本章では、まず忍者の修行について述べ、忍者はどうやって鍛錬するのか、その内容を 見る。次に、陽忍と陰忍はどのように違うのか比較する。最後に、さまざまな忍術を紹介 する。
3-1 忍者の修行 3-1-1 忍者修行の基礎
忍者の修行について、川上(2009:142-143)1は以下のように説明している。
基本的には、正心と忍耐・身体の敏捷・頭脳の鋭敏という、忍之者の条件を満たすた めの鍛錬法である。不断の修練を積み、何事にも動じない不動心を以て、臨機応変に対 応できる能力を養うのである。
厳密な区別はできないが、便宜上、心・身の二種に分類して解説していくこととする。
このように、忍者は正心と忍耐力、身体の敏捷と頭脳の鋭敏を高めるために、いろいろ な修行をすることが分かる。
3-1-2 忍術の鍛錬の目的
忍術の鍛錬は心の鍛錬と身体の鍛錬の2種類に分けられる。まず、心の鍛錬の目的につ いて、川上(2009:143-144)2は修行の目的を挙げている。その内容を以下のように整理 してみた。
① 息吹=呼吸の方法であり、呼吸の音が聞こえないようになる。
② 気合=精神を集中して、自分をコントロールする。
③ 兵法護身=神仏の助けによって身体を護ろうとする。
さらに、身体の鍛錬の目的について、川上(2009:144-146)3は修行の目的を挙げてい る。その内容を以下のように整理してみた。
① 明眼之法=暗いところでも、見えるようになる。
② 小音聞き=騒音中でも、聞き取りができる。
③ 神足法=静かに早く走る方法である。
④ 金剛行=どんなことにも耐えられる強靭な体を創る。
⑤ 飛神行=隠形・遁身や忍び込みができるように身軽さや強力な腕力や指力を創る。
このように、心の鍛錬は「息吹」、「気合」、「兵法護身」である。また、身体の鍛錬は、「明 眼之法」、「小音聞き」、「神足法」、「金剛行」、「飛神行」の5つであることがわかる。
1 川上仁一(2009)「忍術のコラム【实践・忍術修行】」『【決定版】忍者・忍術・忍器大全』学習研究社, pp.142-143
2 同上, pp.143-144
3 同上, pp.144-146
3-1-3 忍術の鍛錬の方法
まず、心の鍛錬の方法について、川上(2009:143-144)1は修行の方法を具体的に説明 している。その内容を以下の表1に整理してみた。
表1 心の鍛錬の方法2
息吹
整息
①正しく座し、吸う息を線香の煙のように細々と鼻より腹中に収め、息を 止め、意識にてその気を全身に巡らせる。吐くときも同様にして息を鼻 より徐々に吐き出す。呼吸は音を出さないよう静かに行う。
効果的に行うには、鼻先に羽毛か紙をつけ、揺れたり落ちたりしな いよう、静かに呼吸を整える。
②上達すれば、ほかの鍛錬により体を動かした直後にも行い、呼吸を乱れ なく整えて、音がないように修行する。
二重息吹
①正しく座して、「吸・吐・吐・吸・吐・吸・吸・吐」の順に、静かに長 い呼吸を行いながら気を整える。この間、呼吸は止めず、気を全身に巡 らすこともしない。
②慣れるとともに、呼吸の速さや種々の緩急をつけながら、跳ぶ・走る等 の動作に合わせ、息吹を行う。
気合
陰陽の気合(無声・有声の気合)
①体を整え、両手を頭上にあげ構える。
②「エイ・ヤア・トウ・ハッ」の気合を発しながら、両拳を急激に臍下丹 田のあたりに打ち下ろす。但し、拳を腹部に当ててはならない。
③目前に目安を定め、数間(約三・六~亓・四メートル)を隔てて右手を 頭上に構える。
④心の中で激しい気合を発しながら、手を目安に向けて振り下ろす。その とき、決して声を発してはならない。
兵法護身
九字護身3
「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」という九字を唱えながら、印を 結ぶ。
さらに、身体の鍛錬の方法について、川上(2009:144-146)4は修行の方法を具体的に 説明している。その内容を次のページの表2に整理してみた。
1 川上仁一(2009)「忍術のコラム【实践・忍術修行】」『【決定版】忍者・忍術・忍器大全』学習研究社, pp.143-144
2 同上
3 豊嶋泰国(2009)「忍術のコラム【九字・刀印・信仰】」『【決定版】忍者・忍術・忍器大全』学習研究社, p.244
4 同注1, pp.144-146
表2 身体の鍛錬の方法1
明眼之法
燈火目付
①闇夜に数間を隔てて燈火の前に座し、明かりの芯を注視する。燈火は 種々使用して注視し、その間は瞬きをしてはならない。
②瞬きの限界で目を閉じ、心を静める。
③明暗の中での注視を繰り返したら、燈火の周囲を紙で覆ってその紙に針 孔を開け、数間離れて孔を注視する。慣れるに従い、針孔数を数えるこ とも行う。
小音聞き
針の音聞き
①砥石や板に針を落とし、その音を聞き取り、距離を離れて落下音を数え る。
②上達に従い、一度に数本を落とし、落下数を数えることも行う。
神足法
爪先歩きと足甲歩き
①畳や板、地面の上で爪先歩行する。
②爪先での歩行が自在にできれば、次に爪先で跳ぶ修行も行う。
③爪先と同様に足の甲側にて歩行する。
深草兎歩
①右手を出し、その上に右足を乗せ、次に左手を出して左足を乗せる。順々 にこのように手足を交互に使い移動する。
②慣れるにつれ、早く音なく自在に歩行できるように修行する。
忍走りと忍歩き
①布を背に垂らして地につかないよう、または胸前に厚紙等を当て、これ が落下しないよう全力で走る修行をする。
②氷上で自在に転身したり、濡れ紙の上を紙が破れたりしないように歩行 する修行を行う。
金剛行
骨固めと虎之爪
①重りを入れた竹や棍棒、鉄棒で全身をくまなく打つ。道具が体に当たっ たときに呼吸法を行う。
②器に砂を入れ、指先より突き込む。慣れてきたら砂利に換えて同様の修 行を行う。また指先での逆立ちや、指で木にぶら下がることも行う。
飛神行
天狗昇と天狗飛切り
①膝を曲げることが困難な小穴を掘り、その内に立って気を体に充満さ せ、全身力により一気に飛び出す。穴は上達につれ、深く掘っていく。
②麻か向日葵を植え、その成長に合わせて飛び越える。
縮地と軽身
①板を傾斜させて立て掛け、上を全力で駆け上がる。傾斜は上達につれて 角度を増していく。
②樽に水を入れ、その樽の縁上を転身しながら自在に移動する修行を行 う。上達するにつれて、中の水を減らしていく。また、樽を横にして上 に乗り、樽を回転させながら落ちないように移動する。
このように、忍者はさまざまな忍術ができる能力を養うために、さまざまな修行をする ことが分かる。
1 川上仁一(2009)「忍術のコラム【实践・忍術修行】」『【決定版】忍者・忍術・忍器大全』学習研究社, pp.144-146
まとめ
第1節では忍者修行は心の鍛錬と身体の鍛錬の2種類に分けられることが分かった。そ して、その2種類の鍛錬の目的と方法を整理してみた。忍者は忍術を行う能力を養うため に、修行をすることが分かった。
3-2 忍術とは何か
忍術について、日本語版フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』1は以下のよう に説明している。
忍術とは、日本の审町時代頃から戦国時代の諜報活動や窃盗に関する技術や窃盗や諜 報活動への対応法の総称である。諜報活動の際に必要となる技術や各種の武術なども含 まれる場合がある。
また、忍びの術について、黒五(2003:16)2は以下のように述べている。
忍びの術は、人の心理を利用し、また地の利を生かし、さらには気象の変化を逃さず 行動するという、現实的かつ合理的な考え方をもってその旨とする。幻術のごとき妖か しの術はその一端にすぎず、人を欺く手段でしかない。秘伝書『萬川集海』(ばんせんし ゅうかい)は「忍術には陽術(陽忍)と陰術(陰忍)がある」と記す。陽忍とは、忍者 がその姿を現しながら敵中へ入ることをいい、陰忍とは人目を避け、姿を隠す術をもっ て忍び入ることをいう。
以上のように、『萬川集海』は忍術を陽忍(姿をあらわしながら敵の中に入る)と陰忍(姿 を隠して敵の中に入る)の2種類に分類していることが分かる。以下、陽忍と陰忍の内容 を具体的に見ていく。
まとめ
第2節では忍術とは、諜報活動や窃盗に関する技術や窃盗や諜報活動への対応法の総称 であることが分かった。また、『萬川集海』によって、忍術は陽忍と陰忍の2種類に分けら れることが分かった。
1 日本語版フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「忍術」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%BF%8D%E8%A1%93 2009.01.06
2 黒五宏光(2003)「図解・忍術秘伝」『歴史群像シリーズ71忍者と忍術』学習研究社, p.16
3-3 忍術 3-3-1 陽忍
陽忍について、「忍者情報サイト」1というウェブサイトは「陰忍術は姿を隠し、誰にも 知られず敵中にあらわれ謀略工作を行うが、これとは反対に姿を表しつつ敢中マ マに入り破壊 工作を行う謀略の術。遠入りの術、近入りの術、の二つに大別される」と書いている。
まず、近入りの術について、黒五(2003:16)2は以下のように説明している。
敵地に潜入する際、検問などを無事通過するための変装術を「妖者(ばけもの)術」
という。山伏なら先達(せんだつ)の手判、僧であれば本寺の手判を忘れずに携行すべ きと『萬川集海』は教えている。商人、猿回し、人形使い、巡礼者、世捨て人などに化 ける際にも各種必要な道具を揃え、身ごなしや芸にも長けている必要があった。また、
厳しい検問を通過するには、弱者を装うことが多かった。たとえば、目に魚の鱗(うろ こ)をコンタクトレンズのように装着し、眼疾患を装うこともあった。その上で竹杖を つき、中の節を抜いて護身用の刀・槍・目潰しなどを仕込んだ。ちょうど映画の『座頭 市』を想像していただければわかりやすいだろう。杖は、場合によってイラストのよう に分銅と鎖を仕込んだものもあった。竹杖に納まらない分銅は手で覆えば見えない。危 機に際し、すばやく鎖を引き出せば、十分な得物になったに違いない。
このように、近入りの術は、为に男性忍者が敵に怪しまれないようにいろいろな身分の 者に変装して、敵地に潜入することである。
次に、遠入りの術について、黒五(2003:16)3は、遠入りの事(くノ一の術)として、
以下のように説明している。
久ノ一(くのいち)は女性のこと。正しくは「九ノ一」という。中国でも女性を「九 一」と表現することがある。人体には目、鼻、口、耳、へそ、肛門など九つの穴がある。
直接的な表現で恐縮だが、女性はもう一つ多いことからそう呼ばれたという。「女」の文 字を分解した「くノ一」は、後世にきれいな解釈をあてはめたのが真相らしい。女性が 忍びとして起用されるのは、男では潜入しにくい場合に多かった。たとえば、女中とし て敵方の城に潜り込み、動静や機密を探って報告するなどである。
また、九ノ一の術について、黒五(2009:84)4は以下のように述べている。
古今、女性は噂好きとされる。敵方の「奥」で話される秘事や、敵方内部の人間関係 などを聞き込んで味方に伝えれば、離間工作に役立てられた。ただし秘伝書では、九ノ 一の難点として感情的である点をあげている。色恋でままならぬ女心は、古今変わらず 男を悩ませたようである。
敵方の城の奥御殿などには、美人の九ノ一が奥女中として潜り込んだ。また商家であ れば下女として奉公し、内部の情報を入手した。間者、密偵としての九ノ一は、そうし た女性ならではの活躍が求められた。
1 『忍者情報サイト』「忍術 忍技 忍法」http://www.syuriken.com/ninja_content/ninja-skills-zyutu.htm 2009.01.06
2 黒五宏光(2003)「図解・忍術秘伝」『歴史群像シリーズ71忍者と忍術』学習研究社, p.16
3 同上
4 黒五宏光(2009)「忍術の九ノ一の術」『【決定版】忍者・忍術・忍器大全』学習研究社, p.84