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拡散強調像 (Diffusion-Weighted Imaging: DWI) の基礎

ドキュメント内 脳内ネットワークに関する研究 (ページ 30-35)

第 4 章 拡散 MRI

4.4 拡散強調像 (Diffusion-Weighted Imaging: DWI) の基礎

4.4.1 拡散強調像における信号取得

水分子の拡散現象を MRI の信号として検出する基本的な方法としては,スピンエコ ーシーケンス内の 180°再収束パルスの前後に,大きさが同じで向きが逆の一対のパル ス型傾斜磁場(Motion Probing Gradient: MPG)を印加するStejskal-Tanner法がある.

180°再収束パルス印加前のMPG傾斜磁場はプロトンの位相を分散させ,180°再収束 パルス印加後のMPG傾斜磁場はプロトンの位相を収束させる役割がある.静止してい るプロトンは一対のMPG傾斜磁場により位相変化が相殺され,信号に変化は起こらな いが,一対のMPG傾斜磁場の印加の間隔に MPG傾斜磁場と同じ方向に動いたプロト ンは位相変化が残存し,結果としてそれらの信号が低下する.つまり,MPG 傾斜磁場 は,“拡散による動き”を“位相のずれ”として画像に反映させていると言える 25).現 在,臨床で撮像されている拡散強調像は,上述のStejskal-Tanner法と3.9節で述べた EPI法をベースとしたDWI SE-EPI法が用いられている(図4.3).

拡散現象はT1値,T2値といった従来のMRIのパラメータとは独立した物理現象で,

組織の構築,組織の構成物ごとの物理学的性質,組織の微細構造,立体構造などの今ま で画像化するのが困難であった微細構造を反映した MR 信号を得ることが可能となる.

それを利用した画像は,従来とは全く異なる物理的背景の画像となる.

臨床では,超急性期脳梗塞などの病変の検出や鑑別に有用とされ,頭部領域 MRI 検 査のルーチン撮像として多くの施設で用いられている.拡散強調像の信号は,拡散係数 が低い場合に高信号となる.また,拡散強調画像はMPG傾斜磁場を印加する前の撮像 法(EPIのT2強調画像)の影響を受けてしまうため,T2強調像由来の信号の解釈には注 意が必要となる26).

23

図4.3 DWI SE-EPIのパルスシーケンスとMPG傾斜磁場による位相変化

4.4.2 拡散強調像の信号強度

拡散 MRI では,MPG 傾斜磁場を印加することで“拡散による動き”を“位相のずれ”と して画像に反映させている.この位相のずれ,つまり位相の分散を±𝜋𝜋[rad]の範囲で測定 することで,拡散の程度を信号の低下として画像化するということである.4.2節で述べ たように,拡散は全ての拡散粒子が原点にあり,拡散する空間に境界が存在しないこと を条件としたとき,その拡散粒子の移動距離の分布は正規分布する.原点から+𝑥𝑥に変位 して位相が+∅ずれた核磁気モーメント𝜇𝜇と,原点から−𝑥𝑥に変位して位相が−∅ずれた核 磁気モーメント𝜇𝜇の存在確率は正規分布に従い同じで,これら二つの核磁気モーメント をペアとして考えると,そのベクトル和は必ずx軸上に存在し,大きさは2𝜇𝜇 𝑐𝑐𝑐𝑐𝑐𝑐 ∅ (∅ ≥ 0) となる.したがって,拡散しているプロトンの磁化の大きさ𝑀𝑀は,x座標0~∞に存在する 𝜇𝜇の確率密度に2𝜇𝜇 𝑐𝑐𝑐𝑐𝑐𝑐 ∅を掛けたものを全て足し合わせればよいことになる27).正規分布

24

の確率密度分布は式(4.6)より,以下の通りになる.

𝑃𝑃(𝑥𝑥, 𝑐𝑐) =

𝐶𝐶𝐶𝐶

0

=

√4𝜋𝜋𝜋𝜋𝑑𝑑1

𝑒𝑒𝑥𝑥𝑒𝑒 �

−𝑥𝑥4𝜋𝜋𝑑𝑑2

(4.6)

したがって,

𝑀𝑀 = ∫ 2𝑐𝑐𝑐𝑐𝑐𝑐 ∅ ∙

0 √4𝜋𝜋𝜋𝜋𝑑𝑑1

𝑒𝑒𝑥𝑥𝑒𝑒 �

−𝑥𝑥4𝜋𝜋𝑑𝑑2

� 𝐺𝐺𝑥𝑥

(4.8)

拡散変位距離xの時間tにおける位相∅は,磁気回転比𝛾𝛾[MHz/T]MPG 傾斜磁場強度を

𝐺𝐺𝑀𝑀𝑀𝑀𝐺𝐺[T/m]としたとき,

∅(𝑥𝑥, 𝑐𝑐) = 𝛾𝛾 ∫ 𝐺𝐺

𝑀𝑀𝑀𝑀𝐺𝐺

(𝑐𝑐) ∙ 𝑥𝑥(𝑐𝑐)𝐺𝐺𝑐𝑐

(4.9) と表現できる.式(4.8)および式(4.9)より,

𝑀𝑀 = 𝑒𝑒𝑥𝑥𝑒𝑒 �−𝛾𝛾

2

𝐷𝐷 ∫ �∫ 𝐺𝐺

0𝑑𝑑 0𝑑𝑑′ 𝑀𝑀𝑀𝑀𝐺𝐺

(𝑐𝑐′′)𝐺𝐺𝑐𝑐′′ �

2

𝐺𝐺𝑐𝑐′ �

(4.10)

となる.

ここで,拡散していないプロトンの磁化の大きさ𝑀𝑀0は,式(4.7)においての∅ = 0,す

なわち𝑐𝑐𝑐𝑐𝑐𝑐 ∅ = 1の場合であるため,

𝑀𝑀

0

= ∫ 2 ∙

0 √4𝜋𝜋𝜋𝜋𝑑𝑑1

𝑒𝑒𝑥𝑥𝑒𝑒 �

−𝑥𝑥4𝜋𝜋𝑑𝑑2

� 𝐺𝐺𝑥𝑥 =1

(4.11)

となる.式(4.10)および式(4.11)より

𝑙𝑙𝑠𝑠(

𝑀𝑀𝑀𝑀

0

) = −𝛾𝛾

2

𝐷𝐷 ∫ �∫ 𝐺𝐺

0𝑑𝑑 0𝑑𝑑 𝑀𝑀𝑀𝑀𝐺𝐺

(𝑐𝑐

′′

)𝐺𝐺𝑐𝑐

′′

2

𝐺𝐺𝑐𝑐′

(4.12)

これを解法すると,

𝑙𝑙𝑠𝑠(

𝑀𝑀𝑀𝑀

0

) = −𝐷𝐷 ∙ 𝛾𝛾

2

∙ 𝐺𝐺

𝑀𝑀𝑀𝑀𝐺𝐺2

∙ 𝛿𝛿

2

(∆ −

𝛿𝛿3

)

(4.13)

ここで,𝛾𝛾2𝐺𝐺𝑀𝑀𝑀𝑀𝐺𝐺2𝛿𝛿2�∆ −𝛿𝛿3� = 𝑏𝑏と置くと,

𝑙𝑙𝑠𝑠(

𝑀𝑀𝑀𝑀

0

) = −𝑏𝑏𝐷𝐷

(4.14) となる.この𝑏𝑏をb値(b value)と呼び,�∆ −𝛿𝛿3�を拡散時間と呼ぶ.

信号強度𝑆𝑆は磁化𝑀𝑀に比例するため,次式(4.15)が成り立つ.

𝑆𝑆

𝑆𝑆0

= 𝑒𝑒𝑥𝑥𝑒𝑒 (−𝑏𝑏𝐷𝐷)

(4.15)

25

4.4.3 b値(b-value)の定義と信号強度への影響

b値は,拡散強調像におけるMPG傾斜磁場の影響の大きさを表すパラメータである.

4.4.2節で述べたようにb値は次式(4.16)で定義される.

𝑏𝑏 = 𝛾𝛾

2

𝐺𝐺

𝑀𝑀𝑀𝑀𝐺𝐺2

𝛿𝛿

2

�∆ −

𝛿𝛿3

(4.16) 式(4.16)より読み取れるようにb値は,MPG傾斜磁場の強度𝐺𝐺𝑀𝑀𝑀𝑀𝐺𝐺[mT/m],印加時間𝛿𝛿[ms],

印加間隔∆[ms]を変更することにより調整することが可能である.この b 値を制御する

ことで,計測対象とする移動するスピンの位相変化を検出可能な±πの範囲内に調整し,

そのとき位相変化が 0となっている計測対象,つまり“b値”の値の計測対象の信号が 最も高くなる.

基本的にはb値が小さいと,移動速度の速い粒子から遅い粒子までの広い範囲を対象 とし,b値が高いと移動速度の遅い粒子のみを対象とする.しかし,大きなb値を使用 すると,移動速度の速い粒子と静止している状態に近い粒子との位相差が検出可能な位 相差2πを超えるようになり,位相変化が2πの範囲に収まらなかった粒子の信号変化は反 映されない可能性がある28).言い換えると,2πを大きく外れて位相変化した粒子から信 号が取得できないということである.

b値を大きくするためには,MPG傾斜磁場の強度𝐺𝐺𝑀𝑀𝑀𝑀𝐺𝐺[mT/m],印加時間𝛿𝛿[ms],印加

間隔∆[ms]を大きくすればよいが,臨床MRI装置において𝐺𝐺𝑀𝑀𝑀𝑀𝐺𝐺は装置の傾斜磁場性能に

よって決定されるので,現実的には𝛿𝛿もしくは∆を延長することで,高いb値を達成する.

𝛿𝛿もしくは∆を延長することは,信号の読み取りまでの時間が延長することを意味し,TE の延長に低下につながり,SNR低下や画像歪みの増悪,信号低下を招く.このようなこ とから,b値の大きさと信号強度はトレードオフの関係にあるといえる26)

脳神経系では,b値は700~1000[sec/mm2]以上を用いることが多く,灌流(毛細血管の 中の血流)の影響がほぼ取り除かれるDWIとなる.

図4.4 b値の変化によって観察される拡散の度合い 26

図4.5 b値による信号強度の違い

4.4.4 みかけの拡散係数(Apparent Diffusion Coefficient: ADC)とは

拡散現象は,定量的な拡散の大きさを表すために,拡散係数Dを用いる.拡散係数Dは 式(4.15)を用いて算出するが,MRIの計測しているボクセルサイズ(数mm)は,生体内の 動き(数十µm)と比較すると非常に大きいため,毛細血管流に代表される灌流(perfusion) や他の種々の勾配もボクセル全体を巨視的に見れば,様々な方向を向いており,ランダ ムな動きと同じことになる(図4.6).つまり,MRIで計測される拡散では,“真の拡散”

と濃度勾配は他の温度の高低,イオン勾配,圧力や灌流などの要因と区別することがで きない.そのため,MRI では同程度の水分子の拡散(ランダムな動きをする拡散)をひと まとめにして“拡散”として扱い,それら拡散の動きをIVIM(IntraVoxel Incoherent Motion) と呼ぶ.よって,生体内の拡散係数は,純粋な拡散のみを扱っているわけではないので,

“みかけの”拡散係数(Apparent Diffusion Coefficient: ADC)と呼ばれる.ADCは,真の拡 散係数𝐷𝐷,灌流している水分子の割合を𝑓𝑓,b値をbとすると,次式(4.17)で近似される.

𝐴𝐴𝐷𝐷𝐶𝐶 ≈ 𝐷𝐷 + �

𝑓𝑓𝑏𝑏

(4.17)

したがって,b値が小さい場合にはADCは大きな値をとる.

ここでMPG傾斜磁場を印加しない場合の画像の信号強度を𝑆𝑆(0),b value = bとしたと きのMPG傾斜磁場を印加した場合の画像の信号強度を𝑆𝑆(𝑏𝑏)とすると,式(4.15)より

𝑆𝑆(𝑏𝑏) = 𝑆𝑆(0) ∙ 𝑒𝑒𝑥𝑥𝑒𝑒 (−𝑏𝑏 ∙ 𝐴𝐴𝐷𝐷𝐶𝐶)

(4.18) が成り立つ.これをADCについて解法すると,

𝐴𝐴𝐷𝐷𝐶𝐶 = −

1𝑏𝑏

∙ 𝑙𝑙𝑠𝑠 �

𝑆𝑆(𝑏𝑏)𝑆𝑆(0)

(4.19) と表せる.よって,ADCを求めるには,少なくとも2種類の以上のb値で撮像された画 像が必要となる.多数の b値を用いてADCを算出するときは,各b値における信号値 から回帰直線を求めることによって算出可能である.

臨床的にDWIを解釈する上では,ADCを画像化することで,T2の影響を受けている のかの判別が容易となり,また,定量評価が可能になる利点をもつ26)

27

水分子

図4.6 ボクセル内の拡散流(a: 水分子の拡散現象,b: 毛細血管流(灌流))

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