87.3%

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話者・回答者の生年の差にして,約 70 年の間に,共通語形の使用率は 37.6%から 87.3%

へと2倍以上に増加し,9割に迫るまでになっている。

具体例を見てみよう,図6の『方言文法全国地図』第 33 図「降っているから」の略図で は,共通語形と同じカラの分布は,主に関東地方から東北の太平洋側に限られており,そ れ以外の地域では,様々な方言形が使用されていた。これに対する,井上(1997)の中学 校調査の結果は,図8のとおりである。福井・岐阜・三重のデ,徳島・香川・佐賀・長崎・

熊本のケンのように,比較的の使用率の高い方言形も見られるが,全国の大半の都道府県 では,共通語形であるカラが優勢になっている。カラの全国使用率は 86.6%であり(鑓水 2009),地域によっては伝統的な方言形が用い続けられながら,全体としては共通語の浸透 によって,方言形が使われにくくなっている様子がうかがわれる。