第 4 章 制振効果の測定および原理の考察
4.2 接触条件が制振効果へ及ぼす影響
4.2.2 接触面の摩擦係数が及ぼす影響
提案手法では振動子と制振対象物を接触させることで,制振効果を発生させる.その ため,制振効果は振動子と制振対象物との接触面で生じる摩擦力に関係すると考えられ る.これを確認するため,接触面の摩擦係数を変化させて制振効果への影響を調査した.
図 4.2 に示すように,振動子とはりとの接触面に潤滑剤(呉工業(株),KURE5-56)を塗布 し,摩擦係数を減少させた.この状態で,第3章と同様のハンマリング試験を行い,減 衰比を測定した.
試験条件について振動子の静的押付量xstは,前節で最も高い減衰比が得られた条件で
ある0.05 mmとし,印加電圧Vは1,2,4,6,8Vとした.また,振動子の周波数は共
振周波数に一致させた.その他の試験条件や3.2節と同様である.
潤滑剤を塗布した状態での各印加電圧Vにおけるアクセレランスの時間変化およびそ のパワースペクトルを図4.3および図4.4,また,測定された減衰比,電流値,ハンマリ ング加振力およびはりの固有振動数を表4.7,印加電圧にともなう減衰比の変化を図4.5 にそれぞれ示す.ここで,比較として前節のハンマリング試験で得られた潤滑剤を塗布 していない状態でのxst = 0.05 mmにおける試験結果も同様に図4.5に示す.図4.5中のσ は標準偏差を示す.
励振していない振動子を静的に押し付けた場合,図4.3(a),図4.4(b)に示す潤滑剤を塗 布した状態でのアクセレランスの時間変化およびそのパワースペクトルは,図 3.5(a),
図3.11(b)で示した潤滑剤を塗布していない状態での結果と同様であった.表4.2,表4.7
に示すように,潤滑剤の有無によらず減衰比は0.34 %を示し,振動子を静的に押し付け た場合では摩擦係数の大小による減衰比の変化は見られなかった.
一方,振動子を励振した場合,図 4.5 に示すように,潤滑剤を塗布した状態でも減衰 比は上昇して制振効果が生じることを確認した.ただし,減衰比はV = 2 Vでピークを 示し,その値は約2.1 %と図4.1で示した潤滑剤を塗布していないときの減衰比のピーク
0 1 2 3 4
0 2 4 6 8 10
減衰比ζ [%]
印加電圧 V[V]
Non-contact
xst=0.01mm(other frequency) xst=0.01mm
xst=0.05mm xst=0.1mm xst=0.2mm xst=0.3mm
Static pressing (0V) (Average) 非接触
xst = 0.01mm
xst = 0.01mm ( 共振周波数以外 ) xst = 0.05mm
xst = 0.1mm xst = 0.2mm xst = 0.3mm
静的押付( V = 0 V, 平均値)
±σ
29
値 3.4 %と比べて減少した.以上から提案手法による制振効果は接触面での摩擦力に関
係することがわかる.
図4.2 接触面の摩擦係数変更
(a) V = 0 V ( 非励振 ) (b) V = 1 V
(c) V = 2 V (d) V = 4 V
(e) V = 6 V (f) V = 8 V
図4.3 潤滑剤を塗布した状態でのxs =0.05 mmにおけるアクセレランスの時間変化
ハンマリング試験装置
振動子
はり
接触面の 摩擦係数減少のため
潤滑剤を塗付
-10 -5 0 5 10
0 20 40 60 80
アクセレランス[m/s2/N]
時間[ms]
-10 -5 0 5 10
0 20 40 60 80
アクセレランス[m/s2/N]
時間[ms]
-10 -5 0 5 10
0 20 40 60 80
アクセレランス[m/s2/N]
時間[ms]
-10 -5 0 5 10
0 20 40 60 80
アクセレランス[m/s2/N]
時間[ms]
-10 -5 0 5 10
0 20 40 60 80
アクセレランス[m/s2/N]
時間[ms]
-10 -5 0 5 10
0 20 40 60 80
アクセレランス[m/s2/N]
時間[ms]
30
(a) 0~1000 Hz (b) 800~950 Hz
図4.4 潤滑剤を塗布した状態でのアクセレランスのパワースペクトル
表4.7 潤滑剤塗布での試験結果
静的押付量 xst[mm]
印加電圧 V [V]
振動子の 共振周波数 [kHz]
減衰比 ζ [%]
電流値 [A]
ハンマリング 加振力 [N]
はりの 固有振動数 [Hz]
0.05
0 0
0.34 0.00 9.53 884
0.34 0.00 13.49 884
0.34 0.00 11.41 884
1 54.0
1.02 0.20 9.88 878
1.16 0.19 10.58 877
1.34 0.19 12.92 877
2 53.6
2.27 0.61 18.80 868
2.12 0.63 13.53 864
2.00 0.65 17.63 866
4 53.3
1.09 1.02 15.28 863
1.20 0.99 7.07 864
1.35 0.96 6.07 863
6 53.0
0.39 1.24 10.16 862
0.86 1.13 9.92 862
0.30 1.26 10.42 862
8 52.8
0.25 1.29 13.20 862
0.27 1.34 11.40 862
0.31 1.30 9.55 862
0 0.2 0.4 0.6 0.8
0 200 400 600 800 1000
アクセレランス[m/s2/N]
周波数[Hz]
非接触 V=0V V=1V V=2V V=4V V=6V V=8V 非接触 xst= 0.05 mm,V= 0 V xst= 0.05 mm,V= 1 V xst= 0.05 mm,V= 2 V xst= 0.05 mm,V= 4 V xst= 0.05 mm,V= 6 V xst= 0.05 mm,V= 8 V
0 0.2 0.4 0.6 0.8
800 850 900 950
アクセレランス[m/s2/N]
周波数[Hz]
非接触 V=0V V=1V V=2V V=4V V=6V V=8V 非接触 xst= 0.05 mm,V= 0 V xst= 0.05 mm,V= 1 V xst= 0.05 mm,V= 2 V xst= 0.05 mm,V= 4 V xst= 0.05 mm,V= 6 V xst= 0.05 mm,V= 8 V
31
図4.5 潤滑剤塗布による減衰比への影響
4.2.3 圧電振動子に流れる電流値が及ぼす影響
前章で述べたように,提案手法による制振効果は振動子と制振対象物との間の接触面 の摩擦力に関係する.接触面で生じる摩擦力は,振動子を対象物へ静的に押し付けるこ とで生じる静的力に加え,励振したときに加えられる衝撃力に関連する.衝撃力は励振 中の振動子の振幅速度に関係する.さらに,振幅速度は,2.2.2節で述べたように圧電体 である振動子を流れる電流と相関する.したがって,振動子に流れる電流は提案手法に よる制振効果に大きく影響を与えると考えられる.
そこで,4.2.1節で算出した減衰比を,図4.6に示すように,振動子を流れる電流値を 用いて整理した.図4.6の青い白抜きの円で示す減衰比は,振動子の周波数をxst = 0.01
mmのV = 1,2 Vにおいて振動子の共振周波数からずらしたときの結果である.
図4.6に示すように,xst = 0.1 mm(緑色の菱形)では,減衰比は電流値の増加にともない に単調に増加した. xst = 0.05 mmでは,減衰比は特定の電流でピークを示した.
また,図4.1に示したように,xst = 0.01 mmでV = 1,2 V(青色の白抜きの円)では,振 動子の周波数を共振周波数からずらした場合,印加電圧が同じでも減衰比はその周波数 に応じてばらついた.一方,図 4.6 に示すように,電流値で減衰比を整理した場合,振 動子の周波数を共振周波数からずらしたとしても減衰比は特定の電流値でピークを明 確に示した.このピーク値は共振周波数とは異なる周波数で得られた.さらに,xst = 0.05 mmでの減衰比のピーク値は,xst = 0.01 mmでのピーク値よりも高くなった.また,静的 押付量を増加させると,減衰比が上昇し始める電流値および減衰比のピーク値は増加し た.
以上の結果より,振動子に流れる電流値を測定することで,対象物に生じる制振効果 の大きさを推定でき,最大の制振効果を得るための最適な電流値が存在することを示唆 できる.圧電素子を用いて振動を抑制する従来の方法では,通常,圧電素子はその共振
0 1 2 3 4
0 2 4 6 8 10
減衰比ζ [%]
印加電圧 V[V]
xst=0.05mm non-oil xst=0.05mm oil
±σ xst = 0.05 mm(non-oil) xst = 0.05 mm(oil)
32
周波数で駆動させる.一方,提案手法は振動子の周波数を共振周波数に調整する必要が なく,測定された電流値が最適値となるように印加電圧と周波数を調整することで,最 も高い制振効果を発揮できる.さらに,静的押付量を正確に調整する必要がなく,静的 押付量が小さくても電流値を調整することで高い制振効果を維持することができ,制振 対象物の構造への悪影響が少ない.
図4.6 振動子に流れる電流値にともなう減衰比の変化