第 3 章 境界層理論 57
3.4 境界層厚さ
y
x v
U
図 3.10: 境界層端でy方向速度成分v∞が発生
y
x U
u d
U=0.99U
0
図 3.11: 99%境界層厚さ
乱流の場合の速度境界層の速度分布として、一番簡単な近似式は、1/7乗則(one-seventh power law) である。
u U∞ =
(y δ
)1/7
(3.58) (参考了)
3.4. 境界層厚さ 69
y
x U
ÂP
0 u(y)
図 3.12: 排除厚さ
つまり、このときのyはここで定義された境界層厚さδ99となるので δ99= 5
√νx
U∞ (3.62)
となる(境界層厚さδ99は、式(3.43)の特性厚さδと係数倍だけ異なることに注意)。式(3.62)は 境界層厚さの目安として頻繁に使われる(ただし、実験や数値シミュレーション結果からこのδを求 めてプロットすると時にはがたがたした形状になる)。これを無次元化して、レイノルズ数の形に書 きかえると
Reδ = 5.0Re1/2x (3.63)
となる。ここで、Reδ は境界層厚さδに基づいたレイノルズ数で、Rexは主流方向の位置xに基づ いたレイノルズ数である。
Reδ =U∞δ
ν , Rex=U∞x
ν (3.64)
ちなみに、乱流では
Reδ = 0.14Re6/7x , あるいは Reδ = 0.37Re4/5x (3.65) などの関係式が使われる。Rexの指数は1に近い値をとる。層流では指数は1/2であるので、乱流 の方が境界層は厚くなる。
(問題)風速30m/sで、板の長さが5mの平板の後縁での境界層厚さを層流と乱流の場合でそれぞれ
求めよ。
3.4.2 排除厚さ
もう一つの定義は排除厚さ(displacement thickness)である。これはδ1やδ∗で表される。本来、
ポテンシャル流の速度U があるべきところが、粘性により速度u(< U)に減少したために、流れが 外側に押しやられる、あるいは排除された形になる。つまり、その分、物体表面が外側に出っ張るこ とに等価である。この排除された量は以下のように、横軸を一様流の速度とした場合、どのくらいの 高さに相当するかを、換算して定義する。
U∞δ1=
∫ ∞
y=0
(U∞−u)dy (3.66)
従って、排除厚さδ1は
δ1=
∫ ∞
y=0
(1− u
U∞)dy (3.67)
となる。
ここで、第3.3節で述べた平板まわりの流れ(Blasiusの解)で得られた量を代入して排除厚さを 計算する。式(3.43)、式(3.47)より,
δ1 =
∫ ∞
y=0
(1−f′)
√νx U∞dη
=
√νx U∞
[ η−f
]η1
0
=
√νx U∞
(
η1−f(η1) )
(3.68) となる。積分範囲を無限大(∞)までとるのは現実的でないので、ある程度大きな値であるη1に置き 換えている。境界層外縁を表すこのη1として、表(3.1)の数値計算結果から,η1= 5を適用すると、
δ1= 1.72
√νx
U∞ (3.69)
となる。これを無次元化すると
Reδ1 = 1.72Re1/2x (3.70)
式(3.62)と式(3.69)を比較すると,排除厚さδ1は境界層厚さδの約1/3になっている。厳密には、
δ1
δ = 0.34 (層流の場合) (3.71)
である。乱流の場合には、
δ1
δ = 1/8 = 0.13 (乱流の場合) (3.72)
となる。ここでは、乱流の速度分布として、1/7乗則(式(3.58))を利用して式(3.67)に代入して計 算している。
ちなみに、表面がスムースではなく、突起等ラフネス(roughness)がある場合には、その高さが排 除厚さ以下であれば、ラフネスによる摩擦抵抗の増加は大きくない。逆に、突起物が存在するような 場合には、その高さを排除厚さ以下に抑えるべきである。
3.4.3 運動量厚さ
さらに、境界層の厚さの定義式として、運動量厚さ(momentum thickness)がよく使われる。こ れは、通常、δ2、あるいは、θで表される。運動量厚さは、ポテンシャル流れに対する運動量の損失 を意味する。その定義は
ρU∞2δ2=ρ
∫ ∞
y=0
u(U∞−u)dy (3.73)
である。ここで、右辺の被積分関数の最初の量がU∞ではなくて、uであることに注意する必要があ る。左辺は、もしポテンシャル流が壁まで存在していると考えた場合、失われた運動量が、一様流の
3.4. 境界層厚さ 71
y
x U
Â2 u
0
図3.13: 運動量厚さ
運動量に換算してどのくらいの量になるかを、高さδ2で表している。この式を変形すると、運動量 厚さθ=δ2は
θ=δ2 =
∫ ∞
y=0
u U∞
( 1− u
U∞ )
dy
=
∫ ∞
η=0
f′(1−f′)
√νx
U∞dη (3.74)
となる。
積分範囲の無限大をη= 5までとして、Blasius方程式の数値解を利用して、f′の値を代入して上 式を数値計算する。その結果、運動量厚さθは
θ=δ2= 0.664
√νx
U∞ (3.75)
となる。無次元化すると
Reθ= 0.664Re1/2x (3.76)
となる。運動量厚さも,排除厚さの約1/3になっていることに注意。
(参考)層流と乱流の場合について整理すると、以下のようになる。
• 境界層厚さ
δ x= 5
√Rex
(層流), δ
x= 0.371 Re1/5x
(乱流) (3.77)
• 排除厚さ
δ∗
x = 1.72
√Rex (層流), δ∗
x = 0.046 Re1/5x
(乱流) (3.78)
• 運動量厚さ
θ
x= 0.664
√Rex (層流), θ
x= 0.036 Re1/5x
(乱流) (3.79)
ここで、Rexは、xに基づくレイノルズ数で、Rex=U∞x/νで定義される。
n
f
s
x U
t w y
図3.14: 物体表面に作用する摩擦応力
3.4.4 形状係数
排除厚さδ1を運動量厚さδ2で割ったものを形状係数H(shapef actor)と呼ぶ。
H =δ1 δ2
=δ1 θ = δ∗
θ (3.80)
この係数は境界層の中の速度分布の形状に関係する。平板境界層に対する形状係数の値は
• 層流平板境界層では、H= 2.59
• 乱流平板境界層では、H= 1.4(あるいはH = 1.3) となる。
形状係数はその値が大きくなると剥離を起こす前兆となる。形状係数が大きい流れとは、運動量 の損失を表す高さに比べて、相対的に排除厚さが増大する場合である。H は逆圧力勾配(adverse pressure gradient;流れ方向に圧力が増大する)が大きくなればなるほど大きくなる。以下の値に達 すると剥離が起こると予測されている。
• 層流では、H = 3.5
• 乱流では、H = 2.4
つまり、平板上の流れでは、剥離は生じないことが確認できる。