1.本研究で同定した数学的モデル化過程と開発した教材との関連
開発した教材は主に,東京書籍中学1年教科書「第5章-平面図形 第2節-基本の作図」の学習の 内容を活用できる.例えば基本作図の垂線,垂直二等分線,角の二等分線を始め,円についての内容の も扱える内容となっている.図形の作図について教科書等で習っているが,これまで実際の現実場面の 解決機会があまりなかったのではないかと考える.実際教科書を見ると,現実事象の問題解決に作図を 使うような問題は図3-26のような問題がある程度であった.
図3-26:作図を用いた現実事象の問題
一方,開発した教材は安全確保のため,効果的にミラーを設置できるかを,現実場面を解決するため に仮定をおき,作図を活用して問題解決を図れる教材となっている.また,平面と曲面ではこれほどま での違いが出ることに対して,経験ではあったかもしれないが,このように数学的な内容をふまえて確 認したことはこれまでなかったと思う.ゆえにこの経験は生徒にとって非常に貴重なものとなるはずで ある.
また本教材では幾何的表現による数学的モデルを考えている.ゆえに図による表現をもとに思考が進 められている.そして入射と反射の法則のもとで作図をして問題解決している.これは理科の内容を活 用しており,現実事象と数学を関連付けるために,様々な分野の既習の内容を活用して問題解決してい ることもこの教材の特徴であり,価値あるものであると言えると考える.
このように開発した教材は現実事象を数学的モデル化による問題解決を行ったと言える.さらに問題 解決の過程を本研究で同定した数学的モデル化過程に対応させ,整理していく.
まず第1章において,本研究では以下に設定する段階を経て,数学的モデル化による問題解決を行う こととしていた.
(1)数学的な問題場面の作成:現実場面の問題を単純化・理想化し,さらに条件を整理することで,
数学の問題場面としておきなおす.
(2)数学的モデルの作成:数学的な問題場面において,近似・仮定の設定をすることで数学的モデル を導く.
(3)数学的作業:数学的手法を用いて数学的結論を得る.
(4)解釈:数学的結論が現実的文脈に照らしてどのような意味を持つのかを理解する.
例3
左の図は,銅鏡の一部です.
もとの銅鏡の形を円とみて,
その円を作図しなさい.
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(5)評価:現実的文脈を考慮した結論を現実場面に照らして評価し,妥当であれば最終的な結論とす る.妥当でなければ仮定を見直すとともに,おき直す仮定を考え,問題解決の進展を図る.
まず「①現実場面における問題」があり,それを単純化・理想化し,さらに条件を整理することで,「② 数学的な問題場面」ができる.さらにこの場面で近似・仮定の設定をすることで,「③数学的モデル」が完 成する.三輪(1983)の述べる定式化がここまでの過程である.これを数学的作業により解決することで,
「④数学的結論」を得る.この数学的結論が現実的文脈に照らしてどのような意味を持つのかを解釈し,
「⑤現実的文脈を考慮した結論」を出す.これが最終的に現実場面に対して適切か評価することで,問題 解決がなされたとする.もし結論が妥当でなければ仮定を見直すとともに,おき直す仮定を考えること で問題解決を進展させる.以上の過程を整理し,本研究の数学的モデル化過程は以下の図3-27のように 同定した.
図3-27:本研究における数学的モデル化過程
本項では,この本研究における数学的モデル化過程に沿って,今回開発した教材がどのような問題解 決をしながら結論にたどりついたかを整理し,開発した教材が数学的モデル化による問題解決がなされ た教材であることを明らかにする.(1)~(4)の4つの場面ごとに,同定した数学的モデル化過程に対応さ せて整理していくこととする.整理した内容については以下のようになっている.
・(1)の場面:最も単純化された場面
数学的モデル化過程 主な問題解決の活動
①現実場面における問題 丁字路(図 3-1~3-4 の現実場面)にミラーを設置するとい う問題意識をもつ.
↓数学的問題場面の作成 2つの道路を直線として仮定し,その交点にミラーを点とし ておく.
②数学的な問題場面
③数学的モデル
①現実場面における問題
④数学的結論
⑤現実的文脈を考慮した結論
数学的な問題場面の作成
数学的モデルの作成
数学的作業 解釈
評価
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②数学的な問題場面
上図のような道路を直線と見た場面を考える.
↓数学的モデルの作成 自分の車をX,確認したい車をYとし,2つの道路の交点に ミラーを点としておくといった,位置に関する仮定をおく.
③数学的モデル
自分の車をX,確認したい車をYとし,位置を設定する.
↓数学的作業 ∠XO1Y の二等分線を引き,これに対する垂線で O1を通る ように引く.
④数学的結論 道路に対して45°の角度でミラーを設置する.
↓解釈 直線上にいればYを確認できる.
⑤現実的文脈を考慮した結論 道路上にいればYを確認できる.
↓評価 道路には道幅があるため,仮定をおき直して,問題解決する.
・(2)の場面:道幅を設定した場面
数学的モデル化過程 主な問題解決の活動
①現実場面における問題 道幅について仮定をおき,問題解決を行う.
↓数学的問題場面の作成 道幅を6mと仮定をおく.
②数学的な問題場面
上図のような問題場面を考える.
↓数学的モデルの作成 X,Y,ミラーの位置の仮定をおき直す.
Y
X O1
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③数学的モデル
Yの位置をO1より左に45m,Xを交差点手前1m,ミラー
を上記のB1~B3の3点におくという仮定をおき,それぞれ の場合を考えてみる.
↓数学的作業 上図のように 3 点における入射と反射の線を作図する.∠
XB1Y(B1は B2,B3におきかえる)の二等分線を引き,こ れに対する垂線で B1~B3それぞれを通るように引く.上図 のように3点における入射と反射の線を作図する.
④数学的結論 B1~B3各地点において以下の角度で設置する.
∴B1:44.01°,B2:37.93°,B3:50.09°
↓解釈 B1~B3各地点において上記の角度で設置すれば,Y を確認 できる.
⑤現実的文脈を考慮した結論 ミラーで確認してもYの1点のみでしか確認できない.
↓評価 ここまでミラーを点としてみてきたが,ミラーについての仮 定を変え,幅を持たせることとする(平面図では線分).
・(3)の場面:ミラーを平面鏡(平面図的には線分)とした場面
数学的モデル化過程 主な問題解決の活動
①現実場面における問題 ミラーに幅を持たせるように仮定をおき,問題解決を行う.
↓数学的問題場面の作成 ミラーの幅を60cmと仮定をおく.
②数学的な問題場面
左図のような問題場面を考える.ミ ラ ー の 中 心 の 位 置 は 道 路 端 よ り 30cm外側に設置する.
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↓数学的モデルの作成 ミラーの位置の仮定をおき直す.また,反射の性質について も再考する.今回は幅を持たせたことで,見える範囲に幅が できる.
③数学的モデル 上記の問題場面を想定する.ミラーを上記のC1~C3の3点 におくという仮定をおき,それぞれの場合を考えてみる.
↓数学的作業 上図のように 3 点における入射と反射の線を作図する.C1
~C3 のミラーの両端の点におけるミラーに対する垂線つま り対称軸を引き,この対称軸に対して対称になるように反射 の線を作図する.
④数学的結論 C1~C3各地点において以下の角度で設置する.
∴C1:43.77°,C2:37.92°,C3:49.61°
↓解釈 C1~C3各地点において上記の角度で設置すれば,Y を中心 に前後に幅を持った範囲で確認できる.
⑤現実的文脈を考慮した結論 実際のミラーではもっと広い範囲を見ることができる.
↓評価 ミラーを平面鏡としてみてきたが,ミラーについての仮定を 変え,曲面鏡であるとする(平面図では円の弧).
・(4)の場面:ミラーを曲面鏡(平面図的には円の弧)とした場面
数学的モデル化過程 主な問題解決の活動
①現実場面における問題 ミラーを曲面鏡であると仮定をおき,問題解決を行う.
↓数学的問題場面の作成 ミラーの幅を60cmと仮定をおく.
②数学的な問題場面
上図のような問題場面を考える.
↓数学的モデルの作成 ミラーの反射の性質についても再考する.今回は円周上にお ける反射であるため,円の接線等の知識を活用し,見える範 囲がより広くなる.
③数学的モデル 上記の問題場面を想定する.ミラーを上記のD1~D3の3点 におくという仮定をおき,それぞれの場合を考えてみる.
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↓数学的作業 上図のように 3 点における入射と反射の線を作図する.D1
~D3のミラーの両端の点と円の中心を結んだ直線が対称軸 となり,この対称軸に対して対称になるように反射の線を作 図する.
④数学的結論 D1~D3各地点において死角も考慮し,以下の角度で設置す る.
∴D1:35.61°,D2:29.26°,D3:41.17°
↓解釈 D1~D3各地点において上記の角度で設置すれば,Y を中心 に前後により広く幅を持った範囲で確認できる.
⑤現実的文脈を考慮した結論 死角等も考慮し,問題場面としても現実事象に近づいた状態 で問題解決ができた.
↓評価 現実事象に対して妥当な結論を導き出せた.
以上のように,本研究で開発した教材は,本研究で同定した数学的モデル化過程に沿った形で問題解 決が行えるようになっている.4つの場面を通じて場面が進展していくごとに数学的モデル化過程がより 充実したものになっている.数学的モデルとしてもより現実事象に即した状態へと変わっていき,問題 解決自体の質が向上していることから,数学的モデルが洗練され,問題解決が進展している.結論に関 しても,その場面ごとに解釈並びに評価を行うことで,振り返りを行い,理解を深めながら思考を進め ていくことができている.よって筆者自身もそうであったのだが,生徒も余裕を持って問題解決できる のではないかと感じた.ゆえに本教材は,同定した本研究における数学的モデル化過程の価値を生かし た問題解決が可能となる教材となっている.
2.「仮定の意識化」と開発した教材との関連
続いて開発した教材と「仮定の意識化」の関連を見ていく.清野(2006)は「仮定の意識化」の役割として 次の3点を挙げていた.
1) 解決過程や結果の妥当性を確認する役割 2) 数学的モデルを洗練する役割
3) 問を生成し,数学的モデル化を進展させる役割
本研究では「仮定の意識化」を重視することで果たされる役割の実現のためにすべき行為として,本 研究では「問を生成し,仮定を見直し,おき直す」の3段階による行為と定めていた.本項では,今回 開発した教材の問題解決の過程でいかに仮定を意識化しながら結論にたどりついたかを整理し,開発し た教材で「仮定の意識化」が可能であり,これにより,現実事象と数学が関連が意識できる教材であるこ とを明らかにする.(1)~(4)の4つの場面ごとに,3つの役割について整理していくこととする.整理し た内容については以下のようになっている.