• 検索結果がありません。

文民の保護と「保護する責任」

 冷戦が終結した直後には、国際社会に新たな秩序が誕生し、永久の平和が訪れると楽観視さ れていたが、実際には、武力紛争や民族浄化によって多くの民間人(文民)が殺害される時代 に突入したのであった。ボスニアでは、スレブレニツァで無辜の男性や少年が虐殺され、ルワ ンダでは、少なくとも 50 万人もの男性や女性が鉈などで殺害された。

 このような時代にあって、国際社会に求められたのは、当然のことながら武力紛争における 文民の保護であった。1999 年には、国連安保理が文民の保護に関する初めての決議 1265[資料 97 ]を採択し、武力紛争において意図的に文民を攻撃の対象とすることを強く非難し、国際人 道法などの文民の保護に関する国際法上の規定を遵守するように要求した。また、国連安保理 は、特に保護を必要とする子どもや女性に関する決議も採択している(決議 1261[資料 95 ]、 決議 1325[資料 100 ])。

 このような文民の保護を実効的なものにするために、国連安保理は、紛争地域に派遣してい る国連平和維持活動(PKO)やその他のミッションに対して、文民を保護するための任務を与 え、必要なあらゆる措置をとるように権限を与えることになった。例えば、文民の保護に関す る任務が初めて与えられたのは、国連シエラレオネ・ミッション(United  Nations  Mission  in  Sierra  Leone:  UNAMSIL)であった(決議 1270[資料 98 ])。現在では、国連 PKO やその他 のミッションにおいて、文民の保護に関する任務が与えられるのが一般的である([資料 101,  資料 107,  資料 108,  資料 109 ]を参照のこと)。このような国連 PKO などの平和活動における 課題や展望をまとめたのが、平和活動に関するハイレベル独立パネル報告書(ホルタ・レポー ト)[資料 111 ]である。

 国連安保理の中で文民の保護に関する議論が高まる一方で、保護する責任(R2P)に関する 議論はより控えめなものであった。それでも、文民の保護に関する国連安保理会合において、

多くの理事国や加盟国が R2P に言及し、それが文民の保護の問題と深い関係にあることを主張 してきた([資料 101,  資料 105 ])。2005 年の国連総会首脳会合(世界サミット)成果文書[資 料 11 ]では、ジェノサイド、戦争犯罪、民族浄化、人道に対する罪から文民を保護する責任が 提唱され、それが国際社会における共通の理解となっている。文民に対する甚大な人権侵害が 発生した場合に、国連安保理が R2P に基づいた介入を実施できるかは、国際社会における議論 の深まりにかかっている。

178 第 4 章 文民の保護と「保護する責任」

第一の国連 第二の国連 第三の国連

時期①

総会決議 安保理議長声明

安保理決議 安保理議事録 時期② 安保理決議

安保理議事録 時期③ 安保理議事録 安保理決議

南スーダン派遣の PKO の

文民保護戦略 ホルタ・レポート

第 1 節 2001 年以前

 国連安保理や国連総会は、武力紛争や自然災害などの緊急事態において文民を保護するため の決議を採択してきた。1998 年、国連総会は、決議 43/131[資料 92 ]を採択し、自然災害の 被災国が被災者の人命に責任を負い、被災者の生命や安全を確保するために、国際機関や非政 府組織(NGO)と協力をすることを求めた。

 1999 年には、武力紛争において文民や子どもを保護するための決議が採択されている。国連 安保理は、子どもと武力紛争に関する初めての決議 1261[資料 95 ]を採択し、子どもに対す る殺害と暴行、性暴力、誘拐と強制移動、徴兵と徴用、学校や病院などの施設に対する攻撃を 強く非難した。また、国連安保理は、文民の保護に関する決議 1265[資料 97 ]を採択し、武 力紛争において意図的に文民を攻撃の対象とすることを強く非難し、全ての紛争当事者に対し て国際人道法、国際人権法、国際難民法などの国際法規の遵守を要請し、武力紛争における文 民の保護を要求している。文民を保護するための国連安保理の対応は、国連 PKO の任務にも 反映されることになった。例えば、国連安保理は、決議 1270[資料 98]を採択し、UNAMSIL の任務に、文民に対する窮迫した攻撃に対して、文民を保護するために必要な措置をとること を含めた。

 2000 年には、国連安保理は、「女性、平和、安全保障」に関する初めての決議を採択してい る。決議 1325[資料 100 ]では、全ての紛争当事者に対して、国際人道法などの国際法規を遵 守し、あらゆる形態の暴力から女性を保護するための必要な措置をとるように要請し、紛争解 決プロセスに女性を参加させることも求めた。

【資料 92 】国連総会決議 43/131(自然災害・緊急事態における被害者への人道支援)

UN  Doc.  A/RES/43/131 (1988 年 2 月 9 日)

 国連総会は、

 国連の目的の一つは、経済的、社会的、文化的または人道的な性質を有する国際問題を解決し、

人種、性別、言語または宗教による差別なしに、全ての人々の人権および基本的自由に対する尊重 を促進し、奨励することによって国際的協力を達成することである、ということを想起し、

 国家の主権、領土保全および国民的統一を再確認するとともに、当該国家の領域内で発生した自 然災害および類似する緊急事態の被害者を助けることは、何よりもまずそれぞれの国家の責任であ ることを確認し、

 自然災害および類似する緊急事態の被害者の苦しみ、人命の損失、財産の破壊、ならびに災害に よる人々の大規模な避難に関して深く懸念し、

 自然災害および類似する緊急事態は、全ての関係国の経済および社会計画に重大な帰結をもたら すということに留意し、

 国際社会が特に国連事務総長を通してなされた緊急人道支援の要請に迅速および効果的に対応す ることを望み、

 自然災害および類似する緊急事態の被害者への人道支援の重要性に注意し、

 健康と生命が深刻な危険にさらされうる、そのような被害者の生活維持および保護に対して国際 社会が重要な貢献をすることを確認し、

 人道支援なしに自然災害および類似する緊急事態の被害者を見捨てることは、人間の生命への脅 威および人間の尊厳の侵害であるということを考慮し、

 自然災害および類似する緊急事態の被害者が人道支援を受け取る際に経験するであろう困難を懸 念し、

 被害者へのアクセスが必須である人道支援、特に食料、医薬品または医療の供給においては、迅 速な救援が悲劇的な被害者の増加を防止すると確信し、

 政府および政府間組織の行動に加えて、こうした支援の迅速さと効率性は、しばしば、厳密に人 道的な動機から活動している現地の非政府組織の助力と援助にかかっていることを意識し、

 自然災害および類似する緊急事態においては、人道、中立性および不偏性の原則に対して、人道 支援を提供する全ての関係者から最大限の考慮が払われなければならないことを想起し、

1 .自然災害および類似する緊急事態の被害者への人道支援の重要性を再確認する。

2 .また、被災国の主権、ならびにそれぞれの領域内での人道支援の開始、組織、調整および実施 における国家の主要な役割を再確認する。

3 .厳密に人道的な動機から活動する政府間および非政府組織による人道支援の提供によって重要 な貢献がなされることを強調する。

4 .そのような支援を必要とする全ての国々に、被害者へのアクセスが必須である人道支援の実施、

特に食料、医薬品または医療の供給において、これらの組織の活動を促進するよう求める。

5 .それゆえ、全ての国々に対し、必要ならば、自然災害および類似する緊急事態の被害者に人道 支援を提供するために活動しているこれらの組織を援助するよう訴える。

6 .自然災害および類似する緊急事態にある地域の近隣諸国に対し、特にアクセスが困難な地方の 場合、被災国との緊密な連携のもと、人道支援の輸送を可能な限り促進することを目的として、

関連したドキュメント