第 7 章 食品製造企業の中国投資における留意事項
① 政治・行政面
(イ) 共産党が国家の行政、立法、司法及び情報・報道規制などすべてに亘り、最終的に指導・コント ロールする一党独裁国家であり、かつ三権分立ではなく、行政機構である国務院(内 閣)及び司法機構である最高人民法院(最高裁判所)は全国人民代表大会(国会)
に従属する下部機関である。従って、三権分立を基本とした自由民主主義、人権が 確保されている日本、欧米の先進国とは全く異質の政治体制(人民民主専制)であ り、共産党の意向次第では、突然の超法規措置または国家権力の強制措置が発動さ れる可能性も払拭しきれないため、政治・行政面におけるリスクが潜在することを、
まず念頭に置いて投資を検討する必要がある。
(ロ) 特に最近では日本との間に、歴史問題、尖閣諸島の領有権、排他的経済水域を跨 ぐ海底天然ガス油田採掘を巡る政治上の問題などがある。いずれも短期的に解決困
おける行政上の差別的対応、市民の反発、センセーショナルなマスコミ攻撃、ある いは些細な事に端を発する労務問題などが発生しやすい状況にあり、潜在的な経営 リスクとなっている。
(ハ) 中央の指導が地方末端に浸透せず、国家性法規の改定に対応した地方性法規の改 定が間に合わず、改定前の法律の履行を要求されたり、人や地域による行政裁量の 差が大きい。これらの結果、透明度は依然低く、各種法律間の関係が不明確であっ たり、矛盾することが多い点に留意する必要がある。
(ニ) 唐突かつ頻繁に変わる不安定な法令及び、実施までの猶予期間が短いことから、
企業収益に大きな影響を及ぼしたり、実務上間に合わない事態が発生する恐れがあ る。
②経済・社会面
(イ) 内陸部では物流インフラの整備が不十分である。また、物流業者のサービスが依 然として非効率である。
(ロ) 債権回収が難しく、裁判で勝訴しても地方保護主義などから強制執行が困難であ る。
(ハ) 経済成長に伴う生産規模の拡大に、エネルギー(電力・水)供給が追いつかず、
原料の石炭、鉄鉱石、鋼鈑などが不足するなど需給不均衡が生じている。突然の供 給不足による工場の操業停止やエネルギーコストの上昇を招来するリスクがある。
(ニ)一部の沿海地区では 内陸部の豊富で安価な労働者の供給が、2004 年春頃から不足 してきており、従来のような低賃金で成り立っていた労働集約的な産業の前提が揺 らぎつつある。
(ホ) 政府の汚職、腐敗、貧富格差の拡大、農民への農地収用費未払いなどに端を発し、
内陸部の各地で農民の暴動が発生している。一部地域で治安が悪化した。
(ヘ) 歴史問題などから、マスコミやインターネットなどで、日本企業に対して、商品 欠陥、サービスの手落ち、文化の相違をナショナリズムで煽るなど、意図的に狙わ れやすく、反発を招きやすい。
(ト) 知的財産権への意識の浸透が不十分で、外国製品の模倣などの知的所有権侵害事 件が多発している。技術、ノウハウが無断でコピーされやすい環境にあり、中国で の知財権の積極的な登録など工夫が必要とされる。社内の機密情報漏洩を防止する
ためデータへのアクセス者を限定するなどの情報の厳格な管理措置が欠かせない。
(チ) 衛生上の問題から新型肺炎 SARS(重症急性呼吸器症候群)、鳥インフルエンザな どの突然の感染病発生により、製品納入遅れ、材料の調達不足、人員派遣中止、生 産停止などの事態が発生した事例がある。今後も突然のモノ・ヒトの遮断を想定し た生産・物流戦略が求められる。一方、生産拠点を中国に一極集中させるのではな く、他国にも拠点を確保(つまり「チャイナ・プラス・ワン」)し、リスク回避と 分散を図ることが望ましい。
(リ) 2007 年 3 月の全国人民代表大会で、外資系企業への税優遇措置に対する廃止、見 直しの方針が表明された。今後、廃止、見直しが具体化される見通しである。
<中国市場の課題>
順 位 項 目 2006年度調査 2005年度調査 第1位 法制度の運用が不透明 65.0% 69.2%(第1位)
第2位 知的財産権の保護が不十分 47.6% 53.2%(第2位)
第3位 他社との激しい競争 45.6% 44.5%(第4位)
第4位 労働コストの上昇 43.9% 38.7%(第5位)
第5位 為替規制・送金規制 41.9% 45.3%(第3位)
(資料)国際協力銀行「海外直接投資アンケート調査」(2006 年 11 月)
(注1)日本の製造業967社を対象に実施調査(有効回答率61.4%)
(注2)2006年調査の特徴は、2005年に比べて「他者との激しい競争」、「労働コストの上昇」
を課題としてあげた企業が増加していること。特に「労働コストの上昇」が 2005 年の第 5位から2006年は第4位へ上昇。
(3)対中投資の新しいリスク
中国への日本企業の進出は依然として活発な状況が続いているが、一方では新しい中国 リスクと言えるものも発生してきている。中国投資に際して、現時点で事前に考慮してお くべき新しい中国リスクをまとめると次のようになる。
①鳥インフルエンザなどの疫病に関するリスク
数年前、中国では SARSの流行が大きな問題となり、対中投資にも冷水を浴びせる 形となったが、昨年からは鳥インフルエンザの流行の兆候が見えている。近代化が進 む中国だが、一歩奥地の農村部へ足を踏み入れると、依然として不衛生な生活環境が 存在している。特に華南地域では家畜との混住も散見される。こうした衛生状況では、
鳥インフルエンザのような疫病が発生すると、流行を起こす危険性が高く、中国政府 当局の情報管理という課題もあり、外国企業や外国人にとっては大きなリスクとなっ ている。一旦、こうした疫病が流行を始めると、SARS の時のように、工場の閉鎖、
移動の制限が行われ、生産、販売、物流が麻痺する状態となる。今後の対中投資に際 しては、万一の対策を検討しておく必要がある。
②人民元切り上げのリスク
人民元は長らく、実質的な米ドル連動を維持してきたこともあり、比較的安定した 為替レートであったが、対米貿易黒字の大幅な拡大による切り上げ圧力に応じる形で、
2005 年 7月22 日には人民元のインターバンクレートの仲値を 2%強切り上げるとと もに、人民元の為替制度について「通貨バスケット制度を参考とした管理フロート制」
に移行すると発表した。その後も米国の対中貿易赤字が一向に改善しないことなどか ら、人民元の切り上げ圧力は強まっており、今後の中国投資に際しては、人民元切り 上げリスクを考慮しておく必要がある。
③対日感情のリスク
2005年4月の反日デモの広がりに見られるように、最近の中国では一部に反日感情 の高まりが見られる。2006年に入ってからは、政府の規制もあり、過激な反日行動は 鳴りを潜めているが、いつ何時反日行動が再燃するかは予断を許さない。そもそも中 国人の反日感情は突然生じたものではなく、歴史的背景や教育による面があることを 考慮しなければならない。今後の中国投資に際しては、中国人労働者との些細な行き 違いから、対日感情に悪影響を与えることのないよう注意が必要である。
2 .立地・販売先・連携先の見極め
(1)経済圏
中国には大きく5つの経済圏が存在する。
①京津経済圏(北京、天津)
②環渤海経済圏(大連、瀋陽、青島、煙台)
③長江デルタ経済圏(上海、江蘇、浙江)
④珠江デルタ経済圏(広州、深圳、東莞)
⑤西部経済圏(重慶、成都、西安)
<中国の 5 つの経済圏>
(資料)中国まるごと百科事典(www.allchinainfo.com)
(2)工業区
外資を誘致するために設置されている工業区には次の地域がある。
①経済特別区(経済特区)
現在、中国に 5 つの経済特区がある。1980 年に深圳、珠海、汕頭(スワトウ)、厦 門(アモイ)各市の一部に経済特区を設けたのに続き、1988年には海南島全島に特区 が設置された。これら経済特区には経済的自主権が与えられ、外資系企業に対し大幅 な税優遇措置が講じられた。
②経済技術開発区
経済特区の成功により、対外開放を全国レベルで拡大し、外資導入を更に推進する ため、1984年に 14の沿海港湾都市に経済技術開発区を設置した。特に生産性企業(製
造業)と技術集約企業及び輸出加工企業の戦略的誘致に狙いを定め、経済特区並みの 税優遇措置を付与している。現在では、内陸部も含め全国に54箇所設置している。
③沿海経済開放区
1985年、長江デルタ、珠江デルタ、閩江デルタの三つのデルタ地域を沿海経済開放 区として指定した。特に生産性企業、科学研究プロジェクト企業、エネルギー、交通、
港湾関係、知識集約型プロジェクトに対し優遇税制を適用している。
④高新技術産業開発区(ハイテク産業開発区)
1991年より外国のハイテク技術導入と国内企業のハイテク産業育成、推進を目的と して、全国53箇所に設置され、各地域の主要大学も開発区内に研究開発センターを設 置し、区内企業との共同開発や、ベンチャー企業の支援を行っている。ハイテク企業 と認定されれば、税の優遇措置が適用される。
⑤浦東新区
上海市内を流れる黄浦江の東側(浦東地区)を香港と並ぶ金融、貿易、経済センター の中核として開発すべく、1990年に国家プロジェクトとして「浦東新区」を設置した。
区内にはIT産業を中心とする張江ハイテクパーク、陸家嘴金融貿易区、金橋輸出加工 区、外高橋保税区などが設置され、経済特区とほぼ同様の税優遇策が適用され、浦東 新区は、外資導入に関し上海市と同様の権限を付与されている。
⑥保税区
保税区は、関税上は外国の位置付けにあり、輸出入、中継貿易、加工貿易、物流・
倉庫、商品展示業務が、保税(関税・増値税の支払いが保留されている)のまま展開 できる特殊なエリアで、生産型企業には 15%の優遇税率が適用され、独資形態での貿 易会社の設立が以前から認められている(2004年12月より商業性企業の設立が外資に 全面開放された)。1991年以降、沿海部の港湾都市に15箇所設置された。保税メリッ トを生かした貿易機能のほかに倉庫仕分け配送機能や交易市場を通した国内販売の拠 点機能を活用するため、多くの外資系企業が進出している。ただし、保税区にもかか わらず、商品が区外から区内に搬入されても輸出と見なされず、搬入時点では増値税 が還付されないなど実務上の問題点もある。
⑦保税区物流園区
保税区と輸出加工区の機能を併せ持つ総合保税地域として 2003 年から設置が開始 された。現在までに8箇所が批准(許可)されている。「物流園区」では搬入された時 点で増値税が還付されている。