6-1 乳癌への適用結果と正常乳腺との比較
悪性腫瘍のような硬い物質が含まれている場合,異なる構造間の反射や屈折などにより せん断波の伝搬は 3 次元的に複雑に変化する.そこで,悪性腫瘍の模擬として,伝搬速度が周 囲組織に対して 5 倍の球形組織を含んだ媒質(周囲伝搬速度 2m/s,球形媒質 10m/s 相当)で の,3 次元のせん断波伝搬のシミュレーションを行った.シミュレーションには,群馬大学三 輪空司准教授が作成した 3DFDTD を用いたプログラム(3DFDTD の計算については付録を参照) を使用した.Fig.6-1-1 にシミュレーションの条件を示す.
Fig.6-1-1 (a)条件 1:観測面 xz 面,観測波 y 偏波 (b)条件 2:観測面 xy 面,観測波 z 偏波
1 における条件 1,条件 2 でのシミュレーション結果をそれぞれ Fig.6-1-2,Fig.6-1-3 に示す.
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Fig.6-1-2 条件 1(観測面 xz 面,観測波 y 偏波)におけるせん断波伝搬シミュレーション
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Fig.6-1-3 条件 2(観測面 xy 面,観測波 z 偏波)におけるせん断波伝搬シミュレーション
Fig6-1-2 条件 1 のシミュレーション結果より,球形の組織内部でせん断波の減衰が起こ っていること,また,周囲組織と球形組織の境界でせん断波の反射・屈折が起こり伝搬方向 が変化していることが確認された.
さらに,Fig.6-1-3 条件 2 のシミュレーション結果より,球形組織の表面でせん断波が反 射することによって,y 軸方向への進む波の伝搬が顕著に現れることが確認された.
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次に,提案手法を乳癌へ適用する実験を行った.本実験は倫理委員会承認のもと事前に被 験者の同意を得て医師が測定を行った.実験条件と実験方法については以下の通りである.
[実験条件]
超音波映像装置・・・Siemens 社製 「ACUSON 3000」
超音波中心周波数・・・B モード画像 15[MHz] CFI 画像 7.5[MHz]
加振周波数・・・235.3[Hz]~236.8[Hz]
測定人数・・・15 人(硬癌,浸潤性乳管癌,DCIS,乳頭腺癌,小葉癌,粘液癌)
[実験方法]
① 超音波プローブを測定部位にあてた.
② 加振器を生体表面にあて,せん断波を生体内に励起させた.このときせん断波の伝搬 方向が超音波プローブの長軸方向と一致するようにあてた.
③ 超音波映像装置からカラーフロー画像を取得し,PC 内で画像処理を施すことによっ てせん断波の波面マップ,伝搬速度マップ,伝搬方向マップ,振幅マップを得た.
Fig. 6-1-4 測定を行った部屋の様子
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また,実験に用いた加振器とそのドライバを Fig. 6-1-5 に示す.
Fig. 6-1-5 測定に使用した(左)加振器(右)加振器用ドライバー
臨床実験で得られた乳癌の一例を以下に示す.Fig.6-1-6 は B モード画像とカラーフロー 画像である.また,このカラーフロー画像に画像処理を施し得られた波面マップ, 伝搬速度 マップ,伝搬方向マップ,振幅マップを Fig.6-1-7 に示す. (その他の臨床実験データは付 録を参照)
Fig.6-1-6,Fig.6-1-7 は直径 9mm の浸潤性乳管癌の測定結果である.
Fig. 6-1-6 (左)B モード画像(右)カラーフロー画像
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Fig.6-1-7 (左上)波面マップ(右上)振幅マップ(左下) 伝搬速度マップ(右下)伝搬方向マップ
さらに,それぞれの図を正常乳腺と比較したものを Fig.6-1-8 に示す.
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Fig.6-1-8 (a)乳癌の波面マップ(b)乳癌の振幅マップ(c)乳癌の伝搬速度マップ (d)乳癌の伝搬方向マップ(e)正常乳腺の波面マップ(f)正常乳腺の振幅マップ
(g)正常乳腺の伝搬速度マップ(h)正常乳腺の伝搬方向マップ
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但し,波面マップ,伝搬速度マップ,伝搬方向マップは振幅の値によって輝度に変化をつ けており,振幅の弱い領域は透過させている.
このように,乳癌と正常乳腺についてせん断波の各種マップを得ることができた.正常乳 腺と比べると,乳癌ではより複雑にせん断波が伝搬していることが波面マップから分かる.
また,腫瘍の周囲でせん断波の振幅が弱く低速のリムが現れるのは癌の画像における大 きな特徴である.さらに方向マップから,このように振幅が弱く伝搬速度が遅くなっている 領域では,伝搬方向の変化が大きいことが確認できた.これらの結果から,せん断波の伝搬 速度だけでなく,振幅や伝搬方向に含まれる情報も乳癌を判別する重要な指標であること が示唆された.
6-2 乳癌におけるせん断波の減衰
先述より,乳癌の周囲でせん断波の振幅が弱くなることが確認されたが,ここではせん断 波の振幅が弱くなる原因について述べる.
Fig.6-2-1 は乳癌の一種である浸潤性乳管癌におけるせん断波の波面マップと振幅マッ プである.
Fig.6-2-1 浸潤性乳管癌(左)波面マップ(右)振幅マップ
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振幅マップより,悪性腫瘍の周囲でせん断波の振幅が弱くなっていることが分かる.さら に,振幅が弱くなっている位置の波面マップを見ると,せん断波の伝搬方向が複雑に変化し ている.このことから,悪性腫瘍と周囲組織の境界でせん断波の屈折や反射が起こり振幅が 弱くなっていると考えられる.このような反射や屈折による複雑な伝搬方向の変化は乳癌 特有の現象であるため,この伝搬方向のばらつきが悪性腫瘍を判別する一つの指標に成り 得ると考えられる.
次に,同じく乳癌の一種である硬癌におけるせん断波の波面マップと振幅マップを Fig.6-2-2 に示す.
Fig.6-2-2 硬癌(左)波面マップ(右)振幅マップ
硬癌は他の癌よりも硬いという特徴が知られているため,せん断波が減衰し振幅が弱く なる.このように,硬癌のような硬い癌の場合,せん断波の振幅が癌を発見するために有効 な指標に成り得ることが分かる.硬癌は比較的従来のエコー診断により B モード画像から も発見しやすい癌であるが,せん断波の振幅を見ることによってより見落としを減らすこ とができると考えられる.
次に,Fig6-2-3 は脂肪化乳房のせん断波波面マップと振幅マップである.ただし,画像内 には浸潤性乳管癌の腫瘍も含まれる.
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Fig.6-2-3 脂肪化乳房(左)波面マップ(右)振幅マップ
このように,脂肪は粘性が高いため,脂肪化乳房や脂肪層が厚い場合にもせん断波が減衰 する.脂肪での減衰が大きいと,脂肪層の下にある乳腺でのせん断波の観測が不可能なた め,この点については改善する必要がある.せん断波の減衰はせん断波の周波数に依存する ため,低周波加振により脂肪層での減衰を低減させることができると考えられる.
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