ということは仕事の内容に限るものではありません。まず、弁理士が扱う知的財産そのものが 創作の賜物でありクリエイティブであると言えます。発明やデザインといった知的財産は、発明 者やデザイナーがその頭脳で思いつき、かたちにするまでは全くこの世に存在しなかったもの です。発明においては、なお、頭の中にのみ存在し、かたちにすらなっていないものもあります。
このような創作に創作者以外に最初に触れることになるのが弁理士です。弁理士は、知的創造 物に最初に触れる喜びを味わえる唯一の士業と言ってよく、人間の持つ知的好奇心を刺激する 職業であるという意味でクリエイティブです。また、その業務も、かたちのない知的財産を権利 として世に生み出すものであり、創作者とは違った意味で、クリエイティブと言えます。しかも、
知的財産をどのような知的財産権とするかは弁理士次第であり、弱い権利になるのも強い権利 になるのも、弁理士の能力にかかっているのです。また、弁理士となった以上、事務所の方針 や他の有資格者の支援等があったとしても、最後は、自らの力で知的財産の権利化に向けた努 力をしなければいけないのです。そして、権利化がされれば、権利者となれた創作者にとっても、
権利化に向けて努力した弁理士にとっても、うれしいことであり、悲しむ者がいないのは弁理 士にとって幸せです。余談ではありますが、本稿を作成にするにあたり、弁理士の方に取材を させていただきましたが、その中でよく聞かれたのは「弁理士は血を見ない」ということでした。
弁護士をはじめとする他の法律士業では、扱う案件のほとんどが、私人間の争いであり、どち らかが勝てば、どちらかが負けるという構造になっています。また、和解といったかたちで解決 したとしても禍根が残ることは否めません。弁理士の業務にはこのような側面が少ないというこ とも魅力でしょう。今まで世に存在しなかった何かをつくり出すということにやりがいを感じる ことができるのでしたら、弁理士は天職と言えます。
弁理士の魅力とは
第 8 章
第
8
章 弁理士の魅力とはP r o f e s s i o n プロフェッション の 世界
著作権者を理解し、
ライセンシー側の仕事もする
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■■ 漫画、アニメといった日本のコンテンツは、いまや 世界から注目を浴びています。今後ますます発展が 見込まれるコンテンツビジネスの分野で、弁理士の 活躍が期待されるわけですが、具体的に、どのよう な役割を果たし、業務を開拓していけばよいとお考 えでしょうか。
コンテンツにもいろいろありますが、知的財産基本法やコン テンツ法に基づいた概念であると理解しています。これについ て弁理士が直接関係する分野となると、現行では、意匠法、特 許法ほか、商標法、不正競争防止法などの法律になります。
では、弁理士がこれから開拓できるコンテンツに関する仕事 として、どのようなものがあるかですが、わかりやすいところ では、マンガやアニメなどに登場するキャラクターを、何にど のように利用するかを考える問題があると思います。一般的に コンテンツというと、著作権ということにシフトしていること を鑑みれば、ライセンス契約の代理、キャラクターの商品化権 の問題に密接に関係します。
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■■ キャラクターの商品化権とは、具体的にどのような ものなのでしょうか。
キャラクターの商品化には、大きく分けて二つあります。一 つには、コミック雑誌やTVのシリーズに登場するキャラクター を、自社の商品なりサービスなりに使っていくというものです。
もう一つは、単に商品化のために創作したオリジナルキャラク ターであり、その代表的なものとしてはサンリオ社の「ハロー キティー」が挙げられます。前者のシリーズキャラクターにあっ ては、連載中にキャラクターは周知著名になっているから、そ れを商品や営業に使用すれば、キャラクターのもっているパブ リシティ・バリュウによって、高い利益を上げることができ、
後者のオリジナルキャラクターにあっては、企業努力によって 次第に有名にして行くことができるのです。
弁理士は、シリーズキャラクターだけでなく、オリジナルキャ ラクターの著作物に関するライセンス契約の代理人としての仕 事、商品化権問題に関係した仕事についても拡げられると思い ます。
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■■ コンテンツビジネス分野の仕事をする上で、弁理士 に求められる素養、必要な力とは何でしょうか。
著作権の発生は創作時であり、登録の場面はあっても著作権 の発生要件ではないのです。そういう意味では、われわれ弁理
牛木 理一
先生 /弁理士 牛木内外特許事務所 所長コンテンツビジネスの展望
―これからの弁理士の仕事―
牛木 理一 先生
U s h i k i R i i c h i
1935年 新潟県生まれ
1959年 中央大学法学部法律学科卒業 1960年 弁理士登録
1968年 牛木内外特許事務所開設
ウィーン外交会議APAA代表、弁理士会意匠委員会委員長、弁理士会研 修所副所長、日本弁理士政治連盟会長、日本商標協会常務理事、ヘーグ 協定改正外交会議APAA代表、東京造形大学非常勤講師、大阪工業大学 特別講師、その他
漫画、アニメ、ゲームなどに代表されるコンテンツビジネスは、わが国の重要な産業基盤であり、まだま だ未開の領域が多く、今後の発展が望める分野のひとつです。
そのような中、弁理士の活躍がますます期待されるものの、具体的にいかにして取り組むべきなのか。
長年、キャラクタービジネス関連の権利について研究され、商品化権に関係する立法論の先駆者であり、弁 理士である牛木理一先生に、コンテンツビジネス分野における今後の弁理士の展望や、商品化権問題などに ついてお話をうかがった。
士にとっては馴染みの薄い権利かも知れませんが、マンガキャ ラクターを商品のデザインとして、商品化するというときには、
著作物の複製、翻案という問題がよく出てきますから、そういっ た場合に対処できる能力、知恵は必要になると思います。
弁理士としては、著作権者側の立場の理解も必要ですが、著 作物の利用者側、ライセンシー側に立って代理をしていくとい う仕事があります。例えば、著作物を利用して意匠登録をしたり、
商標登録をしていく場合に、どういった内容のライセンス契約 をしていくのかを考える仕事です。
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■■ ライセンス料は、キャラクターの知名度等によって 差が出てくるかと思うのですが、そういった差があ るライセンス料の交渉も弁理士の代理業務の中に 入ってくるのでしょうか。
おっしゃる通り、ライセンス料はキャラクターの著名度によっ て変わってきます。有名なシリーズキャラクターならばロイヤ リティは売価の10%は普通です。それは、先にも述べたように、
キャラクター自体がすでにパブリシティ・バリュウを持ってい るから、企業は販売努力をしなくてもすむのです。そのような 中で、著作権者との間でどのように交渉をしていくかを考える ことは仕事のひとつです。
先ほどお話したオリジナルキャラクターの場合には、例えば
「ひこにゃん」のような街おこしのキャラクターができたら、そ れを使用する場合にロイヤリティをどうするかなどの相談を受 けて契約書を作成したり、意匠登録や商標登録の代理をしたり することになります。
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■■ キャラクターの商品化権に関する仕事について、弁 理士の仕事の幅の拡がりは望めるのでしょうか。
望めると思います。私は、最近発表した「商品化権法への道」
という論文において、「これまで裁判所は、キャラクターを無断 で商品化したような場合、多くは著作物の複製や翻案という論 理で裁判をしてきたが、隣に意匠法、商標法という法域が存在 しているのに、著作物の複製などという解釈で妥当なのかとい う疑問がある。」と指摘しています。つまり、著作権の複製の定 義は「印刷、写真、複写、録音、録画その他の方法により有形 的に再製することをいい」となっており、二次元のマンガで言 えば、その印刷、写真、複写のことなのですが、ぬいぐるみな ど三次元のものの場合は、有形的に再製することや、建築物の 複製の解釈などを踏まえて拡張解釈されてきています。
そこで、著作権や意匠権ではなく、もっと直接的に商品化権 という新しいジャンルで考え、「商品化権法」という特別法を制 立し、商品やサービスにキャラクターを利用する場合の新しい 権利を確立すべきである、ということです。私は、かねてより この提言をしてきていますが、このような法律に基づいた仕事 は広義の意匠法の範疇に入り、弁理士の仕事になると思います。
意匠権との関係で言えば、わが国では、意匠権の存続期間は 設定登録日から20年ですが、applied to articlesした(純粋美術 作品が物品に利用された)ものについては、もう少し権利(商
品化権)の存続期間を長くしてもよいのではないかという議論 があります。その背景には、意匠法との関係を考えて著作権法 の改正がされてきたイギリスの歴史があります。1956年イギリ スの著作権法10条は、applied to articlesしたものは、それ以降 は著作権の効力は及ばないと規定していたのですが、その後幾 度かの改正を経て、1988年法ではそのようなものは最初の販売 年の末から25年間だけ保護されるとして現在に至っています。
しかし、不満が出ているという話は特に聞いていません。
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■■ 今年、日本の著作権法が改正され、違法ダウンロー ドが刑事罰の対象になることが盛り込まれました。
改正に当たっての議論では、著作権法を理解してい ない子供等も罰則の対象となり得ることが懸念され たようです。先生は、この著作権法改正が社会にど のような影響を与えるとお考えでしょうか。
この問題は、ちょうど先日、前著作権課長の永山裕二氏によ る講演会を受けてきたところです。平成21年改正では、私的使 用目的であっても、違法にアップロードされたものと知りなが ら、権利者に無断で音楽等をダウンロードすることが違法とい うことになりましたが、刑事罰の対象ではありませんでした。
しかし、違法ファイルの年間ダウンロード数は推定で年間43.6 億ファイルあり、これは正規配信の10倍に相当し、販売価格に 換算すると6, 683億円になるというデータがあります。そこで、
今回、119条に新しく3項の刑事罰が導入されるということに なったわけです。確かに子どもが刑事罰の対象になり得るとい う点は懸念材料としてありますが、それよりも、これまでの違 法行為の事実を考えた場合、産業界の保護という側面、それか ら子どもたちであってもそれが違法だということを知らしめる 抑止という意味でも必要な改正だと思います。