第 3 章 境界層理論 57
3.5 摩擦力
n
f
s
x U
t w y
図3.14: 物体表面に作用する摩擦応力
3.4.4 形状係数
排除厚さδ1を運動量厚さδ2で割ったものを形状係数H(shapef actor)と呼ぶ。
H =δ1 δ2
=δ1 θ = δ∗
θ (3.80)
この係数は境界層の中の速度分布の形状に関係する。平板境界層に対する形状係数の値は
• 層流平板境界層では、H= 2.59
• 乱流平板境界層では、H= 1.4(あるいはH = 1.3) となる。
形状係数はその値が大きくなると剥離を起こす前兆となる。形状係数が大きい流れとは、運動量 の損失を表す高さに比べて、相対的に排除厚さが増大する場合である。H は逆圧力勾配(adverse pressure gradient;流れ方向に圧力が増大する)が大きくなればなるほど大きくなる。以下の値に達 すると剥離が起こると予測されている。
• 層流では、H = 3.5
• 乱流では、H = 2.4
つまり、平板上の流れでは、剥離は生じないことが確認できる。
3.5. 摩擦力 73
3.5.1 局所摩擦力
壁でのせん断応力(shearing stress、あるいはfrictional stress)は、以下の式により定義される。
τw(x) =µ (∂u
∂y )
y=0
(3.81) ここでの座標yは、壁に垂直な方向の座標で、壁の曲率が小さいときにはこのような近似が可能で ある。これが、物体表面の局所で働き、場所によってその値が異なる摩擦応力(frictional stress)で ある。
第3.3節で述べた平板まわりの流れの場合には、Blasiusの解を上式に代入すると、平板流れに対 する局所摩擦応力は
τw(x) = µ
√U∞ νx
( ∂
∂ηU∞f′(η) )
η=0
(3.82)
= αµU∞
√U∞
νx (3.83)
となる。ここで、表(3.1)の数値計算結果より,
α=f′′(0) = 0.33 (3.84)
である。平板の前縁から下流側に遠ざかるほど摩擦応力は減少していく。
3.5.2 局所摩擦係数
式(3.83)の摩擦応力を無次元化すると、平板流れに対する無次元局所摩擦係数Cfが得られる。
Cf = τw(x)
ρU∞2/2 =αν 2 U∞
√U∞ νx = 0.66
√ ν
U∞x (3.85)
となる。先に定義した、xレイノルズ数Rex(≡U∞x/ν)を使用すると,
Cf = 0.66
√Rex (3.86)
と書ける。これを見ると、局所せん断力係数Cf は,xレイノルズ数の平方根に反比例することが分 かる。
ちなみに、乱流境界層では、局所摩擦係数は
Cf = 0.0576 Re1/5x
(3.87) となる。さらに、層流から乱流へ遷移する領域では、
Cf = 0.0576 Re1/5x
− A Rex
, A=Rex,cr(Cf,turbulent−Cf,laminar) (3.88) と近似される。ここで、Rex,crは、臨界レイノルズ数である。
s
b
x
lx
図 3.15: 摩擦抵抗が作用する3次元物体
U
s
s p
p p
p p
³Íå
p
³Í¬
図 3.16: 圧力抵抗
3.5.3 摩擦抵抗
摩擦力により物体全体に掛かる粘性抵抗Df(viscous drag)は、摩擦応力を物体表面全体にわた り積分することによって得られる。
Df =b
∫ l s=0
τwcosϕ ds (3.89)
ここで,b はスパン方向の幅を,lは表面に沿う長さを表す。また、ϕは物体表面の接線ベクトルと x軸(主流方向)のなす角度である。sを表面に沿う方向とすれば、
cosϕ ds=dx (3.90)
より,Df は
Df =b
∫ lx s=0
τwdx=bµ
∫ lx x=0
(∂u
∂y )
y=0
dx (3.91)
となる。ここで、lxはx軸方向の物体の長さである(表面に沿う長さではない)。
一般的には、物体にはこれらの粘性抵抗のほかに,剥離などによる圧力抵抗が生じる。これらの形 状に依存する抵抗を形状抵抗(profile drag)と呼ぶ。もし,流れがポテンシャル流れであれば,一 様流U⃗∞ 方向の力、つまり、抗力は0になる。これをダランベールの背理(d’Alembelt’s paradox) と呼ぶ。これに関しては、テキスト「非圧縮性流体力学」の第5章を勉強されたい。
2次元平板に作用する摩擦抵抗力Df は,(3.91),(3.83)より,
D = b
∫ l x=0
τwdx
= b
∫ l x=0
αµU∞
√U∞ νxdx
= 2bα√
ρµU∞3l (3.92)
3.5. 摩擦力 75
( ) CDf=
10 10 10
4 5 6
Laminar
(Blasius)
Turbulent
(Plandtl)
transition
0.455
logRl 2.58 C
D f 10
-2
10 -3
10 -4
Re l
= 0.074Re -1/5
C D
f
= 1.328Re -1/2
C D
f
図 3.17: 平板の摩擦抵抗係数
となる。もし、平板の両面(上面と下面)に掛かる摩擦力を考慮するならば,
2D= 4bα√
ρµU∞3l= 1.328b√
U∞3µρl (3.93)
となる。
ここで、これらの式から、平板の摩擦抗力Dfに関して以下の特徴が得られる。
• 摩擦抗力Df は,
– 速度に関して、U∞3/2に比例する。
– 長さに関して、l1/2に比例する。
– 粘性係数に関して、µ1/2に比例する。
– 密度に関して、ρ1/2に比例する。
• l1/2に比例することから,短い板ほど相対的に摩擦抵抗は大きくなる。下流部では境界層が厚 く,その分、壁での速度勾配が小さくなるために、壁に作用するせん断力が弱まる。
3.5.4 摩擦抵抗係数 C
Df摩擦抵抗Dを無次元化すると、一般性が生じ、種々の物体の抵抗を比較するのに便利である。こ れを摩擦抵抗係数と呼び、以下のように定義される。
CDf = 2Df 1
2ρU∞2 ·S (3.94)
ここで、(1/2)ρU∞2 は動圧である。(動圧は単位体積の流体の運動エネルギーであるとも解釈できる)。
また、Sは濡れ面積(wetted surface area)と呼ばれ、流体が物体に接触する面積である。
平板の流れでは、上面と下面が流れに接触している場合、面積Sは
S= 2bl (3.95)
となる。
平板に対して求めた摩擦抵抗Dfである式(3.93)を式(3.94) に代入すると,抵抗係数は、
CDf = 1.328
√U∞l ν
= 1.328
√Rel (3.96)
U
StagnationibÝ_j
Separation
i£_j s
s
図3.18: 物体表面からの剥離現象
s
£_
t¬irecirculated flowj
ÇßÅÍ,kinetic energyª¬³¢D
p p
1 2
1 2
p p
>
y
x
図 3.19: 剥離点近傍の流れ模様
となる。つまり、板の長さに基づいたレイノルズ数Relの平方根に反比例する。抵抗係数は、板が長 いほど小さくなる。
式(3.96)は,Rel<5×105 ∼ 106 の範囲で成立する。Relがそれ以上大きくなると、流れは乱 流となり,摩擦抵抗係数は増大する。
(参考)乱流の場合の摩擦抵抗係数は、解析的には得ることができず、経験式となる。例えば、
CDf = 0.074
Re1/5 (3.97)
などがある。
また、乱流で、かつ圧縮性の影響を考慮した摩擦抵抗係数の式として、
CDf = 0.455
(log10Re)2.58(1 + 0.144M2)0.65 (3.98) などがある。この式を見ると、マッハ数Mが大きくなるにつれ、摩擦抵抗係数は減少する。つまり、
圧縮性は摩擦抵抗係数を減らす方向に作用する。(了)