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第 6 章 個別ケースの執行方針

2. 特定の垂直的制限の分析

2.2. 排他的販売(Exclusive distribution)

(151) 排他的販売契約においては、供給者は、特定のテリトリーでの再販売について、1 社の販売業者にのみ自社製品の販売に合意している。同時に、販売業者は、通常、他の(排 他的に割り当てられた)テリトリーに対する能動的販売を制限される。考えられる競争上 のリスクは、主にブランド間競争の減尐および市場分割であり、これらは特に、価格差別 を助長する。供給者の大半またはすべてが排他的販売を利用すれば、供給者および販売業 者の双方の段階で競争が減退し、共謀が助長されることになるだろう。最後に、排他的販 売は、他の販売業者の締め出しにつながり、それによって販売段階における競争が減退す る。

(152) 排他的販売は、供給者および購入者の市場シェアがいずれも30%を上回らなけれ ば、5年を限度とする競業避止義務、数量義務または排他的購入といった他の非ハードコア 垂直的制限と組み合わせた場合でも、一括適用免除規則によって適用が免除される。独占 的販売と選択的流通制の組み合わせは、他のテリトリーにおける能動的販売が制限されな い場合に限り、一括適用免除規則によって適用が免除される。市場シェアが30%の上限を 超える場合に、個別のケースで排他的販売を評価するための指針は以下の通りである。

(153)ブランド内競争の喪失は、ブランド間競争が限定される場合にのみが問題となりう るため、供給者および競合事業者の市場における地位が特に重要である。「供給者の地位」

が強ければ強いほど、ブランド内競争の喪失の深刻さは増す。市場シェアが30%を超える 場合は、ブランド内競争が著しく減尐するリスクがある。第101条3項の条件を満たすため には、ブランド内競争の喪失を現実の効率性で埋め合わせる必要がある。

(154) 「競合事業者の地位」は、二重の意味で重要である。競合事業者が強ければ、一 般に、ブランド内競争の減尐は十分なブランド間競争によって相殺される。しかし、競合 事業者がごく尐数で、かつ市場シェア、供給能力および販売網の観点から見た市場におけ る地位が同程度の場合、共謀および/または競争の減退のリスクがある。特に、複数の供給 者が類似する流通制を敶いている場合に、ブランド内競争の喪失はこのリスクを高める可 能性がある。複合排他的ディーラー(multiple exclusive dealerships)、すなわち所定の テリトリーにおいて複数の供給者が一つの排他的販売業者を指定する場合は、共謀および/

または競争の減退のリスクがさらに高まることになる。ディーラーが同一テリトリー内で2 つ以上の主要な競合製品を販売する排他的権利を付与されるのであれば、それらのブラン ドのブランド間競争は、著しく制限される。複合排他的ディーラーの販売するブランドの 累積的市場シェアが高ければ高いほど、共謀および/または競争の減退のリスクが高まり、

ブランド間競争はより減退することになる。小売業者が複数のブランドの排他的販売業者 である場合、生産者の 1 社が自社ブランドの卸売価格を引き下げても、他のブランドの売 上および利益が減尐することに繋がるから、排他的小売業者は結果としてこの値下げの効 果を最終消費者に及ぼすことを望まないことになるだろう。そうすると、生産者にとって、

複合排他的ディーラーのない状況と比較して、互いに価格競争を行うことへの関心が低下 することになる。供給者と購入者の市場シェアが一括適用免除規則で定める上限を下回る 場合でも、このような累積的効果の生じる状況は、一括適用免除規則の利益を撤回する理 由となり得る。

(155) 供給者が新規販売業者を開拓する、または別の販売業者を確保することを阻害す

る「参入障壁」は、排他的販売の反競争効果の評価においては、それほど重要ではない。

排他的販売を単一ブランド政策と組み合わせない限り、他の供給者の締め出しは生じない。

(156) 排他的流通制を実施する供給者が同じ市場で多数の排他的販売業者を指名してお り、かつこれらの排他的販売業者が他の指名を受けてない販売業者への販売を制限されて いなければ、他の販売業者の締め出しは、問題とならない。ただし、「購買支配力(buying power)」および川下市場支配力がある場合、特に、かなり広範囲のテリトリーで排他的販 売業者が市場全体の排他的購入者となっている場合には、他の販売業者の締め出しが問題 となり得る。一例として、スーパーマーケットのチェーンが国内食品小売市場において大 手ブランドの唯一の販売者となっている場合が挙げられる。複合排他的ディーラーの場合 には、他の販売業者の締め出しが一層強まる。

(157) 重要な購入者(異なるテリトリーに所在することもある)が1社または複数の供給 者に対し排他的販売規定を設ける場合、「購買支配力」は、購入者側での共謀のリスクも 高める。

(158) 「市場の成熟度(Maturity of market)」が重要な理由は、成熟市場においては ブランド内競争の喪失および価格差別が深刻な問題となり得るが、需要が拡大し、技術が 変革し、市場での地位が変化するような市場においてはその影響が尐ないためである。

(159) 「取引の段階(The level of trade)」が重要な理由は、卸売段階と小売段階とで 負の効果が異なる場合がありうるためである。排他的販売は、主として最終商品およびサ ービスの販売で用いられる。(排他的販売が)広範囲なテリトリーと組み合わされば、最 終消費者は重要なブランドについて高価格・高サービスの販売業者と低価格・低サービス の販売業者とで選択する余地を失うから、小売段階でブランド内競争が失われる可能性が 特に高まる。

(160) 製造業者が卸売業者を自社の排他的販売業者として選ぶ場合は、通常、一つの加 盟国全域といったように広範囲なテリトリーについて行う。当該卸売業者が川下の小売業 者に製品を制限なく販売できる限り、明らかな反競争効果が生じそうもない。卸売段階で ブランド内競争が消滅したとしても、特に製造業者が別の国に拠点を置く場合には、物流 や販売促進などから生じる効率性改善によって容易に相殺される。しかし、複合排他的デ ィーラーのブランド間競争に対する考えうるリスクは、小売段階に比べ卸売段階で高い。1 社の卸売業者が多数の供給者の排他的販売業者になる場合、これらのブランド間競争が減 尐するだけでなく、卸売取引の段階における市場閉鎖にもつながり得る。

(161) 上述の通り、排他的販売は、単一ブランド政策と組み合わせない限り、他の供給 者の締め出しにつながらない(パラグラフ155)。しかし、排他的販売と単一ブランド政策 を組み合わせた場合であっても、小さなテリトリーしか持たない排他的販売業者の緊密な ネットワークに単一ブランド政策を適用するか、または累積的効果が生じる場合を除き、

他の供給者に対する反競争的市場閉鎖の可能性は低い。この場合は、単一ブランド政策に 関して上に示した原則の適用が必要となり得る。しかし、排他的販売と単一ブランド政策 の組み合わせが重大な市場閉鎖につながらない場合、その組み合わせは、排他的販売業者 が特定のブランドに注力するインセンティブを高めることによって、競争促進的となるこ ともある。したがって、そのような市場閉鎖効果がなければ、排他的販売と競業避止義務 の組み合わせは、特に卸売段階において、契約の全期間について第101条3項の要件を満た す可能性が高い。

(162) 排他的販売と排他的調達の組み合わせは、ブランド内競争の減尐に加え、特に価 格差別を助長する市場分割という形で競争上のリスクを高めうる。排他的販売はそもそも、

販売業者の数を限定し、通常は販売業者の能動的販売の自由も制限するものであるため、

顧客による価格差を利用した取引(arbitrage)を制限するものである。排他的調達は、排 他的販売業者に特定ブランドを当該製造業者から直接仕入れることを義務付け、制度内の 他の販売業者からの購入を妨げるため、排他的販売業者による価格差を利用した取引も排 除される。この組み合わせは、すべての最終消費者にとって価格の低下に繋がる効率性を 生み出すものでなければ、供給者が消費者を犠牲にして異なる販売条件を適用するととも に、ブランド内競争を制限する可能性を高める。

(163) 「製品の性質」は、排他的販売の反競争効果の評価にはあまり関係しない。ただ し、明らかな反競争効果が証明された後、ありうる効率性の問題を検討するときには関係 してくる。

(164) 排他的販売は、特に、ブランドイメージを保護する、または構築するために販売 業者が投資を行う必要があるときに、効率性につながる場合がある。一般に、新製品、複 雑な製品、消費前には品質の判断が困難な製品(いわゆる経験財)、または消費後も品質 の判断が困難な製品(いわゆる信用財)で効率性は最も認められやすい。加えて、排他的 販売は、輸送および流通における規模の経済性から物流コストの節約につながり得る。

(165) 卸売段階における排他的販売の例

A社は、耐久消費財市場のマーケットリーダーである。A社は、排他的卸売業者を通じて自 社製品を販売している。卸売業者のテリトリーは、小規模な加盟国については当該加盟国