本章では最初に,人体の指識別を目的とした指識別方式(Finger Identification Scheme:
FIS) [22]-[24]の概要を述べる.次に,FDTD 法を用いた電磁解析シミュレーションを
行い,指識別方式の妥当性を示す.そして,受信電力,位相,到達時間等の識別に用い るデータを測定し,実際に指の識別を行う.さらに,指識別方式を用いたアプリケーシ ョンとして,携帯端末上での指の識別を目的としたEnhanced Key Input Scheme(EKIS)
の提案及び基礎特性を評価する.
4-1 指識別方式概要
指識別方式(図4-1)を実社会に用いると様々なサービスや福祉システムが考えられ る.例えば,複数のボタンを使い分けるシステムでは,ボタンの代わりに指を用いる事 で機器のユーザインターフェースを単純化する事ができる.また,人体に装着する端末 に複数の情報を入力しておき,各指と複数の情報を関連付ける事で,ユーザの意思によ って必要な情報だけを入出力する事が可能になる.従って,両手の指を用いると10通 りの異なった情報の入出力が可能になり,例えば,数字の0-9を各指にあてはめれば,
数字入力の簡易化が可能になる.逆にユーザが複数の情報を入手するときに,触れた指 によって情報を識別して保存することも可能である.さらに,複数の指でボタン型の端 末に触れた場合には,一本の指の識別と異なる情報とする事で10通り以上の情報の入 出力が可能である.この複数の指の組み合わせ技術を利用することで,情報の数は膨大 な量となる.
図4-2は指識別方式による電子手話システムである.同システムでは,指と文字を関 連付ける事で,ボタン型の端末に触れた際に指を識別して指に入力してある文字を出力 するというシステムある.実際に使うイメージとして,ユーザの体にスピーカー付の通
また,日常生活での指識別方式の活用例を考えると,複数のボタンがある装置への適 応が望ましい.図4-3では指識別方式を適用したピアノとキーボードであり,キーを通 信端末となっている.これはピアノの側にユーザの指情報を入れておき,通信端末であ るピアノの鍵盤と指が触れることで通信が始まり,ピアノにあらかじめ登録してある演 奏曲の指の情報と実際に触れたキーの指とを照らし合わせ,正しい指で押さえているか 判断する事が可能である.
さらに,バイオメトリクス認証技術に関しても指識別方式の応用が可能であると考え られる.現在の人体の指を識別する代表的な技術として,指紋認証,静脈認証,カメラ を使った映像による認証などを挙げることができる.これらの技術は,ユーザが特定の デバイスを身につける必要はないが,それぞれ問題がある.指紋認証においては年齢と ともに指紋が変化したり,薄くなったりする場合がある.また,静脈認証やカメラを使 って映像による認証は認証するための装置を設置するのに多額の費用がかかり,安易に アプリケーションに組み込むことが困難である.しかし,指識別方式を用いた場合,通 信端末を人体に装着する事で,簡単かつ安価にアプリケーションに組み込ませることが できる.
図 4-1 指識別方式
4-2 指識別モデル
本節では指識別方式実現のために,二つのモデルを提案する.第一のモデルは,右即 端受信機(Right Receiver:RRx)と左即端受信機(Left Receiver:LRx)を持つリストバン ド型端末とシステムが提供するボタン型端末で構成されている.なお,右即端及び左即 端は装着者から見て手首の左側面と右側面を意味し,システムが提供するボタン型端末 は送信機になり,リストバンド型の端末を装着したユーザがボタン型端末に触れる事で,
信号の受信を行い,指の識別を行う.本論文では,図4-4に示す第一のモデルを両側端 図 4-2 指識別方式を用いた電子手話システム
図 4-3 指識別アプリケーション
♪
♪
Transmitter:LTx)から送信された信号をボタン型端末が受信し,指の識別を行う.本論 文では,このモデル2を両側端送信(Two Transmitters:2Tx)モデルと名付ける.
図 4-4 両側端受信モデル
図 4-5 両側端送信モデル
RRx Tx
LRx
RTx Rx
LTx
4-3 指識別方式に最適なプローブ評価モデル
本節では指識別方式に用いる最適なプローブを求めるため,FDTD法を用いたシミュ レーションを行い,評価する.ここで最適なプローブは,各指に最も電界強度が異なる プローブであり,本論文では図4-6のProbe A,Probe B,Probe Cと人体モデルを用いて 評価する.プローブのアンテナ部は金属板となっており,金属板の中心部に正弦波電圧 のピークが1V の給電点を設け,左手首の右側面にプローブを装着し,シミュレートす る.また,周波数は500 MHz から3.0 GHz までを500 MHz 刻みで使用しており,解 析領域等は3-2-1で述べた手首の動き評価モデルと同様である.
Probe A
X Z
Y X
Y
① : 30 cm
② : 20 cm
③ : 2.0 cm
④ : 1.5 cm
⑤ : 17 cm
⑥ : 1.5 cm
①
②
③
④ ⑤
⑦
⑥
Z
Probe
⑧
⑧ ⑨
⑩ ⑩
4-3-1 指識別方式に最適なプローブ評価結果
図4-7は周波数1.0 GHzにおける指の腹部分の電界強度を示しており,本図からプロ
ーブによって,人体に流れる電界強度が異なることを確認した.ここで,各プローブの 特徴として,プローブ A は親指,人差し指,小指,中指,薬指の順で電界強度に差が ある事を確認した.また,プローブBはプローブ Aに比べ,各指,高い電界強度を得 たが,各指の電界強度の差はプローブAに比べ,低い結果となった.最後にプローブC はプローブAと同様に各指の電界強度が分散したが,各指の電界強度がプローブAに 比べ低い結果となった.また,他の周波数においても同様の傾向を得ており,本論文で はプローブAを指識別方式に最適なプローブとして用い,指の識別を行う.
Probe A Probe B
Probe C
4-3-2 指識別方式におけるシミュレーション評価結果
本節では前節で評価を行ったプローブを手首両側面に装着した人体モデルを用いて,
手首右側面及び左側面における電界強度の差を求めた.
図4-8は各指から送信された信号を受信した手首両側面の電界強度の差を示している.
本結果から周波数1.0 GHzから2.5 GHzまでは受信電力差を確認する事ができ,単純な 電界強度の差から指識別方式が可能であることを明らかにしたが,周波数500 MHzで は薬指と小指,周波数3.0 GHzでは人差し指と中指の電界強度の差が周波数1.0 GHzか ら2.5 GHzと異なる傾向にある事がわかり,500 MHz及び3.0 GHzは他の周波数に比べ,
指の識別が困難である事を確認した
図 4-8 手首両側面から各指までの電界強度の差
4-4 手首から各指までの伝搬特性
本節では両側端受信モデルを用いて,各指でボタン型端末に触れた時の受信電力を求 める.図4-9に実験回数50回における(A)右側端末受信機,図4-10に実験回数50回 における(B)左側端受信機の各指の平均受信電力,エラーバーに標準偏差を示す.平 均受信電力は各指の中で最も高い受信電力を得た指を 0dB としており,他の指との相 対的な差を表している.この結果,周波数1.0 GHz以上において,受信機に最も近い指 が最も高い受信電力を得たが,それ以外の指は周波数によって特徴が異なる事が判明し た.この原因として,周波数による人体伝搬特性の違い,空間から直接受信した信号,
実験環境による影響等が挙げられる.しかし,周波数によって異なる電力差の特徴を掴 む事で人体手部識別は可能である.
図 4-9 各指から右側端受信機までの伝搬特性
4-5 指識別方式における評価概要
指識別方式の評価として両側端受信モデルを用いて,最大受信電力及び到達時間,各 周波数における受信電力差及び位相差を求め,それぞれの指識別方式の精度を求める.
4-6 指の識別情報の作成
実験で得た結果から指を正しく識別できる確率である識別率を定義し,各提案モデル を数値で評価する.識別方法として,正準判別分析[21]を用いており,得られた実験デ ータを第一正準変量,第二正準変量に変換し,各指の重心値を求め,2次元平面におけ
図 4-10 各指から左側端受信機までの伝搬特性
ラメータはx1,x2,xj,xkxpで表すことができる.
この変量に対して,任意の係数
a1,,ap
を用いて下記の合成変量zを作る.p px a x
a
Z 1 1 ・・・(4.1)
また,群の数を jとし,k群あったとするとi番目の実験値の合成変量は下記の式にな る.
) , , 1 : , , 1 (
1 ,
1 ji p pji j
ji a x a x j k i n
Z ・・・(4.2)
この合成変量zjiの総平方和をST,群間平方和をSB,群内平方和をSW とすると,
W B
T S S
S の関係が成り立ち,下記の様に分解する事ができる.
k
j
k j
k j
n
i ji j
j n
i ji
j j
z z z
z n z
z
1 1 1 1
2 2
1
2
. .. .
..
・・・(4.3)また,zj.は
j
群の平均,z ..
は総平均であるので,SBとSWは次のように分解できる.
kj
p l
p
l l l
j l l j k
j j j
B
n z z n a x a x
S
1 1 1
) ( 1
2
.
..
.
pl p l
l j l k
j
l j l l
l
a x x x x
a
1 1
) ( 1
)
(
. . .
.
・・・(4.4)ここで,関数nbllを下記の式で定義する.
l
llj l k
j l
j
l
x x x nb
x
. . .
( ).
1 )
( ・・・(4.5)
同様にSWも分解を行う.
kj n i
p l
p l
j l l j
li l k
j n i
ji W
j j
x a x
a z
z S
1 1 1 1
) ) (
(
1 1
2
.
.
p p alal k n xli j xl j xli j xl j
j ( ) ( ) ( ) ( )
.
. ・・・(4.6)
さらに,関数
nk
sllを定義し,固有値をλとすると下記の式で表す事が出来る.
llj l j i l k
j n k
j l j
li x x x n k s
x
j
. ( ) .( ) ( )1 1
) ) (
( ・・・(4.7)
ll p
l p l
l l l
l p
l p l
l
lab aa s
a
1 1
1 1
λ ・・・(4.8)
ここで
al の2次形式の比を最大化する固有値λを求める.λをalで変微分し,0とおくと次の一般固有値問題が得られる.
p l
l ll l
l s a l p
b
1
, , 2 , 1 ,
0
λ ・・・(4.9)
求 め る 係 数
a a
1, , a
p
と し て , 最 大 固 有 値λ1 に 対 応 す る 固 有 ベ ク ト ル ), ,
( 11 1
1 a ap
a の要素を用いる事で第一正準変量z1と第二正準変量z2は下記の式で 求まる.
p p x a x
a
z1 11 1 1 ・・・(4.10)
p p x a x
a
z2 12 1 2 ・・・(4.11)
本論文では主に受信電力,到達時間,位相といった変量の中から二つの変量を用いて いるが,三つ以上の変量の場合でも上記の式で二つの合成変量を作る事ができる.そし て第一正準変量であるz1を横軸(Index of main factor),第二正準変量である
z
2を縦軸(Index of second factor)のグラフにプロットする.実験値
n
個全てのパラメータを上記 の二つの合成変量に変換し,グラフにプロットする.そして,このグラフを識別情報と する.全ての実験値を変更後,指ごとの重心値を求める.そして,変換した実験値と重心値 の近さを比べるために,二つの正準判別分析で定められる2次元平面におけるユークリ