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新規 HCV RNA 依存型 RNA ポリメラーゼ低分子経口阻害薬の創薬研 究

ドキュメント内 池頭 和孝 (ページ 49-73)

3-1

緒言

1-4-1 で説明した通り,HCV RNAは宿主の遺伝子に組み込まれることなく,mRNAとし

て働き,ゲノムにコードされている様々な機能を有する非構造タンパク質を生成させる。非 構造(NS)タンパク質には, NS2/NS3間にコードされるNS2プロテアーゼ,NS3-4にコー

ドされるNS3-4プロテアーゼ,NS5Aにコードされる膜に結合するリン酸タンパク質そして

NS5BにコードされるHCV RNA 依存型RNA ポリメラーゼ(HCV ポリメラーゼ)が存在 する。15)

HCVポリメラーゼは,自身のRNAを複製させる酵素としてHCVの増殖に中心的な役割 を担っている。15c) したがって,HCVポリメラーゼの阻害はHCV RNAの複製を直接的に阻 害できる点,RNA 依存型 RNA ポリメラーゼが宿主であるヒトには存在しないことから安 全性も期待できる点において標的ターゲットとして最適と考え,著者が所属するグループ ではHCVポリメラーゼ阻害薬の研究を行っていた。我々は非核酸型のHCV ポリメラーゼ を阻害する化合物を見出すためにHCVポリメラーゼ1b 型タンパク質をターゲットとした HTS を実施して非核酸型ベンゾイミダゾール系化合物を見いだし,合成展開することで化 合物24, 25, 26 (JTK-002, -003, -109)を臨床化合物として得ていた (Figure 19)。48)

Figure 19. 化合物24, 25, 26 (JTK-002, -003, -109)の化学構造48)

46

ベンゾイミダゾール系化合物24, 25, 26のHCVポリメラーゼとHCV replicon細胞49) で のRNA複製阻害活性をTable 11 に示す。48) 化合物26 のHCVポリメラーゼ阻害活性が 最も高い(HCV ポリメラーゼ IC50 = 0.017 μM)。 しかしながら,化合物 26 のreplicon 細胞でのRNA複製阻害活性(replicon EC50 = 0.32 μM)は期待より低く,臨床試験で十分 な治癒効果を発揮するには不十分と考えられた。そこで著者は,化合物26から細胞での RNA複製阻害活性の向上を目的に骨格変換を実施した。

Table 11. 化合物24, 25, 26 のHCVポリメラーゼとreplicon細胞でのRNA複製阻害活性

Compd HCV ポリメラーゼIC50

(μM) a

Replicon EC50

( M)b

24 0.041 Not tested

25 0.027 Not tested

26 0.017 0.32

a HCV NS5B544 1b型ポリメラーゼ酵素 50) を用いてRNA複製(合成)量を評価した。48) 化合物の阻害活 性は放射活性を50%阻害する濃度をIC50 として表記した。IC503回の実験の平均値を示した。

b 1b型のHCV遺伝子およびルシフェラーゼ遺伝子を組み込んだHCVレプリコン細胞49) を用いて,HCV 遺伝子の複製を評価した。48) 化合物の阻害活性を50% 阻害する濃度をEC50として表記した。EC503 の実験の平均値を示した。

47

3-2

化合物

26

をシード化合物とする

HCV

ポリメラーゼ阻害薬の新規骨格の

探索

化合物25, 26 を創製する中でベンゾイミダゾール環C2

位に置換したベンゼン環(C2-ring)のオルト位の置換基はフッ素原子が最適であることを見出していた。48a, b) Table 12

にHCVポリメラーゼ阻害活性値を引用すると共に,置換基の嵩高さを表す指標として置 換基の最大幅を示すB451) と置換基の電子的効果を表すHammettのσp52) を示す。こ れらの値から,阻害活性は置換基の電子吸引性,供与性とは相関が無く,置換基の立体的 な要因によるものと示唆された。この位置の置換基はベンゾイミダゾール環とベンゼン環

(C2-ring)の二面角に影響を与えることから,フルオロ基の場合にHCVポリメラーゼタ ンパク質との結合に最も有利な二面角のコンフォメーションを化合物が取り得たと考察し た。

新規のHCVポリメラーゼ阻害薬を見出すために,二つのステップで作業を行う戦略を立 てた。ステップ1として上述した構造活性相関を参考に新規骨格の創出を,ステップ2とし て新規骨格の複合体構造情報を利用して効率的な置換基導入を実施することによる薬理活 性向上と物性改善を実施する計画を立てた。

Table 12. C2-ring 2位の置換基のHCVポリメラーゼ阻害活性に対する影響48a, b)

X HCV ポリメラーゼ

IC50 (μM)a B4 b σp c

H 0.30 1.00 0.00

F 0.10 1.35 0.06

Cl 0.35 1.80 0.23

CF3 0.93 2.61 0.54

OMe 1.1 2.87 -0.27

a HCV NS5B544 1b型ポリメラーゼ酵素 50) を用いてRNA複製(合成)量を評価した。48) 化合物の阻害活 性は放射活性を50%阻害する濃度をIC50 として表記した。IC503回の実験の平均値を示した。

b ref. 51) c ref. 52)

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ステップ1 化合物の剛直化を利用した新規骨格の創製

ベンゾイミダゾール系化合物の構造活性相関(Table 12)から 6,5-二環性複素環とC2-フ ェニル環の二面角を最適な角度(活性コンフォメーション)で剛直化することで酵素阻害活 性の向上を指向した。化合物の活性コンフォメーションでの剛直化は,化合物とタンパク質 が結合する時のエントロピーの損失を最小限に抑えることによる親和性向上が期待できる。

そのために, Figure 20 のように6,5-二環性母核とC2-ring を環化し,コンフォメーショ ンの剛直化を指向した構造VIを設計した。

Figure 20. コンフォメーションを剛直化する化合物設計

ベンゾイミダゾール骨格V と設計した化合物の一般式VIを示した。環化する環構造を赤色で,単結合も しくは二重結合の結合を破線で示した。X, Y, Z は炭素原子,酸素原子,窒素原子,硫黄原子のいずれか を示す。

ステップ2 複合体構造情報を利用した置換基導入による薬理活性向上と物性改善 化合物VIのように環化することでコンフォメーションを剛直化した新規母核を創出した 後に,結合ポケット周辺に置換基を伸長して物理化学的性質を改善する戦略を行うことに した。その際,HCV ポリメラーゼと化合物との複合体結晶を取得して,複合体構造情報を 参考に効率的に置換基の導入を実施することにした。

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ステップ 1 およびステップ 2 の新規骨格の探索において,合成する目的化合物の化学構 造の一般式をFigure 21 に示す。

Figure 21. 目的化合物の化合構造の一般式

Xは酸素原子,窒素原子,硫黄原子のいずれかの原子を示す。メチレン鎖は n = 0 3R1, R2は置換基を示 す。R2Xが窒素原子の場合のみ導入可能。

50 3-3

化合物の合成

本章中の化合物はScheme 4–6 に示すように合成した。53)

化合物 31 は公知の2-ブロモ体27 54) を出発原料としてScheme 4に示すルートで合成し

た。化合物27 とフェニルボロン酸誘導体28 との鈴木-宮浦カップリング反応 55) により中 間体29を得た。29のインドール環N上にBrCH2CH2OTHPを水素化ナトリウム存在下でア ルキル化し,その後,酸性条件下でTHP基とMOM基を同時に脱保護し,得られたトリオ ール体を分子内光延反応 56) で環化して四環性化合物 30 を得た。化合物30 のフェノール 性水酸基を炭酸カリウム存在下DMF中でベンジル化し,エステル基をアルカリ加水分解す ることで化合物31を得た。

Scheme 4.

Br HN

OMOM

MOMO

HN (HO)2B

MOMO

OMOM

HO O

N

31 27

28

29

30

BnO O

N Pd(PPh3)4, Na2CO3, LiCl

DME-H2O

1) BrCH2CH2OTHP NaH, DMF 2) 6 N HCl aq.

THF-MeOH 68% (2 steps) 3) DIPAD, PPh3

THF 66%

1) BnBr, K2CO3

DMF 94%

2) 4 N NaOH aq THF-MeOH 48%

OMe O

OMe O

OMe O

OH O

MOM = O THP = O

Bn =

THF = O

DMF = N O DIPAD = O N

O

N O

O DME = O

O

86%

51

化合物 35, 36, 39, 42, 43, 44, 49, 53 は,Scheme 5 に示すルートで合成した。

化合物 35, 36 (Case 1 (X = CH2)) は出発原料53 54) から3ステップで合成した。インドー ル環上 N 原子に対して水素化ナトリウムを用いてアルキルハライド 33 とアルキル化して 化合物 34 を得た。化合物 34 をPd触媒で分子内Heck反応,57) エステル基のアルカリ加 水分解を行って化合物35, 36 を得た。

化合物 39 (Case 1 (X = CH2)) は出発原料 27 54) から5 ステップで合成した。化合物 27 とフェニルボロン酸 37 の鈴木-宮浦カップリング反応を行い,酸性条件で THP基を脱 保護することにより化合物 38 を得た。得られた化合物 38 の水酸基を四臭化炭素とトリ フェニルホスフィンによる臭素化,水素化ナトリウムによる分子内アルキル化およびエス テル基のアルカリ加水分解によって化合物 39 を得た。

化合物 42, 43, 44(Case 2 (X = O)) は出発原料27 から 3 から 4 ステップで合成した。

化合物 27 とフェニルボロン酸ピナコールエステル 40 の鈴木-宮浦カップリング反応を行 なうことにより化合物41 を得た。フェノール体41 をジブロモメタンと炭酸カリウムを用 いてフェノール性水酸基とのエーテル化と分子内アルキル化を一挙に行い,その後,エステ ル基をアルカリ加水分解することにより化合物 42 を得た。また,フェノール体 41 と 1-クロロ-2-ブロモエタンおよび1-クロロ-3-ブロモプロパンとを炭酸カリウムを用いてフェノ ール性水酸基とエーテル化した後,水素化ナトリウムで分子内アルキル化およびエステル 基のアルカリ加水分解することにより化合物 43, 44 を得た。

化合物 49(Case 3 (X = NH))は出発原料 27 から 5 ステップで合成した。化合物 27 と アミノボロン酸ピナコールエステル 45 の鈴木-宮浦カップリング反応を行なうことにより 46 を得た。アニリン体 46 を酢酸ナトリウム存在下でクロロアセチルクロリドとアミド化,

水素化ナトリウムで分子内アルキル化することで四環性のラクタム体 47 を得た。ラクタ

ム体47 をBH3 / THF で還元してジアゼピン化合物 48 を得た。48 のエステル基をアルカ

リ加水分解することにより化合物40 を得た。

化合物 53(Case 4 (X = S)) は出発原料 27 から 6 ステップで合成した。化合物 27 を Pd 触媒存在下ピナコールジボランでインドールボロン酸ピナコールエステル体 50 を合 成し,別途調整したブロモ体 51 と鈴木-宮浦カップリング反応を行うことで化合物 52 を 得た。化合物52 を酸性条件でTHP 基を脱保護した後,水酸基をメタンスルホニルクロリ ドとトリエチルアミンでメシル化し,水素化ナトリウムで分子内アルキル化およびエステ ル基をアルカリ加水分解することにより化合物 53 を得た。

ドキュメント内 池頭 和孝 (ページ 49-73)

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