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建設投資と売上高が減少するなかで、技能労働者を非社員・非常勤・日給月給制へ移行すること で雇用環境が悪化し、若年者が減り、高齢化が進んでしまった。

給与形態や保険などが社員とは別待遇の“直用”や“準直用”といった関係で技能者を雇用して いる企業があり、年金・医療・雇用保険を始めとして社会保険が十分でない場合も存在し、処遇が 悪くなったことから若年者の入職者が減少している。保険未加入企業が存在するために、社会保険 や人材育成を真っ当に行うとコスト面で負けてしまうという状況が発生しており、企業間の健全な 競争環境を構築する必要がある。

5.2 建設技能労働者の就労・給与支払い形態の現状

国土交通省土地・建設産業局建設市場整備課出典の【建設マネジメント技術2012年1月号「建 設技能労働者の人材確保のあり方」について】の中で「建設技能労働者を巡る現状」として以下の 記述がある。建設技能労働者の現状を物語っている記述として紹介する。

「わが国の建設投資は,平成4年度の約84兆円をピークにその後は減少してきており,平成2 3年度見通しでは,ピーク時から約45%減の約46兆円となっている。この間の建設企業の経営環 境の変化について,財務省「法人企業統計」の資料から分析すると,売上高減少局面の下,建設企 業では,企業経営を維持していくために 16~18%の売上高総利益率(粗利率)を確保しているも のの,売上高販売管理費率の上昇(H4;13.7%→H21;17.0%)により,売上高営業利益率が低下

(H4;3.8%→H21;1.1%)していた。」(図-3)[出所:財務省「法人基本統計」]

図-3 売上高総利益率、販管費率、営業利益率の関係

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このデータから推測するに、建設企業の売上高は減となったが、会社経営を維持していく経費は 確保していることを示している。また、労働者の賃金に対して以下の記述で表現している。

「一方,賃金は一般的に,売上高に比例して変動する材料費等とは異なり変動しにくいことから,

売上高が減少した場合,通常は売上原価率が上昇し,粗利率は低下することとなる。しかしながら,

前述のように,売上高減少局面において,粗利率が一定の範囲において推移していることは,売上 原価率(売上原価の多くは労務費,外注費等の工事原価である)の上昇が抑えられていることを示 している。実際に,建設産業全体で見ると,技能労働者数は,ピーク時の平成9年から21年に至 る過程で約 25%減少しているが,その間の建設投資額は約 44%減少しているところである。技能 労働者数の25%減だけでは,粗利率を一定に保つだけの売上高減に対応した売上原価の減少にはつ ながらない。そこで,この間の1人当たりの給与水準の変化を見てみると,企業規模2,000万 円未満の建設業に従事する従業員の年間給与は,平成9年から21年にかけて約 18%低下してお り,建設投資の減少44%を技能労働者数の減少25%と1人当たり給与の低下 18%により吸収して いる構図が見られるところである。」と論じている。

会社経営の経費は確保できているが、利益は低減している。会社経営を維持するために、技能労 働者の1人当たりの給与を18%低下させて維持していたことを示している。では、どのような形で 給与を低下させているかを次に論じている。

「前述のように賃金は一般的に固定費であるため,単純には引き下げることはできないもので あり,建設産業では,この間,建設技能労働者の就労形態について自社雇用から請負等の外部化 を進め,また,雇用者についても給与支払形態を月給制から日給月給制(1日当たりの賃金(日給) を定め,それに実働日数を乗じて月単位ごとに支払われる給与制)にシフトさせるなど,固定費か ら変動費に転換することにより,1人当たりの給与の縮減を行ってきたと考えられる。建設技能 労働者の就労状況等に関する調査(国土交通省)によれば,就労形態は常雇いが減少傾向にあ り,給与支払形態は月給制が減少し日給月給制が増加している。」(表-3,4)

就労形態・給与支払形態を変えることにより、事実上の賃金引き下げを行ってきたのである。

さらに、社会保険の事業主負担を負担しないで済む、非正規雇用化を進めてきたのである。

表-3 就労形態の状況 表-4 給与支払い形態の状況

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5.3 すべての建設技能労働者は加入するか?

厚生年金保険では、平成21年度公表のデータによると、給与から納付する保険料の総額(20歳 から60歳まで)と、老後に受け取れる年金総額(60歳時点の平均余命まで生存)は、次のとおり となっている。

保険料負担額 年金給付額

1960年生まれ (2010年で50歳) 2,200万円 6,200万円(負担額の2.8倍)

1970年生まれ (2010年で40歳) 3,200万円 8,000万円(負担額の2.5倍)

1980年生まれ (2010年で30歳) 4,500万円 10,400万円(負担額の2.3倍)

以上のように、労働者が受け取れる年金給付額は保険料負担額の 2.3~2.8 倍の率で受け取れる しくみになっている。公的年金制度は、自分の給与から天引きされる保険料に加えて、保険料の事 業主負担分や国の税金の投入も行われことで、老後に働けなくなって無収入となっても生活資金と なる一定の給付が受けられる制度である。

それなのに、小規模(個人)経営者は『経営が厳しいなかで保険料の事業主負担がこれ以上増えた ら経営が成り立たない』また、末端の建設技能労働者は『少ない給料から保険料を引かれたら生活 できない。労働賃金が安いので、少しでも手取りが多い方が良い。不安な将来より日々の生活を優 先する。公的年金制度は未納率が高く制度がもたないと聞くので、今さら入っても仕方がない。今 までも、これからも不安定な労働雇用環境であると思うので、社会保険加入金負担は大きい。した がって、社会保険料は行政や元請が直接支払ってほしい』と考えている。

建設産業の就業者数は平成24年総務省「労働力調査」によると、就業数は502万人である。そ の内、自営業主・家族従業者を除く雇用者数は411万人である。一方、社会保険の被保険者数(加 入者数)は216万人(平成24年)である。29人以下の小規模建設事業者と自営業主・家族従業者 を併せると350万人である。就労形態・給与支払形態の違いのある多種多様な建設技能労働者・小 規模事業者を一方的な仕組みで網羅することは難しい。建設技能労働者や小規模事業者が自主的に 社会保険に加入することを期待することは難しいのではないか。最終的には建設技能労働者の一部 は生活保護受給者になりかねないかもしれないのである。と考えると、弱者救済の観点からも建設 産業全体でより良い仕組みを考えるべきである。

表-5 建設業の企業別雇用者数の推移 (万人)

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章 新しい社会保険制度の提案

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