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5-1.はじめに

大村湾内の海況変動は外海水の流入状況に大きく左右される.本研究で既に述 べたように,秋季季節遷移期の大村湾における海況変動は主に密度流によるもの であった.この密度流によって,外海水を含む湾口部水が湾奥部の底層へ進入し ていた.また,高密度となった外海水が湾口部に流入することにより,密度流は 強化されていた.このような湾外水の湾内への流入および湾内水の湾外への流出 は遊泳力をもたない,もしくは遊泳力の乏しい生物(プランクトン,卵稚仔,シ ストなど)の輸送に大きく関わっている.兼田ほか(2010)は,宇和海の下波湾 において,湾内上層で発生したKarenia mikimotoi赤潮が,外洋系水の湾内底層 への進入現象である底入り潮が発生した際に,上層で生じた湾外向きの流れによ って流出および消滅したことを示している.

このように湾内外の海水交換は,物理的・生物的に重要であるが,これまで大 村湾における海水交換を評価した研究はほとんど無い.そこで本章では,数値モ デルを用いて大村湾の流動を再現した上で,湾内外の海水交換の季節変動を明ら かにしようとした.

5-2.資料と方法

大村湾における外海との海水交換の実態を明らかにするために,大村湾の流動 状況を数値モデルにより再現した後,湾内水を仮想染料で標識し,その残留量の 時間変化を調べた.仮想染料は各月1日0時に計算領域全域に100 %の濃度で投 入した.また,佐世保湾口から流出した染料は再び戻らないという仮定を設け,

開境界から流入する水の染料濃度を0 %とした.投入した染料のうち第二湾口よ り奥部に残留したものについて,その濃度の水平方向の空間平均値を層ごとに算 出し,それを湾内の海水残留率あるいは単に残留率とした.この海水残留率は値 が高いほど湾内外の海水交換が小さいことを示す.

5-3.結果

5-3-1.大村湾内の海水残留率

2008年の大村湾内における湾内全体および鉛直6層それぞれの海水残留率の 時系列変動を図5-1に,投入から一カ月経過後の各月の染料の残留率を図5-

2に示した.これらの図から,大村湾内の海水は一ヶ月経過した時点でそのおよ

そ70~85 %が残留していることが分かる.月別に詳しく見ると,4~5月は湾内

の海水の残留率が比較的高く,一カ月経過後の残留率は80 %程度であった.6~

8月は残留率が中程度かやや低く,一カ月経過後の残留率は75 %程度であった.

特に,6~7月の残留率はほとんどの期間で中層以浅よりも底層の方が高いことが 分かる.9~10月は残留率が最も低く,一カ月経過後の残留率は70 %程度であり,

特に中底層において残留率の低下傾向が顕著であった.11月~翌年3月は残留率 が高く,一カ月経過後の残留率はそれぞれ78~85 %であった.なお,2~5月の 各層の残留率の時間変動は鉛直的にほぼ同様であった.

5-3-2.大村湾における流況の季節変化

以上のように大村湾における外海との海水交換は秋季に強化される一方で,冬 季や春季に弱まることが分かった.次に,そのような季節ごとの海水交換速度の 変動要因を調べるために,大村湾内の流況について季節ごとに検討した.数値モ デルを用いて求めた各地点および各水深の流向流速の計算値を月平均し,その6 月,9月,12月および3月の水平分布を,鉛直4層(表層,8m,14m,20m)

について,月別に図5-3から図5-6に示した.いずれの月も大村湾の湾口か ら第二湾口までの混合域の各層には強い反時計回りの循環が発生していた.以下

流れが生じていた.8 m層では,第二湾口付近に東から東南東向きの強い流れが 生じており,その流れは湾西部の北寄りで時計回りの循環流を形成していた.ま た,それに続く流れの一部は湾中央部南寄りで反時計回りの弱い循環流を形成し ていた.14 m層では,8 m層と同様の傾向が見られた.20 m層では,表層で見 られたように第二湾口付近の西岸で第二湾口へ向かう流れが生じており,その流 れは表層よりも強かった.

(2)大村湾の9月の流況

表層には,全体的に第二湾口へ向かう流れが生じており,その流速は第二湾口 付近で強かった.8 m層では,湾中央部から湾北部で第二湾口へ向かう流れが生 じており,その流れの主軸は湾南西を開始点とし,湾中央,湾北東.湾北を順に 通る大きな弧を描いていた.一方,津水湾では湾奥へ向かう流れが生じていた.

14 m層では,第二湾口から西岸沿いに南下する強い流れが生じており,それに 続く流れは南西部へ向かう流れと湾中央部南を通り津水湾へ向かう流れに分岐 した.20 m層では,第二湾口から湾西部の深みに沿って南下し,その後,湾奥 へ向かう流れが生じていた.

(3)大村湾の12月の流況

流況は複雑であったが,流向は鉛直的にほとんど変化が無く,全体的に流速は 小さかった.すなわち,湾北東部から北部に反時計回りの水平循環流,湾中央部 南西よりに時計回りの水平循環流,長崎空港南西沖に規模の小さい反時計回りの 水平循環流がそれぞれ生じていた.

(4)大村湾の3月の流況

流向は鉛直的にほとんど変化が無く,水平循環が卓越していた.表層と8 m層 では,第二湾口付近に東へ向かう比較的強い流れが生じており,それに続く流れ は時計回りに循環し第二湾口へ向かうが,一部はそれに続いて逆S字を描きなが

ら湾中央部,湾南西部,長崎空港南西沖を順に通り,その後,湾北東部,湾北部 の岸に沿って第二湾口部へと向かう流れにつながっていた.14 m層および20 m 層の流れの傾向は上層と同様であったが,上層で見られたような岸沿いに湾内全 域を一周するような流れは不明瞭であった.

5-4.考察

以上の結果より,夏季から秋季への季節遷移期に外海との海水交換が強化され ることが分かった.一方,冬季から春季は外海への海水の流出量は少なかった(図 5-2).このような季節による海水交換量の変化の理由を明らかにするために,

大村湾内の季節ごとの流況を調べた(図5-3~図5-6).外海水が大村湾へ 流入する場合,まず湾口部の非常に強い反時計回りの渦によって湾内水と混合さ れた後,湾内へ流入すると考えられる.そこで,外海水を含む湾口部水が湾内に どのように流入するかを明らかにするため,湾口部の渦から分岐して第二湾口か ら湾内へ流入する流れに注目した.その結果,海水交換が強化された9月には,

第二湾口を起点として湾南西部や湾奥へ向かう流れが生じていたことが分かっ た.この流れは第2章で示した密度流による鉛直循環の強化によるものと考えら れる.一方,海水交換が小さかった12月は第二湾口から湾内へ流入する流れは ほとんど見られなかった.また,3月および6月には,第二湾口から湾内へ流入 する水が湾北部で時計回りの循環流を形成していたため,湾内外の海水交換は主 にこの範囲に限定されていたことが分かる.

これまで大村湾の流動系については,辻田(1953)や福本(1997)が示した ように,針尾瀬戸から大崎半島‐宮浦を結ぶ第二湾口までの海域には反時計回り

の北寄りに時計回りの循環流が生じるなど,湾内の流況は季節や深度によって 様々なパターンを示した.また,湾内外の海水交換の強弱はその流況のパターン に対応して変動していた.今後,季節ごとに流向流速を湾内の広範囲で実測し,

その実態を確かめることが必要と考えられる.

図5-1 大村湾内(第二湾口以奥)における層ごとの海水交換率.仮想染料濃度は計算領域全域の初期条件(毎月1日0時)

を100,開境界を常に0とした.秋季(特に下層)で交換率が高かった一方で,冬季~春季ではどの月も交換率が低 かった.

図5-2 染料の投入から一カ月経過後の各月の残留率.

内の海水残留() 内の海水残留()

図5-3 6月における各層の流向・流速の月平均値の水平分布図.図はそれぞれ表層(水深1.2m,左上),中層(水深8m,

右上),中層(水深14m,左下),下層(20m,右下)である.矢印は流向を表し,色は流速[cm/s]を表す.

N N

N N

(cm/s)

(cm/s)

1.2m 8m

14m 20m

図5-4 9月における各層の流向・流速の月平均値の水平分布図.図はそれぞれ表層(水深1.2m,左上),中層(水深8m,

N N

N N

(cm/s)

(cm/s)

1.2m 8m

14m 20m

図5-5 12月における各層の流向・流速の月平均値の水平分布図.図はそれぞれ表層(水深1.2m,左上),中層(水深8m,

右上),中層(水深14m,左下),下層(20m,右下)である.矢印は流向を表し,色は流速[cm/s]を表す.

N N

N N

(cm/s)

(cm/s)

1.2m 8m

14m 20m

図5-6 3月における各層の流向・流速の月平均値の水平分布図.図はそれぞれ表層(水深1.2m,左上),中層(水深8m,

N N

N N

(cm/s)

(cm/s)

1.2m 8m

14m 20m

図5-7 (a)大村湾の流動系.辻田(1953)Fig. 5より引用.(b)大村湾の残差流によって形成される循環流.福本

(1997)図2.45より引用.

(a) (b)

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