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慢性期脳卒中患者における離殿までの胸郭から骨盤への力

ドキュメント内 埼玉県立大学大学院 保健医療福祉学研究科 (ページ 47-50)

2.4 考察

2.4.2 慢性期脳卒中患者における離殿までの胸郭から骨盤への力

次に、慢性期脳卒中患者におけるこのような力学的エネルギー消費量 の増大について、関節ごとあるいは運動学的相ごとに検証することで詳 細な特徴を明らかにした。離殿時点の股関節モーメントピーク値は慢性 期脳卒中患者の麻痺側の方が健常成人よりも大きかった一方、離殿まで の下肢各関節における力学的仕事量については群間で差が無かった。こ の理由として、慢性期脳卒中患者でも胸郭から骨盤への力学的エネルギ ー伝達効率を維持し、胸郭から骨盤への力学的エネルギー伝達量を増加 させていたことが明らかとなった。

先述の通り、全身関節モーメントピーク値の総和は慢性期脳卒中患者 と健常成人の間で有意差は無かったが、関節ごとに検証すると慢性期脳 卒中患者には特徴があった。股関節において慢性期脳卒中患者の麻痺側 の方が健常成人よりも大きく、膝関節では対照的な結果であった。脳卒 中患者の歩行動作について、運動障害が重度なほど関節モーメントピー ク値は小さいことが明らかにされている(Kim & Eng, 2004)。一方、立

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ち上がり動作に関する先行研究は存在しない。しかし、本研究でも運動 障害を抱えている慢性期脳卒中患者で膝関節モーメントピーク値が小さ かった点は、歩行に関する先行研究を支持した。ただし、股関節モーメ ントピーク値が健常成人よりも大きかった点は歩行に関する先行研究と 矛盾する。この理由として、胸郭から骨盤への力学的エネルギー伝達量 増大と、体幹質量中心位置の調整による股関節-膝関節モーメントの補償 関係の 2点が挙げられる。

1 点目の胸郭から骨盤への力学的エネルギー伝達量増大について、脳 卒中による運動障害の部位特性を考慮する必要がある。脳卒中による運 動障害は、上下肢よりも体幹の方が軽微なことが多くの先行研究で明ら かになっている(Cirstea & Levin, 2000; Levin, Kleim, & Wolf, 2009;

Willoughby & Anderson, 1984)。慢性期脳卒中患者は、運動障害がより 軽微な胸郭からより重度な股関節へ骨盤を介して力学的エネルギー伝達 量を増大させた。すなわち、この関係性は四肢よりも運動障害が軽微な 体幹から力学的エネルギー伝達量を大きくする補償関係と捉えられる。

ここで、胸郭から骨盤への力学的エネルギー伝達量を増大させたのは胸 郭角変位量増大と考えられる。本研究で解析項目に採用した力学的仕事 量と言う物理量は、筋活動に関連する力学的エネルギー消費量や伝達量 の指標であると同時に、物体の変位を引き起こす力から定義される。こ の物理学的特性のため、当該区間における関節モーメントか体節角変位 量が大きくなると力学的エネルギー伝達量は大きくなる。そのため、慢 性期脳卒中患者はより運動障害が軽微な胸郭の角変位量を大きくするこ とで、胸郭から骨盤への力学的エネルギー伝達量を増大させて下肢運動 障害を補償したと捉えられる。また、慢性期脳卒中患者でも胸郭と骨盤 が同期して運動し、腰背筋が等尺性収縮として振る舞うことでその力学

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的エネルギー伝達効率を維持できた(式(4)より胸郭と骨盤の角速度が 正の相関関係の際にパワーは負の相関関係となる; 図 12 と図 18 は同 一被験者のパワーと角速度の時間曲線である)。

2 点目に、体幹質量中心位置の調整による股関節-膝関節モーメントの 補償関係について述べる。患者が立ち上がり動作時の胸郭角変位量を大 きくすると言う現象的特徴については、膝関節の機能障害を抱える変形 性膝関節症者でも同様である(Turcot, Armand, Fritschy, Hoffmeyer, &

Suvà, 2012)。胸郭を大きく前傾し身体重量比 60%を占める体幹重量を

膝関節回転中心に近づけることで、機能障害を有する膝関節モーメント を軽減した、と彼らは結論付けている。本研究でも同様の補償関係が存 在した可能性がある。運動障害の重度によってサブグループ化し比較し た結果から、このような補償関係は運動障害が重症であるほど強く作用 することが示唆された。

図 18. (左)健常成人と(右)慢性期脳卒中患者の胸郭-骨盤角速

度(代表例)、縦破線は離殿時点

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