• 検索結果がありません。

32

6

章 新しい社会保険制度の提案

33

6.2 新しい社会保険制度の構築

6.2.1

就労履歴登録機構(就労管理システム)の活用

本文、第4章4.2の中央建設業審議会において、社会保険未加入対策の具体化に関する検討会で、

具体的な取組方策に係る検討が行われている。その中で、労働者のIDを使って法定福利費が払わ れたかどうかを建退共と同時に確認するとか、民間で進めている就労履歴管理制度を利用できない かの検討がされている。ここで、就労履歴管理制度の仕組みを紹介する。

民間で進めている就労履歴管理制度の取組みとして、2011年12月1日に一般社団法人就労履歴 登録機構が立ち上げられている。その就労履歴登録機構は次のようなものである。

【就労履歴登録機構】

(新技術調査レポート 就労管理システムへの新たな展開

(一財)建築コスト管理システム研究所・新技術調査検討会より抜粋)

就労履歴登録制度の実運用に向けた活動

就労履歴管理制度構築に向けた一連の活動の集大成として、これまでの調査・実証実験等で指導 支援を受けた行政機関や審査機関との連携を踏まえて設立された一般社団法人就労履歴登録機構 はユーザー企業を正会員に、ASP などシステムやその構成要素を担うシステム構築に関わる企業 を賛助会員に、システム運用の支援促進を担う(独)勤労者退職金共済機構、(一社)建設産業専門 団体連合会、全国建設労働組合総連合を特別会員として2011年12月スタートしているが、本年6 月元請企業の団体である(一社)日本建設業連合会が特別会員として参加することとなり、建設産 業界一丸となった体制が整いつつある。

1)就労履歴登録制度の目的

RFIDや無線ネットワークなどのICT技術を活用して就労者と関係団体・企業で就労履歴、技能 情報などを共有し、各々の権限に応じてそれらの情報を登録/閲覧できる基盤を構築することで、

就労者の処遇改善と技能向上を図り、建設業界における課題を解決し、業界全体の発展に繋がる仕 組みを目指している。

2)運用体制(図-4)

膨大な人数の建設技能者に就労カード(ICカード)を就労時常時携行してもらうためには、かな りしっかりとした運用体制を確立する必要がある。それには、建設技能者にカードを効率よく配布・

更新する仕組み(就労カード発行処理)とすべての現場でデータが確実に収集・蓄積される仕組み

(就労履歴登録システム運用)が用意されなければならない。

就労カード発行処理で大切なのは、本人確認の正確さと本人に間違いなくカードが手渡されるこ とである。これにはパスポートや運転免許証の交付申請が参考になる。

一方、運用では、建設技能者、雇用企業、元請企業それぞれに確実かつ迅速な処理が求められる。

例えば、建設技能者は現場での入退場時にカード読み取りを忘れずに行うこと、雇用企業は建設技

34

能者全員のカード取得を管理すること、元請企業は工事開始時に工事概要や下請け業者を登録する こと等々が挙げられる。これらの処理と運用が軌道に乗れば、大きな効果が期待される。

なお、費用については、一旦インフラを整備すれば運用費用を国費などに頼らずとも、それぞれの 関係者が少額を負担することで賄えると試算されている。更に近年 ICT の飛躍的進歩のおかげで 運用システムにクラウドなどの技術を用いれば、初期投資も非常に安価で済む。

図-4 就労履歴登録制度システムの運用 出典:登録機構HP 3)課題

一方で、制度をスムーズに運用開始するためには、実際にデータ処理を行う人々にとって一目で 使い方が分かるようなユーザビリティの高いシステムを作ることと、利用方法を利用者それぞれに 対し丁寧に説明することが必須となる。ここには最大限の注力をする必要がある。更に、現場によ って運用を開始しているところとしていないところが混在すれば大いに混乱を招くことになる。

制度は地域毎でもよいが、とにかく一斉に開始するべきである。

4)期待される効果(図-5)

制度が開始されることで次のような効果が期待される。

① 建設技能者

・様々な資格・免許を1枚のカードで携帯できる。

・自身の就業状況を確認できる。

・資格や経歴(就労履歴)情報を再就職や収入の向上に活用できる。

・社会保険金の確実な受給を確保できる。

・過去の就業に起因する健康被害(例:アスベストなど)への対処の迅速化が図れる。

35

・就労履歴データが退職金(建退共制度)受領の元データとして使える。

② 雇用企業

・就労データが自動的に得られることによる労務安全や勤怠管理業務の省力化。

・採用時の資格・教育履歴の確認による技能の確かな身元のはっきりした人材の確保。

・社会保険・退職金手続きの効率化。

・労災の実数加入が実現。

③ 元請企業

・作業者入退場セキュリティ管理、作業日報・作業指示書の作成など労務管理の効率化。

・社会保険加入確認の自動化。

・退職金処理業務の効率化。

④ 業界・社会全体

・無保険者や犯罪者等の排除。

・組織的な教育・訓練に活用。

・社会保険未加入問題対応ツールとして活用。

・災害発生時の復旧人材の確保。

図-5 就労履歴登録制度運用の効果

36

6.2.2

建設業社会保険金共済機構(建社保共)(仮称)の創設

中小企業社会保険共済法という法律を制定する。その法律に基づき、建設業社会保険金共済機構 (建社保共)(仮称)を創設する。建設業の事業主が当機構と社会保険金共済契約を結んで共済契約 者となり、当機構が建設業の事業者・建設技能労働者の代わりに関係部署に社会保険料を支払う。

建設技能労働者の社会保険料は個人負担金・事業主負担金も建設業退職金共済(建退共)の建退共証 紙の仕組みと同じように、社会保険証紙(仮称)を以て納付した証とする。また、社会保険料は消 費税のように工事金額に含まないこと。納付する社会保険料の算定は契約時に行うこと。納付は元 請け会社が一括して当機構に納付すること。納付金額は賃金台帳を元に行うこと。納付記録は建設 ICカードの仕組み等を利用する。などを取り決める。

この制度を構築すれば、建設事業者は工事をすることで、社会保険は必然的に加入となり、事業 主負担金は工事をすることで、自動的に納付となる。また、労働者は社会保険証紙(仮称)が社会 保険納付の証明となる。

前項で、就労履歴登録機構における就労履歴管理制度の取組みを紹介した。就労履歴管理制度の 期待される効果の中で、建設技能者、雇用企業、元請企業、業界・社会全体における社会保険未加 入問題対応ツールとして活用できることが期待されている。そこで、この就労履歴管理制度の仕組 みを運用している就労履歴登録機構と、建設業社会保険金共済機構(建社保共)(仮称)の仕組みを 上手く活用できないのかとの提案である。(図-6)

図-6 新しい就労履歴登録制度システムの運用

37

図-7 新しい社会保障給付費の概念図

建設産業の徴収社会保険料は、発注者より現場管理費として元請企業に、一次・二次以降の下請 業者(専門工事業者)に法定福利費として流れ、それぞれの企業は事業主負担を、建設労働者は各々 社会保険料を納付している。重層下請け構造や就労形態により、すべてが適正に処理されているの かは疑問である。そこで、まずこの流れを断ち切り、就労履歴登録制度システムを利用する。

当然ながら、このシステムに入るには社会保険に加入することが必要である。加入していること が前提で、このシステムが動いているからである。社会保険に加入しなければこのシステムに入れ ないのではなく、このシステムに入れば社会保険に加入できるという考え方・仕組みが必要である。

就労履歴登録機構における就労履歴管理制度の取組みでは、建設技能者の社会保険金の確実な需 給、雇用企業の社会保険手続きの効率化、元請企業の社会保険加入確認の自動化が期待されている。

確かに、確実に効率的に社会保険加入が確認できる。しかし、根本的な社会保険未加入問題の解決 にはならない。就労形態・給与支払形態の違いのある多種多様な建設技能労働者・小規模事業者を 一方的な仕組みで網羅することは難しい。

そこで、建設業社会保険金共済機構(建社保共)(仮称)を創設し、当機構が建設業の事業者・建 設技能労働者の代わりに関係部署に社会保険料を支払うのである。建設業の事業主は建設業社会保 険金共済機構(建社保共)(仮称)と社会保険金共済契約を結んで共済契約者となり、当機構を通し て関係部署に社会保険料(事業主負担・労働者負担分とも)を支払うことにするのである。そうす

関連したドキュメント