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第 6 章 個別ケースの執行方針

2. 特定の垂直的制限の分析

2.1. 単一ブランド政策(Single branding)

(129) 「単一ブランド政策」には、購入者による特定種類の製品の発注を単一の供給者 に集中することを義務付ける、またはこれを誘導することを主たる要素とする協定が含ま れる。この要素は、特に購入者の競業避止義務および数量義務で見られる。競業避止の取 決めは、購入者が特定市場における自社の必要量の80 %超を一つの供給者から購入する義 務またはインセンティブの仕組みに基づくものである。これは、購入者が供給者から直接 にしか購入できないことを意味するのではなく、購入者が競合商品またはサービスを購入、

再販売、または組み込んではならないことを意味する。購入者への数量制限は、より緩や かな形態の競業避止義務であり、供給者と購入者の間で合意したインセンティブまたは義 務によって、購入者による購入を一つの供給者に大幅に集中させるものである。数量義務 は、例えば、最低購入義務、在庫保有義務、または条件付きリベート制度もしくは二部料 金制(固定料金プラス1単位当たりの価格)といった非線形価格などの形態をとる。購入者 がより良い条件を受けた場合の報告を義務付け、供給者が同等の条件を提示しない場合に 限り、購入者は当該条件を受け入れることができるとする、いわゆる「イングリッシュ・

クローズ(English clause)」は、単一ブランド義務と同じ効果を有することが予想される。

47 この点についてはCase T-51/89, Tetra Pak (I), [1990] ECR II-309を参照。また、脚注4EC 約第813項の適用に関するガイドラインのパラグラフ106を参照。

特に、購入者が、誰がより良い条件を提示したのかを明らかにしなければならない場合に そうである。

(130) 単一ブランド政策から生じ得る競争上のリスクは、競合する供給者および潜在的 供給者が市場から締め出されること、累積的使用により競争が減退し、供給者間の共謀が 助長されること、購入者が最終消費者に販売する小売業者の場合には、店舗内のブランド 間競争が失われることである。これらすべての制限的効果は、ブランド間競争に直接影響 を及ぼす。

(131) 単一ブランド政策は、供給者および購入者の市場シェアがそれぞれ30%を超えな い場合、競業避止義務の5年の期間制限を条件として、一括適用免除規則により適用を免除 される。以下の指針は、市場シェアの上限を超える、あるいは5年の期間制限を超える場合 に、個別ケースを評価するためのものである。

(132)特定の供給者1社の単一ブランド政策の義務によって反競争的な市場閉鎖が生じる のは、特に、当該義務がなければ、当該義務の約束時には市場にまだ存在していない競合 事業者や、あるいは顧客への完全な供給を満たす地位にはない競合事業者によって、重大 な競争圧力がかかるような場合である。例えば当該供給者のブランドが多数の最終消費者 の好む「品揃えに不可欠な品目」である、あるいは他の供給者の供給能力に制約があるた めに、需要の一部は当該供給者によってのみ満たすことができるといった理由で、当該供 給者が尐なくとも市場の需要側にとっては不可避の取引相手であるから、競合事業者は各 顧客の需要全体について競合することができないのかもしれない48。このように、「供給者 の市場における地位」が、単一ブランド義務の反競争効果の評価において最も重要なもの となる。

(133) 競合事業者が各顧客の需要全体について同等の条件で競争することができる場合 は、単一ブランド義務の期間および市場のカバー率が原因で顧客による供給者の変更が困 難な場合を除き、特定の供給者1社の単一ブランド政策が有効競争を阻害するおそれは一般 に尐ない。供給者が拘束する市場シェア、すなわち市場シェアのうち単一ブランド政策義 務に基づき販売される部分が多ければ多いほど、市場閉鎖効果はより大きなものとなるお それがある。同様に、単一ブランド義務の期間が長ければ長いほど、市場閉鎖効果はより 大きなものとなるおそれがある。市場支配的でない企業により締結された期間1年未満の単 一ブランド義務は、一般に、明白な反競争効果、あるいはネットで負の効果を生み出すと は考えられていない。市場支配的でない企業により締結された1年から5年以内の単一ブラ

48 Case T-65/98 Van den Bergh Foods v Commission [2003] ECR II-4653、パラグラフ104および156。

ンド義務は、通常、競争促進効果と反競争効果の適切な比較衡量を必要とする。一方で、

期間が5年を超える単一ブランド義務は、大半の種類の投資について、主張する効率性の達 成のために必要とはみなされないか、または市場閉鎖効果を上回るほど効率性が十分では ない。単一ブランド義務は、市場支配的な企業により合意された場合に、反競争的な市場 閉鎖につながる可能性がいっそう高い。

(134) 供給者の市場支配力の評価においては、「競合事業者の市場における地位」が重 要になる。競合事業者が十分に存在し、かつ強力である場合には、明白な反競争効果は考 えられない。競合事業者が市場で同程度の地位にあり、同程度に魅力的な製品を販売する 能力がある場合、競合事業者が締め出される可能性は低い。ただし、このような場合であ っても、複数の主要な供給者が関連市場の相当数の購入者と単一ブランド契約を締結する ときは、潜在的市場参入者に対する市場閉鎖が起こり得る(累積的効果が生じた状況)。

また、こうした状況は、単一ブランド契約が競合供給者間の共謀を助長する状況でもある。

これらの供給者が個々には一括適用免除規則の対象となっている場合、上記の累積的な負 の効果に対処するために、一括適用免除の撤回が必要となるかもしれない。単一ブランド 義務により拘束される市場シェアが5%未満の場合には、一般的に累積的市場閉鎖効果に実 質的に寄与するものではないとみなされる。

(135)最大供給者の市場シェアが30%以下で、かつ供給者上位5社の市場シェアが50%以 下の場合、単一または累積的な反競争効果が生じるおそれは低い。仮に潜在的市場参入者 が利益の出る形で参入できないのであれば、これは消費者の嗜好といった単一ブランド義 務以外の要素に起因する可能性が高い。

(136)「参入障壁(Entry barriers)」は、反競争的な市場閉鎖の有無を立証するうえで 重要である。競争関係にある供給者が自社製品の新規購入者を開拓する、あるいは代替的 購入者を見つけるのが比較的容易であれば、市場閉鎖が現実の問題となる可能性は低い。

しかし、製造および販売の両方の段階で、しばしば参入障壁は存在する。

(137) 強力な購入者であれば、競合商品またはサービスの供給から切り離されることを 容易には許さないことから、「対抗力(Countervailing power)」は関係する問題である。

より一般的には、供給者は、顧客に単一ブランド政策を受け入れさせるために、排他的取 引から生じる競争上の損失について全部、または部分的に補償しなければならない。上記 補償がなされる場合、当該供給者と単一ブランド義務に合意することは、顧客の個別の利 益にはなるかもしれない。しかし、このことをもって、すべての単一ブランド義務が、一 体としてみて、当該市場の顧客および最終消費者にとって全体として有益となると自動的

に結論づけることは誤りである。特に、多数の顧客が存在し、単一ブランド義務が、一体 としてみると、競合事業者の参入または事業拡大を妨げる効果を有する場合、消費者全体 に有益となる可能性は低い。

(138) 最後に、「取引の段階(the level of trade)」が関係する。中間財の場合には、反 競争的な市場閉鎖の可能性は低い。中間財の供給者が市場支配的でない場合、競合供給者 にとって需要の相当部分が「解放された」状態で残されている。ただし、市場支配的な水 準に満たない場合であっても、累積的効果の生じた状況では、反競争的な市場閉鎖が生じ る可能性がある。単一ブランド義務により拘束される市場が50%未満の場合には、累積的 な反競争効果が生じる可能性は低い。

(139) 契約が卸売段階における最終製品の供給に関するものである場合、競争上の問題 が生じるおそれがあるかどうかは、卸売の種類および卸売段階での参入障壁に大きく依存 する。競合する製造業者が自ら卸売事業を容易に実行できる場合、反競争的な市場閉鎖は、

現実的なリスクとはならない。参入障壁が低いかどうかは、卸売の種類、すなわち卸売業 者が契約の対象製品(例えばアイスクリーム)のみで効率的に営業できるかどうか、ある いはあらゆる種類の製品(例えば冷凍食品一般)を取引した方がより効率的かによっても 左右される。後者の場合、一つの製品のみを販売する製造業者が自ら卸売事業を立ち上げ ることは効率的でない。この場合には、反競争効果が生じ得る。さらに、いくつかの供給 者で利用可能な卸売業者の大半と提携しているのであれば、累積的効果の問題も生じ得る。

(140) 最終製品の場合、大半の製造業者にとって自社製品に限定した小売店舗の開設に は大きな参入障壁があることを考慮すると、一般に小売段階で市場閉鎖が生じるおそれが より強い。さらに、単一ブランド契約が店舗内のブランド間競争の減尐につながるのは、

小売段階である。以上の理由により、小売段階の最終製品については、他のすべての関連 要素を考慮し、市場支配的でない供給者が関連市場の30 %以上を(単一ブランド政策で)

拘束する場合に、重大な反競争効果が生じる。市場支配的な企業については、(単一ブラ ンド政策により)拘束される市場シェアがわずかな場合でも、重大な反競争効果につなが り得る。

(141) 小売段階では、累積的市場閉鎖効果も生じ得る。すべての供給者の市場シェアが 30%以下で、(単一ブランド政策により)拘束される市場シェアの合計が40%未満ならば、

累積的な反競争的市場閉鎖効果のおそれは低く、したがって一括適用免除が撤回される可 能性も低い。競合事業者の数、参入障壁など他の要素を考慮した場合には、この数値は、

さらに高いかもしれない。すべての企業が一括適用免除規則の市場シェアの上限以下では