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アルツハイマー病について

ドキュメント内 脳内ネットワークに関する研究 (ページ 54-57)

第 6 章 アルツハイマー病とレビー小体型認知症の病態と診断

6.3 アルツハイマー病について

6.3.1 アルツハイマー病の概念

アルツハイマー病(Alzheimer’s Disease: AD)は初老期(40歳以上65歳未満)に発症す る原因不明の認知症をきたす疾患である51).若年期(40歳未満)に発症することはきわめ てまれである.神経病理学的な特徴は,大脳皮質や海馬の萎縮であり,顕微鏡的には,

そこに①神経細胞の脱落,②細胞外の老人斑,③細胞内の神経原線維変化の沈着,が広 範に認められる.老人斑の主要構成成分としてはアミロイドβタンパク(Amyloidβ

protein: Aβ),神経原線維変化の主要構成成分としては微小管結合タンパクの一つである

タウタンパクが高度にリン酸化されたものが同定されている52)

Aβは 40~43 のアミノ酸からなる分子量4000 程度のペプチドであり,Aβ前駆体タン

パク質(APP)からセレクターゼと呼ばれるタンパク質分解酵素による異常な分解がされ,

産生・沈着する.正常では大部分のAPPはAβペプチドの中ほどで切る𝛼𝛼セレクターゼ で分解され,Aβは産生されないが,アルツハイマー病では Aβペプチドの上末端で切断 するβセレクターゼや下末端で切断する𝛾𝛾セレクターゼによる異常分解が生じ,Aβが産 生・沈着する53).Aβは,𝛾𝛾セレクターゼの分解する箇所によって, Aβ40~Aβ43になり,

特に,Aβ42の増加がアルツハイマー病の発症に重要だと考えられている52)

タウタンパクは神経軸索内の分子量約5万の微小管結合タンパクであり,細胞内で細 胞骨格を形成している微小管と結合し,細胞骨格の安定に寄与する.このタウタンパク がリン酸化酵素によってリン酸化されると,タウタンパクは微小管から分離しタウタン パク同士で結合し神経原線維変化を生じると考えられている54).神経原線維変化はアル ツハイマー病以外にも,進行性核上性麻痺や皮質基底核変性症などの神経変性疾患や

Niemann-Pick 病などの先天性代謝異常症などの認知症性疾患の脳内にも蓄積すること

が知られており,認知症の発症に極めて重要なタンパクである52). 47

アルツハイマー病では,APPからAβが産生され,脳内に沈着することで老人斑がで き,それが引き金となって神経細胞に障害を与え,タウの重合を引き起こし,神経原線 維変化が形成される.神経原線維変化の中には,過剰にリン酸化されたタウで構成され る線維が含まれ,そのタウの異常が最終的に神経細胞の死を引き起こし,認知症に至る.

このような考えはアミロイド仮説(あるいはアミロイドカスケード仮説)と呼ばれ,1992 年に提唱されて以来,多くの研究者に指示されている.

図6.1 アミロイド仮説の概略図

6.3.2 アルツハイマー病の臨床所見

アルツハイマー病の診断には,臨床所見と画像所見を合わせて診断することが重要で ある.アルツハイマー病に特徴的な臨床症状は,①初老期から老年期の発症,② 皮質性 認知症(陳述記憶の障害である健忘が著しく,記憶障害を中心に見当識障害や思考,判断 力の障害が見られ,失語,失行,失認などの高次脳機能障害も加わってくる),③緩徐な 進行性,④認知機能障害が意識障害によらない,⑤感情や意欲の低下⑥幻覚や妄想など の心理症状,⑦徘徊や攻撃傾向などの異常行動,などが挙げられる42)

アルツハイマー病の症状は大きく分けると中核症状と周辺症状(BPSD: behavioral 48

and psychological symptoms of dementia)に分類される.中核症状は認知症の直接の原 因である神経細胞死が起こる症状で,認知症患者全てが抱える症状である.一方,周辺 症状は中核症状を背景にして,または独立して生じる精神・感情・行動障害などの非認 知症状を指す.中核症状では,記憶障害,失語,失行,失認,遂行機能の障害が挙げら れる.周辺症状では,幻覚,妄想,誤認症候群,せん妄,抑うつ,アパシー(無関心), 徘徊,食行動異常,排泄行動異常などが挙げられる43)

図6.2 認知症における中核症状と周辺症状(参考文献[43]から改変引用)

6.3.3 アルツハイマー病の画像検査

CTやMRIにおいては,脳血管障害の同定や正常圧水頭症,慢性硬膜下血腫,脳腫瘍 などの治療可能な認知症の鑑別が最も重要な目的の一つである.アルツハイマー病では,

早期に海馬や海馬傍回などの内側側頭葉領域が萎縮し,進行するに従い,側頭頭頂連合 野などの大脳皮質に病変が進展し,そして萎縮は大脳全域におよび,脳室系の拡大も目 立つようになる.また,大脳白質の変性(白質希薄化)も出現してくる 42).脳萎縮以外に も,脳アミロイドアンギオパチー(Cerebral Amyloid Angiopathy: CAA)を反映した皮質下微 小出血がある.脳アミロイドアンギオパチーは老人版を形成する Aβが,髄膜や脳実質 内の動脈,毛細血管に沈着する病態であり,アルツハイマー病との強い関連を持つ.通 常,加齢とともに増加することが知られているが,アルツハイマー病では,高頻度に伴 うと報告されている55)

アルツハイマー病の神経病理変化は,シナプス機能の低下が先行し,神経細胞死の結 果を反映した脳萎縮がそれによって引き続いて生じると考えられている.よって,脳の

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代謝や血流を評価することのできるSPECT やPETは,理論上,アルツハイマー病の病 理変化をより早期に捉えることができると考えられている.

SPECTにおける脳血流シンチグラフィでは,123I-IMPや99mTc-HMPAO,99mTc-ECDと いった放射性医薬品を用いることにより,脳血流の分布を定性的に評価できる.アルツ ハイマー病では,最初に後部帯状回から楔前部において脳血流の低下が生じ,また,病 初期からは大脳皮質の縁上回,角回などの頭頂連合野の血流低下がある.その後,側頭 頭頂連合野全体に脳血流低下領域は広がり,さらに進行すると,前頭葉も含めた連合皮 質の血流が広範に低下する.

PET検査では,FDGやPIBなどといった放射性医薬品が用いられる.FDG-PETでは,

グルコース代謝が活発なシナプス機能を鋭敏に反映することから,世界中でアルツハイ マー病の早期診断や鑑別診断に以前より広く用いられてきた.また,脳血流より直接的 に脳神経活動を反映していることや解像度が優れているという点で,SPECTよりもアル ツハイマー病の診断精度において優れていると考えられている.しかし,わが国では,

保険適応外であるため,日常臨床には応用しがたい56).PIB-PETとは,アミロイドPET のことを指し,アルツハイマー病の原因である Aβの脳内沈着を観察することが可能で ある.しかし,対象となる放射性医薬品は 11C で標識されており,その半減期は20 分 と短く,現状サイクロトロンを保有している施設のみでしか検査は出来ないなどの制約 がある.

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