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島田(1977)は数学的活動について,「既成の数学の理論を理解しようとして考えたり,数学の問題を解 こうとして考えたり,あるいは新しい理論をまとめようとして考えたり,数学を何かに応用して,数学 外の問題を解決しようとしたりする,数学に関係した思考活動」(p.14)と述べている.これを基盤として そのうちの「数学外の問題を解決する活動」に焦点化した先行研究として,長崎他(2004)の「算数・数学と 社会をつなげる力」が挙げられ,表2-1のように構造化されている.
表2-1:算数・数学と社会をつなげる力
長崎他(2004)は,「算数と社会をつなげる力に関する研究」において上記の4つの力について,それぞ れ次のように述べている.
○算数・数学と社会をつなげる力 A.社会における量・形についての感覚
A01.長さの感覚 A02.広さの感覚 A03.かさの感覚
A04.重さの感覚 A05.角度の感覚 A06.時間の感覚
A07.速さの感覚 A08.形の感覚
B.社会の問題を数学的に解決する力
B1.社会の現象を数学の対象に変える
B11.仮定をおく
B12.変数を取り出す
B13.変数を制御する
B14.仮説を立てる
B2.対象を数学的に処理する
B21.表・式・グラフ・図等で表現する
B22.操作を実行する
B3.社会に照らして検証する
B31.予測・推測をする
B32.修正する
C.社会において数学でコミュニケーションする力
C01.数学的表現から現象を読み取る,伝える
C02.数学を使った日常文を読み取る
D.近似的に扱う力
D01.近似的に式を立てる
D02.近似的に読み取る
44 A.社会における量・形についての感覚
社会の問題は,量や形として,算数・数学に関わってくる.量は数量化されて数となり,形は抽 象化されて図形となって,算数・数学の対象となる.社会の問題を扱う際には,数や図形が社会で はどのような意味を持つかということを直感的に理解していること,すなわち,社会における量・
形についての感覚を持っていることが必要である.
B.社会の問題を数学的に解決する力
算数・数学で,社会の問題を扱うには,それらを算数・数学の対象に変え,その上で算数・数学 の手法を使って処理し,さらにその結果を社会の場面に照らし合わせて検証することが必要である.
数学的モデル化の過程とも言われる.この過程では,社会の問題を数学的に解決する力が必要にな る.
C.社会において数学でコミュニケーションする力
算数・数学を社会で使う際には,算数・数学で表されたことの意味を社会に照らして読み取った り,一方で,日常文で表されたものから数学の意味を読み取ったりする,社会において数学でコミ ュニケーションする力も必要になる.
D.近似的に扱う力
算数・数学で社会の問題を扱ったり,算数・数学を社会で使う際には目的に照らし合わせて数量 化したり抽象化したりするために量や形を近似的に見たり,計算処理した結果を理想的な数として ではなく社会で扱える数として見なしたりする,近似的に扱う力が必要である.なお,近似的に扱 う力は,「式を立てる」ことと「読みとる」ことだけにした.従来の近似においては,近似式の扱い など,「近似の処理」も重要だったが,現在では電卓やコンピュータ等に任せることができると考え
た. (pp.5-6)
(※論文中ではA,B,C,Dをそれぞれ①,②,③,④と表記していたが,本研究の後述に影響を与
えるため,A,B,C,Dと表記してある.)
西村圭一,長崎栄三(2008)はこの力を「算数・数学と社会をつなげる力」とは,「社会における現象や問 題に取り組む際に必要な力や感覚」と述べている.その中で,上述している通り,Bの力は数学的モデル 化過程とも言われており,この4領域の関わりについて「「A.社会における量・形についての感覚」「D.
近似的に扱う力」はB,Cの背景で働く力である」と述べている.
また,長崎(2001)がこの力は数学的モデル化の過程における力であると述べていることもあり,このB の力は数学的モデル化過程での段階がほぼ網羅されている.つまりこの Bの力について意識して問題解 決することは数学的モデル化による問題解決では重要なことであると考える.さらに,B1に関する4つ の力は定式化の段階で特に重視されるべき力であると考える.本研究において定式化は「現実場面の問 題を単純化・理想化・近似したり,仮定を設定したり,さらに条件を整理することで,数学の問題場面 としておきなおすこと」と定めていたが,これらの力を問題解決において意識化することで,現実事象 と数学を関連付け,問題解決をすることにつながるため,本研究の目的を果たす要因となると考えられ る.
さらに西村,長崎(2008)が行った「算数・数学と社会をつなげる力の構造の精緻化」として,表 2-2 のように精緻化している.ここではBの力について抜粋して挙げておく.
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表2-2:「算数・数学と社会をつなげる力の構造の精緻化」(一部)
B.社会の問題を数学的に解決する力
B1.社会の現象を数学の対象に変える
B11.仮定をおく
性質:定性的な仮定,定量的な過程
状態:等しいとする,ないものとする,定める
B12.変数を取り出す
性質:質的な変数,量的な変数
関係性:依存関係のある変数,依存関係のない変数
B13.変数を制御する
性質:質的な変数,量的な変数 個数:制御対象の変数の個数
B14.仮説を立てる
性質:定性的な仮説,定量的な仮説 分野:数・式化,幾何学化(図形化)
変数:1変数,2変数以上
B2.対象を数学的に処理する
B21.表・式・グラフ・図等で表現する
事象:確定的な事象での表現
関数の表・式・グラフ,図・図形 不確定的な事象での操作
統計の表・グラフ,値(指数・指標,確率,統計量等)
B22.操作を実行する
事象:確定的な事象での操作,不確定的な事象での操作 B3.社会に照らして検証する
B31.予測・推測をする
性質:定性的な予測・推測,定量的な予測・推測 事象:確定的な事象での予測・推測
関数の表・式・グラフ,図・図形から 不確定的な事象での予測・推測
統計の表・グラフ,値(指数・指標,確率,統計量等)から
B32.修正する
契機:予測・推測と現実との相違,条件の変化 性質:定性的な修正
仮説 定量的な修正
観察・実験・測定方法,数学的モデルの適用範囲,数学的モデルの一部,仮説
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現実事象の問題解決で導き出す結論は,定式化においていかに仮定を設定するか,または単純化・理 想化したりするかによって,大きな違いが生まれてくる.ゆえに,この精緻化の特にB1の内容を,日常 事象の問題解決においてよりよいモデル化を志向し,問題解決がより現実に即したものにし,結論を導 き出すために,仮定を意識化させることは非常に重要なことであると考える.これにより,生徒の数学 観として現実事象と数学の関連も意識づけることにもつながると考えられる.
さらに西村圭一(2012)は自身の数学的モデル化過程を西村(2001)から「算数・数学と社会をつなげる力」
との関連から再度定めており,表2-3のように対応させている.
表2-3:「算数・数学と社会をつなげる力」との関連を意識した数学的モデル化過程
各段階における詳細は以下の通りである.
「社会の問題」
①解決したい,理解したい「社会の問題」に対して,数量化や幾何学化などをし,数学を適用しやすく する.(問題の翻訳)
②重要と思われる対象や関係を見出すとともに,保つべきことは何か,無視すべきことは何かを決定す る.また,必要なデータがあれば,収集する.(定式化)
「数学の問題」
③定式化した数学の問題に対して,関連のある,数学の分野を同定し,それに対する直感や知識を働か せ,数学的モデルを作成する.(数学的モデルの作成)
④数学的方法により,結論を得る.この過程で,新しい概念や方法,アルゴリズムなどを得ることもあ る.(数学的処理)
「数学的結論」
⑤数学的方法により得た結論を社会へ訳し戻す.(解の翻訳)
⑥結論は実際的か,合理的か,受け入れられかなどを検証する.(評価)
a)もし十分なら,他者に的確に伝える.
b)もし不十分だったり満足がいかなかったならば,①に戻り,その原因を突き止め,再び始める.
社会の問題」
数学的結論 数学の問題
評価 解の翻訳
数学的処理 数学的モデルの作成
問題の翻訳 定式化
数量化,記号化,
幾何学化など
仮定の設定,
条件の設定など
47 問題の翻訳:仮説を立てる
定式化:仮定をおく/変数を取り出す/変数を制御する 数学的モデルの作成:表・式・グラフ・図等で表現する 数学的処理:操作を実行する
解の翻訳:数学的表現から現象を読み取る,伝える/予測・推測をする 評価:数学的表現から現象を読み取る,伝える/修正する
全体:社会における量・形についての感覚/近似的に扱う力/算数・数学と社会のつながりに関す る意識・態度
このように西村(2012)の数学的モデル化の段階ごとに整理して見ると,「算数・数学と社会をつなげる 力」は各段階で働く考え方や能力を網羅的に捉えている.ここまでの西村,長崎(2008)の見解を整理する と,「算数・数学と社会をつなげる力」は数学的モデル化過程全体を通じて育成される力であると言える が,その中でもB,Cの力がまず中心にあって,A,Dの力がその背景にあることからも,まずはB,C の力に関して重視しなければならないのは明らかである.さらに,本研究では特に定式化について重視 したいと考えていた.先のB1の力はもちろん定式化における仮定の設定に関わる力である.ゆえに数学 的モデル化過程全体を通して「算数・数学と社会をつなげる力」全体を育成する意識は持ちながらも,
本研究では特に定式化に関わるB1の力を意識化しながら問題解決を進めたいと考える.これにより,生 徒の実態改善を目指す.
一方で,砂場拓也(2003)は「仮定の設定」に焦点を当てているが,先に筆者が調べたように,「仮定の設 定」には,辞書的に「仮説の設定」と「仮設の設定」の2つの捉え方ができると述べている.仮設につい て以下のような意味がある(広辞苑 第六版).
・仮設
①必要な時期だけ,仮に作り設けること.
②実際にないことを仮にありとすること.
この2つの捉え方については図2-2の通りである.
図2-2:「A.仮説に基づく単純化の過程」と「B.仮設に基づく単純化の過程」
A.仮説に基づく単純化の過程
①:観察・実験・調査・計算・推論
②:単純化 問題場面
① 仮説
②
書 き か え られた 問題場面
B.仮設に基づく単純化の過程
①問題場面の把握 ②:仮設の構成 ③:単純化 問題場面
仮設
書 き か え られた 問題場面
① ②
③
最初はできる限り単純な場面で考え,徐々に 元の現実場面に近づけていこうとする考え方